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中小企業のAI社内ルール(2025年度版)|安全な利用・懲戒・情報管理の実務ガイド

2025/11/10

監修:RESUS社会保険労務士事務所 山田雅人(労務・情報管理アドバイザー/AI活用コンサルタント)


1. はじめに|AI活用は“企業活動から切り離せない時代”に

インターネットの普及、スマートフォンの一般化と同じように、生成AIは「使う企業」と「使わない企業」で圧倒的な差が生まれる技術です。

しかしその一方で、中小企業の経営者からは次のような不安の声も多く聞かれます。

  • 従業員が勝手にAIを使っても大丈夫なのか?

  • 会社でAI費用を負担してよいのか?

  • 個人情報や顧客情報は漏れないか?

  • 誤情報を使った場合の責任は誰が負うのか?

  • ルールを逸脱したら懲戒できるのか?

これらは、どれも自然な疑問です。

実際に、AIは便利である反面、情報漏えい・誤情報利用・著作権問題・契約違反など、従業員が“悪意なく”引き起こすリスクが潜んでいます。

だからこそ今、中小企業には「AIを安全に使うための社内ルール(ガイドライン)」の整備が必須になっています。

本ページでは、中小企業でも即導入できるよう、安全性・労務・情報管理・法務のすべてを網羅した実務ガイドを公開します。


2. AI活用の主なリスク(企業がまず把握すべき4領域)

2-1. 情報漏えいリスク

  • 入力した情報が外部に送信される仕組み

  • 無料AIでは「情報学習」の可能性

  • 商用版AIでは「学習禁止設定(非学習モード)」が利用可能

2-2. 誤情報(ハルシネーション)

生成AIは“もっともらしくみえる誤情報”を出すことがあります。

例:

  • 最新法令を誤って伝える

  • 不正確な契約条文を作成する

  • 医療・介護・安全衛生に関する情報の誤記載

→ 誤情報利用による事故は企業責任となり得ます。※AIが間違えた場合でも、企業側が「誤った情報を使った責任」を問われる点が重要です。

2-3. 著作権・法務リスク

  • 他社記事の「丸写し」になる文章が生成される場合がある

  • 特許・商標に触れる案が出ることもある

  • 契約書の自動作成で誤条文が混入するリスク

2-4. 労務管理・コンプライアンスリスク

  • 従業員の私用アカウント利用

  • 無断で顧客情報をAIに入力

  • AI依存による判断ミス

  • 権限なき者の契約書作成

  • 秘密保持義務違反


3. 企業がまず決めるべき「AI入力禁止情報」

AI活用ルールで最重要となる部分です。

【NG(絶対禁止)】

✅ 個人情報(氏名・住所・電話番号・メールなど)
✅ 顧客情報・クレーム内容・問い合わせ内容
✅ 契約書の全文(相手方固有の内容)
✅ 売上データ・給与データ・財務情報
✅ 社内機密(価格戦略・仕入先情報・技術情報)
✅ 社員の評価情報・人事情報

【条件付きでOK】

✅ 匿名化されたデータ(Aさん→「従業員1名」)
✅ 数字・金額を丸めたデータ
✅「例示」に変換した架空シナリオ
✅ 業務フローやマニュアルの形式指定

【安全に入力するためのポイント】

  • 固有名詞はすべて伏せる

  • 生データは入力しない

  • 実案件をそのまま入力しない

  • 図面・画像・契約書PDFは基本NG(高リスク)


4. AI利用を許可する範囲を明確にする

会社としては、以下の点を必ず決めておく必要があります。

✅「業務でAI利用を許可するか?」

許可する場合、会社が認めるAIツールを指定
(例:ChatGPTチーム版、Microsoft Copilot など)

✅「AI利用の費用は会社負担でよいか?」

業務利用が前提なら会社負担が原則(福利厚生ではない)

✅ 私用アカウントの利用は禁止

→ 無料版や個人アカウントは「情報学習」の可能性が高く危険。

✅ 会社支給アカウントを付与する

→ 権限管理・ログ管理が必須。


5. AI利用ガイドラインの“必須項目”

以下を明文化すると、トラブルの9割を防げます。

5-1. 利用目的

  • 業務効率化、ミス削減、文書品質向上

  • 必ず「業務の範囲内で使用すること」

5-2. AI入力禁止情報

(先述の絶対NGリスト)

5-3. AIで作成してよい文書・NGの文書

✅ 初稿・草案(案内文、マニュアル、提案書)
✅ Excel関数・計算式
✅ 点検・校正(誤字脱字、論理不整合)

❌ 重要契約書の全文
❌ 社内の意思決定文書
❌ 労務・法務・税務の最終判断
❌ 社員評価・懲戒書類

5-4. 最終判断は「人間」が行う

  • AI回答は“あくまで案”

  • 専門分野は専門家の点検が必須

5-5. バージョン管理・ログ管理

  • AIが編集した文書にはバージョンを付ける

  • 部署ごとに履歴を残すルール

5-6. トラブル報告ルート

  • 利用ミスが疑われる場合は担当者へ即時連絡

  • 情報漏えいは上長→経営者へ報告の三段階


6. ガイドライン逸脱時の「懲戒」について

法律的には、AI利用ルールを逸脱した場合でも就業規則に規定があれば懲戒は可能です。

✅ 懲戒可能なケース

  • 個人情報・顧客情報を無断入力

  • 私用AIを使い機密情報を漏えい

  • 虚偽情報を使って業務上の損失や迷惑を発生させた

  • ルール違反を繰り返す

✅ 懲戒のために必要な要件

  1. 就業規則に「AI利用ルール違反」に関する根拠がある

  2. 具体的な社内ルール(ガイドライン)が明文化されている

  3. 社員に周知している(説明・配布・研修・教育)

  4. 過程・証拠・損害が明確である

適正な手続を欠く懲戒は無効となるおそれがあるため、ルール整備が前提。

✅ 懲戒ではなく「指導・注意」で十分なケース

  • 無意識の操作ミス

  • 教育不足によって発生した誤利用

  • 軽微な判断ミス

※初期は“教育・指導重視”で運用する企業が多い。

※本ページは一般的な情報提供であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。運用前に就業規則・労使協定・個人情報保護規程との整合をご確認ください。必要に応じて、顧問社労士・顧問弁護士とも調整のうえ導入ください。


7. AI活用に必要な「社内研修」

ルールを作るだけでは不十分で、最低限の教育が必要。

教育内容(中小企業向け)

✅ 安全な入力方法
✅ 入力禁止情報
✅ AIの誤情報の見抜き方
✅ プロンプト(指示文)の基本
✅ 文書校正方法
✅ バージョン管理のルール

研修は年1回が推奨

AI仕様・法令が毎年変わるため、定期更新が必須。


8. AIガイドライン(社内規程)ひな形

※御社カスタマイズ版は別途作成可能です。

【AI利用ガイドライン(抜粋例)】
1. 目的:業務効率化・品質向上を目的として生成AIを安全に利用する。
2. 適用範囲:役員・社員・契約社員・パート・委託先(必要に応じ別紙)に適用。
3. 利用ツール:会社が指定した商用AIに限る。私用アカウントの業務利用を禁ずる。
4. 入力禁止情報:個人情報、顧客情報、機密情報、取引先固有情報、契約書全文等。
5. 生成物の位置付け:AI生成物は初稿とし、最終判断は人が行う。専門分野は専門家の点検を要する。
6. データ管理:版管理・ログ管理を行い、編集履歴を保全する。
7. 事故対応:漏えい・誤情報使用等を認知した場合は直ちに上長→情報管理責任者→経営者の順に報告する。
8. 禁止事項:本ガイドライン違反、権限なき外部提供、私用アカウント利用等。
9. 罰則:就業規則に基づき、故意・重過失等に限り懲戒の対象となることがある。
10. 教育:年1回以上の社内研修を実施し、本ガイドラインの周知と更新を行う。

→ 上記のような内容で社内規程にしておくことで、ルール違反時にも法的に整合性のある運用ができます。


9. まとめ|AIは「便利」ではなく“必須インフラ”になる

インターネットがなかった時代に戻れないように、スマートフォンなしで仕事ができないように、AI活用は企業活動の前提条件になります。

中小企業こそ、AI活用で次のような変化が現実的になります。

  • 作業時間の大幅短縮

  • ミスや属人化の解消

  • 顧客対応のスピード向上

  • 社員のストレス軽減

  • 新サービス開発

  • 経営の意思決定が早くなる

そして何より、“安全に使えるルール”が整っている企業だけが、AIを武器に変えられます。


10. AIガイドライン作成をサポートします

次のような支援を提供しています:

✅ AI導入の初期相談
✅ AI利用ルール(ガイドライン)作成
✅ 就業規則への懲戒規定反映
✅ 情報管理ルールの策定
✅ 文書作成・点検のAI化
✅ 業務棚卸し(AI適用診断)
✅ 社内AI研修の実施

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