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【2026年対応版】院長が“マネジメントに無関心”なクリニックの崩壊メカニズムと立て直しガイド
2025/12/10

─ 看護師・医療事務の疲弊、離職、接遇低下、カスハラ増、医療安全リスクを止める“仕組み化”とは ─
(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)
1.はじめに|“院長の組織問題への無関心”は個性ではなく“構造的問題”
クリニックの経営・人事相談で最も多いテーマのひとつが、「院長がスタッフマネジメントに関心がない(関心を持ってくれない)」という問題です。
☑現場トラブルが起きても注意しない
☑態度の悪いスタッフを放置
☑事務スタッフの悩みや辛さが院長まで届かない
☑看護師の指揮命令が曖昧
☑患者からのクレームに一貫した対応方針が無い
☑院長が嫌われることを極端に恐れる
これらの状態は、“院長の性格”と誤解されがちですが、実際には構造要因が大半です。クリニックは、「医療提供」と「組織運営」を同時に行うことが必須の業態ですが、院長は“医療者としての訓練のみ”を受けてきたという特殊な環境で形成されます。
そのため、以下のズレが生じます。
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医療には自信がある
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経営はできると思っている(失敗経験が少ない)
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しかし“人の扱い方”は学んだ経験がない
この結果、現場では次のような現象が起こります。
⚠ 強いスタッフが支配するクリニックになる
⚠ 態度の悪いスタッフが残り、優秀なスタッフほど辞める
⚠ カスハラ・医療クレームが増える
⚠ 医療安全のヒヤリ・ハット・インシデントが増加
⚠ 院長がますます現場を避ける(悪循環)
本ガイドでは、この問題を医科・歯科・薬局に共通する“構造的リスク”として捉え、院長不在でも回る仕組みを専門家視点で体系的に整理します。
2.医科・歯科・薬局で共通する“院長無関心クリニック”の症状
2024~2025年にかけて、当事務所に寄せられた相談から最も多かった症状をまとめると、次の5つに集約されます。
(1)スタッフの態度悪化・接遇の崩壊
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受付が無愛想
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看護師が指示に従わない
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若手が患者対応を避ける
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電話応対が冷たい・乱暴
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クレームの初期対応が雑
→ Googleマップで★2以下の評価がつき、患者や求人応募が一気に減少。
(2)院内の派閥化・“強いスタッフ支配”が始まる
院長が介入しないことで、最も声が大きいスタッフ・古株スタッフが権力を持つという最悪のパターンが起きます。
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古株看護師が院内ルールを決める
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医療事務が新人いじめ
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一部スタッフだけが私的優遇を受ける
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院長が逆らえず“スタッフの顔色をうかがう”
これは離職の最大要因であり、医療法人が崩壊する典型パターンです。
(3)医療安全上の重大リスク
院長が管理者として機能しないと起こること:
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投薬間違い・処方間違い
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診療器具の滅菌ミス
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申し送りの漏れ
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検査結果の内部放置
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感染管理の形骸化
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物品の管理不備
→ 重大事故・行政指導・経営悪化につながる。
(4)スタッフの疲弊と離職連鎖
特に以下の人が辞めます:
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誠実な医療事務スタッフ(良心の限界)
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ちゃんと患者対応する看護師(他院・他職種へ転職)
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若手の“伸びる人材”
なぜなら、「真面目でいい人ほど耐えられない環境」になるからです。
(5)院長が“さらに距離を置く”悪循環
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トラブル対応が面倒
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スタッフと向き合うのが怖い
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現場が荒れていて入りたくない
こうなると、内部統制が崩れ、不正・情報漏えい・杜撰な管理が増え、マネジメントの空白が拡大し、組織崩壊が始まります。
3.なぜ院長は“無関心”になってしまうのか(構造要因)
① 医師・歯科医師・薬剤師は“マネジメント教育”を受けてこなかった
医療技術は学びますが:
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注意の仕方
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評価制度
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カスハラ対応
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接遇教育
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組織運営
このどれも学校では教わりません。
② 医療行為が専門性を要求しすぎて“手離れ”できない
医科・歯科・薬局の院長は、“自分が診療しなければ収益が止まる(忙しすぎる)”ため、マネジメントまで手が回らない。
③ スタッフと対立した経験がトラウマ化している
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トラブルで辞められたことがある
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スタッフからキレられた、怒鳴られた
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院内の人間関係や批判に敏感になり、現場と距離をとりがち
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SNSで批判された、口コミ評判を見てしまった
医療者は繊細な人が多く、対立を極端に避けがちです。医療機関は“改善(回復)を強く期待して来院する”という特殊性があるため、他業種より口コミ評価が厳しくなりやすい。看護師や受付の悪口まで及び、院内がぎくしゃくしてしまうことがあります。
④ 院長の“好き嫌い”が制度になりやすい
小規模ゆえ、院長の機嫌や好みが「事実上のルール」になる。
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気に入ったスタッフには注意しない
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苦手なスタッフだけ厳しく当たる
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ルールが明文化されない
公平性が崩れると、院内の秩序が一気に壊れます。
⑤ 経営者である自覚が薄い
医療が本業すぎるがゆえに、“管理者”としての自分を見られない。医師として優秀であることが経営者として優秀であることと同義になっている。
4.院長無関心クリニックが崩壊する“6つのプロセス”
1)強いスタッフが院内支配
2)接遇悪化・内部トラブル増
3)優秀層が離職
4)口コミ悪化→患者減
5)採用できない
6)院長が疲弊し閉院(最悪ケース)
医科・歯科・薬局では、この崩壊パターンが驚くほど共通しています。現代は病院であっても安泰ではありません。
5.【実務対策】院長がマネジメントできなくても回る“仕組み”の作り方(5段階)
STEP1:院内ルールを“見える化”する(曖昧さの排除)
以下の最低限のルールを必ず文書化します:
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遅刻・欠勤・早退の基準
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患者対応マニュアル
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電話応対の型(接遇マナー)
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役割と責任範囲
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注意のフロー
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クレームの一次対応・二次対応
特に医科・歯科・薬局は他業種と比べて驚くほど文書化されているところが少なく、スタッフ自らの判断にゆだねられており、それが組織を歪ませています。“言っているつもり”では機能しません。
STEP2:現場責任者(リーダー)を正式に任命する
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看護師長
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主任医療事務
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チーフスタッフ
誰が指揮命令権を持つのかを明確にします。
院長が直接注意しなくても、権限委譲によってマネジメントの空白を埋めることができます。
STEP3:クレーム・カスハラ対応の“統一ルール”を作る
医療機関ではカスハラ発生率が高いため、以下は必須です:
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患者の要求区分
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院内で対応する範囲
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通報基準
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受付の一次対応マニュアル
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エスカレーション基準
▶【2026年最新版】医療機関向け カスタマーハラスメント & ネット口コミ対応|判例・事例で学ぶ実務対策
STEP4:勤務態度・接遇の“評価基準”を設定する
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接遇の5原則
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基本動作の評価
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指示遵守
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チームワーク
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医療安全の遵守度
院長が言いにくいことも、評価基準に組み込めば“制度が言ってくれる”。
▶【2026年版】評価制度の透明性ガイド|不満・誤解・離職を防ぐ「説明責任」と見える化の実務対応
STEP5:改善しないスタッフへの“正式フロー”を整備する
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口頭注意(事実→影響→期待)
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文書指導
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面談記録
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業務改善計画書
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配置転換
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処分手続き
医療機関では“我流指導”が最も危険です。ルールに沿って淡々と進めることで、院長の人格攻撃にすり替わるリスクが無くなります。
6.クリニック特有の“高リスク場面”と解決策
● 受付が患者にキレる・態度が悪い
→ 感情労働の負荷が高いため、定型トークとSOPが必須。
● 看護師が院長の指示に従わない
→ 指揮命令系統の文書化+役割整理が必須。
● 医療事務のミスが多い
→ 申し送り・確認工程の可視化。
● 若手がすぐ辞める
→ ベテランの態度悪化が原因。教育担当者の変更も検討の必要あり。
● 採用しても定着しない
→ Googleマップ評価の影響大。接遇改善が採用対策にも直結。
▶【クリニック・歯科医院・病院向け】Googleマップの口コミ対策で集患力UP|悪い評価に負けないMEO戦略とは?
7.院長に必要なのは「強い性格」ではなく「強い仕組み」
院長は部下を怒鳴る必要も、カリスマ性を持つ必要もありません。
必要なのは次の3つです。
1)業務の透明化
2)責任と権限の明確化
3)制度としての“注意フロー”
これは、社労士事務所として多数の医療機関で実際に改善してきた鉄板のアプローチであり、上記の徹底で“院長不在でも回る組織”に変わります。
8.関連サービス
▶ クリニック向けカスタマーハラスメント研修(全国対応)
▶ 医療機関の外部ハラスメント相談窓口(月額5,500円〜)
▶ 問題スタッフ対応・注意指導の実務ガイド
▶ 接遇・クレーム対応研修(医科・歯科・薬局向け)
FAQ
Q.院長が注意するとスタッフが辞めそうで怖いです。
→ 手続きに基づく注意は“感情”ではなく“業務管理”。辞めるリスクより、放置のリスクの方が圧倒的に高いです。
Q.看護師長や事務長が不在で、任命できる人がいません。
→ 役割と責任の分割で代替可能です(主任制/チーム制)。
Q.クレーム・カスハラが増えています。
→ 統一ルール化により初期対応が安定し、炎上を防げます。
ご相談・お問い合わせ
医科・歯科・薬局の“小規模組織”は、院長のマネジメント無関心が“最大の経営リスク”です。
RESUSでは、研修・制度整備・SOP作成・外部相談窓口・リーダー育成など、現場に合わせた改善支援を提供しています。
法令注記/免責事項
本ガイドは現行法令・医療安全指針等を踏まえた一般的解説であり、個別事案の適法性判断を行うものではありません。
具体的な対応は顧問社労士・医療専門弁護士等への確認を推奨します。
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