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【2026年対応版】ハラスメント事案の“評価と言語化”完全ガイド|相談内容を文章化できる実務テンプレート

2025/12/11


1.はじめに|“ハラスメント事案の文章化”は難しい

企業内のハラスメント事案の相談・調査を行う際、最も多く聞かれる悩みが次のものです。自社で作成した報告書を点検する際にも多いパターンです。

  • 「なんとなく嫌な上司だが、うまく言葉にできない」

  • 「被害者は怒っているが、被害の主張だけでなく事実の裏付けが必要」

  • 「部下が複数人辞め上司が原因であることはヒアリングできたが、行為・原因との因果が文書化できない」

  • 「“当たりが強い・冷たい・高圧的”はわかったが、抽象的で他人に説明できない」

  • 「調査報告が一方に偏っていて、本当にこの内容で処分してよいか不安」

ハラスメント事案の評価実務では、“行為者の印象”ではなく“行為の事実を整理する技術” が求められます。そして、中小企業のほとんどがこの技術が不足したまま事案を終わらせています。

そこで本ページでは、厚生労働省ガイドラインとの比較や調査実務で一般に用いられる整理手法をもとに、誰でも一定水準の評価・文章化ができるための実務フレームをハラスメント事案整理のプロ目線から体系的にまとめました。


2.評価の大原則:印象ではなく「行為」「文脈」「影響」で整理する

ハラスメント判断の基準は次の3点です。どれも欠かすことのできない評価実務の原則ルールです。

① 行為(何をしたか/言ったか)

具体的発言・態度・行動そのもの。

② 文脈(どの状況で/誰に対して/継続性は?)

人間関係・職務上の上下・場面・頻度など。

③ 影響(相手・職場環境へどの程度の不利益が生じたか)

精神的負担、退職、職場混乱、萎縮、業務阻害など。

「いつ・どこで・誰が・どのようにして・どう感じたか、その結果、職場にどんな影響があったか」を文書化する作業です。

この3つが揃って初めて、「評価できる文章」=判断材料として利用できる報告書になります。


3.厚生労働省パワハラ指針の“6類型”に基づく評価

評価の軸は、会社独自の判断基準ではなく、厚生労働省「パワーハラスメント防止指針」で定義された以下の6類型に照らして整理します。

【1】身体的攻撃

暴行・傷害、物を投げる、机を叩く・椅子を蹴るなど威圧行為。

【2】精神的攻撃

侮辱、人格否定、過度な叱責、公開の場での叱責など。
※「能力がない」「頭が悪い」「低偏差値」など個人の尊厳を否定する発言が典型。

【3】人間関係からの切り離し

無視、隔離、意図的な情報遮断など。

【4】過大な要求

明らかに遂行困難な業務量、能力を超えた作業強制、不可能な期限設定など。

【5】過小な要求

嫌がらせ目的で極端に簡単な作業のみを与える、能力を発揮できない業務しか与えないなど。

【6】個の侵害

私生活への過度な干渉、家庭・健康・交際関係など業務に関連しない不必要な詮索。


4.文章化が難しい“グレーゾーン行為”をどう整理するか

実際に被害申告があったり、行為を発見した場合でも適切に文書化しなければ第三者からは「具体的にどこが悪かったのか」わかりません。文書化に多くの企業がつまづき、頭を悩ませる最大のポイントです。

「当たりが強い」「冷たい」「態度が悪い」は事実ではなく「ただの感想

そのため、次のように“翻訳”する必要があります。


▼悪い例(文章化できていない)

「上司の当たりが強くて、部下が辞めてしまう」「態度が冷たいと多数の社員が言っている」

▼良い例(評価可能な文章)

  • 上司は部下に対し「仕事が遅い」「ミスばかり」「使えない」「能力不足だ」などの発言を複数回行っていた。

  • これらの発言のうち、「使えない」「能力が足りない」といった表現は個人の評価ではなく人格に踏み込むものであり、厚生労働省指針に照らすと精神的攻撃の典型に該当する。

  • 複数のスタッフがいる前で繰り返し発言されており、部下本人が精神的負荷を感じ退職に至っている。

  • 業務上の指導要素は含まれるが、一部に不適切な発言が含まれ、職場環境に悪影響を及ぼした事案と評価される。


このように、①具体的発言 → ②指針との関係 → ③影響 → ④評価 の順で書けば、誰が読んでも判断できる文章になります。


5.「事実の要素」を整理する実務フレーム(そのまま使えるテンプレート)

調査報告書で使われる代表的なフレームを解説します。


① 発言・行為(事実)

・○月○日、上司が部下に対し「仕事が遅い」「ミスが多すぎる」「能力が足りない」「何度教えたらできるのか」等の発言をした。
・同席者が複数名確認しており発言は事実と考えられる。

② 文脈(背景事情)

・業務上の指導場面であったが、他スタッフがいる前で行われた。
・同様の発言が複数回続いている。

③ 厚労省6類型との対応

・発言には業務指導のものも含まれるが、「能力が足りない」は精神的攻撃(人格否定を含むもの)に該当する可能性が高い。
・指導目的が一定程度あるものの、人格を否定する不適切な発言が含まれている。

④ 職場環境への影響

・当該部下は萎縮し、相談窓口へ被害・相談として連絡している。
・他のスタッフも強い口調に不安を感じ、チームの雰囲気が悪くなったとの印象が確認できた。

⑤ 評価(総合判断)

・業務指導としての要素は認められるが、一部の表現が職務上の立場を踏まえても表現として過度であり、精神的負担を与えた点から職場環境を害する行為で改善が必要と評価される。


6.事案評価の“誤りやすいポイント”

●①「成果が出ていない=指導OK」は誤り

成果が出ていなくても「人格の否定」は不可。

●②「本人は悪気がない」は評価材料にならない

重要なのは“行為”と“影響”。

●③ 指導場面でも“言ってよい言葉・悪い言葉”がある

例:「ミスが多いので再確認して」…OK
例:「お前は本当に使えない」…NG

●④ 部下が辞めた=ハラスメントではなく単なる結果

退職という“結果だけ”ではハラスメントとはいえません。しかし、退職に至る背景に不適切な言動が存在し、行為と結果に一定の因果関係が認められる場合は評価対象になります。文書化できていないまま退職という事実だけを根拠に行為者を処分すると、新たなハラスメント(不当な扱い)を生むリスクがあります。


7.文章化の質を上げる「チェックリスト」

※そのまま企業の調査シートに使える形式です。

☑ 事実は時系列で整理されているか

☑ 発言は可能な限り“原文”で記録しているか

☑ 同席者の有無を確認したか

☑ 文脈(業務指導・面談・会議など)が記載されているか

☑ 厚労省6類型のどれに該当するか整理したか

☑ 影響(精神的負荷・退職・パフォーマンス低下等)が記録されているか

☑ 主観的評価を排除しているか

☑ 言葉ではなく“行為”で説明できているか


8.FAQ(よくある質問)

Q1.上司は「いうことを聞かないので強めに言っただけ」「あっちが悪い」と主張します。どう評価しますか?

→ “行為”と“影響”で判断します。言い方が強いだけでも、人格否定が含まれる・公開の場で行う・継続するなどがあれば評価対象です。

Q2.本人が「冗談のつもりだった」「そんなつもりはない」と反論しています。

→ 冗談か否かではなく「事実×受け手の感じ方×職場への影響」を基準に整理します。

Q3.評価が難しい場合はどうすればよいですか?

→ 厚労省6類型に照らす、文章化フレームで整理する、第三者の視点を入れる、が基本です。

Q4.ハラスメントと“厳しい指導”の線引きは?

→ ①業務上必要性、②表現の妥当性、③継続性、④公開性、⑤影響、の5要素で整理すると判断しやすくなります。


9.お問い合わせ・サポート案内

多くの中小企業ではハラスメント事案があったとき、文書化できないために適切な評価が行われず、問題が放置されたままになっています。これでは社員の働きやすい環境である心理的安全性が高まることはありません。ハラスメント事案の評価・文章化・報告書作成は、正確な整理手法とフレームを使えば、誰でも一定水準の品質に到達できます。

RESUS社会保険労務士事務所では、職場のハラスメント問題解決・ハラスメントの無い職場に向けて様々なサービスで支援しています。

■当社のハラスメント対策サービス(一部)

など、必要に応じて専門家によるサポートを提供しています。

【お問い合わせフォーム】(企業・団体向け)
初回相談は無料です。


10.法令注記

※実際の評価にあたっては、発言の頻度・継続性・場面(公開性)など周辺事情も合わせて確認する必要があります。

※本ガイドは、厚生労働省「パワーハラスメント防止指針」を基礎とした一般的な整理方法を示したものであり、個別事案の適法性判断を行うものではありません。具体的な対応は、顧問弁護士・顧問社労士等の専門家にご相談ください。


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