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未払賃金(不払残業代)を請求できる時効は3年に!?

2019/10/24

未払い残業代の請求は時効が3年へ!?

日本経済新聞が10月21日付けで、厚生労働省は賃金債権の時効が3年に延長することで検討していると報道されました。これに対してTwitterなどインターネット上では一時キーワードがトレンド入りするなど大きな波紋が広がりました。

現在、労働者が企業に対して未払い賃金を請求できる期限は2年(支払日の翌日から)と定められており、働き方改革関連法の施行や民法改正(2020年4月施行)に伴う他の債権と同様に、5年に合わせる方向で厚生労働省を中心とした労働政策審議会で検討されていました。しかし、経営者側の台帳保管の負担や労務管理システムの改修費用などの反対理由もあって、『企業の負担が過大にならないよう』まずは3年に延長することから法改正を進めていくことで調整するようです。

Twitter上では一般の労働者と思われる方や弁護士など専門家などからも紛糾があり、「甘すぎる」といった声や、「賃金を支払っていない会社を守るのか」、「まっとうな会社を愚弄している」など、辛辣な批判も多くありました。

さて、時効が3年になった場合には実務上はどのような影響があるでしょうか。給与計算を行っていればよくわかりますが、賃金の計算は複雑で、悪意で支払っていないことは問題外ですが、間違えることも当然にあります。また有給休暇については触れられていませんが、現行は消滅時効も同等の扱いとされていることから、最大で60日(20日×3年間)の有給休暇を取得できるよう併せて改正される可能性も低いとはいえありえます。

【一般債権の原則】
平成29年に国会で成立した民法等の一部を改正する法律(改正民法)では一般債権に係る消滅時効は「債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間行使しないとき」、または「権利を行使することができるときから10年間行使しないとき」は時効によって消滅する、とされます。民法に優先される特別法である現行の労働基準法115条では賃金等請求権については2年(退職手当は5年間)としていますが、115条が設けられる際に根拠となった「使用人の給与等に関する短期消滅時効の規程」が廃止されることによる不整合から、賃金請求権の時効についても専門家で構成される検討会によって見直しの是非が議論されてきました。

時効が3年に延長されたとき

たとえば、1日2時間の残業代が20日間支払われていなかった場合のインパクトについて、時間給を1,000円で計算すると、

(2年)

1,000円×2時間×20日×1.25(割増)×24カ月=1,200,000円

(3年)

1,000円×2時間×20日×1.25(割増)×36カ月=1,800,000円

労働者側が請求する場合には過去にさかのぼったすべての未払い賃金を請求することは常套ではありますが、顧問社労士や弁護士がいる会社では時効の援用によって基本的に2年分を基準として交渉を行います。この時効の援用が3年となると、150%の負担が必要となります。当然、支払うべき賃金を支払っていない方が悪いと断罪すればその通りですが、企業経営はそんな単純なものではありません。

とはいえ、請求額の増大は労働者側からすれば訴訟を提起するためのインセンティブが高くなることを意味することにも留意した労務管理を行う必要があります。

退職時に権利放棄させる?

退職後のリスクに備えるため、実効性はともかくとして退職手続きに「債権債務不存在確認書」の締結で対策を講じる企業も想定されます。退職金の支払いのほか、退職者が不利益を恐れて署名せざるを得ない場合や、近年問題となっている退職引き留め強要などによって退職者が不存在確認書へ署名を強制させられ、未払賃金の債権を放棄させるよう仕向けるかもしれません。既に一部の企業では実施しているところもあるかもしれませんが、法改正による実務への波及は手放しで喜べない副作用を生むこともあります。結局、法の趣旨にそぐわないような対応を行う企業は口コミサイトやSNSへの投稿によって自社ブランドを傷つけることになりますが、自社ブランドを何とも思わないような中小企業になると大変厄介です。

ビジネスの拡大

法改正はビジネスを生みます。そしてビジネスは損益分岐点、つまり、割に合う仕事と合わない仕事の見極めが必要です。今回の時効延長が3年になることによって未払い賃金の請求額が増加するということは、弁護士等による「未払い賃金回収ビジネス」は、大きく損益分岐点に近づくか、収益が上回ることになることになります。未払い賃金の請求は膨大な調査が必要で、「割に合わない」ことも多くあるはずですが、時効が3年になると今後は「割に合うかも」と率先して引き受けする弁護士が増加することは間違いなく、かつての「過払い金返還請求ビジネス」のように、大手弁護士法人による広告合戦が過熱することも非現実的ではありません。いい加減な労務管理の会社は真っ先にターゲットにされるでしょう。

自社で対策を準備

法は使用者に対して労働時間の把握義務を課しており、また賃金台帳等の記録を保存する義務を課しています。未払い賃金請求訴訟における実労働時間は、請求側である労働者側が立証するべきものとされていますが、もしも記録が無い場合には労働者側の主張がそのまま裁判所に認定されることもありえると指摘する専門家もいます。

経営に「知らなかった」や「間違えた」は通用しません。自社の賃金計算や未払い賃金の潜在リスクなど、セカンドオピニオンとして社労士や弁護士へチェックさせておくことが不安解消に役立ちます。専門家に法適合性のチェックやスポットで意見を聞くくらいであれば、1回1万円程度で喜んで引き受けてくれるところもたくさんあるはずです。外部の意見を参考に、未払賃金が自社に与えるインパクトも調査を行っておく必要が増しています。賃金台帳や出勤簿は法定帳簿であり保存が義務付けられていますが、まだまだ中小企業では保存していないところも多く、電子データ化の検討など対策は必須です。3年間の時効延長が適切かどうかの議論はさておき、増大するリスクを無視して企業経営を続けることはあまりに危険です。

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