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【2026年版】上司から部下への『プロの叱り方』ガイド|パワハラにならない“事実で伝える技術”

2025/11/21

(監修:RESUS社会保険労務士事務所 社会保険労務士 山田雅人)


1.はじめに|「叱れない管理職」「叱りすぎる管理職」が同時に増えている

2026年は働き方関連法の見直しにより、勤務時間管理・コミュニケーション・評価制度など、管理職に求められる役割が大きく変わる節目の年です。

その中で、企業から急増している相談が次の2つです。

  • 叱るとパワハラだと言われそうで怖い

  • 叱っても響かず改善されない

実はこの2つは同じ構造で起こっています。共通点は「感情で伝えている」または「抽象的に伝えている」ことです。

当社の外部相談窓口でも、パワハラ相談の約半数が「内容というより言い方」に起因しています。つまり、パワハラの境界線・部下の受け取り方・管理職自身の伝え方を正しく理解しなければ、改善も育成も進みません。このページでは、法律・心理学・マネジメントの3つの視点から、“叱る=感情ではなく事実で伝える技術” を分かりやすく解説します。


2.叱責がパワハラと誤解される“3つの構造”

叱り方が難しいとされる背景には、次の3つがあります。

(1)パワハラの定義が“広がっている”ように見える

労働施策総合推進法の指針では「業務上必要かつ相当な範囲」を逸脱した言動がパワハラに該当します。

ただし、これには次が含まれます。

  • 個人の人格を否定する

  • 必要以上に威圧的な言動

  • 繰り返しの叱責

  • 長時間の説教

内容が正しくても、「言い方」が強ければパワハラと受け取られやすいのが実務の現実です。

(2)叱責は“恐怖記憶”が強く残りやすい

心理学では、叱責場面はネガティブ刺激の閾値(しきいち)が低下し、恐怖記憶が定着しやすいとされています。

つまり、上司としては『落ち着いているつもり』でも、部下は“圧・恐怖”として記憶しやすい

という認知のズレが起きていることを理解する必要があります。心理学では、叱責時は交感神経が優位になり、相手の“危険察知モード”が強まるため、通常よりネガティブに受け取りやすいとされます。

(3)指導と叱責の境界が曖昧になりやすい

特に現場では、

  • 日常会話が注意の時間にすり替わる

  • 毎日少しずつ不満を言う

  • 1on1が「ダメ出し中心」になる

といった “気づかぬうちの継続性” が起きます。この継続性こそ、パワハラ判例でしばしば問題視されるポイントです。


3.叱り方の基本原則|「感情」ではなく「事実」で伝える

叱責を円滑にし、かつパワハラリスクを避ける最重要ポイントは、事実 → 影響 → 次の行動(SBI+Next)の順番で伝えることです。

●①【S】Situation(状況)

事実のみを淡々と伝える
例:「今日の会議の議事録が仕様と異なっていた」

●②【B】Behavior(行動)

問題となる行動のみを特定
例:「確認手順の2番目が抜けていたように見える」

●③【I】Impact(影響)

感情ではなく“業務上の影響”として伝える
例:「顧客に誤情報が伝わるリスクがある」

●+ Next(次の行動)

必ず未来志向で締める
例:「次回は提出前に一緒にチェックしよう」

この順番にすることで、

  • 人格否定にならない

  • 感情的な衝突が起こらない

  • 改善行動が明確になる

という効果があります。優秀なマネージャーはみなこの基本原則(指導の順序)を心得ています。


4.叱ってはいけない“NGワード集”(実務でトラブルが多い表現)

相談窓口で頻出するNGワードは次の通りです。

●人格否定系

  • 「向いてない」

  • 「頭悪いの?」

  • 「学校で習わなかったの?」

  • 「ほんとに資格持ってる?」

  • 「考え方が甘い」「その程度」

→ 判例でも“人格・価値観への踏み込み”は最も危険。

●比較系

  • 「同期のほうが優秀」

  • 「前任者はもっと速かった」

→ 公平性に敏感な若手は特に強いストレスを感じる。

●圧力系

  • 低い声でゆっくり責める

  • 呼び出して一方的に話す(長時間の叱責)

  • 何度も同じ注意を言う(執拗な問答)

上司は落ち着いて話しているつもりでも、部下には“圧”として伝わる典型例。


5.叱る前に必ず確認する“3つの視点”

実務では、叱る前のチェックが最重要です。

(1)相手の理解度はどうか

ミスの約6割は「手順がわからない・意味の理解不足」が原因。

叱る前に「何が分かっていて、何が分かっていないのか」を確認すると、不要な摩擦を防げます。

(2)環境要因はなかったか

  • 業務量過多

  • 引継ぎ不足・教育不足

  • システム不具合

など、本人以外の要因が背景にあるケースも多い。

(3)“叱る必要がある行動”かどうか

叱責が必要なのは次の3つだけです。

  • ルール違反

  • 安全を欠く行動

  • 顧客に重大影響がある行動

それ以外は、叱責ではなく指導(教育)で対応できます。


6.難しい部下への“叱り方・関わり方”

●① 反論する部下

対処法:理由を聞く → 事実を整理 → 合意形成
例:「どう感じたか教えてもらえる?」

●② 黙り込む部下

対処法:Yes/No 質問に切り替える
例:「ここは“分かった・分からない”のどちらに近い?」

●③ 不安が強い部下

対処法:小さく褒める・成功体験を積ませる
例:「ここの手順は良くなってるよ」

●④ 感情的になる部下

対処法:一度中断 → 落ち着いてから事実に戻る
例:「5分休憩しよう。落ち着いてから整理しよう。」


7.叱責に関する実務上の“よくある誤解”(判例・心理学からのアプローチ)

●誤解①:怒鳴らなければパワハラではない

声量ではなく“威圧性・継続性・人格否定性”が基準。

●誤解②:冷静ならパワハラではない

→ 部下側が「圧」と感じれば、相談・トラブルの原因になりうる。

●誤解③:改善しない部下は厳しく叱るべき

→ ミスの原因は「理解不足・仕組み」も多く、叱責は逆効果の場合が多い。組織側の運用問題・ルールの見直しなど俯瞰した視点で考えると改善しやすい。


8.まとめ|叱る目的は“改善”であり“感情の発散”ではない

叱責は管理職の欠かせない役割ですが、叱る目的は「感情の発散」ではなく「改善」です。

本記事の

  • 叱責の原則(SBI+Next)

  • NGワード一覧

  • 心理的メカニズム

  • 難しい部下への対応

  • パワハラ境界線の理解

を押さえることで、叱り方の質は大きく変わります。


9.FAQ|叱り方に関するよくある質問

Q1.叱らないと育ちませんか?

叱ることは必要です。問題なのは 抽象的・人格的・圧的 に伝わる叱り方です。

Q2.優しく言うと甘やかしになりませんか?

優しい × 抽象 → ×
冷静 × 具体 → ○
これが鉄則です。

Q3.叱った後、雰囲気が悪くなります

最後に「次に一緒に何をするか」で締めると改善しやすいです。

Q4.叱っても改善されません

原因の6割は「理解不足・手順不足・環境要因」です。行動の意味・背景から確認してください。

Q5.毎回時間が取れません

15分の短い1on1を高頻度で行う方が、叱責するよりも効果的です。

Q6.どこからがパワハラに該当しますか?

A.基準は「人格・威圧・継続性」の3点です。内容が正しくても、言い方が強い・長時間・繰り返しになるとパワハラと評価される可能性があります。


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