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【2026年対応版】有価証券報告書の人的資本開示制度|中堅・中小企業が押さえておきたい開示項目・ストーリー設計・実務の進め方

2025/11/27

(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)


1.はじめに|人的資本開示は「義務」ではなく“企業の説明力”が問われる時代へ

近年、人的資本は「費用」ではなく「投資」として評価されるようになり、企業の価値・将来性を示す重要情報のひとつとして扱われるようになっています。

こうした流れから、2026年3月期より、有価証券報告書において人的資本に関する情報の開示が求められる仕組みが導入されました。

中堅・中小企業の中には、

「上場していないから関係ないのでは?」
「どの程度まで対応すべきなのか不安」

という声も少なくありません。しかし実務では、開示が“義務”でない企業においても、採用・金融・取引・認証制度など多方面で「人的資本の可視化」が求められる場面が増えています。


2.人的資本開示制度の概要(概説)

制度の位置づけを要約・整理すると次のようになります。

・根拠:有価証券報告書における人的資本関連情報の開示ルール
・対象:上場企業
・背景:人的資本への投資・育成・安全衛生・エンゲージメントなど非財務情報の透明性の向上
・目的:投資判断に資する情報の提供

規定の内容は企業規模・業種・状況により運用が異なりうるため、断定的な“必ずこの指標を開示すべき”という扱いは適切ではありません。実務では、企業の状況に応じた指標の選定・整理がポイントになります。


3.開示が求められやすい領域(例示)

国内外の人的資本の可視化で注目されている観点を整理しています。

領域例 内容のイメージ
人材育成 教育研修・スキル向上・キャリア形成支援など
エンゲージメント 組織への期待・満足度・働きがい等に関する指標
多様性・活躍 女性活躍/年齢構成/インクルージョンなど
労働環境・安全衛生 長時間労働対策、職場の安全衛生、ハラスメント防止など
離職・定着 離職率、定着状況、オンボーディングなど
ワークライフバランス 有給取得、柔軟な働き方、勤務間インターバル等

ここで重要なのは、「項目の数」ではなく「取り組みと指標のつながり」です。単に多数の数値を並べても、取り組みの意図が読み取れなければ評価は高まりません。


4.よくある誤解と落とし穴

人的資本開示制度に関心を持つ企業において、次の誤解が特に多く見られます。

× 指標の“量”を増やすほど評価される
× 必ず数値化できなければならない
× 実施できていない項目は隠したほうがよい
× 書類を作れば終わり

実際には、

● 取り組みの背景
● 選択した指標の理由
● 結果から何を改善しようとしているのか

が読み取れるほど、信頼性や納得感が高まります。


5.実務で使える整理ステップ(中堅・中小企業向け)

上場企業のように大量の専任チームがない企業でも進めやすい流れは次の通りです。

① 人事データの棚卸し(あるものを確認)

・すでに管理している項目の見える化
・開示可能項目と、今後整備が必要な項目の切り分け

② 経営戦略・人材戦略の“言語化”

・課題(現状)
・施策
・指標
・期待される効果

③ 資料作成の優先順位づけ

・統合報告書/採用ページ/会社案内のどこに活かすか
・一度にすべて作らず、段階的な整備

④ 継続更新のサイクル化

・毎年更新して「改善の軌跡」が見えるようにする

→ 完璧な整備を目指すより「改善の進捗を見せる」ほうが実務的・現実的です。


6.ISO 30414との関係(誤解しがちな関係分野)

İSO 30414は人的資本開示制度とは別の制度であり、法的義務と直接結びつくものではありません。

ただし実務では、

・人的資本開示の指標整理
・ストーリーづくり
・企業間比較のしやすさ

の観点から ISO 30414を“整理の型”として参照する企業が増えているのが特徴です。

つまり、

“ISO 30414に沿えば人的資本開示制度に自動対応できる”のではなく、
“ISOを活用すれば、人的資本開示制度への取り組みが整理しやすい”
という整理が正確です。

▶【2026年対応版】ISO 30414入門|人的資本開示・人的資本レポート作成のための“最初の基礎知識”

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【Q&A|人的資本開示の“よくある疑問”】

Q1.必ず数値化しないと開示できませんか?
A.すべてを数値化する必要はありません。数値で示せる項目は客観性が高まりますが、定性的な取り組みや改善プロセスも重要な情報として扱われます。成果や変化の説明ができていれば、数値の有無だけで評価が決まるわけではありません。


Q2.未実施の項目がある場合は記載しないほうが良いですか?
A.取り組み状況は企業ごとに異なるため、未実施領域が存在すること自体が問題とは限りません。避けたいのは「隠す」ことです。現状と今後の方針を示すことにより、改善の意思が伝わりやすくなります。


Q3.どこまで開示すれば“十分”と言えるのでしょうか?
A.企業規模・業種・戦略により異なり、「十分」の固定基準はありません。重要なのは、単なる資料作成ではなく、“課題 → 施策 → 指標 → 結果 → 改善”という流れが読み取れるかどうかです。


Q4.他社と同じ指標を揃えたほうが良いですか?
A.比較可能性の観点から共通指標は役立ちますが、必ずしも他社と同一である必要はありません。自社の戦略や人材課題に合致した指標を選定することが最優先です。


Q5.まだ整備できていない領域が多く、不安しかありません。どこから始めるべきでしょうか?
A.“開示のための整備”を一気に進める必要はありません。まずは既に保有している人事データ・取り組み内容の棚卸しを行い、現在地を把握することが最も現実的なスタートです。


Q6.ISO 30414に沿う必要はありますか?
A.ISO 30414は義務ではなく、制度と直接結びつくものでもありません。ただし、人的資本情報を体系的に整理しやすくなることから、実務では参照する企業が増えています。


Q7.人的資本開示と採用広報の内容は一致させたほうが良いですか?
A.開示資料・採用広報・企業HP・統合報告書が全く別のストーリーになっていると、かえって不信感を招く可能性があります。内容は同一でなくても、方向性や価値観に一貫性があることが望ましいと考えられます。


Q8.時間や人員が足りず、毎年更新できるか心配です。
A.年次ごとの完璧なアップデートより、改善の軌跡を継続的に示すことが重要です。新規施策の追加、既存指標の推移、改善のサマリーなど、小さな更新でも十分に価値があります。


Q9.人的資本の開示内容は外部にどこまで公表されますか?
A.有価証券報告書など対外開示資料に掲載する場合は公表対象となりますが、社内資料の範囲で整備することも可能です。まずは「公開する前提」ではなく「整理する前提」で着手する企業が多く見られます。


7.まとめ|人的資本開示は「量」より「ストーリー」

人的資本開示制度の本質は、多数の指標を並べることではなく、

・企業はどのような人材戦略を持ち
・どのような取り組みを行い
・どのような成果や改善につながっているか

を、できる範囲で分かりやすく説明することです。

「完璧な開示を目指して準備が止まる」よりも「現在地を整理し、改善の軌跡を示す」ことが、中堅・中小企業にとって現実的かつ効果的です。

人的資本開示は「すべてを揃えてから始める」ものではなく、できる範囲から整理・改善を始め、継続的な見える化につなげることが現実的です。


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「人的資本開示にすべて完璧に対応できていない」企業がほとんどです。現時点でできていること・できていないことを一緒に整理するところからでも大歓迎です。