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【2026年対応版】これはカスハラ?正当なクレーム? “グレーゾーン”の見分け方と企業がとるべき安全な実務対応ガイド

2025/12/01

(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)


1.はじめに|“線引き”の誤りが最大リスクになる時代へ

企業・店舗・役所・医療福祉・BtoB取引において「これはカスハラなのか、単なるクレームなのか」という判断が難しい相談が急増しています。

・要求の内容自体は妥当だが、強い言い方を繰り返す
・こちらに非もあり要求内容は極めて正当だが、侮辱や威圧的言動を伴う
・担当者の変更要求が繰り返され、目的が不明
・丁寧な言葉だが、嫌がらせ目的(過剰な要求・長時間拘束)と推認される

こうした “グレーゾーン”のクレームは、放置しても過度に警戒しても問題が生じます。

対応を誤ると、

・従業員の心身不調・退職
・労基署・行政通報
・SNS炎上
・「対応方針の不統一」による現場崩壊

につながりかねません。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(2022)」でも、正当なクレームとカスタマーハラスメントを区別し、適切な対応を行う必要性が明確に示されています。一方で、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)では「顧客・取引先からの迷惑行為そのもの」を直接的に規制しているわけではないという現場調整の難しさがあります。

企業の実務対応では、法令上の定義を踏まえつつ、「従業員の就業環境を害する行為があるか」というカスハラ対応における中心的な観点から企業が措置を講じる必要があります。

そこで本ガイドでは、法律・ガイドライン・裁判例の視点と、実務の現場判断の両方から、“グレーゾーン”のクレームを安全に扱うための見分け方と対応ステップを整理します。


2.まず押さえるべき「3つの前提」

カスハラの線引きは複雑に思われがちですが、以下の3点を前提とすると判断がぶれません。

(1)「要求の妥当性」と「言動の適切性」は別物

要求内容が妥当だからといって、侮辱・威圧・脅迫的言動を許容していいわけではありません。
逆に、言い方が強くても、要求内容が妥当であれば丁寧に再ヒアリングすべき場合があります。

(2)「一回限り」よりも「反復性・継続性」で見る

単発ではクレームの範囲に収まるものが、同様の行為が継続・反復される場合は、就業環境を害する可能性が高まります。

(3)「個人の力量」の問題にすると現場が壊れる

「対応スキルが低い」「気の利いた返答ができない」等、担当者の力量の問題に矮小化してしまうと、従業員が責任を抱え込み、退職やメンタル不調を招く典型例になります。

企業が行うべきは「誰が対応しても再現できる対応方針・記録・説明の型」を整備することです。

なお、顧客からの迷惑行為により従業員の就業環境が著しく害された場合、企業には労働契約法上の「安全配慮義務」や人格権保護の観点から、適切な対応・再発防止措置を講じることが求められるとされた裁判例もあります。こうした観点からも、企業としての対応方針や仕組みづくりが重要になります。


3.“カスハラか、正当なクレームか” を見分ける実務ポイント

本章では弁護士や社労士など客観的な立場の外部専門家が実務で利用している『グレーゾーンの線引き判断フレーム』を整理します。
厚労省マニュアル、裁判例、労働施策総合推進法の趣旨に基づき、以下の3軸を基準とするのが最も安全です。

① 要求の妥当性

○商品の不具合に対し、交換を求める
○契約内容どおりのサービス提供を求める
○見積り説明の不足について問い合わせる

→ いずれも要求内容自体は妥当

一方で、

⚠過剰な補償
⚠契約外サービスの強要
⚠担当者の処罰の要求

内容自体が逸脱

② 言動の適切性

✖威圧、怒号、侮辱、脅迫
✖人格攻撃を含む発言
✖SNS投稿やクチコミを示唆した揺さぶり
✖長時間拘束、深夜連絡、執拗な担当者指名

妥当な要求内容でも、就業環境を害し得る

③ 回数・継続性・時間帯

▲似た内容の連絡が短期間に多数
▲営業時間外・深夜帯の連絡
▲複数のルートからの同時連絡(電話+メール+SNS)

悪影響の蓄積によりカスハラに該当し得る


■総合判定の考え方(重要)

どれか一つだけでカスハラと断定するのではなく、【①要求内容 × ②言動の態様 × ③継続性の3軸で総合的に評価することが、ガイドライン・裁判例双方から見ても最も安全です。


■ここまでの“要点まとめ”

「要求が正しいからカスハラではない」は誤り
「言い方がきついから即カスハラ」も誤り
継続・反復・時間帯・拘束などの要素が線引きの重要材料
・主観ではなく、事実の積み上げ(記録)で判断するのが安全


4.“グレーゾーン”への安全な対応ステップ(実務版フロー)

正当なクレームとカスハラの境界が曖昧な場合、対応者の裁量に委ねない「手順の型」 が不可欠です。

以下は、業種・業態を問わず共通して再現性の高い安全な対応フローです。


ステップ1 事実の整理と主訴の抽出

・感情表現と要求を切り分けてメモ
・要求内容の“妥当性”を把握
・経緯/日時/担当者/相手の言動を記録

→ 「要求内容は正当だが、言動に問題がある」というケースが最も多い


ステップ2 丁寧に主訴を受け止めつつ“企業方針”を提示

ここでの原則は 「個人対応ではなく組織として対応する」 こと。

・「私の判断ではなく、企業としての方針をご説明します」
・「担当部署とも確認のうえで、正式な回答をさせていただきます」
・「〇〇日までに責任者より回答いたします」

→ 人ではなく“組織・ルール”を示すとエスカレーションしづらくなる


ステップ3 許容できない行為の明確化(境界線の提示)

厚労省マニュアルでも示されている安全策。

例文:「ご意見は真摯に受け止めておりますが、従業員の安全確保の観点から、威圧的・侮辱的ととられるような言動、長時間の拘束を要するもの、また深夜帯の繰り返しの連絡はお控えいただけますようお願い申し上げます。」

→ “禁止行為の線引き”を先に提示することで、早期沈静化につながる


ステップ4 対応・調査・代替案の提示

要求内容が妥当な場合
→ 「対応内容」「期限」「担当者」を明確に

要求内容が妥当でない場合
→ 「提供可能な範囲」「規程上の理由」「代案」を示す
(※謝罪に寄りすぎて譲歩が無制限に拡張しないよう注意)


ステップ5 記録・共有・対応者の保護

・記録フォーマット(日時/要求/言動/対応内容)
・次回の対応者が同じ前提から対応できるよう共有
・1人対応禁止、複数名体制、責任者ローテーション

※BtoBなど取引先企業からのクレームでも同様。


■対応フローの要点整理

・即謝罪・即譲歩は悪化要因
・対応者の力量に依存させない
・企業としての方針・境界線・期限を提示
・方針提示 → 代替案 → 記録 の順が最も沈静化しやすい


5.現場が“絶対にやってはいけない”NG対応

NG対応 理由
担当者の裁量での法的謝罪・譲歩判断 要求が拡張し収束しなくなる
対応者を責めて研修強化で解決しようとする 真因は“仕組み不足”
「これくらいは我慢して」と精神論で押し付ける 退職・メンタル不調・労基署通報の典型
一貫しない運用 要求がエスカレートしやすい
記録を残さない 判断の根拠が残らず対応が破綻する

現場スキルより、組織の仕組みで守ることが最重要です。


6.よくある疑問・FAQ

Q1:相手が高齢者・外国人・障害のある方の場合、線引きは変わりますか?
→ 要求の妥当性・言動の適切性・継続性の3軸は同じ。ただし配慮が必要な事情には丁寧に対応する。病院や介護施設では、認知症やBPSDへの配慮も必要になります。

Q2:常連客・上位顧客からのクレームはどう扱う?
→ お得意先であっても優遇と過剰譲歩は別物。従業員に過剰な身心ストレスを負わせるような顧客には対応が必要。就業環境を害する場合は境界線を提示。

Q3:SNSの投稿をちらつかせる場合は?
→ 威圧に該当し得るため、“対応期限と手順の明示”が効果的。

Q4:返金要求・補償要求は?
→ 契約内容・法令・規約に基づき「提供可能な範囲/不可能な範囲」を明示。

Q5:代理人(家族/友人/支援者)からのクレームは?
→ 本人の同意確認と提供範囲を明確にすれば沈静化しやすい。


7.企業が整備すべき仕組み

1)対応ルール(ガイドライン)

・許容行為/禁止行為
・担当変更のルール
・営業時間外の連絡への原則対応
・記録フォーマット

2)周知・掲示

・店頭掲示・社内掲示・Web掲載
・従業員向けお知らせ文
・クレーム受付方法のルール明示

3)従業員保護

・1人対応の原則禁止
・ローテーション制
・エスカレーションのライン明確化

4)研修・ロールプレイ(必要に応じて)

・一次対応の言い換え
・境界線提示の言い方
・沈静化までの流れの再現


■チェックリスト(簡易版)

□ 要求内容と感情表現を切り分けて記録している
□ 対応者の裁量ではなく企業方針を提示できている
□ 境界線の言葉を事前に用意している
□ 記録が共有され、誰が対応しても再現可能
□ 対応者の保護と交代ルールが機能している

一つでも欠けると沈静化しづらく、担当者への負担が増大します。


8.まとめ|線引きよりも「仕組み」が現場を守る

グレーゾーンのクレームでも、企業が整えるべき視点は明確です。

☑要求内容の妥当性
☑言動の適切性
☑継続性・反復性・拘束性

この3軸で総合判断し、「個人スキルではなく仕組みで守る」

厚労省マニュアルや裁判例でも、対応の属人化がトラブル・退職・訴訟の原因であることが共通しています。

2026年の人材リスクは、「個人のクレーム対応能力」よりも組織的に“従業員を守る仕組みが整っているか” が企業価値を左右します。


9.関連サポート(ご相談はこちら)

RESUS社会保険労務士事務所では、
カスタマーハラスメント対策に関する以下の支援をご用意しております。

カスハラ対応ルール/掲示文/周知資料の整備
企業向けカスハラ研修(接客・管理職・全従業員向け)
カスハラ・パワハラ・内部通報の法人向け外部相談窓口サービス
東京都カスハラ奨励金申請の実施内容の最終点検
カスハラ・クレーム対応マニュアル(文例付き)|判例・事例で学ぶ実務対策

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