NEWS

社用車事故の修理費は従業員に請求できる?【弁償・解雇・給与天引きの法的注意点|2025年最新版】

2019/09/30

(最終更新日:2025/08/19)

この記事の結論(まとめ)

  • 原則として修理費を従業員に全額請求することはできない

  • 裁判例では10〜25%程度の負担が限界とされる

  • 故意・重大な過失があれば例外的に全額請求や懲戒処分が可能

本記事では、社用車事故の「修理費用請求の可否」「給与天引きの違法性」「解雇の注意点」など、経営者・人事担当者・従業員が知っておくべき法的リスクをわかりやすく解説します。

社用車事故で修理費を従業員に請求できる?

配送ドライバー・営業職など、社用車を業務で使用する従業員は多くいます。
では、業務中の事故による修理費用を従業員に弁償させることは可能でしょうか。

結論は 「原則として難しい」 です。

民法上は「報償責任の法理」により、従業員の業務活動から生じるリスクは会社も負担すべきとされます。
裁判所もこの考えを採用し、多くの判例では会社請求の10〜25%しか認められていません。

通常は従業員も他人の財産に損害を負わせた場合には不法行為責任(民法709条)がありますが、会社は従業員の活動によって収益を得ています。そのため、民法では従業員の活動から生じるリスクも負担すべきという考え方(いわゆる、「報償責任の法理」)があります。このような考え方から、車など会社の「モノ」を業務中に従業員が破損した場合には、報償責任の考え方と会社と社員間で公平な負担を図るべきというのが一般的な解釈となります。

他人を使用して事業を行う事業者は民法上でも連帯責任が規定されており、個人が起こした事故だからといってすべての責任を個人が負う旨一筆書かせたり、事故が起きた際に会社は関与しない姿勢でいると、被害にあった相手方だけでなく事故を起こした当事者からも訴えられる可能性があります。社用車を利用する会社と従業員が知っておくべき修理費用の負担に関する法律上の制限や会社のルールについて、それでは詳しく・かつわかりやすくご案内していきます。

(民法715条)【使用者等の責任】
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3.前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

第三者を人身事故で巻き込んでしまった場合や他人の器物を破損した場合などは、個人が直接損害賠償を請求されたり、第三者から会社に請求されるケースが想定されます。当然、飲酒運転やあおり運転による事故など、本人の故意や重過失が認められる場合には会社が賠償請求を受けたとしても、その全額を従業員に請求(求償権の行使)することも可能です。

労働者側からすれば、営業活動中の事故などは会社が負うべきとの考え方は当然かもしれませんが、だからと言って無制限に会社がその損害の全てを負う義務は無く、一定の割合であれば負担させることも相当と認められることがあります。但し、給与に対してあまりに高額な賠償を個人に負わせる場合には慎重な検討が必要です。

「使用者がその事業の執行につきなされた被用者(労働者)の加害行為により損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、労働者に対し、損害の賠償を請求することができると解するべき(最一小判S51.7.8茨城石炭商事事件)」

就業規則に「弁償ルール」を書ける?

「事故を起こした場合は修理費の○%を負担」などと規定するのは 労基法16条(損害賠償予定の禁止)違反 となり無効です。

実務上は以下のように規定するのが妥当です:

『事故等によって会社の車両を破損させた場合は損害額の一部を請求することがある』

さらに「車両管理規程」を付則として設け、教育・抑止効果を高めることが重要です。

業務委託ドライバーは100%弁償させられる?

業務委託契約でも「労働者性」が高ければ労基法の保護を受けます。

  • 仕事を断れない

  • 決まった業務時間がある

  • 車両を会社から貸与されている

といった場合は、実質的に労働者と評価されることがあります。
その場合、「100%弁償させる」ことは違法 となります。

営業時間外の事故だったら?

会社名義の車を従業員がプライベートな用事で利用することもあります。このような業務外で事故を起こした場合の修理費用負担はどうなるのでしょうか。

従業員がプライベートで社用車を使用し事故を起こした場合、会社は「運行供用者責任(自賠法3条)」を問われる可能性があります。

  • 無断で私用利用 → 原則は従業員の全額負担

  • 黙認や管理不十分 → 会社の責任も問われる

この場合の事故は会社には関係ないと思いがちですが、全く無断で私的に会社名義の車両を使った場合を除き、基本的には使用者責任より広く事業者の責任が認められる「運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)」を問われます。また、禁止していても鍵の管理がずさんでいつでも社用車を乗れる状態であったり、通勤利用などで黙認していたと評価される場合には会社の責任を問われることもあります。よって、営業時間外の車両利用は規則上も実態上も禁止である旨を明文化しておくことが会社のリスク管理に必要となります。業務外利用を禁止・明文化していたにも関わらず、プライベートで社用車を無断利用し事故を起こした場合であれば会社に法律上の責任はなく、個人に修理費用の全額を負担させることができます。細かくなりますが、無許可であっても業務を行っていたことが明らかであれば、許可を得ていないことを主張しても会社の使用者責任または運行供用者責任は免れませんので、全額の負担は難しくなります。

(自動車損害賠償保障法第3条)【運行供用者責任】
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
※事業主は車両の持ち主として過失が無かったこと等を証明できない限りは責任を負うことになります(同3条但書)

社用車事故で従業員を解雇できる?

  • 軽度な事故では解雇は不可(不当解雇となるリスク大)

  • 飲酒運転・あおり運転・免許取消レベルの重大事故
     → 懲戒解雇・普通解雇が認められる可能性あり

また、減給処分には労基法91条による制限があります。

大切な社用車を不注意の事故で故障させ、業務に大きな支障をきたした従業員をクビにしたい気持ちはわかります。運転していた従業員としても、事故を起こしたばかりで混乱しているときは、「会社をクビになるのではないか」とまず不安になるのが普通です。しかしほとんどの場合では、事故を理由に会社をクビにすることはできません。先に述べた通り、会社は従業員の業務中の活動にも責任を負っています。よってすべての責任を従業員だけに負わせる解雇は認められません。万が一、頭に血がのぼって一方的に解雇を言い渡してしまった場合には修理費用を超える損害賠償を請求されるかもしれません。実際、「不当解雇 弁護士」で検索すると相談料・着手金無料の完全成功報酬の弁護士広告が大量に流れてきます。

但し、飲酒運転やあおり運転による死亡事故など、意図的であるかないかに関わらず、相当に悪質な場合は懲戒解雇できる可能性は十分に考えられますし、運転業務で雇入れたにもかかわらず免許取り消しになるような事故を起こした場合は普通解雇を検討すべき場合もあるでしょう。本人の過失で軽度な事故を起こした場合には解雇されないとしても、けん責・戒告など何らかの処分を受けることは覚悟しておいたほうがよさそうです。

給与天引きは違法!正しい請求方法は?

たとえ請求が認められるケースでも、給与からの天引きは労基法24条違反となります。

  • 一旦給与を全額支払い → 別途請求手続きを行う必要あり

  • 「同意書」に署名しても強要なら無効(H2.11.26 日新製鋼事件)

➡実務上は「一度目は会社負担」「二度目以降は一部負担」といった合意方式が現実的です。

 

任意保険で賄うのが現実的

法人は通常「フリート契約」で保険に加入します。
事故による保険料アップを嫌って自社負担にするケースもありますが、結局は任意保険が最も現実的なリスク回避策です。

事業で車両を利用する会社の場合は自家用車のように一台ずつ保険契約することはできず、10台以上車両を所有している法人等であれば法人単位で保険に加入しなければなりません(フリート契約)。フリート契約は事故が無ければ割引きが高く、一台が事故を起こせば保険料が跳ね上がる構造のため、事故が起こった場合には保険を使わずに自社で修理費用を負担することがあります。「運転が苦手」や、「何度注意してもぶつける」程度では事業主からの請求は現実的には難しい点があり、運転を禁止して内勤させることも小規模事業者では代替要員もいないことが多いため使用を続けるしかありません。事故に対する厳罰化や無事故に対する過大な評価を行うと事故隠しにもつながり社会的非難を浴びることにもなりかねないため、長期的に見ればやはり任意保険で賄うことが最適な負担回避方法となります。

 

➡貸付制度が無い中小企業が社員にお金を貸すときの注意点(借用書と労使協定)

 

従業員側の対応方法

会社から修理費請求を受けた従業員は:

  1. 不当な請求には応じない

  2. 脅しや強要があれば記録を残す

  3. 裁判所から通知が来た場合は必ず対応する

➡ ブラック企業の場合は無視して退職するのも有効。
➡ 書面に署名してしまった場合は弁護士に相談。

ある程度の法律知識がある通常の経営者であれば事故リスクも自社で対処しますが、事故の損害を労働者に転嫁してくるような会社も少なくありません。「一生働いて返せ」、「退職したら損害賠償請求する」、「家族に迷惑がかかる」などと脅してくることもあります。そういった会社なら無視して退職してしまう方法も有効です。

退職するならば、退職届と併せて、①修理代の請求には応じない、②退職後の連絡は控えるようお願い、③給与は全額指定口座に振り込みするよう記載、④遅れたり勝手に控除すると全額払い原則違反となる旨記載、⑤不当な請求を続けるなら法的措置等にて対応する点を押さえて通知すればほとんどの会社が諦めます。

 

まとめ:会社が取るべき対応

  • 社用車事故の修理費を全額従業員に請求するのは困難

  • 10〜25%程度の一部負担が限度

  • 解雇・給与天引きは法的リスクが高い

  • 任意保険・安全教育・無事故表彰制度で事故防止を図るべき

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 社用車事故で従業員に修理費を請求できる割合は?
A. 多くの裁判例では10〜25%が上限とされています。

Q2. 就業規則に「修理費を負担」と書いても良いですか?
A. 金額や割合を明示すると労基法違反となり無効です。

Q3. プライベート利用で事故を起こしたら?
A. 無断使用なら本人が全額負担。ただし会社が黙認していれば責任を問われます。

Q4. 給与から天引きしても良い?
A. 違法です。一旦給与を全額払い、その後に請求する必要があります。

Q5. 業務委託契約なら全額請求できる?
A. 労働者性があれば請求できません。偽装請負とみなされるリスクもあります。

 

おわりに

従業員の不注意・過失の重大さや会社による予防教育の他、保険加入など負担の回避について判断されることを考慮すれば、相当な場合でなければ実損害の全額を従業員に請求することは難しいといえます。本人にほとんど実費を負わせることはできないため、実務上は人事考課によるマイナス評価や賞与で帳尻合わせする会社が多いようです。結局のところ、自動車を使用する事業である限り会社はほとんどの場合で連帯責任を負わなければならないため、事故防止に向けた具体的な交通安全研修や飲酒検査の他、無事故者に対する表彰(報奨金)制度や人事考課での加算など、『万が一の事故に備えた具体的な会社の取組』が必要です。トラックのドライバーなど運送業界は深刻な人手不足の業種で、人材の確保に要するコストを思えば研修や教育費用、保険料は安いと考えることもできますね。本記事を読んで社内の車両関係規程が甘いなと思ったら、是非社労士にご相談ください。【事業主様の初回相談料は無料

たった今会社から修理代を請求されて困っているという従業員の方や、退職した勤務先から負担させられた修理費用を取り戻したい元従業員の方には、修理代を安くするための一般的な交渉方法や退職時の通知書等の作成方法をアドバイスしております。無駄なお金を支払いせず、正しい権利を主張してみてはいかがでしょうか。【あまりにも多すぎるため労働者の相談料は1回につき前払いで5,500円、退職届作成代行は11,000円とさせていただきます】

➡管理職者(評価者)に人事労務コンプライアンス研修

 

今すぐ相談する

ご相談は下記お問い合わせフォームへご相談内容をご記入のうえ、『送信』ボタンを押して完了してください(個人の相談料は先払いです)。

当社の取り扱いできる業務範囲は弁護士法72条により以下の範囲までとさせていただきます。裁判や交渉が必要なトラブルは弁護士にご相談ください。

 ✅労務管理や社内規程に関する一般的なコンサルティング

 ✅通知書や文書の「ひな形」提供や文例アドバイス(法的判断を伴わない)

 ✅就業規則・社内ルール作成に関する助言

会社名
部署
氏名*
mail*
電話
お問い合わせ内容*

 

《関連記事》

➡貸付制度が無い中小企業が社員にお金を貸す方法(借用書と労使協定)

➡通勤手当の見直し相談が増えています(規程作成の実務ポイント)

➡求人票と異なる条件で採用したいけど求人詐欺と呼ばれたくない!

➡従業員10人未満の会社向け就業規則類作成セット(助成金対応済)

➡従業員を辞めさせたいと思ったら。退職勧奨・円満解雇代行サービス