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【2025年対応版】“指導できない上司”の心理と職場リスク|パワハラを恐れすぎる管理職のための教育設計(社労士+心理学監修)

2025/10/16

はじめに|「叱れない上司」の時代に

職場では、ハラスメント防止法の浸透とともに「優しすぎる上司」「叱れない管理職」が増えています。
彼らは決して怠慢ではなく、むしろ真面目で誠実、部下想いのタイプが多いのが特徴です。

しかし結果的に――

  • 部下が成長しない

  • チーム全体の基準が下がる

  • 育成の停滞による離職増加

といった「心理的萎縮型の組織リスク」を生んでいます。

本稿では、こうした“指導をためらう上司”を対象に、心理学・行動科学・労務管理の3側面から構造と改善策を解説します。

(※本稿は教育・組織開発の観点から構成された一般的解説であり、個別の法的助言を目的とするものではありません)


第1章 指導をためらう上司の心理構造

1-1 「優しさ」の裏にある不安と恐れ

部下を叱れない上司の多くは、次のような心理要因を抱えています。

心理要因 内的メッセージ 結果的な行動
パワハラ恐怖 「自分の指導が誤解されたらどうしよう」 注意できず放置
自信喪失 「自分も完璧ではない」 指導の責任を回避
承認欲求 「嫌われたくない」「良い上司と思われたい」 部下に迎合する
共感過多 「相手もつらいだろう」 行動責任を曖昧にする
家庭・私生活へのエネルギーシフト 「家族を優先したい」 職務上の緊張感の低下

これらは一見“やさしさ”の形をとりながら、結果的に職場の秩序・基準を弱めていきます。


1-2 認知バイアスの影響

「怒らない=良い上司」という誤った信念が形成されている場合もあります。
認知行動療法の観点から見ると、以下のような歪みが確認されます。

認知の歪み 典型的思考 修正アプローチ
過度な一般化 「指導=パワハラになる」 指導と人格攻撃の違いをケースで学習
二分法的思考 「叱る or 放置」の二択 “支援的指導”という中間概念の導入
将来悲観 「注意すれば辞めるだろう」 対話と支援で離職防止に転換できることを理解
自己卑下 「自分が言っても響かない」 フィードバック技法の習得で効果を実感させる

第2章 心理的背景にある「役割葛藤」

2-1 役割理論の視点

社会心理学のロール・コンフリクト理論では、人は複数の役割(例:上司・親・パートナー)を同時に担うとき、価値観の衝突が起こります。

特に「家庭重視・共感的性格の管理職」ほど、

  • “部下の気持ちを傷つけたくない”

  • “厳しさを出すと自分の人間性が疑われる”

といった心理的負担を感じやすい傾向があります(山本・2022『組織心理研究』)。

2-2 “心理的安全性の誤解”

「心理的安全性を守る=叱ってはいけない」という誤解も広がっています。
Googleの研究(2017年, Project Aristotle)では、心理的安全性は「意見を言える雰囲気」であり、「指摘されない環境」ではありません
むしろ明確なフィードバックが信頼関係を強化することが実証されています。


第3章 法的視点:上司の職務責任

3-1 労働契約法第5条(職場環境配慮義務)

上司が「指導を放棄」した場合でも、結果的に職場秩序の維持や生産性低下を招くと、企業には職場環境維持義務違反のリスクが生じます。

企業は、部下の育成を怠った上司に対しても、教育・研修・配置転換などの再教育措置を講じる義務があるとされています。

3-2 評価・登用への影響

厚労省の「管理職評価ガイドライン(2024年改訂)」では、「部下育成責任」が管理職評価の明確な項目となっています。
指導を恐れて育成が停滞する状態は、人事評価上もリスクになります。


◆セルフ診断チェック:あなたは“指導をためらう上司”?

以下の10項目のうち、当てはまるものに✓を入れてください。
(3つ以上該当する場合は、指導回避傾向がある可能性があります)

No チェック項目
1 部下に注意する前に「パワハラと思われないか」と考えてしまう
2 部下のミスを注意するより、自分でやり直した方が早いと思う
3 部下に嫌われたくない、良い上司と思われたいと思うことが多い
4 部下の私生活や性格を考えると、厳しいことが言いづらい
5 指導後に「言い過ぎたかも」と後悔することがある
6 部下の成長より、自分の評価や人間関係を優先してしまう
7 問題のある部下に「波風を立てたくない」と思ってしまう
8 「どうせ言っても変わらない」と感じて諦めることがある
9 指導内容を事前に何度も考えすぎて結局言えないことがある
10 部下が辞めたら「自分のせいかも」と自責的に考える

診断結果の目安:

  • 0~2項目: 指導に迷いは少なく、支援型リーダー傾向

  • 3~6項目: 指導と共感のバランスが課題。行動スキル強化が有効

  • 7項目以上: 指導回避傾向が強く、心理的支援・研修導入が望ましい


自分の傾向を理解したら、次に必要なのは「どう変わるか」です。
以下では、心理学的アプローチを取り入れた改善法と実践的トレーニング方法を紹介します。


第4章 心理的アプローチによる改善法

4-1 セルフメタ認知ワーク

「自分はなぜ指導を避けるのか」を可視化し、自己認識を高めるワーク。

例:

  • 部下を注意しなかった場面を3件書く

  • その時、頭に浮かんだ言葉と感情を記録

  • どんな“恐れ”があったかを自己分析

4-2 リーダーシップ・スタイル診断(SL理論応用)

“叱る”“支援する”のバランスをタイプ別に見直す。

  • S1型:強指導型 → パワハラリスク高

  • S2型:対話型 → 理想的バランス

  • S3型:支援過多型 → 指導不足

  • S4型:放任型 → 組織秩序崩壊

SL理論をもとに、自分がどの位置にいるかを客観視させると効果的。

4-3 アサーティブ・コミュニケーション訓練

攻撃的でも受身的でもない“自己主張の技法”。
「あなたを尊重しながら、私はこう考える」と伝える練習を反復。
→ 「優しいけれど軸がある上司」への変容を支援。


第5章 実践プログラム設計(6~12か月)

フェーズ 主な内容 ゴール
① 自己理解期 心理テスト・役割分析 指導回避の原因を自覚
② 技法習得期 アサーティブ研修+ロールプレイ 「伝え方の型」を獲得
③ 実践期 現場フィードバック+伴走支援 部下指導行動の改善
④ 定着期 ピアコーチング・月例振り返り 育成習慣の定着

KPI例(目標とする指標)

  • 部下面談頻度の増加

  • 指導回避事案の減少

  • 部下アンケートでの「上司の関与満足度」ポイント上昇


第6章 成功・失敗事例

成功例:心理的支援を併用したリーダー転換

ある福祉法人では、優しすぎて指導できなかった管理者に、産業カウンセラー+社労士によるメンタル&行動支援を実施。
6か月後、部下定着率が20%改善し、離職者ゼロを達成。

失敗例:制度のみ導入し内面が変わらず

研修マニュアルを整備しただけで終わった企業では、上司が「叱る勇気」を取り戻せず、1年後に再び離職率が悪化。

→ 教訓:制度だけでは変わらない。心理支援が必要。


第7章 よくある質問(FAQ)

Q1. 指導しても部下がすぐ辞める場合は?
→ 指導内容よりも“伝え方”と“信頼貯金”の不足が多い。短期成果でなく長期対話で補う。

Q2. 家庭との両立でモチベーションが下がる場合?
→ 「家庭=癒し・仕事=成長」と役割の意味づけを分ける。時間管理より“心理的切替”を支援。

Q3. 中堅層の“中間管理職疲弊”を防ぐには?
→ 経営層が“指導支援の文化”を示す。失敗した上司を責めず、再トレーニングで再起を支える。


当社の関連サービス(一部)

▶成果と人権を両立させる管理職のためのグレーゾーン研修

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▶ハラスメント防止・撲滅・再発防止完全パッケージサービス(伴走支援)

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第8章 参考文献・研究一覧

  • 山本和彦(2022)『リーダーシップ行動と心理的葛藤』組織心理研究35(2)

  • 津野香奈美ほか(2023)『パワハラ行為者の感情知能傾向』日本職業・災害医学会誌

  • 日本労働政策研究・研修機構(2024)『管理職の指導回避と心理的要因調査』

  • Goleman, D. (1995). Emotional Intelligence. Bantam Books.

  • 厚生労働省『パワハラ防止指針』(令和2年)

  • Google Project Aristotle (2017) “The Five Keys to a Successful Team”


まとめ|“優しさ”を“責任ある支援”に変える時代へ

叱れない上司は、悪い上司ではありません。
しかし「関わらない優しさ」は、組織を静かに壊します。

これからの時代に求められるのは、“恐れない指導”と“支援的対話”の両立。

心理的支援を受けながら、上司自身が自信を回復し、「指導=信頼を築く行為」として再定義することが、真にハラスメントを減らし、人が育つ組織への第一歩です。


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