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上司から突然「認証制度を取れ」と言われた人事・総務担当者のための実務ガイド
2025/12/22

近年はえるぼし・くるみん・ユースエールをはじめ、業種ごとに求められるBCP作成など、企業で備えておきたい認定制度や法定義務書類が増え、DX化だけで乗り切れないほど総務担当者の業務が増えています。本ページは、上司から無理難題を突き付けられた社内担当者が自分の業務(立場)を維持しつつ、会社として合理的な判断を導くための実務対応ガイドです。(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)
はじめに|このページは「人事・総務を守るため」の実務ガイド
国や自治体の認証制度・認定制度は、近年ますます増え、注目度も高まっています。
その結果、
「競合が取ったらしい、負けてられない!」
「うちも何か認定を取れないか?」
「入札優位性や補助金につながるのでは?」
といった期待から、経営層から突然、取得を指示されるケースは珍しくありません。
しかし、実際に制度を調べ、資料を集め、社内を調整し、申請作業を行うのは経営層ではなく、ほぼ例外なく人事・総務部門です。
総務・人事部門が上からの指示内容を調べたり・認定の現実性を調査するのは仕事の一環とも考えられますが、一方でその指示が負担となっている現実もあります。本ページでは、経営層からの指示が無理難題かどうかをうまく説明し・会社の支援を受けるための実務ガイドです。
認証制度取得で、人事・総務が直面しやすい現実
認証制度の多くは、「やる気」や「一時的な準備」で取れるものではありません。
実務では、次のような課題がよく発生します。
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要件が複雑で、制度理解に時間がかかる
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現行の人事制度・運用と合っていない
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過去データ(勤怠・賃金・配置等)が不足している
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現場や管理職の協力が得られない
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通常業務が減らないまま作業が増える
その結果、人事・総務だけが疲弊する構図になりがちです。
人事・総務が「自社対応」で進めた場合の工程イメージ
自社のみで対応する場合に必要な作業
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制度要件の調査・読み込み
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自社制度・運用とのギャップ整理
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社内データ収集(勤怠・賃金・配置 等)
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管理職・現場への説明と調整
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申請書類の作成・修正
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差戻しや追加説明への対応
現実的な作業時間の目安(例)
※一般的な認定制度の例(補助金・助成金などはさらに時間がかかります)
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初期調査・制度理解:5〜10時間
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社内資料整理・確認:10〜20時間
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運用調整・申請書作成・事務局修正対応:10〜30時間
合計:25〜60時間以上
※ すべて通常業務と並行して行われます。
認定にかかる人事コスト(労務費)を金額に換算する
仮に、
-
人事担当者の時間単価(総労務費):3,000円
-
認証対応に40時間かかった場合
人件費換算:約120,000円
これに加えて、
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成功する保証はない
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差戻しや再対応・年度更新が発生することもある
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認定に至らなかった場合も責任は人事側に残る
というリスクがあります。
※総労務費=時間給+社会保険料+福利厚生費+事務所経費+その他諸費用
外部支援(アウトソース)を使う場合の考え方
外部に依頼する場合でも、人事・総務が「まるなげ」で何もしなくてよくなるわけではありません。
ただし、役割を次のように分けることができます。
人事・総務の役割
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社内資料の提供
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社内調整の窓口
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上司への報告・共有
外部専門家の役割
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制度要件の整理・解釈
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不足点・リスクの洗い出し
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「今は無理」「条件付きなら可能」といった判断整理
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上司説明・稟議に使える整理資料の作成
結果として、人事・総務が一人で抱え込まなくて済む状態を作れます。
上司・役員への説明で使える考え方(そのまま使えます)
認証制度の取得は、
「やる気」や「努力」ではなく、
現時点の体制で対応可能かどうかを
専門的に確認したうえで判断するもの
です。
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今すぐ目指すべきか
-
条件が整ってから検討すべきか
-
別の制度の方が現実的か
こうした整理をせずに進めると、結果的に 人事・現場・経営のすべてに負担が残る ことがあります。
【社内説明用】国の認証制度取得に関する検討結果(着手可否の判断)
1.本件の検討背景
○○担当役員よりご指示を受けた国・自治体による「○○認証制度」について、人事・総務部門にて制度内容および当社体制との適合性について調査を行いました。
本書にて検討内容を報告いたしますので、内容をご確認のうえ認証取得に向けて業務を進めるか否か、ご指示いただきたくご案内申し上げます。
2.当該認証制度の概要(要点整理)
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国が一定の基準に基づき企業の取組を評価・認証する制度
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数値要件だけでなく、運用実態・体制面が評価対象
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一時的な対応や形式的な申請では認証されない設計
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認証取得後も、実態との整合性が求められる制度
→「やる気」や「短期対応」で取得できる制度ではない点が特徴です。
3.認証取得に必要となる主な対応内容(当社対応想定)
当社が認証取得を目指す場合、以下のような対応が必要になると想定されます。
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制度要件の詳細把握・解釈
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現行制度・運用とのギャップ整理
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社内データの収集・整理(勤怠・賃金・配置等)
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現場・管理職への説明および調整
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申請書類の作成・修正
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差戻し・追加説明への対応
※ 上記は 通常業務と並行して行う必要があります。
4.人事・総務部門の工数見込み(概算)
過去事例・制度内容を踏まえた概算です。
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初期調査・理解:約5〜10時間
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社内資料整理・確認:約10〜20時間
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説明・調整・修正対応:約10〜30時間
合計:25〜60時間以上
※ 担当者1名で対応する場合、通常業務への影響が避けられません。
5.コスト面の整理(内製対応の場合)
仮に、
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人事担当者の時間単価:3,000円
-
認証対応に40時間を要した場合
人件費換算:約120,000円
これに加え、
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認証に至らない可能性
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差戻しによる再対応
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担当者負担の増加
といったリスクコストも考慮いただくよう、事前に申し添えいたします。
6.外部アドバイザーの活用(外注支援による取得)(※参考)
外部専門家を活用した場合、
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人事・総務:資料提供・社内調整に専念
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外部:制度解釈・不足点整理・判断材料作成
と役割分担が可能となります。
特に、
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「今は着手すべきでない」という客観的判断の前倒し
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条件付きで進めるべきかの整理迅速化
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上司・役員向け説明資料の整理
といった点で、判断の客観性を高める効果が期待できます。
7.現時点での人事・総務部門としての見解(重要)
現時点の当社体制を踏まえると、次のいずれかの判断が妥当と考えられます。
(該当するものを選択)
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□ 現時点では着手を見送る
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□ 条件(体制整備・時期)を整えたうえで再検討
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□ 外部支援を前提に検討を進める
理由:
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制度要件と当社現行体制の乖離
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人事・現場負担の大きさ
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通常業務への影響
8.判断にあたっての重要な考え方(結論)
本認証制度は、当社リソースの現状を総合判断し、無理に着手した場合、
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人事・現場の負担増
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制度形骸化
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認証取得に至らないリスク
が生じる可能性があります。そのため、本件については 上記整理を踏まえた判断 をお願いしたく存じます。
9.今後の対応案(選択肢)
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A:本件は一旦見送り、体制整備を優先
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B:外部専門家による簡易診断・見積り依頼を実施
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C:別の認証制度を含めて再整理
※ いずれの場合も、人事・総務部門としては必要な整理・情報提供を行います。
補足(人事担当者向けメモ)
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この文書は「取得しない言い訳」ではなく「会社として合理的に判断するための資料」という位置づけです。
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「絶対に無理」や「人が足りない」などの感情論ではなく冷静に分析した工数・リスク・体制で説明することが重要です。
当社の認証支援サービス
▶くるみん認定取得支援サービス|次世代育成支援対策推進法に基づく認定を社労士がサポート
▶【2025年対応版】えるぼし認定取得支援サービス|女性活躍推進法に基づく認定を社労士がサポート
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まとめ|認証制度は「頑張るかどうか」ではありません
認証制度は、企業の姿勢や体制を外部から評価するための仕組みです。
そのため、
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無理に背伸びして取るものではなく
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人事・総務だけが犠牲になるものでもありません
まずは、
「今の体制で現実的に対応できるか」
を冷静に整理すること
それが、人事・総務部門にとっても、会社にとっても最も健全な判断につながります。
お問い合わせ・ご相談
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上司から突然、認証取得を指示されて困っている
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自社対応で可能か判断に迷っている
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稟議・社内説明の材料や見積もりがほしい
といったご相談も承っています。
無理な取得を前提とせず、人事・総務部門の負担を減らす整理・支援をご提案します。