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【2025年対応版】役員にならないかと打診されたら 就任前に確認すべき「権利」と「義務」
2025/11/05

はじめに|「役員就任」は名誉とリスクの両面がある
「取締役に」「理事に」「監査役に」なりませんか?
――そんな話を持ちかけられたとき、「信頼された」「うれしい」と感じるのは自然なことです。
しかし、役員に就任するということは、労働法上の“労働者”ではなくなり、会社法上の「経営責任者」という立場に変わることを意味します。その瞬間から、法律上の保護と義務の範囲が大きく変わります。
― 名誉な就任の裏に潜む“知らなかった”では済まされないリスク ―
多くの方が、就任してから「知らなかった」「そんな責任があるなんて」と気づきます。実際には「名義だけ」「報酬なし」「形式的な役員」でも、法律上は同じ責任が生じます。
このページでは、役員になる前に知っておくべき基本的なルールと確認ポイントを、専門家の視点からわかりやすく解説します。
第1章|役員になると「何が変わる」のか
● 労働者から経営者へ
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労働基準法・労働契約法の保護対象外となります。
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残業代・有給・休業補償などは適用されません。
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「任期途中の解任」も、正社員の「解雇」とは異なり自由に行われます。正当な理由がない解任は損害賠償の対象(会社法339条2項)。
● 雇用保険・社会保険の取扱いが変わる
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雇用保険の加入は原則できません(労働者性が認められる場合は被保険者となる例外あり)。
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社会保険は「役員報酬」に基づいて算定されます。
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傷病手当金・育休給付なども対象外となるケースがあります。
● 退職の自由が制限される
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一般社員のように「明日辞めます」とは言えません。任期途中の辞任は原則可能ですが、時期・方法によっては会社に損害を与えるとして賠償責任が問題となる場合があります(会社法330条・民法651条の趣旨)。退任時は、任期満了または株主総会決議等の手続きを踏むのが通常で、登記手続きも必要です。
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任期満了や株主総会決議などの手続きを経て退任します。
第2章|知っておきたい“役員の義務”と“責任”
● 善管注意義務・忠実義務(会社法355条)
会社のために誠実に行動し、経営判断に合理性を持つ義務があります。
「知らなかった」「前任者がやっていた」では免責されません。
● 利益相反・競業避止義務
自分や家族の会社との取引は、取締役会の承認が必要です。
承認なく行うと『違法取引(無効・損害賠償)』とされることがあります。
● 使用者責任・安全配慮義務
ハラスメントや労働災害が起きた際、代表取締役や人事担当役員も「使用者」として連帯して責任を問われる可能性があります。
● 刑事・民事・行政の責任
粉飾決算、未払残業、脱税、労基署是正命令無視などは、刑事罰や損害賠償の対象となることがあります。
第3章|実は知られていない“役員の権利”
役員は責任だけでなく、法的に守られた権利も持っています。
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議事録閲覧権・報告請求権(会社の状況を知る権利)
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辞任権(ただし任期途中は制限あり)
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責任限定契約の締結権(損害賠償の上限を定める契約)
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役員報酬の請求権(株主総会で定められた範囲内で)
これらを理解していれば、「言われるままに責任だけ負う」立場から脱することができます。正当な権利を知ることは、結果的に会社にとっても健全なガバナンスの実現につながります。
第4章|就任を受ける前に確認すべきチェックポイント
就任前に確認を怠ると、後から「知らなかった」では済まされない責任を負う可能性があります。以下は、役員就任前に最低限確認しておくべき「法務・労務・財務・リスク」の一覧です。
| 確認項目 | チェック内容 |
|---|---|
| 簿外債務の有無 | 未払い残業、社会保険料滞納、貸付金処理など |
| 税務・会計リスク | 税務調査・行政指導の有無 |
| 労務コンプライアンス | 就業規則、36協定、ハラスメント対応 |
| 反社・取引先関係 | 代表者・主要取引先のリスク有無 |
| 経営体制 | 定款・議事録の整備状況、責任分担の明確化 |
第5章|就任後に起こりやすいトラブル事例
| ケース | よくある誤解 | 結果・リスク |
|---|---|---|
| 就任後に過去の不正発覚 | 「自分は関与していない」 | 新任でも説明義務・報告義務あり |
| 無報酬役員の責任 | 「報酬をもらっていないから責任はない」 | 登記上の役員であれば法的責任あり |
| 名義貸し取締役 | 「名前だけなら問題ない」 | 実際の経営関与がなくても損害賠償対象になる可能性 |
第6章|備えておきたい「3つの書類」
役員就任時に最低限そろえておきたい書式(雛形・テンプレート)は次の3つです。特に労働者の立場から役員になる場合は会社の経営状態を知ることが不十分なため、書面で確認しておきたいところです。
| 書式名 | 目的 | 備考 |
|---|---|---|
| ① 役員引継ぎ確認書 | 前任者との責任範囲を明確化 | 記録・証跡を残す |
| ② 責任限定契約書 | 自身の損害賠償範囲を限定 | 会社法第426条・427条 |
| ③ 就任前チェックリスト | 会社状況を就任前に点検 | 自己防衛のための必須資料 |
▶ 【役員就任関連書式セット(Word形式)】(別ページリンク)
第7章|受ける前に知っておきたい「断る自由」と「相談先」
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就任を断ることは法的にも自由です。
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遠慮せずに、事情(家族・時間・責任負担など)を率直に伝えて構いません。
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不安がある場合は、社労士・弁護士など第三者専門家への事前相談をおすすめします。
▶ 【2025年対応版】初めて役員になる人のための専門研修
▶ 【士業・顧問先向け】就任前リスク点検サポート
よくある質問(FAQ)
Q1. 名義上の役員でも責任を問われることはありますか?
→ はい。実際に業務を行っていなくても、登記上の役員は会社法上の「経営責任者」とされます。「名前だけ貸してほしい」は危険です。
Q2. 就任後に辞めたくなったら自由に辞任できますか?
→ 原則は可能ですが、任期途中の辞任は会社の承認や株主総会決議を要する場合があります。
Q3. 無報酬役員ならリスクは軽いですか?
→ 報酬の有無は責任範囲に影響しません。会社法上は同等の義務が発生します。
Q4. 反社チェックや税務リスク確認はどうすればいいですか?
→ 就任前チェックリストを活用し、金融庁・法務省データベースや専門士業による照会を行うと確実です。
Q5. 就任を断ると関係が悪化しませんか?
→ 正当な理由(家庭の事情・時間的制約・他社兼任など)を説明すれば失礼にはなりません。むしろ無責任に引き受けてトラブルになる方が双方に不利益です。
Q6. 研修や書類をセットで整備することはできますか?
→ はい。RESUS社会保険労務士事務所では、「新任役員研修」+「就任前書式セット」+「法務リスク点検」まで一括対応が可能です。
Q7. 家族経営の会社でも必要ですか?
→ はい。親族間の信頼関係がある場合でも、書面での確認を怠ると「後継者責任」「債務保証」などのトラブルが起きやすい傾向があります。特に同族会社ほど第三者的な整理が有効です。
Q8. 急遽役員になって欲しいと言われています。大丈夫でしょうか?
→ 役員になることは責任と義務が伴う人生の重大な決断です。急がせる裏には理由があります。しっかりと確認したうえで就任すること。「すぐ」を強要するなら断ることも必要です。
Q9. 正当な理由なく任期途中で解任された場合、補償は受けられますか?
→ はい。会社法339条2項により、正当な理由のない解任は損害賠償請求の対象となり得ます(残任期相当の報酬等が目安)。就任承諾書・議事録・報酬決議の有無が立証上重要です。
Q10. D&O保険(役員賠償責任保険)は加入した方がよいですか?
→ 役員個人の賠償リスクに備える有効策です。就任前に対象範囲(故意・重過失の取扱い)、被保険者範囲、免責金額などを確認しましょう。
関連サービス
・初めて役員になる人のための専門研修|新任役員が知るべき税務・労務・法務のリスクと心得
・役員就任関連書式ひな形セット(Word形式)|引継ぎ書・責任限定契約書・就任前チェックリスト
・就任前リスクの相談「引き受けてよいか相談」(法務・労務・税務の点検)
まとめ|“就任前の確認”が、後の安心につながる
役員就任は、企業からの信頼の証であると同時に、法的責任を伴う重大な契約行為です。
「就任を決める前に一度立ち止まること」が、結果的に自分と会社を守る最善のリスクマネジメントです。
RESUS社会保険労務士事務所では、新任役員・理事・監査役の方々を対象に、法務・労務・税務の実務支援を行っています。
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