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【2026年対応版】ハラスメント示談の実務ガイド|被害者対応・示談金・会社負担・加害者求償・税務・再発防止まで完全解説

2025/11/27

(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)


1.はじめに|ハラスメント対応は「示談で終わらない」

ハラスメント事案は被害者・加害者間の示談で収束すると思われがちですが、実務では

・労働審判・訴訟の回避
・企業の法的責任の抑制
・再発防止措置の実施(義務領域)
・第三者評価(IPO・監査法人・取引先・採用・顧客評判)

を踏まえた企業対応が必要です。IPO準備企業ではハラスメント事案の長期化や対応ミスは審査・信用調査・レピュテーションに重大な影響を及ぼしますが、IPOを目的としない中小企業でも準じた対応が必要となる例が増えています。


2.ハラスメント示談をめぐる企業の「主な誤解」

誤解 正しくは
示談で終われば会社は無関係 企業に安全配慮義務・職場環境配慮義務の履行が求められ続ける
示談は被害者と加害者の自己責任 対応の不備で企業も損害賠償請求を受ける可能性(安全配慮義務違反)
示談金を本人に支払わせれば会社は無傷 本人への過度の要求や不当な示談促進は逆にパワハラ・労基法違反リスク
示談すれば処分不要 懲戒の要否判断は別軸。示談有無で判断してはならない

企業が負う可能性がある法的責任の根拠は代表的に下記です。

●労働契約法第5条(安全配慮義務)

職場での心身の健康被害防止義務。

●労働施策総合推進法第30条の2(ハラスメント防止措置義務)

相談窓口の設置/迅速・適切な対応/再発防止措置が義務。

●民法715条(使用者責任)

従業員の違法行為について企業が損害賠償責任を負う可能性。

※「示談したから終わり(当事者間で解決済み)」は法的には成立しません。


3.示談金は「会社負担」か「加害者本人負担」か

結論(実務)

状況 妥当性が高い負担者
会社の対応不備・放置があった 会社負担
会社は適切に対応したが加害者の個人的違法行為 本人負担
両方に問題がある 会社が一時負担 → 本人に求償する選択肢もあり得る

本人への「全額負担要求」が違法になる可能性

・著しく高額
・退職と引き換えに強制
・懲戒の回避を条件に支払いを求める(クビになりたくなければ支払え)

→ 不当な人事権行使・不当労働行為・脅迫・強要に該当しうる。

判例に見られる考え方

・企業の対応不備があった場合 → 企業も賠償責任(東京地裁H29・名古屋地裁R1 など)
・本人の故意・重大過失が主体 → 本人負担(大阪地裁H24)
・会社が本人へ過度の支払い要求 → 違法と判断された例複数あり

本人に負担させたい場合は「会社の初動が適切だったか」が最重要。


4.示談金を会社で立替える場合の求償

加害者に用意が無いなどの理由で一時的に会社が加害者の示談金を立替えた場合は、次が問題になる可能性があります。

・本人の支払能力を超える(支払いを承諾していない主張)
・退職・転職によって回収が困難となる
・会社の介入が過度だった場合は求償が違法と判断され得る
・分割払いにする場合の実務負荷
・「求償目的で立替え」が企業配慮義務違反と解釈される例あり

立替えは“救済”ではなく“リスク管理”として判断する必要があります。

※加害者への求償(会社→本人)は法的に一律禁止ではありませんが、上記のようなリスクを孕んでいるため、事実認定・初動対応の適切性・支払い可能性・退職有無などを踏まえた慎重な検討が必要です。


5.示談金は損金算入できるか(税務)

●損金算入できる可能性がある例

・企業の使用者責任を原因とする損害賠償
・会社の配慮義務違反に基づく支払い

法人税基本通達9-7-15「損害賠償金」

●損金算入が否認される可能性が高い例

・従業員個人の行為を会社が肩代わりしただけ
・求償前提の立替支払い
・示談金の名目での慰謝料で事実関係が不明確

→ 税務上は 「会社の責任による損害の填補かどうか」 が焦点となる。

(示談金を受領した個人にかかる税・社保の扱いについて)

※ハラスメント示談金・解決金の税務上の取り扱い(所得税・住民税)、社会保険法上の報酬該当性については、「慰謝料」「休業損害」「退職時の解決金」「口外禁止の対価」などの名目だけで判断されるものではなく、実際の事案内容・交渉経緯・文書の記載内容・金銭の内訳等により取扱いが変わる場合があります。本ページでは一般的な考え方にとどめており、個別の税務・社会保険の取扱いを保証するものではありません。個々のケースについては【顧問税理士・管轄税務署/顧問社労士/顧問弁護士】等の専門家へご確認ください。


6.示談と懲戒処分の関係

「示談成立=処分しない」ではありません。評価軸は就業規則/服務規律/判例理論に基づきます。

処分をしない場合でも「不問にする理由」を説明できなければ組織維持・公平性の観点で問題となります。つまり、示談金を支払ったことを理由として懲戒処分を免じる措置は専門家に相談するなど十分ご注意ください。


7.示談成立後も必要な再発防止措置

法律上の義務のため以下は示談と関係なく必要です。

✅相談窓口の設置
✅事実確認調査の実施
✅迅速・適切・中立的な対応
✅再発防止措置の実施

→ 労働施策総合推進法第30条の2

特に「再発防止措置」は安全配慮義務上も重要で、例えばハラスメント研修・再発防止策の周知・就業規則見直しや社内マニュアル整備が一般的です。


8.示談の実務フロー(安全に完了させる手順)

① 初動(事実の把握・聞き取り)
② 調査方針の決定
③ 事実調査(ヒアリング・証拠収集)
④ 事実判定・リスク分類
⑤ 処分方針・示談方針の社内決定
⑥ 弁明機会の提供・示談交渉(書面化)
⑦ 再発防止措置・職場環境改善

※本人任せ/現場任せはリスク大。


9.示談書(合意書)に必須の条項

最低限必要なのは下記です。

・当事者の特定
・事実の範囲の特定
・金銭の名目と根拠
・支払方法・期限
・守秘条項/名誉保持
・今後の対応の取り決め(接触制限等)
・責任追及を行わない範囲の明確化
・無効事由の限定
・再発防止措置の位置付け

「これで終わり」条項の入れ方を誤ると後の法的トラブルにつながります。

※示談書は、個別の事実認定・処分方針・社内ルール・再発防止措置の位置付けなどにより内容が変わります。


10.FAQ|よくある質問

Q.示談さえすれば会社の責任はなくなる?
A.いいえ。企業の配慮義務は示談後も継続します。

Q.会社で示談金を出したら必ず損金算入できる?
A.ケースに拠るため回答できません。責任の所在と事実の記録が重要です。顧問税理士や管轄税務署に必ずお問い合わせを推奨します。

Q.加害者に支払いを求めてもよい?
A.求め方を誤ると違法評価され、追加トラブルにつながります。

Q.示談と懲戒はどちらを先に?
A.どちらを先にすると決められていませんが「示談のために懲戒を止める」は危険。

Q.被害者の希望が強い場合は加害者を強制退職させていい?
A.望ましいとは限りません。事実確認と懲戒基準に沿った判断が必要です。


11.まとめ|「示談できた」で終わらせない

・示談対応の安全性
・再発防止措置の実行
・企業責任の抑制
・組織の公平性の維持
・評判と信用力の保護

この5軸を同時に満たすことが「正しい示談対応」です。


12.当事務所のハラスメント対策サービスご案内

RESUS社労士事務所では、企業のハラスメント対応を外部の専門家としてサポートしています。

法人向け外部相談窓口(月額5,500円)
個別事案ヒアリング・事実調査代行
示談方針整理・示談書案作成
役員・管理職向けハラスメント研修
社内周知文・規程整備支援

「どの順番で対応すべきか整理したい」
「社内で対応方針が割れている」
という段階からでもお気軽にご相談ください。

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法令注記

※本ページは一般的な情報提供であり、特定の事案の結果や判断を保証するものではありません。