NEWS

【実務特化版】有期雇用の契約期間満了と無期転換申込への対応ガイド

2025/12/24

人事分野の実務でトラブルの多い「長期契約社員の更新満了手続き」について、専門家が実務目線で企業の対応を説明します。何度も更新を続けてきた契約社員・長期勤務者への「やっていいこと/いけないこと」を整理(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田 雅人)


はじめに|長期契約社員に契約満了を申し入れたらトラブルになった

有期雇用契約(契約社員・嘱託社員など)を長年更新してきた企業から、近年とても多い相談があります。

  • 7年・8年と何度も更新してきた契約社員がいる

  • 経営状況や本人に問題行動があり、次回更新はしたくない

  • 無期転換という制度は知っているが、実務が分からない

  • ネットで調べると「防ぐ方法」「断り方」ばかり出てくる

  • 顧問社労士に問い合わせても、「ケースバイケース」「扱っていない」「弁護士に相談」で終わる

本ページは、何度も更新を続けてきた契約社員に更新満了を告げた際の実務トラブルを解説しています(「無期転換を回避する合法的テクニックの指南」ではありません)。企業が「違法行為者とならないために、どこまでがセーフで、どこからがアウトか」を、実務レベルで整理したページです。


前提整理|無期転換は“強行ルール”

まず、重要な前提です。

  • 一定要件を満たした有期労働者が

  • 無期転換を申し込んだ場合

  • 会社の承諾がなくても、無期雇用へ転換します

つまり、

  • 「会社が認めなければ無効」「承認できない」

  • 「更新満了だから終了」「そんな制度は当社には無い」

という主張は通用せず、法的にも認められないと判断される可能性が高いものです

一方で、

  • 無期転換は「自動的に発生する」わけでもありません

  • 権利の行使がなければ、有期契約として満了終了は可能です

更新満了トラブルの実務の分かれ目は「どの時点で、何をしたか」です。


よくある危険な誤解

実務で特に多い誤解が、次のようなものです。

  • 合意書を取っておけば無期転換は防げる

  • 更新満了通知を出しているから大丈夫

  • とにかく退職届を書かせれば自己都合になる

  • 無期転換は口頭では成立しない

これらは すべて誤解、または非常に危険な理解です。

次から危険な誤解(違法リスク)から企業が適切に手続きできるよう、「使える文書」「用意しておくと便利な文書」「危険な対応」を切り分けながら案内します。


実務①|契約期間満了で終了させたい場合の正しい整理

✅無期転換申込が“まだ”ない段階

この段階で重要なのは、更新期待性を新たに生じさせないことです。「上司が○○と言っていたので更新できると思っていた」は口頭主義の会社で起こる典型的なトラブルです。

実務上、意味を持つ対応

  • 更新満了の事前通知

  • 面談による説明(記録を残す)

  • 契約期間満了に関する同意書(※万能ではない)

  • 満了方針の再確認書(合意が取れない場合)

これらは、

  • 無期転換を防ぐための文書ではなく

  • 「更新を期待させていなかった事実」を残すための文書

として位置づける必要があります。


実務②|無期転換申込があった瞬間、前提は変わる

ここが最重要ポイントです。

✅無期転換申込があった時点で

  • 本件は「契約期間満了案件」ではなくなります

  • 満了による退職扱いはできません

  • 退職届の提出を求める行為は慎重にあるべきです

この瞬間から、「どう終わらせるか」ではなく「どう対応を切り替えるか」という問題に変わります。契約満了に了承していても、次の仕事や家族のアドバイス等で気が変わり、無期転換を申込してトラブルとなるケースもよくあるため、無期転換申込の扱いは慎重であるべきレベルの実務となります。


無期転換申込があった場合の【一次対応】の原則

違法対応を避けるために知っておきたい「一次対応」の考え方を整理します。

その場で必ず守ること

○否定・承諾・評価をしない

○即答しない

○受領事実の確認にとどめる

やってはいけないこと

✖無視・受領否認

✖満了手続きへの切替

✖退職届の要求

✖条件変更・配置転換の示唆

✖行使しないよう説得すること

⚠ その場ですぐに判断しないことが、最大のリスク管理です。


ここから先は「個別判断」の領域

適切な無期転換権の行使によって無期転換が成立した後は、

  • 無期社員(正社員)としての処遇決定

  • 業務内容・配置

  • 合意退職の可否

  • 解雇の可否

など、個別事情によって結論が大きく変わります。この時点になると、インターネット情報や一般論、無料のテンプレートでは対応できません。契約満了に向けて新たに社員を雇い入れるなどしていた企業は対応に苦慮するケースも見られます。


FAQ(よくある質問)

Q1.合意書を取っていれば無期転換は無効になりますか?

なりません。合意書は「更新期待がなかったこと」の補強資料に過ぎず、無期転換申込があれば成立します。


Q2.口頭で「無期にしてください」と言われただけでも成立しますか?

ケースによります。証拠関係が争点になりますが、その場で否定・無視する対応は危険です。


Q3.無期転換申込が来たら、退職扱いに切り替えればいいですか?

できません。その時点で前提が変わるため、通常の満了退職手続きは行えません。


Q4.顧問社労士がいますが、教えてもらえません

無期転換は強行ルールで、踏み込みすぎて企業側に加担しすぎるとなれば、「脱法助言」になるため、消極的な説明に留まるのが実情です。


Q5.更新満了通知だけでは不十分なのですか?

ケースによって不十分となることがあります。無期転換権のある契約社員については、満了日までに状況が変化する可能性があり、更新満了通知のみをもって契約が終了したと整理することはおすすめできない場合があります。特に長期の有期雇用契約を繰り返してきた労働者の場合は、満了日までの面談や説明の記録の有無、更新満了にあたっての同意書面や方針の再通知など、慎重さをもって段階的に手順を進めていくことがトラブル防止につながります。


最後に

更新満了や無期転換申込はトラブルが多く、「知らなかった」では大きな出費となる可能性のある制度です。一方で、適切な実務手続きを徹底し、正しく線を引けば、過度に恐れる必要もありません。手順を守る、期待させない、書面を残す、その他の業務同様に、手続きを踏めばトラブルリスクを大きく引き下げることができます。