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【2026年対応版】ISO 30414入門|人的資本開示・人的資本レポート作成のための“最初の基礎知識”

2025/11/27

(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)


1.ISO 30414とは|人的資本の情報整理と開示に関する国際ガイドライン

ISO 30414は、人的資本に関する情報を「どのように整理し、どのように開示していくべきか」について、国際的な共通基準を示すガイドラインです。
「人材=経営資源」と捉える潮流が強まる中、人的資本の開示は国内外で重要性が高まっています。

ただし、ISO 30414は認証制度ではなくガイドラインであり、

・遵守義務があるものではない
・導入形式に決まった正解(ルール)があるわけではない

という点は押さえておく必要があります。重要なのは、人的資本を「見える化」し、投資や改善につなげるための考え方と整理方法を標準化できる点にあります。

(人的資本開示制度との違い)

なお、ISO 30414は2026年3月期から始まる有価証券報告書での人的資本開示制度とは別の制度であり、法的義務と直接結びつくものではありません。ただし、人的資本情報の整理や比較可能性を高める観点から、実務ではISO 30414を“整理の型”として参照する企業が増えています。


2.2025年改訂のポイント(概説)

2025年の改訂では、特に次の点が注目されています。

企業比較性を高める指標の明確化
人的資本の「投資効果」や「価値創出」につながる項目の強化
人的資本リスク・従業員の安全衛生への取り組みの重要性の明確化
人的資本に関する戦略・ロードマップ・改善行動の説明の充実

従来よりも「取り組んでいるかどうか」→「成果・効果・改善につながっているか」がより重視される方向性となっています。


3.ISO 30414における指標カテゴリ(概要)

ISO 30414では、人的資本に関する指標を次のような領域に分類しています(名称や分類の扱いは整理の目的でわかりやすく表現しています)。

領域例(概要) 内容のイメージ
組織文化・リーダーシップ エンゲージメント/コミュニケーション/心理的安全性など
ダイバーシティ&インクルージョン 女性活躍、年齢構成、キャリア機会の公平性など
採用・配置・離職 採用コスト、定着、オンボーディング、離職理由など
能力開発・キャリア支援 教育研修、OJT、資格、キャリア形成、スキル管理など
労務リスク・安全衛生 長時間労働、カスハラ・パワハラ、安全衛生の実施状況など
後継者計画・重要人材の確保 次世代リーダー育成計画、重要ポストの人材リスクなど
報酬・パフォーマンス 評価制度、人件費、成果指標との連動など

※名称・分類は国内実務で一般的に解釈されている整理方法であり、ISO文書の構成そのものを引用するものではありません。

重要なポイントは、単発の指標の羅列ではなく、組織戦略と育成・投資・改善まで含む「ストーリー」が重視されるという点です。


4.ISO 30414を参照するメリット

ISO 30414を活用することで次のようなメリットが期待できます。

● 人的資本情報の整理軸が明確になり、開示レポート作成の工数が削減
● 指標がばらばらにならず、企業間・期間比較がしやすくなる
● 「施策 → 指標 → 効果」の論理構造を作りやすくなる
● 社内の人事部門・経営層・監査対応の共通言語として使える
● 投資家・採用市場への説明性が高まる
● PDCAが回しやすくなり、改善の蓄積が可視化できる

人的資本開示において「どこから整理するか迷う」という企業ほど、ガイドラインを参照する利点が大きくなります。


5.実務での活用ステップ(初心者向け)

初めて企業が取り組む場合、次の流れが多く採用されています。

指標の棚卸し

・既に社内で管理している人事データを確認
・不足している項目を洗い出す

② 「開示に耐えうる項目」「社内改善に重要な項目」を分類

・すべてを開示する必要はない
・企業の戦略・フェーズに応じて選定

③ 取り組みの“ストーリー”を整理

・課題 → 施策 → 指標 → 効果 → 次の改善

④ 人的資本レポート・開示資料の作成

・アニュアルレポート・統合報告書・会社説明資料など

⑤ 毎年の更新と改善サイクル

・指標を蓄積し、改善の軌跡を示す

ISO 30414は「やるべきことを増やす」ための基準ではなく、「人的資本投資の成果が伝わるように整理する」ための基準として活用されるケースが多くなっています。


6.人的資本開示における注意点(実務上)

・機密性の高い人事情報の扱いには十分な注意が必要
・開示範囲や基準は業種・企業規模により異なりうる
・比較可能性を高める一方で、過度に数値偏重にならない工夫が必要
・施策と数値が乖離して開示が目的化しないよう目的を明確にすること


7.まとめ|最初の一歩は“完璧な開示”ではなく“整理”

ISO 30414は、人的資本開示を「完璧な資料に仕上げるため」ではなく、

・現状の取り組み
・人的資本への投資
・改善プロセス

を明確にするための道標です。まずは 「何を持っていて、何が足りていないか」 を整理する。そのうえで 企業の戦略と人材戦略をつなげていく。これが開示・レポート作成を成功させる最初のステップです。

「すべてを一度に完璧に開示する」のではなく、できる範囲から整理を始めることが最も現実的です。すでに保有している人事データの棚卸しから着手するだけでも、人的資本レポートの下地づくりが進み始めます。