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【2025年対応版】多様化するハラスメントと企業リスク|“ハラ・ハラ時代”の指導の線引きと対応マニュアル(社労士監修)

2025/10/16

はじめに|“ハラ・ハラ時代”に企業が直面する新リスク

職場におけるハラスメント対策は、今やすべての企業に求められる基本的な法的義務です。
しかし近年、「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ」「カスハラ」だけでなく、「リモハラ(リモートハラスメント)」「スメハラ(スメルハラスメント)」「ジェンハラ(ジェンダーハラスメント)」など、新たな“○○ハラ”が次々に登場しています。

さらに、正当な指導・注意を行ったはずにもかかわらず、「それはパワハラだ」「精神的苦痛を受けた」と主張される――
いわゆるハラスメントの過剰主張(ハラ・ハラ)の問題も実務では増加しています。

このページでは、最新の法令・判例を踏まえながら、
多様化するハラスメントの現状と「ハラ・ハラ」時代の実務対応を、社会保険労務士が専門的に解説します。

※本ページは一般的な解説であり、個別事案への法的助言ではありません。実際の対応は専門家にご相談ください。


第1章 ハラスメントの多様化と企業リスク

1-1 ハラスメントの種類と特徴

名称 内容・具体例 法的根拠・関連
パワーハラスメント(パワハラ) 優越的関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動 労働施策総合推進法第30条の2(防止措置義務/いわゆるパワハラ防止法)
セクシュアルハラスメント(セクハラ) 性的言動により就業環境を害する行為 男女雇用機会均等法第11条・指針
マタニティ・ハラスメント(マタハラ) 妊娠・出産・育児等を理由とする不利益取扱い 育児・介護休業法第10条・指針
カスタマーハラスメント(カスハラ) 顧客・取引先等からの暴言・過剰要求・威圧行為 労働契約法第5条(職場環境配慮義務)、厚労省「カスハラ対策企業向け指針」等
リモートハラスメント(リモハラ) 私的空間干渉、常時カメラオン強要 等 労働契約法第5条、パワハラ指針の射程
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ) SOGI に関する偏見・差別的言動 均等法第11条・指針(令和2年厚労省告示第5号)
スメルハラスメント(スメハラ) 体臭・香水等で就業環境を著しく害する 労働契約法第5条、安全配慮義務(安衛法の趣旨)
ソーシャルハラスメント(ソーハラ) SNSでの晒し・誹謗中傷 等 民法709条(不法行為)、名誉毀損、個人情報保護法の趣旨

※職場環境配慮義務(労働契約法第5条)は、あらゆるハラスメントの根拠となり得ます。


1-2 企業に及ぶ影響(リスクマップ)

  • 訴訟・行政指導リスク:パワハラ防止法による勧告・企業名公表の可能性

  • ブランド・信用失墜:SNS・メディア報道による風評リスク

  • 従業員エンゲージメント低下:相談離脱・離職・メンタル不調の増加

  • 採用・定着への影響:「働きにくい企業」という評判拡散


第2章 “ハラ・ハラ”とは何か|逆主張型ハラスメントの実態

2-1 「ハラ・ハラ」現象の構造

「注意しただけでパワハラと言われた」
「人事評価を下げたら差別だと訴えられた」

こうした逆主張型のトラブルが増加しています。
しかし、「ハラスメントだ」という主張が出た時点で、
企業には説明責任・調査義務が発生します。


2-2 法的にみた線引きポイント

項目 ハラスメントに該当する場合 該当しない場合(適正な指導)
内容 業務と無関係の人格否定・暴言 業務改善を目的とした具体的指導
方法 人前での叱責・長時間説教 個別・短時間・冷静な指導
頻度 執拗・継続的 一時的・必要最小限
記録 証拠なし・一方的主張 発言記録・面談記録が残っている

※参考判例:

  • 東京高裁平成25年9月26日判決:注意が合理的範囲としてハラ認定を否定

  • 大阪地裁令和2年3月25日判決:人格否定的発言が反復しパワハラ認定


第3章 “ハラ・ハラ”に遭遇したときの実務対応

ステップ1:記録を残す

指導・面談・注意を行う際は、
「日時」「場所」「目的」「発言内容」を客観的にメモ・記録。
可能なら複数人で面談を行い、第三者証言を確保。

ステップ2:冷静に受け止め、初動調査へ

相手が「パワハラ」と主張しても、感情的な応酬は避け、
“事実確認”を最優先に行う。
必要に応じて、社内のハラスメント担当または外部相談窓口へ。

ステップ3:第三者を交えた再確認

同席者や上司、人事担当を交え、記録をもとに客観的に再確認。
社外の社労士・弁護士が介入することで、
「主張の整理」と「企業の防御」がスムーズに。

ステップ4:再発防止・教育の実施

指導・面談のあり方をテーマに管理職研修を実施。
「叱責でなく支援の対話」を重視した教育が有効です。


第4章 事例で学ぶグレーゾーン対応

ケース 概要 裁判・対応結果
ケース1:部下のミスを人前で叱責 言葉遣いが人格否定的、他社員が萎縮 一部パワハラ認定(大阪地裁R2.3.25)
ケース2:勤務態度不良者への厳しい注意 改善目的・記録あり 不当指導にあたらず(東京高裁H25.9.26)
ケース3:育児休業復帰者に業務縮小 本人同意なし・配置理由不明 マタハラ認定(東京地裁H29.6.28)
ケース4:オンライン会議で私的背景に触れる発言 家族・私生活への干渉と受け取られる リモハラ行為、パワハラ類型にあたる(個の侵害)として社内処分

第5章 専門家が推奨する予防・教育体制

  1. ハラスメント定義の社内統一
     →「どこからがアウトか」を研修・マニュアルで共有

  2. 相談・報告経路の明確化
     →直属上司以外に「外部相談窓口」を設置

  3. 初動対応マニュアルの整備
     →誰が、いつ、何を聞き、どこに報告するか明文化

  4. 教育研修の定期実施
     →管理職・一般職それぞれの立場で理解を深める

  5. 第三者チェック体制
     →外部社労士・顧問弁護士の定期点検でリスク低減


よくある質問(FAQ)

Q1. 「新しいハラスメント」は法的にどこまで有効ですか?

多くの“新○○ハラ”は明確な法定定義を持ちませんが、
「職場環境配慮義務」(労働契約法第5条)を根拠に、
裁判上もハラスメントと判断される可能性があります。
※例:リモハラ=リモート勤務でも職場の一部とみなされる。


Q2. 注意・指導の際に録音や議事録を取るのは問題ですか?

業務上のやり取りを客観的に記録する目的であれば合法です。
むしろ「言った・言わない」を防ぐ重要な証拠になります。
ただし、個人情報・プライバシー管理に配慮し、保管期間を定めましょう。


Q3. 社員から「パワハラを受けた」と訴えがあった場合、会社は何をすべきですか?

厚労省指針に基づき、迅速かつ公正な事実確認と是正措置が必要です。
具体的には、

  • 相談者・行為者双方への聞き取り

  • 関係者のプライバシー保護

  • 結果に応じた懲戒・配置転換・教育措置
    が求められます。


Q4. 管理職が“ハラ・ハラ”に巻き込まれた場合の防御策は?

  • すべての指導を記録化

  • 一人で抱えず、必ず上長・人事へ共有

  • 言葉遣い・感情コントロールを研修で学ぶ

  • 「指導目的」「改善指示内容」「回数」を明確に残す
    これらが「正当な業務指導」としての根拠になります。


Q5. 外部相談窓口の設置は義務ですか?

中小企業にも努力義務があります。
2022年改正のパワハラ防止法により、
企業規模を問わず「相談体制整備」が求められています。
第三者性を確保することで、早期解決と信頼性が高まります。


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関連法令一覧

  • 労働施策総合推進法 第30条の2(パワハラ防止措置義務)

  • 男女雇用機会均等法 第11条(セクハラ防止措置)

  • 育児・介護休業法 第10条(不利益取扱い禁止・マタハラ防止)

  • 労働契約法 第5条(職場環境配慮義務)

  • (趣旨)安全配慮義務(労働安全衛生法の枠組み・メンタルヘルス指針 等)

  • 公益通報者保護法(内部通報制度との連携)

  • 厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル・指針」


まとめ|“防止”から“対応力”の時代へ

ハラスメント対策の本質は、「問題をゼロにする」ことではなく、
発生した時に正しく対応できる体制を整えることです。

指導も教育も、すべては“信頼を基盤とした対話”の上に成り立ちます。
企業が守るべきは「従業員の尊厳」と「組織の公正性」。
その両立こそが、持続可能な人事・労務管理の第一歩です。


ご相談・お問い合わせ

職場のハラスメント防止は、法令遵守だけでなく“職場の信頼構築”にも直結します。
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