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初めて社員を採用するときの手続き一覧
2019/09/10
社員第一号が決まったら、手続きはどうする?
数多ある企業の中から零細中の零細、また不安定なベンチャー企業の求人に応募してくれたうえ、働くと約束してくれた従業員は特にうれしいことです。記念すべき社員第一号、興奮と緊張はそこそこに、さっそく経営者は『しなければならない手続き』に追われることになります。決意してくれた大切な従業員を失望させることの無いよう、しっかりと手続きを進めましょう。
(しなければならない手続きのもくじ)
- 労働条件の明示
- 社員に提出してもらう書類
- 労働保険加入手続き
- 社会保険加入手続き
- 住民税の特別徴収手続き
- 労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の作成
- 36協定書の締結と届出
労働条件の明示
家族以外の従業員を雇用するときには労働基準法15条によって定められた事項を明示しなければならないこととされています。必ず文書でなければならない条件と、口頭でも可能な条件がありますが、できるだけ書面にして明示するのが得策です。正社員だけでなく、パート・アルバイト、有期雇用社員に関わらずすべての労働者に必要です。
《労働条件通知書の例と記載事項》
✅労働契約の期間
✅更新の有無とその基準
✅就業する場所及び従事する業務の内容
✅始業・就業の時刻、休憩時間、休日・休暇、交代制勤務の場合は就業時転換に関する事項
✅賃金の決定・計算・支払方法・締切日・支払日、その他昇給に関する事項
✅解雇の事由を含む退職についての事項
✅短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
平成31年4月以降労働条件通知書の扱いは、労働者が希望した場合に限り電子的方法(FAX・メール等)での明示も認められることになりました。
将来助成金を受給する際には必ず労働条件通知書や雇用契約書等が必要となるため、助成金を検討する事業主にとっては重要な書類です。
雇用契約書を取り交わす
雇用契約書の締結は法律上義務付けられたものではありませんが、トラブルの回避のためには締結しておくことをお勧めします。労働条件通知書と重複する箇所も多いため、「労働条件通知書兼労働契約書」とする事業者もあります。
社員に提出してもらう書類
✅身分証明書(住民票や免許証など)
✅卒業証明書・資格証明書
✅健康診断書(労働安全衛生法で規定する「雇い入れ時の健康診断」重複回避)
✅源泉徴収票
✅秘密保持誓約書
✅通勤交通費申請書
✅雇用保険被保険者証
✅マイナンバーカード(通知カード)
✅年金手帳
✅健康保険被扶養者異動届(扶養家族がいる場合)
✅銀行口座の確認できるもの
いずれも法律上義務付けられたものではありませんが、後の雇用管理の手続きを円滑に進めるほか、身分や職歴の偽装を抑止したり、情報漏洩などの教育のためにもしっかりとした書類を提出させることで緊張感が高まり、職務への取組が変わりますのでできる限り提出を求めておきましょう。
社会保険の加入手続き
社会保険は一般的に、『健康保険』、『厚生年金保険』、『介護保険』の総称をいい、手続きは一括で行うことができます。
法人の場合は社長一人であっても原則として加入義務があります(個人事業所は要件あり)。正社員のほか、たとえば正社員の3/4以上勤務が義務付けられている労働者も加入義務があります。
社会保険に加入できない従業員
1⃣.日々雇い入れられる従業員(1か月を超えた場合はその日から適用)
2⃣.2カ月以内の期間を定めて雇用される従業員(超えた場合はその日から)
3⃣.就業場所が固定されない従業員(サーカスなど周回事業)
4⃣.4カ月以内の季節的業務に雇用される従業員(延長予定がある場合は当初から適用)
5⃣.6カ月以内の臨時事業所に雇用される従業員(延長予定がある場合は当初から適用)
(介護保険)
✅40歳以上の社会保険適用従業員
社会保険の加入手続きは所定様式へ記入して各都道府県の『広域事務センター』に郵送することになります。受理印を受け取る複写を返送してほしい場合には返送用封筒と切手の負担が必要です。Excel様式に基本情報を保存しておき、入社の都度個人情報を記入すれば手続きはそれほど難しいものではありません。
労働保険の加入手続き
労働保険とは通常、『雇用保険』と『労災保険』を指しますが、労働保険料の支払を除く加入手続き等はそれぞれ別々に行う必要があります。
《労災保険》
労働者が一人でもいる場合には労災保険の加入義務があります(農林水産業で5人未満は任意)。労災保険は業務中や通勤時の災害を補償することを目的としているため、加入しないまま万が一死亡事故などの労災事故を起こすと事業主自身が補償の全額を負うことにもなりかねません。入社の都度加入する必要は無く、一度適用手続きを行い概算保険料を納付すれば毎年一回清算するだけで、保険料支払以外には事故がなければ基本的に手続きはありません。
なお、労働保険事務組合への委託などで特別加入制度を利用する場合を除き、個人事業主や法人の役員は労災保険の対象とはなれません。
《雇用保険》
農林漁業や建設業(二元適用事業所)を除き、通常は労働保険料を併せて納付する一元適用事業所となります。従業員の失業給付が有名ですが、雇用関連助成金を受給する際には雇用保険に加入している従業員が対象となることがほとんどのため、加入手続きを怠ると後で必ず後悔します。なぜなら、雇用関連助成金は小規模事業者でもかなり高額になることが多いからです。なお、雇用保険加入手続きは公共職業安定所(ハローワーク)へ郵送または電子申請で行いますが、労災保険を適用せずに加入することはできません。ハローワークの求人も行うことができないため、まず労災手続きを行ってから雇用保険の手続きを行います。電子申請はやや使い勝手が悪いため、中小企業では大半が郵送または訪問で手続きしています。
(加入できない従業員)
1⃣.昼間学生
2⃣.臨時内職的に雇用される従業員
3⃣.4カ月以内の期間を予定して行われる事業(季節的事業)に雇用される従業員
4⃣.外国で雇用関係が成立している外国人
5⃣.31日以上引き続き雇用が見込まれない従業員
6⃣.個人事業主・法人の役員(従業員との兼務役員は条件によって加入可)
※65歳に達した日以降に雇用された場合は雇用保険に加入できませんでしたが、2017年の法改正によって原則的に高年齢被保険者として加入することになりました。
住民税の特別徴収手続き
正社員を雇用した場合にはその従業員の給与から住民税を控除して納付する必要があります。本人の居所(住所)の市区町村のホームページから住民税特別徴収変更手続きを行い、毎月給与から源泉徴収して納付する必要があります。住民税の勘定科目は『預り金』となります。
手続きの期限
《社会保険》※提出先は全て管轄の広域事務センターとなります。
・被保険者資格取得届:雇用開始日から5日以内
・被扶養者(異動)届:事実の日から5日以内
・国民年金第3号被保険者届:該当した日から14日以内(協会けんぽは被扶養者異動届と兼用)
(労働保険)
・労災保険関係成立届:管轄労働基準監督署へ雇用開始から10日以内
・労災保険概算保険料申告書:管轄の労働基準監督署等へ雇用開始から50日以内
・雇用保険適用事業所設置届:管轄のハローワークへ設置の日から10日以内
・雇用保険被保険者資格取得届:管轄のハローワークへ雇用開始の翌月10日まで
(納税手続き)
・給与支払事業所等開設届:管轄の税務署へ給与支払発生から1か月以内
・源泉所得税の納期の特例申請書:管轄の税務署
・住民税特別徴収依頼書:本人居住の市区町村
労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の作成
従業員を採用する際には労働者名簿・賃金台帳・出勤簿を合わせた『法定3帳簿』の作成が労働基準法で義務付けられています。様式に定めはありませんが、初めて作成する際には後々のことを考えて必要事項をしっかり押さえておく必要があります。
《労働者名簿の記載事項》
☑本人の氏名
☑入社日
☑生年月日
☑性別(法律上の性別)
☑住所
☑従事する業務(30人未満の事業所は不要)
☑退職または死亡の年月日とその事由(自己都合・解雇等)
本人から入社時書類を回収すればほとんどの事項は記載できますので取得後に作成すればスムーズに業務が進みます。(履歴書等を労働者名簿にすることはできません)
《賃金台帳の記載事項》
☑氏名
☑性別
☑賃金計算期間
☑労働日数
☑労働時間数
☑時間外労働、休日労働及び深夜労働の労働時間数
☑基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
☑労使協定により賃金の一部を控除した場合はその金額
《出勤簿の記載事項》
毎日の出社時刻や退社時刻、残業時間や休日出勤などを記録します。タイムカード等の客観的な記録を確認して記録する必要があります。
なお、最近はクラウド会計ソフトや給与計算アプリケーションが多数販売されており、タイムカードの記録を行えば賃金台帳まで作成できるものも多数ありますので、手間を削減するならば導入は必須といえます。
労働基準監督署や年金事務所の調査も強化されており、手書きや紙のタイムカードが帳簿や実態と整合しない場合には指導や是正命令、遡及追徴もあり得ますので、安全な勤怠管理には最新のテクノロジーを導入するのがリスク管理には必要です。
※法定3帳簿は退職後も3年間(賃金台帳は国税通則法により7年)保存する義務があります。
36協定書の締結と届出
残業や休日出勤を伴う場合には36協定の締結と労働基準監督署長への届出が必要です。届出を行わずに業務が延長して法定時間外まで残業になった場合には即法律違反となるため、万が一に備えて手続きしておきましょう。中小企業の経営者では36協定を知らない方も多く、手続きしないまま労働者が労働基準監督署へ申告すると調査の対象になります。
おわりに
昨今は政府も労働関係の指導を強化しており、労働基準法等関係法令に違反する事業所は社名公表や強制捜査、逮捕、送検まで、適当な経営では耐えられないほどの重いペナルティを課すようになりました。年金事務所の調査、労働基準監督署の臨検はあらゆる事業者で実施されており、少なくとも加入義務のある事業所はいつ調査に入られてもおかしくない時代です。また、中小企業の人材不足や採用難は経営の維持にまで影響しており、人材を定着、新規採用するためには法令順守の意識を強く持つことが求められます。事業主としての義務を果たせば従業員達も精一杯働いてくれます。手続きを疎かにしたり、間違えたりすることの無いよう、一つ一つ時間をかけて処理する必要があります。
雇用に関する不明点のほか労務管理に関するご相談は当事務所までお気軽にお問い合わせください。
☎:06-6306-4864
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