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【2026年対応版】ロールオーバー型事業承継(先代院長/オーナー残留)×人事労務トラブルの回避ガイド
2025/11/28

(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)
1.はじめに|ロールオーバー事業承継は「慎重な人事設計」が欠かせない
M&Aの中でも、従来の完全承継型(旧経営者が退任)のケースと異なり、ロールオーバー型事業承継(旧経営者が残留・診療継続・役員就任など)は、現場の雰囲気や意思決定の仕組みが変わりづらく、労務・人事面でトラブルが生じることが少なくありません。
特に、クリニック・医療法人・歯科医院・中小企業の「顔」になっている旧経営者が組織に残る場合、
・従業員がどちらの指示を優先すべきかわからない
・新経営陣の方針が浸透しない
・権限や給与の優先順位が曖昧
・旧経営者に依存した組織のまま変化が起きない
・噂話・派閥化・分断が発生する
といったリスクが現場で起こりやすく、買収後3ヶ月の離職・不満・反発の増加につながるケースが相談として寄せられることがあります。こうした問題は感情論ではなく、役割・決裁・評価・給与・コミュニケーションの仕組み設計で予防できます。
2.ロールオーバー型事業承継で起きやすい「典型的な人事労務リスク」
本ガイドでは、実務で相談が多い項目を整理します。
(1)指揮命令系統が曖昧になる
・新経営者と旧経営者の発言が異なる
・「どちらに従えば正しいのか」分からず現場が硬直
・旧経営者の一言で業務が止まる
(2)給与・役職・評価の位置づけが不明確
・権限がないのに給与が最上位
・影響力だけが強くなり“裏トップ化”
・誰が最終意思決定者なのか伝わらない
(3)新経営陣の改革を阻む“ブレーキ”になりやすい
・新制度・評価・勤務体制の変更が前に進まない
・「昔はこうだった」「無理しなくて良い」の声が現場に浸透
(4)感情面の配慮が過度になりPMIが停滞
・旧経営者への遠慮で改善提案がしにくい
・従業員が新経営陣に不信感を抱く
・不満の蓄積→離職→採用コスト増へ
※PMI(Post Merger Integration)≒新体制の統合作業
3.安全に運営するための「5つの統合設計ポイント」
ロールオーバー型承継の成功には、次の5点の制度・運用設計が重要です。
① 役割と決裁範囲の明確化
・業務範囲
・決裁権の範囲
・相談→報告→最終判断のルート
を可能な限り明文化する。
② 発言・指示の優先順位の整理
先代・新経営陣いずれかの発言を優先するのかを曖昧にしない。
③ 勤務・給与・役職の整合性
給与を高く保つ場合は役割の説明責任を明確にし、形骸化した肩書を避ける。
④ 新体制の方針・目的の「全社員説明会」
旧経営者・新経営者の双方から次の内容を説明することが実務的に有効です。
・組織として目指す方向性
・役割分担の整理
・困ったときの相談ルート
・不利益な立場が生じないこと
⑤ コミュニケーションルールの策定
「良かれと思って」「昔からの習慣で」の行動が混乱を生むため、相談対応・面談・指示・LINEなど運用のルール化が有効です。
4.先代・オーナーの心理に配慮した“安全なコミュニケーション”
ロールオーバー承継では、制度設計と同じくらい言葉の配慮・伝え方が重要です。
・「任せてほしい」という新経営陣の意思
・「役割がなくなるのでは」という旧経営者の不安
・「どちらが正しいのか」という社員の迷い
この3者がすれ違うと、組織に悪影響が生じやすくなります。そこで実務上は、排除ではなく敬意と役割の整理を軸に進めると混乱が少なくなります。
ロールオーバー型承継は制度設計と説明が整っていれば安全に進められますが、統合前の労務DD(人事労務デューデリジェンス)とPMI設計を併せて実施することで、トラブルや認識ギャップの予防につながるケースがあります。
5.チェックリスト|ロールオーバー型承継の労務リスク自己点検
以下で簡易的に労務リスクの自己点検ができます。
□ 役割分担が紙で説明できる/口頭説明で終わっていない
□ 指示の優先順位の解釈に個人差がない
□ 給与・役職・権限の一貫性がある
□ 組織方針説明会を全社員に実施済み
□ “裏トップ化”を防ぐ運用ルールがある
□ 不満・離職兆候の早期発見ルートがある
□ 新経営陣と旧経営者の関係が良好なまま維持できる仕組みがある
なお、現場に大きな問題が起きていなくても、「方針・役割の見える化」だけで雰囲気が安定し、離職防止や定着率向上につながることが少なくありません。
●20項目のチェックシートもご用意しております。ご希望の際はお問い合わせください(無料)。
6.サポートのご案内(希望者のみ)
ロールオーバー型事業承継は、制度面・心理面の両方が絡むため、状況に応じて次の支援形式があります。
・統合設計(役割・給与・権限の整理)
・従業員向け説明会スライド・発言例作成
・旧経営者との調整支援
・統合計画(PMI)ロードマップ作成
・ロールオーバー承継の労務DD
・離職兆候・不満リスクのES調査
※必要な範囲のみで部分利用可能。
7.まとめ
ロールオーバー型事業承継は、「仲良く残ってもらえば安心」ではなく、制度・運用・説明の精度で成否が左右される承継方式といえます。
特に買収後3ヶ月は、
■旧経営者の影響力の扱い
■社員が誰を信頼しどの方針に従うのか
■将来的な組織体制の十分な説明
が組織の空気に大きく影響する時期です。
曖昧なままにせず、役割・決裁・方針共有・説明の設計を先に整えることが、離職・反発・不満の抑止につながります。
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