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求人票と異なる条件で採用したいけど求人詐欺と呼ばれたくない!

2020/02/06

当事務所で採用支援をさせていただいている社長さんから少し前にこんな相談がありました。

 

「不採用にした応募者がどうしても入社したいと言っている。条件を下げても構わないとまで言われて困っている。」

 

今時数多ある中小企業の一社に対してこんなに熱望する人は珍しいと感心します。

そういえば、もう少し前には別の会社の人事部長さん(大手電機メーカー)からもこんな相談がありました。

 

「採用基準を満たしていないけれど見込がありそうなので条件を下げて採用してよいものか。」

 

これらは企業側の希望と本人の希望でそれぞれ異なるものですが、考え方としては同じもので、求人票と異なる労働契約に双方で合意している場合には可能とするのが一般的です。

 

私が相談を受けた事業主に酷い悪質性は認められませんが、ハローワーク求人ホットラインには毎年求人票の記載内容と異なる申し出が多く寄せられています。民間の求人サイトでは苦情件数を公表していませんが、相当数あるでしょう。私も何社も求人票を偽っている会社を知っています。

 

求人詐欺と言われそうな例

職業安定法が改正されたことによって、2018年1月1日からはハローワークの求人票について試用期間がある場合にはその記載、裁量労働制の場合はその旨、固定残業代制度がある場合には固定残業代を除いた基本給の額や固定残業の労働時間や金額の記載など主に5点が追加されましたが、これらに違反して虚偽の条件で求人の申し込みを行った場合にも(虚偽を証明できないため)事実上罰則が無く、異なる雇用契約書に署名押印した場合には契約の内容を争う必要があるため、詐欺的な求人票は後を絶ちません。(雇用契約書が無い場合には事業主は完敗です)

 

求人票には基本給20万円と記載されていたのに、給与明細を見ると固定残業代が含まれていて実際の基本給は14万円だった。(ある外食チェーンの例)

 

他にも、

・賃金が求人票を大きく下回っている

・完全週休二日制と聞いていたのに、実際は週に1日しか休みが無い

・求人票と違う職種だった

・残業代が全く支給されていない(求人詐欺どころの問題ではありません)

・正社員と記載していたのに契約社員だった

・勤務地が違った

・始業時刻の30分前に出社しなければならない

・社会保険完備と記載されていたのに加入していない

 

いまだにこんな「ありえないはず」の苦情が寄せられています。私もかなり若いころ建設会社の営業職に採用されたのに毎日パチンコ店の掃除をさせられたことがあります。二週間で辞めましたけど。

 

(求人票に関する法律)

  • 使用者には労働者の募集に際し、求人票に労働条件を明示しなければならない(職業安定法第5条)
  • 使用者には労働契約の締結に際し、賃金、労働時間その他法律で定められた労働条件を書面(例外あり)で明示しなければならない(労働基準法第15条)

 

古い判例の一つには、『募集事項についてはあくまで採用者側からの申し込みの誘引に過ぎず、求人票に記載された事項がそのまま労働条件になることを保障したものではない(八洲測量事件/東京高判S58.12.19)』とした例もありますが、判例は時代とともに変化していくため注意が必要です。

 

採用難でも人を集めるために求人票に多少の装飾している会社は多くあります。他社に負けないような賃金でなければ応募者が集まらないと信じて「求人詐欺」、「誇大広告」を疑われるような事業主もいますし、また私たち社労士でもそのような指導を行っている「ブラック社労士」がいると聞きます。

しかし、会社の評判を落とすような行為は労働者との紛争を招くだけでなく、インターネットの企業口コミサイトに書き込みされれば応募者が全く集まらなくなってしまうかもしれません。これはあまりに短絡的で誰も幸せにできません。

どの会社も自分は正直に求人募集していると言いますが、はたして働く側から見ても正直と評価できるような求人票でしょうか。

 

(福祉事業者A苑事件,京都地判H29.3.30)

無期雇用の求人票で就労を開始した後に契約期間の定めのある労働条件通知書を交付されやむなく署名捺印し、その後雇止めを受けた労働者の地位保全を認めた(労働者の主張を認めた)判例

裁判所は『求人票記載の労働条件は、特別の合意をするなどの事情が無い限り、雇用契約の内容となる』と示しました。つまり、特別な合意が無ければ求人票の条件が雇用条件となるということになります。特別な合意と言えるためには、署名・捺印を強要したりすることなく、自由な意思に基づいて判断可能な客観性が必要です。

なお、この裁判では求人票について社会保険労務士(社労士)からなるべく多くの人を集めるため助言を受けて作成した旨の供述も取り上げられています。

 

基本的な考え方

このような募集条件と実際の労働条件が異なる場合に関して、厚生労働省は基本的な方向性として

1.求人の申し込みは応募の誘引に過ぎず、応募は契約の申込みであることから、求人広告等の内容がそのまま労働契約の内容になるとは言えない

2.しかし、採用の際に、求人者と応募者間で求人広告等の内容を変更することに合意したと認められる特段の事情が無い限り、求人広告の内容は労働契約の内容となる

と示しています。

個人的には、「労働契約は明示した労働条件を下回ってはならない」などと法整備すれば求人詐欺は減ると思っていますが。。。

 

やむをえず求人票と異なる労働条件で採用する場合

企業が求人活動を行っているといろんな人から応募が来て迷うのは採用担当者の永遠の悩みですが、求人詐欺と言われる誹り(そしり)を免れるためにも、

①求人票の労働条件と変更された労働条件を対照したり、その部分を別途記載した説明文書を交付し十分説明を行うこと

②本人が内容を十分検討し、諾否の判断ができる相当な時間を設けること

③在職者の場合であったり、他社からの内定がある場合を想定して早めに伝えること

④これら変更の手続きを証明できる履歴を残しておくこと

以上は最低限でも押さえておきたいポイントになります。

 

おわりに

経験者限定で求人を行っていたものの気合の入ったイケてる未経験者が応募してくれたり、能力が希望するレベルに達していないけれど労働条件を調整(変更)可能であれば採用したいという考えは不自然ではありません。しかし、ほとんどすべての求職者は求人票の最低条件を期待して応募しています。事業主の勝手な都合であったり、事実を知らせなかったりと偽りを誤解されるような行為を行うと将来の採用に大きな悪影響を与えかねません。人材不足と採用難で大変苦しいのはよく理解できますが、あまり隣の青い芝と比較しすぎず、自社なりの魅力をよく考えることが大切です。

 

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