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【2025年対応版】人事担当が知っておくべき“職場心理”の基礎 ― 中小企業の採用・定着・離職防止に活かす心理学(社労士+心理学監修)―

2025/10/17

はじめに|“心理の視点”が人事を変える時代に

近年、人手不足や定着率低下に悩む中小企業では、人の「感情」や「心理」を理解した人事運用が重要になっています。
採用活動・面談・評価制度――どれも“人の心”の動き次第で結果が変わるからです。

✅ 面談では納得していたのに、翌週には退職願が出た
✅ 評価制度を整えても「不公平だ」と言われる
✅ 指導しても部下がすぐ落ち込んでしまう

こうしたトラブルの多くは、「心理のしくみ」を知らずに制度や指導を行っていることが原因です。
本記事では、中小企業の人事担当者が今日から現場で活かせる3つの職場心理を中心に、具体的な活用ポイントを解説します。


第1章 中小企業に必要な“3つの職場心理”とは?

① 行動心理|人は「正しい」より「気持ちが動く」ほうへ動く

制度やルールを整えても、社員が動かなければ意味がありません。
行動心理の基本は「人は感情で動き、理屈で正当化する」という原則です。

中小企業でありがちな失敗は、「ルールで動かそうとする」こと。
実際には、“気持ちを動かす”仕掛けが必要です。

実践のポイント

  • 指摘よりも「承認」を多く伝える(行動強化)

  • 「禁止」ではなく「期待」を伝える(例:「遅刻しないように」→「5分前行動を意識しよう」)

  • 新しいルールは「なぜ必要か」をセットで説明する

感情を動かす伝え方を意識するだけで、職場の雰囲気と協力度は大きく変わります。


② 集団心理|“空気”が人を動かす

中小企業では、上司や同僚の“空気”が行動に大きく影響します。
「うちの会社ではこうだから」という一言は、一見“伝統”の象徴ですが、使い方を誤ると変化を止める最大の壁にもなります。

この「集団心理」を味方につけるには、“見本をつくる”ことが最短ルートです。

実践のポイント

  • 社内で「先に行動する人=ロールモデル」を明確にする

  • 成功事例を朝礼や社内掲示で共有する(社会的証明効果)

  • 管理職自身が“変化の見本”を見せる

「みんながやっている」という空気は、最強のモチベーションです。
まずは少人数の“共感チーム”をつくり、そこから社内に広げましょう。


③ 認知心理|「言った・言わない」は“事実”より“受け取り方”

人は同じ言葉でも、立場や経験によってまったく違う意味で受け取ります。

  • 上司:「もう少し頑張れ」

  • 部下:「まだ認められていないんだ」

伝えた内容ではなく、「どう受け止められたか」で職場の信頼関係は決まります。

実践のポイント

  • 指導や評価時は「あなたの意図がどう伝わったか」を確認する

  • 「どう感じましたか?」と聞き返すことで誤解を防ぐ

  • 感情と事実を分けて整理して話す

認知心理を理解すると、ハラスメント・モラハラ・不信感の芽を早期に防げます。


第2章 心理学を“人事実務”に活かす5つの場面

1. 採用面接

中小企業への応募者は“スキル”よりも“雰囲気”で会社を判断します。
心理学的には『初頭効果』(最初の印象が強く残る)や『親近効果』(最後の印象が記憶に残る)と呼ばれる現象です。

  • 面接官の第一印象(表情・姿勢・声のトーン)を統一する

  • 面接の最後に「会社として大切にしている価値観」を伝える

  • 応募者の緊張を解くアイスブレイクを意識する

小さな工夫で「ここで働きたい」と思わせる心理的接点をつくれます。


2. 評価制度・フィードバック

評価は「公平さ」よりも「納得感」が重要です。
心理学ではこれを「手続的公正」と呼びます。

  • 評価基準の説明を“評価前”に共有する

  • 数字ではなく「行動事実」を根拠に伝える

  • 「良い点→課題→期待」の順で話す(サンドイッチ法)

納得できる説明があるだけで、モチベーションは維持されます。


3. 指導・叱責

怒りに任せた指導は、相手の防衛本能を刺激します。
感情を抑えるには、「怒りを感じたら10秒待つ」が有効。
これは心理学でいうアンガーマネジメントの基本で、“怒りのピークは6秒前後で収まる”という研究結果に基づきます。

  • すぐ反応せず、深呼吸して“目的”を思い出す

  • 相手を責めず、「事実+改善案」で伝える

  • 感情を“説明”せず、“行動”に焦点を当てる

「伝える」ではなく「伝わる」指導に変えることで、職場の信頼を保てます。


4. 面談・1on1

社員は「話を聞いてもらえる」と感じた瞬間に安心します。
これは心理学でいう傾聴効果自己開示の連鎖

  • 話の途中でアドバイスせず、まず最後まで聴く

  • 「それは大変でしたね」と共感を返す

  • 話の要約をして“理解している”ことを伝える

この3ステップだけで、信頼関係の質が劇的に変わります。中小企業でも、月1回・15分の“簡易1on1”から始めるのがおすすめです。


5. 離職防止・定着

離職の原因の多くは“人間関係”や“承認不足”。
給与や待遇ではなく、「自分が大切にされているか」が決め手です。

実践のポイント

  • 定期的な感謝や称賛のメッセージを伝える

  • 相談・雑談の時間を意図的に設ける

  • 上司の小さなリアクションが社員の安心感をつくる

人事の仕事は「制度を整える」だけでなく、「人を支える」ことです。
心理の視点を入れることで、職場全体の空気が穏やかになります。


第3章 人事と心理をつなぐ仕組みづくり

心理的知見を日常業務に取り入れるためには、仕組みとして定着させることが重要です。

項目 実務での取り組み例
1on1制度 「傾聴・承認」を意識した面談マニュアル化
評価制度 評価理由を本人に説明する手続きの明文化
研修 管理職向け「感情マネジメント」研修導入
相談窓口 感情労働・人間関係の早期相談体制を整備
会議文化 否定よりも提案を促す「心理的安全性」ルールを明文化

まとめ|“心のわかる人事”が職場を変える

どんな立派な制度を整えても、最終的に人は“気持ち”で動きます。
その気持ちを理解できる人事担当者こそが、これからの時代のキーパーソンです。

心理の視点を少し取り入れるだけで、採用・育成・離職防止・ハラスメント防止――
すべての人事施策が“人に届く”施策へと変わります。


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