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【2025年対応版】副業に関するよくあるトラブル事例と回避策|許可と禁止のリスク比較(社労士監修)

2025/10/04

はじめに|副業をめぐる企業のジレンマ

「副業・兼業を希望する社員が増えている一方、会社として禁止か許可か判断できない」
「副業を認めたら社会保険料や労務リスクが増えるのではないか?」
「禁止したら“ブラック企業”と見られて人材が採用できないのでは?」

こうした声が、中小企業経営者・人事担当者から急増しています。

実際、副業を許可しても禁止しても「どちらにしてもトラブルは発生し得る」ため、制度設計を誤ると会社が大きな負担を背負うことになります。

本記事では、許可した場合・禁止した場合の両面からトラブル事例を整理し、判例・根拠条文を交えた回避策を社会保険労務士が解説します。


副業を「許可」した場合のトラブル事例

1. 社会保険料の負担増(報酬合算問題)

  • 事例:本業25万円、副業10万円 → 合算35万円で標準報酬月額が上昇し、双方の会社で社会保険料負担が増加。

  • 根拠:健康保険法第3条・第48条、厚生年金保険法第27条・第83条(二以上事業所勤務の報酬合算規定)。

  • トラブル:会社が「知らなかった」では済まされず、届出義務違反で是正指導を受けるケースあり。


2. 労働時間通算による残業代請求

  • 事例:本業8h、副業4h → 合算12h。労基法第32条により「時間外労働」とみなされる可能性。

  • 裁判例:大阪地裁平成24年3月30日判決(副業時間の通算管理を怠った企業に未払い残業代を請求された事案)。

  • トラブル:副業先の勤務を会社が承認していた場合、「通算義務を認めた」と解釈され、未払い残業代請求・過労死認定リスク。


3. 競業避止義務違反・顧客奪取

  • 事例:営業職が副業先で自社顧客を引き抜き。

  • 根拠:民法第623条(雇用契約に付随する誠実義務)。

  • 裁判例:東京地裁平成15年12月15日判決(元従業員が競合先に転職し、顧客情報を利用して損害賠償命令を受けた事案)。

  • トラブル:副業先での同業活動は、ほぼ確実に企業リスクを高める。


4. 情報漏洩・秘密保持違反

  • 事例:副業先のプロジェクトで自社の営業資料を流用。取引先からの告発により発覚。

  • トラブル:不正競争防止法違反に発展し、企業の信用失墜・損害賠償請求につながる。


5. 過労による労災・健康問題

  • 事例:副業で夜勤をしていた従業員が本業勤務中に過労で倒れ、労災申請。

  • 根拠:労働契約法第5条(安全配慮義務)。

  • トラブル:副業の有無にかかわらず、本業会社に安全配慮義務違反が問われる可能性。


副業を「禁止」した場合のトラブル事例

1. 隠れて副業 → 住民税で発覚

  • 事例:従業員が内緒で副業。翌年度の住民税額が増加し、会社の給与天引き時に発覚。

  • 裁判例:東京地裁平成7年3月15日判決(就業規則に副業禁止条項がなく、懲戒処分が無効と判断された事案)。


2. 就業規則未整備で紛争化

  • 事例:副業禁止を口頭で伝えていたが、就業規則に記載がなく裁判で懲戒処分が覆された。

  • 教訓:禁止するなら必ず「就業規則」に明記。


3. 人材流出・採用難

  • 事例:「副業禁止だから退職する」と若手社員が流出。SNSに「ブラック企業」と書かれ炎上。

  • トラブル:採用応募が減少し、求人コストが倍増。


4. 副業禁止によるモチベーション低下

  • 事例:社員が自己実現の場を奪われ、不満が社内に充満。離職率上昇。

  • トラブル:ハラスメント相談や職場の不満が増加し、社内調査対応に追われる。


トラブル回避に成功した企業の事例

  1. 製造業D社(従業員40名)

    • 背景:若手社員から「副業を認めてほしい」という声が増加。一方で経営陣は「社会保険料や長時間労働リスク」を懸念。

    • 対応:「原則禁止+条件付き許可」の規程を整備し、誓約書を必須化。副業内容は趣味の延長(講師・クリエイティブ活動)に限定。

    • 結果:副業希望者のモチベーションを維持しつつ、労基署対応や社会保険のリスクを最小化。数年経過後もトラブル発生なし。

  2. ITサービスE社(従業員25名)

    • 背景:採用面接で「副業制度はありますか?」という質問が頻発。全面禁止では人材獲得が困難に。

    • 対応:就業規則に「副業は事前申告制、競業禁止・秘密保持・健康管理を条件に自己責任で実施」と明記。本人にリスク説明書を配布し、年1回の健康診断でチェック。

    • 結果:若手採用力が向上し、副業によるトラブルはゼロ。むしろ「柔軟な会社」として定着率が改善。


トラブル回避の実務ポイント

  1. 「原則禁止+条件付き許可」が最適
     全面禁止は時代遅れ、全面許可はリスク大。バランス型が現実的。

  2. 就業規則に条文を明記
     「一定の条件を満たす場合のみ副業を認める」と規定する。

  3. 誓約書を取得
     税務・社会保険・労働時間管理は従業員の自己責任であることを明記。

  4. 定期確認制度
     健康診断や勤務態度の確認を制度化し、過労リスクを管理。


根拠法令・ガイドライン

  • 労働基準法第32条(労働時間管理)

  • 労働契約法第5条(安全配慮義務)

  • 健康保険法・厚生年金保険法(二以上事業所勤務)

  • 民法第623条(競業避止義務)

  • 厚労省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」令和4年改訂


FAQ|副業トラブルに関するよくある質問

Q1. 副業禁止は違法ではないですか?
A. 違法ではありません(最高裁判例でも副業禁止は原則有効とされています≪昭和61年12月4日・三菱重工長崎造船所事件≫)。就業規則に規定すれば可能です。ただし採用面で不利になるため「条件付き許可」が推奨されます。

Q2. 副業先で事故があった場合、本業の会社に責任はありますか?
A. 過労や長時間労働により本業勤務中に事故が起きた場合、本業会社に安全配慮義務違反が問われる可能性があります。

Q3. 副業を許可した場合、社会保険料は必ず増えますか?
A. 一定額を超えると合算され負担増となります。ただし副業報酬が少額なら対象外。

Q4. 禁止しても社員が隠れて副業したら?
A. 就業規則に禁止規定がなければ処分無効リスク。規定整備が必須です。

Q5. 副業を自由に認める会社もあるが、中小企業も同じで良い?
A. 大企業と違い管理体制が弱い中小企業では全面自由化は危険です。「原則禁止+条件付き許可」が現実的です。

Q6. 副業禁止規定があっても懲戒解雇できますか?
A. 原則として懲戒解雇は不相当。就業規則・合理性が認められれば懲戒処分は可能ですが、解雇は厳格に判断されます。

Q7. 副業で発生したトラブルを会社が補償する義務はありますか?
A. 基本的には本人責任。ただし本業中に影響(過労事故など)が出た場合は、安全配慮義務違反を問われる余地があります。


まとめ|副業トラブルを防ぐには制度設計が必須

  • 副業を「許可」しても「禁止」してもトラブルの芽は存在する。

  • 中小企業がリスクを抱え込まないためには:
     ✅ 就業規則で明確化
     ✅ 誓約書で自己責任化
     ✅ 定期的な健康・勤務チェック

結論:「就業規則+誓約書+リスク説明」の三点セットで制度設計を行うことが、トラブル防止の最適解です。


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サービス料金表

項目 内容 料金(税込)
既存副業制度の点検 就業規則・副業規程の点検 16,500円
新規副業制度の作成 就業規則点検+副業リスク説明書+副業誓約書 33,000
就業規則新規作成 就業規則+労働条件通知書+NDA 30,800円
就業規則一式新規作成 ③+パート規則+育児介護休業規定 55,000円

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