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社会保険労務士の比較一括見積サイトは使うべき?失敗しない注意点

2021/08/24

複数の業者の見積りを簡単に取り寄せることができる何かと便利な「一括見積もりサイト」、ご利用された方も多いかと思います。

引越しや中古車、保険などBtoC分野では一般的になった一括見積サービスですが、近年はビジネス関連の専門スキルを扱うBtoB分野のマッチングサイトも数多くリリースされており、2015年に当時最大手だった楽天ビジネスがサービス終了したものの、その後も税理士比較サイトを皮切りに、司法書士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士、社会保険労務士、行政書士、土地家屋調査士といったいわゆる「士業事務所」に特化した、または専門に取り扱うサイトが増加しています。

「社会保険労務士×見積り」や「社労士×エリア」のビッグワードで検索すると上位1ページ目から比較サイトがずらりと並びますので、利用者も相当多いのだと思われます。どこで調べたのか当事務所代表メールアドレスにも毎日のようにキャンペーン案内、相談案件情報(連絡先は加入してから)など、熱心に勧誘メールをお送りいただきあの手この手で加入させようとしてきます。勝手に当事務所を「会員として」掲載しているサイトもあります。

比較サイトを利用するメリットについてはサイト運営会社や多くのブロガーによって情報があふれていますが、もちろんいいことばかりではありません。独立前の会社員時代に比較サイトの構築プロジェクトに関与した経験もある当社代表が、比較サイトで社労士に仕事を発注する方と、比較サイトの会員になって仕事をもらいたい社労士の両者の立場からサイト利用について考えます。これから社労士の活用を検討する事業主の方、社労士事務所を開業したものの顧客獲得に行き詰っている方は是非参考にしていただければと思います。

非弁護士との提携を厳しく禁止した非弁提携(弁護士法27条他)は有名ですが、制限の差はあれどその他士業や社会保険労務士でも非社会保険労務士との提携の禁止(社労士法第23条の2)があり違法性が疑われるマッチングサイトがありますが、実質的に野放しになっている点や、法をどのように解釈しているかについては本稿では触れておりません。

比較サイトって何!?

本稿においてビジネスマッチングや比較サイトと呼ぶものは、技術やサービスを販売したいという事業者又は個人と、特定のサービスを利用したいと思うユーザーを、インターネットサイト上でマッチング(引き合わせる)させることを目的とした、「ビジネス間の出会い系サイト」全般を指します。

ビジネス関連の比較サイト大手では「ランサーズ」や「比較ビズ」、「クラウドワークス」などがありますが、士業の比較サイトとしては、「ミツモア」や「比較jp」「アイミツ」のほか、新興ベンチャー企業からも多数の士業比較サイトがリリースされています。当然、労務・税務・法務といった企業で避けては通れない「専門業務の相談だけ」のサービス料を比較するなど一部業務だけを細分化した比較サイトも増えていくことが予想されます。

当然、各社それぞれに特徴があり個別の優劣は割愛しますが、基本的には利用するユーザーは無料、運営費は加入している会員(事業主)による月額掲載料や配信毎の課金によって支えられています。

比較サイトは利益率が高いのか!?

一般のイメージでは、サイトは一度作ってしまえばあとは楽で、広告宣伝さえしておけば売上は上がっていくと思われている方も多いと思いますが、比較サイトは思っている以上にお金がかかります。

なぜなら、サイトの価値はユーザー数(アクセス数)に比例しユーザー獲得のためには常に更新しなければなりませんし、ユーザーが増えればサーバの増強(家庭用とはレベルが違います)、乱立する競合他社の調査やSEOの上位表示対策として専門コンサルタントに委託したり、またサイト停止など必ず起きる事故に速やかに対応し復旧できるチームを抱えるなど、サイトの維持と収益化するまでに新築住宅数件分の先行投資が必要になります。市場シェアを獲得しているような超有名ポータルサイトにまでなればかなりの利益率と収益が見込まれますが、それも先行投資の大きさと比例します。比較サイトの会員勧誘で業者にお声がけさせていただいたときには「高い手数料を取るハイエナ」とまで言われたことがありますが、比較サイト運営には膨大なカネがかかっており、早期に回収しなければならない事情があることは理解してください。

 

一括見積サイト運営会社が絶対に言えない話

一括見積サイトでも顧客の評判をうけて改善されていることを期待したいですが、一括見積サイトを利用したことによって酷い目に合った方も多いのではないでしょうか。「早朝電話」や「執拗な電話(鬼電話)」の経験のある方も多いかもしれません。一般サービスと同様に、士業比較サイトの評判や口コミでも良くないものが多く存在しています。サイトを利用する以上は避けられないものばかりですが、利用する際には覚悟しておかなければならない(サイトには掲載されていない)ことがたくさんありますので、よく理解しておきましょう。

⚠営業の電話は必ずかかってくる(何度も)

⚠頼んだ覚えのないところからも連絡が来る

⚠メールアドレスは目的外利用される(スパムメールが増える)

⚠半年程度の一定時期ごとに、営業連絡が来る

⚠関係ないネットやウォーターサーバー業者からも連絡が来る

⚠連絡日時を指定しても関係なく電話が来る

⚠付帯サービスを不要としても関係なく電話が来る

⚠士業だから行儀がいいと思うのは間違い

 

運営側の各社も当然に、このような苦情があることを理解したうえで対策を検討しますが、その苦情対策がコストに見合うかどうかについては運営会社次第になりますので、対策していると書いていても実際は不十分であることが多いです。サイトは善悪で運営されているわけではなく、損得で運営される商売であることを理解しないまま利用するとユーザーも頭に血が上って精神の安定を乱すことになります。

会費を支払う側としては配信された顧客の情報は最大限活用しなければならならず、ガツガツしない主義で営業効率を全く考えない業者が見積サイトに参加しているはずがありません。「連絡がつくまで何度でも電話する」のは当たり前、「検討中」ような中途半端な返事の場合には発注先が確定するなど結論が出るまで何度も電話営業をかけます。大きい会社ならプロのアポインター(アポを取ってなんぼ)に外部委託していることもあるため、他社の料金を聞き出すことは常套ですし、他社の悪評などで蹴落としてまででもアポや契約を取ろうとする業者が一定数出てくるのは当然です。

 

比較サイトの掲載料の相場

一括見積サイトの料金形態は基本的に登録業者側だけの掲載料金で運営されているため、発注側の利用料はゼロのところがほとんどです。登録している業者は月額料金(会費)や顧客情報が配信または成約によって課金されるしくみになります。

課金される額はサイトによりますが、配信一件あたり数千円から、成約課金型の場合は年間顧問料の50~70%に設定されており案件によっては数十万円の紹介手数料を支払いしなければなりません。運営側になればすぐにわかりますが、配信毎に課金するサイトは大量に見積依頼を配信すればその分だけサイト利用料が入るため、サイト構成的に個別見積機能があっても、一括見積ボタンのほうが押しやすくなっていることに気が付くと思います。月額定額課金モデルの場合も同じ運営側の心理で一括見積への誘導が多くなります。

さすがに婚活出会い系サイトのようにサクラは存在しないと信じたいですが、市場の認知度が低いサイトの運営業者がユーザー数を稼ぐため、外部業者に委託する選択肢がないとは言い切れません。何度も言いますが、善悪ではなくビジネスです。

新規開拓によって顧客を獲得することはどの事業でも同じように、営業センスや宣伝など、大変な苦労が伴います。特に創業したばかりで経験の浅い、取引先がほとんど無いような事業者からすれば、費用を払えば顧客側から寄ってくる比較サイトは(カモにされているとわかっていても)魅力的に映ります。社会保険労務士だけでなく、弁護士のような超難関試験の士業も勝手に客からお願いされるような名誉職ではなく熾烈なサービス業であり、何年も契約が取れないまま廃業する事務所もかなり多くあるため、地道な営業活動や自社で広告宣伝することと比較すると比較サイトが安いと考えることもできます。

 

業者のクオリティはどうなのか

結論として、マッチングサイトや一括見積サイト経由で仕事を発注する場合は業者の質には期待できません。その理由は、受注単価が安く利益率が低いため、必然的にサービスにかける限度時間が低くなるためです。

一方、会社の経営資源を利用する重要な経営事項を熟慮せず、安易なサイトを使ってとにかく安い見積を求めるような顧客は未熟でリテラシ―が低い事業者の可能性が高い一面があるため、契約トラブルが多くなることが想定されます。どのクラウドソーシングサイトも成熟するほど【質の低い発注者×質の低い業者】が増える特性があり、また胴元であるサイト運営会社はマッチングした取引にまで責任を負わないことは知っておく必要があります。もちろん、参加業者が少ない間であればサイト側も手数料のキャンペーンなどを行っていることがありますので、社会保険労務士の比較サイトのようなまだ余地のありそうな市場では質の高い業者が見つかることもあります。

比較サイトを利用するメリットの一つとして、相場と乖離したぼったくり価格で契約してしまうことが防げるというのがありますが、社労士業務に限って言えば、特殊な「IPO労務」や「上場企業の賃金制度改定」など、クオリティに大きな差があるコンサルティング業務を除き、就業規則作成や助成金申請の手数料はネットで調べればだいたいの相場帯はわかるため、委託者が相当な信頼を寄せたか、全くの無知でなければぼったくり価格で契約することはできないため当てはまらないように思います。適切な相場での取引は望ましいことですが、適切さの基準もまたひとそれぞれです。

優良な事業者であればわざわざマッチングサイトに高い費用を支払わなくても口コミや紹介で顧客が取れるため、価格でしか勝負できない事務所が比較サイトに残っているという意見もありますが、だからといって比較サイトに参加していない事業者は質が高いとの論法はいささか強引です。単に資金不足で広告宣伝できない「儲かっていない事務所」である可能性もあるため、一概に言えないところが消費者を迷わせる面白いポイントの一つでもあります。

 

社会保険労務士の一括見積サイトはどこがおススメか

一括見積サイトなどビジネスマッチングサイトはそれぞれ特色があるため、おススメできるサイトはどこかと聞かれれば、便宜が期待できる運営会社との提携が無い当事務所は、「それぞれの事業主の目的による」という以外に答えようがありません。

そもそも、税理士や社労士、弁護士事務所などの士業へ委託する目的を考えてみましょう。個人の相談や一時的なスポット業務の関わりであれば一括見積サイトでも問題ないと思いますが、必ず直面する法務問題を踏まえた長期的な取引や委託業務以外の相談は全くないと言い切れるでしょうか。

新規創業の場合や、顧問先が廃業する場合など前向きな理由の場合はどの業者でも歓迎する顧客です。例えば一括見積サイトに掲載している事業者情報からその事業主のホームページ等を検索し、写真の雰囲気や自己アピール欄からどんな思想で経営者のサポートを行っているか調べたうえ3社程度をリストアップします。そのうえで「業務の見積を依頼したいので、面談をお願いしたい」と問合せすれば、ほとんどの業者が快く応じてくれます。その程度の手間が面倒ならば、検索上位で表示される一括見積サイトを利用されることをおススメします。

 

どんな発注者に利用が向いているか(ユーザー目線)

ここまで比較サイトについてネガティブな説明を続けてきましたが、士業を探すのに比較サイトが有効なケースも当然にあります。それは、「見積りだけが欲しい場合」と、「指定する成果を求める場合」があります。

社内業務のアウトソーシング化を検討する際や、随意契約(決まった発注先)の契約価格が妥当であることを補強する資料として見積りが必要なケースがあります。業務を委託するのに必要な資格を保有する専門事務所の知り合いがいない場合は、比較サイトから見積だけを回収する方法が考えられます。公共事業や助成金・補助金では相見積もり要件があることがほとんどのため、見積だけを集める目的で利用しているケースはかなりあるでしょう。費用を払えば見積だけを取得してくれる業者もありますが見積額の1%程度が手数料としてかかるため、無料で見積を集めるだけなら比較サイトは便利です。

サービス事業者に同じ成果を求める場合にも比較サイトは高いメリットがあります。社労士業務は幅広い労働関連法律を扱う無形サービスであり、契約前にサービスの良しあしはわからないものですが、給料計算、助成金申請、年金事務所や労働局への届出代行業務は安全性は別として、誰が行っても結果は同じです(給与計算は異論があるかもしれませんが)。これらのように、結果次第で事業が大きく左右されないような「クオリティを求めない」業務については既に価格競争が激化しており、比較サイトで見積を取る方が時間も短縮されるうえ、安い価格で頑張ってくれる業者が見つかるかもしれません。

※給与計算や届出代行実務などマニュアル作成が容易な事業を大量に受注している会社はブラック事務所が多く、離職率が極めて高い側面があります。担当がころころ変わるといって苦情を付けないようにお願いします。

 

どんな事務所が加入に向いているか(事業者目線)

士業事務所は営業が苦手、またはものすごく下手なところが多く、実務は詳しいが新規集客やフォローアップが全くできない営業下手な人がいます。事務所開業1年以内でゼロから収益化できる事務所などほぼ存在せず、社労士事務所は早くて3年、場合によっては収益化に5年以上かかることもザラです。

比較サイトはその性質上、価格競争が起こりやすく利益を圧迫するため、売上が確保できるなら避けたいものですが、取引先も売上もほぼゼロの創業直後の事業者で営業が苦手な場合は、たとえば自社HPに掲載させてもらうなど実績としてのアピールや、売上確保によって金融機関からの融資を引くなどの目的で、利益を度外視してでも比較サイトに登録すると考えることもあるでしょう。

はっきり言って、せっせとHPを更新したり近隣へチラシを配布してもまったく効果がありませんし、異業種交流会に参加しただけでポンポン仕事が取れるのは仕事以外に魅力があるキュートな方だけで、オジサンオバサン実力主義の社労士業界で即効性のある集客方法なら比較サイトの利用が最強とも言えます。

最近は比較サイトのサービスも細分化しており、一部の業務に限定した見積を依頼できる機能が実装されているサイトもあります。そのため、「給与計算が超得意」であったり、「あらゆる助成金申請業務に精通している」など、他社に勝る得意な分野がある場合にはサイト登録によって高い集客が見込まれる可能性があります。得意分野もなく、これから伸ばしていく業務を選びかねている場合には、無駄打ちが多くなるためサイト掲載は見送った方がいいかもしれません。

 

おわりに

比較サイトの利用を考えていた事業主や社労士事務所の皆様は少し見方が変わったのではないでしょうか。それでもこれだけ新規参入やユーザーの増加などによって市場が拡大している以上、社会に求められているサービスであることは間違いなさそうです。情報化社会以前は偉い先生たちでふんぞり返っていた士業業界も、これからはサービス業として選ばれなければ淘汰される時代に変革しています。一括見積サイトを利用するユーザーも、参加する事業主もそれぞれ個別の事情に合わせた最適な方法と、特性を理解した効果的な活用ができれば経営に大きく役立てることができるはずです。

 

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