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【2025年版】ペットの病気で急な欠勤は非常識か? 法律・判例・労務管理から読み解く「愛玩動物と労働義務」ガイド

2025/11/07

ペットとの共生社会、愛玩動物市場の拡大、企業と従業員の関わり合いの変化など、組織を取り巻く外部環境は刻一刻と変化を続けています。ペットの飼育が常識となった今、当事務所にも多く寄せられる「ペットと労務管理」の相談について、本ページ公開時点での法律・判例・社会性・モラル面から、企業法務と労務管理の専門家として作成しています。(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)


1.はじめに|「ペットは家族」の時代と、労務管理のギャップ

犬・猫の飼育率は年々増加し、特に都市部では「子どもよりペットと暮らす世帯」の方が多いという統計もあります。

一方、法律や労務管理の枠組みにおいては、ペットは「愛玩動物」であって、家族(扶養親族)ではないという位置付けは2025年現在も変わりません。

このギャップが、

  • ペットの急病で欠勤したい

  • 介護が必要で早退したい

  • 手術の立ち会いで有給を使いたい

といった現場の悩み・摩擦につながっています。

本ページでは、「ペットと労働義務の関係」を法律・実務・倫理の3視点で整理し、従業員にとっても会社にとっても公平な考え方を示します。


2.法律上、ペットは「家族」ではない(2025年時点)

まず法的前提として、労働法における“家族事情”は人間に限られるという点は明確です。

✅ 労働基準法

労働基準法には「欠勤許否の明確な規定」はありませんが、私傷病・家族事情での欠勤は一般に“労働義務の免除理由”とは扱われず、会社の判断で欠勤扱い(無給扱い)とすることができます

  • 私傷病・家族の看護での欠勤は「労働義務の免除理由」にはならない

  • 会社は欠勤を認めるかどうかの裁量を持つ

✅ 育児・介護休業法

  • 「対象家族」は法律で限定されておりペットは含まれない

  • よって「介護休暇」「介護休業」の取得理由にはならない

✅ 判例

※ペットの病気のため欠勤したケースを直接扱った裁判例は、当事務所が確認する限り現時点(2025年11月)では存在しません。

ただし、「労働義務違反(無断欠勤)」について一般的な判断基準は存在します。


3.法律的には「正当な理由のある欠勤」には当たりにくい

判例上、欠勤が正当化されるのは、

  • 自身の病気・負傷

  • 家族の看護(父母・配偶者・子など)

  • 交通遮断などの不可抗力

といった場合に限定されます。

ペットの急病・手術・通院は、法的には「自由裁量で認める休み」となるため、会社に拒否権があります。

しかし、ここで問題になるのは…


4.しかし社会認識は急速に変化している

民間調査では、

  • 「ペットは家族と同じ」と回答する人:78%

  • ペットロスによる休職希望:40%以上

  • ペット同伴制度を支持:20〜30代で高い支持率

こうした価値観の変化により、

  • ペットの看護で有給申請

  • 手術の付き添いで早退

  • 介護での在宅勤務申請

が珍しくなくなってきています。

▶海外のペット同伴出勤・ペットフレンドリー制度の実態― 米・欧・豪の労務管理トレンドを専門家が解説 ―


5.企業側の実務判断は「2つの軸」で決まる

専門家の立場からすると、会社が判断する軸は次の2つです。


✅(1)就業規則・社内規程に定めがあるか

規程に「私用の理由による欠勤」と位置付ければ明確。逆に記載がなければ属人的判断となりトラブルになります。


✅(2)業務継続性を阻害しないか

急に抜けても支障がない職場か、代替手段(テレワーク・他社員の代行)が可能かが判断材料に。


6.“非常識かどうか”は、法律ではなく「社内文化」で決まる

法律上は「自由裁量の欠勤」ですが、実務では次のように判断されがちです。


✅ 常識的と判断されやすいケース

  • 手術の立ち会い(不可避・長時間)

  • 深刻な病気(腎不全・心臓疾患など)

  • 飼い主のメンタル不調の防止

  • 他に面倒を見る人がいない


✅ 非常識と判断されやすいケース

  • 何度も繰り返す

  • 無断欠勤(連絡不足)

  • 業務支障が出るのに事前調整がない

  • ペットの軽微な体調不良での欠勤


7.ペットの看護による欠勤を「制度化」する企業も増えている

2022〜2025年の間に増えている制度:

  • ペット看護休暇(企業独自)

  • ペット忌引き休暇

  • テレワーク申請の特別理由

  • 短時間勤務の緩和措置

これらは法的義務ではなく、会社の福利厚生・人材定着策として導入されているものです。特に採用難の時代の定着性を高める施策として「ペット関連の福利厚生制度」はつなぎ止めに強力な威力を発揮します。


8.専門家の視点:企業としては“明確な線引き”が重要

企業が制度化する場合は、次の項目が必須です。

  • ペットの「定義」(犬猫限定か、小動物含むか)

  • 「どこまで認めるか」(急病・手術・看取りなど)

  • 回数制限(年◯回まで等)

  • 診断書の要否

  • 有給・無給の扱い

  • 業務調整の手続き

曖昧だと、「人によって扱いが違う=不公平=職場トラブル」につながります。


9.結論|ペットの病気で急な欠勤は、法的には自由裁量。実務では“対話”が最重要

最後にまとめると:

✅ 法律

ペットは「法律上の家族」ではないため、欠勤を正当化する法的理由にはなりにくい。

✅ 実務

社会認識の変化により、合理的な範囲で認める企業が増えている。

✅ 本質

「非常識かどうか」は法律ではなく、職場の文化・コミュニケーション・ルール次第。

とはいえ、昨今の「社会的な個人の尊重」の高まりからしても、ペットの病気等で休暇を取得することは中小企業では認めざるを得なくなってきている「空気感」があります。社員が生き生きと、仕事に取り組んでくれるならば認めていく方向も当然必要ですが、ルールをしっかり作成することが大切です。


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