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【2026年版】人的資本経営に対応した人材育成プログラムの企画・設計ガイド|社労士監修

2025/11/18

(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)

企業の競争力を左右する要素が「人的資本」であることは、国内外で広く認識されつつあります。
とりわけ2023年以降は「人的資本情報の開示」(内閣官房ガイドライン等)を契機として、単なる研修実施ではなく人的資本経営に資する育成プログラムの設計が企業に求められています。

本ページでは、人的資本経営の流れを踏まえた人材育成のポイント効果的な育成プログラム設計のプロセス研修ゴールの適切な設定方法を、専門家視点から体系的に解説します。


1.人的資本経営とは何か

|人材を「資源」ではなく「資本」として捉える考え方

人的資本経営とは、人材を単なるコストではなく、“企業価値を生み出す資本”として捉え、投資・育成・活用を戦略的に行う経営を指します。

※以下より「人的資本可視化指針」(内閣官房)等で示されている要素を、本ページの文脈に合わせて一般化したものです。詳細は最新の一次情報をご確認ください。

  • 人材戦略

  • エンゲージメント

  • スキル・学習・成長

  • リーダーシップ

  • ダイバーシティ

  • 健康・安全

  • 労働慣行

つまり、研修単体ではなく【採用 → 配置 → 育成 → 評価 → エンゲージメント → 定着】という一連のサイクルの中で「個人の成長を起点に企業成長を生む仕組みづくり」が目的となります。

|育成プログラムは人的資本経営の“中心装置”

人的資本経営の中核は、「人材への投資計画」と「能力開発」です。そのため育成プログラムは、単なる研修実施ではなく

■ 経営戦略に直結するスキルを育てる
■ 社員のキャリア自律を促す
■ 組織の再現性のある成長につなげる

という“経営施策”として位置づけられます。


2.人的資本経営につながる人材育成のポイント

人的資本経営における人材育成は、単なる研修体系ではなく“経営と人事の統合施策”として整理する必要があります。特に以下の4点は多くの企業がつまずく重要ポイントです。

(1)経営課題と人材戦略を紐づける

人的資本経営では、育成テーマを“研修会社任せ”にすることはありません。求められるのは【経営課題 → 必要能力 → 育成方法】の明確なつながりです。

例)

  • 経営課題:離職率の改善
    → 必要能力:エンゲージメント向上のための対話スキル・心理的安全性の醸成
    → 育成:管理職研修+1on1制度構築

(2)従業員のキャリア自律と両立させる

人的資本経営では、「会社が教育する」ではなく従業員自身が主体的に学ぶ仕組みが問われます。

  • キャリア面談

  • リスキリング支援

  • 自己申告制度

  • 社内公募

  • 学習機会の選択自由度の確保

これらと研修を連動させることで、学びの定着率が大きく上がります。

(3)エンゲージメント向上を見据える

従業員の成長実感が高まると、エンゲージメントが向上し、離職率低下・生産性向上につながります。成長欲求の強い若年層などは特に、人的資本経営が効果を発揮します。

研修後に

  • 1on1

  • フィードバック面談

  • 行動宣言

  • 上司の支援行動チェック
    を入れる企業が増えています。

(4)「評価制度・配置」とセットで設計する

人的資本経営の誤りの典型は

『育成だけ強化し、評価・配置が連動していないケース』

です。

評価基準・行動指針(コンピテンシー)を研修テーマと整合させることで、研修が“実務に効く仕組み”となります。


3.効果的な育成プログラムを立案するためのプロセス

以下のプロセスは、研修単体ではなく、人的資本経営の体系の中で使える普遍的なフレームです。


Step 1.現状把握(アセスメント)

人材要件の検討は、次の3点を基準に整理します。

  1. 経営戦略・事業計画で必要なスキル

  2. 組織課題(離職率・生産性・コミュニケーション等)

  3. 従業員のキャリア志向・学習需要

代表的な手法:

  • サーベイ(エンゲージメント・360度評価)

  • 面談・ヒアリング

  • データ分析(離職率・残業・評価結果)


Step 2.育成すべき能力の明確化(コンピテンシー定義)

育成プログラムの中核は「何を伸ばすか」の定義です。抽象的な“コミュ力”ではなく、下記のように具体化します。

  • 対人影響力

  • 論理思考

  • マネジメントスキル(1on1/指導/承認)

  • 顧客折衝スキル

  • リーダーシップ行動

  • 業務の標準化・再現化スキル

※職種別・階層別に定義すると設計が容易になります。


Step 3.研修ゴールの設定(KGI/KPI)

研修の成果を測るためには、行動ベースのゴール設定が必須です。

◆良いゴール設定の4要件

  1. 具体的(Specific)

  2. 行動で測れる(Behavior)

  3. 実務に紐づく(On the Job)

  4. 上司が支援できる(Supportable)

◆設定例

  • 「1on1で“気づきを引き出す質問”を3つ実践できる」

  • 「クレーム対応時の初期対応フローを再現できる」

  • 「業務標準化シートを自部署で1つ作成する」

研修後の行動変容を見据えてゴールを決めることが、人的資本経営では特に重要です。


Step 4.育成手法の選定

人的資本経営の観点からは、研修だけでなく多様な育成手段を組み合わせることが推奨されます。

  • 集合研修

  • eラーニング

  • OJT指導

  • メンター制度

  • 1on1

これらの育成手段は、職種や育成目的により最適な組み合わせが異なります。特にOJT・1on1・eラーニングの三つは、近年の人的資本経営で最も活用が進む領域です。このほかにも育成手段は様々です。

  • ケーススタディ

  • コーチング

  • プロジェクト参加

  • 異動・ローテーション

  • リスキリング支援(外部講座)

“研修だけ”に依存しない点が重要です。


Step 5.研修の実施(ファシリテーション)

実施段階では以下を押さえると効果が高まります。

  • 対話・ワークを多めに入れる

  • 実務の課題に近いケースを用いる

  • 参加者の弱みではなく“強みの言語化”を促す

  • 手元メモではなく「行動宣言カード」を作らせる


Step 6.研修後フォロー(定着支援)

研修効果の最大化は“研修後”にあります。

人的資本経営の流れに沿って、研修後のフォロー体制を制度化するのが理想です。

  • 上司とのフォロー面談

  • 1on1(1〜3か月)

  • 行動計画シートの確認

  • チーム内での共有会

  • 次期研修との連動

「継続的な学習カルチャー」を作ることで、人的資本経営の実践につながります。


4.人的資本経営につながる育成テーマ例

  • 管理職向け:1on1、指導育成、エンゲージメント向上

  • 若手向け:セルフマネジメント、コミュニケーション

  • 全社:心理的安全性、対話スキル、業務標準化

  • カスタマーハラスメント対応、クレーム応対

  • リスキリング(データ分析、AI活用、業務効率化)

サービス業・医療・福祉・飲食・物流・不動産などでは、“再現性ある接遇・業務設計”が特に重要な人的資本育成領域になります。


5.まとめ|人的資本経営での育成は「単発研修」ではなく「仕組み」づくり

人的資本経営の文脈では、

  • 育成=イベントではなく“投資計画”

  • 研修=単発ではなく“行動変容の仕組み”

  • 評価・配置・キャリアと“線でつながる”設計

が必須となります。以下の3点を押さえるだけで、育成の質は劇的に向上します。

  1. ✅経営戦略との整合

  2. ✅行動ベースの研修ゴール

  3. ✅研修後フォローと制度の連動

人的資本経営を実践する企業ほど、「育成プログラムの設計」を“最も重要な投資”として位置づけています。


FAQ(よくあるご質問)

Q1.人的資本経営に対応した研修と、従来型の研修の違いは何ですか?

A.従来型は「スキル習得」を目的とした単発研修が中心ですが、人的資本経営型では経営戦略・評価制度・キャリア支援と連動した“行動変容の仕組み” が前提になります。研修後の1on1やフォロー面談まで含めて設計する点が大きな違いです。


Q2.何から手をつければ良いかわからない場合でも相談できますか?

A.可能です。初期段階では「課題の整理」「必要能力の可視化」「育成ロードマップの整理」から伴走します。未整理の状態でも問題ありません。


Q3.小規模事業所でも人的資本経営を意識した育成は必要ですか?

A.義務ではありませんが、離職率の低下・採用力・業務標準化に直結するため、中小企業でも導入のメリットは非常に大きい領域です。特に医療・福祉・サービス業では効果が顕著です。


Q4.育成プログラムを0から作るのと、既存研修を改善するのはどちらが良いですか?

A.現状によりますが、

  • 現行研修が形骸化している

  • 評価や配置と連動していない

  • 研修後の行動変容が見られない

上記のような場合は「再設計」をおすすめします。既存研修を活かしつつ、“人的資本経営に適合する形” へ改善することも可能です。


Q5.研修テーマはまだ決まっていません。企画段階から支援してもらえますか?

A.はい。【研修テーマの抽出 → ゴール設定 → プログラム設計 → 当日運営 → フォロー施策】まで、全工程でご支援可能です。


Q6.管理職研修と若手研修を同時に設計したいのですが可能でしょうか?

A.可能です。人的資本経営の観点では、管理職(育成側)と若手(育成される側)を“対”で設計するほうが効果が高いため、階層別の並行設計はむしろ推奨されます。


Q7.助成金や補助金を活用して研修を実施することはできますか?

A.対象となる制度は年度・自治体で異なりますが、研修・人材育成に活用できる制度は存在します。利用可否については厚生労働省等の公式サイトをご確認ください。※助成金・補助金の内容は年度や自治体により変更されるため、最新の一次情報をご確認ください。


お問い合わせ/相談案内

【まずは無料相談】人的資本経営 × 人材育成の整備をサポートします

人的資本経営を実践するには、単発研修ではなく「経営戦略」「評価制度」「学習文化」と連動した育成設計が欠かせません。

  • 研修の方向性が正しいのか不安

  • 管理職研修・若手研修を体系化したい

  • 研修後の行動変容が定着しない

  • どこから手をつければ良いかわからない

  • 人的資本の情報開示に向けて育成体系を整えたい

こうしたお悩みに対し、【課題整理 → 育成ロードマップ → プログラム設計 → 実施 → フォロー】までワンストップでご支援いたします。

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