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【2026年対応版】“逆ギレするクレーマー”への安全な対応ステップ|カスハラと正当要求を見極める判断基準
2025/12/12

(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)
1.はじめに|「要求は正当、態度が不当」な客への対応
最近、企業・店舗・医療福祉・行政など幅広い業界で増えているのが、「言っていることは一見正当なようで、言い方や態度、威圧感で逆ギレ」タイプのクレームです。
⚠こちらに非があるのも事実だが、怒号・威圧・侮辱を伴う言い方
⚠丁寧に説明しても「納得できない!」としつこく担当者へ詰め寄る
⚠わずかな遅延・軽微なミスに対して、ひたすら理由を詰めてくる
⚠担当変更・上司呼び出し、返金、特別対応を強要し続ける
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年)でも、正当要求かつ不当言動が併存するケース を特に注意領域として明示しています。「私は間違っていますか?」と何度も繰り返し聞いてくる『自分は間違っていない』と信じて疑わないタイプです。
このタイプは、「要求には対応すべきだが、態度には屈してはいけない」という難しさがあり、現場負担が非常に大きくなります。
本ページでは逆ギレタイプのカスハラを安全に扱うための判断軸・対応ステップをわかりやすく解説しています。
2.【判断の基本】要求の正当性 × 態度の不当性で分類する
まず最も重要な視点は、クレームを“要求内容(縦軸)”と“態度(横軸)”に分けて評価すること です。
●要求の正当性
・事実関係に基づく妥当な申し出か
・契約、法令、説明内容と照らし、対応する義務があるか
・企業として誠実な補償・対応が必要か(レピュテーション対策)
●態度の不当性
・大声、怒号、威圧的言動のレベル
・侮辱、人格攻撃の有無
・長時間拘束、合理性のない要求の繰り返しの有無
・脅し・暗示的な発言の有無
・担当者個人への攻撃の有無
●まずは4段階で判断する
| 区分 | 要求の妥当性 | 態度 | 実務上の位置づけ |
|---|---|---|---|
| A:正当要求 × 適切態度 | 高 | 低 | 通常の顧客対応 |
| B:正当要求 × 不当態度 | 高 | 高 | 逆ギレ型カスハラ(最も難しい領域) |
| C:不当要求 × 適切態度 | 低 | 低 | 相談扱い、誤解解消で収束 |
| D:不当要求 × 不当態度 | 低 | 高 | 典型的カスハラ、毅然対応+制限検討 |
逆ギレ型クレームは 分類B に位置しており、最も難しい領域として
✅企業として対応は必要
☑態度には線引きが必要
という二面性が特徴です。企業として合理的な範囲での対応は必要になりますが、従業員保護の観点から、不当な言動には明確な線引きを行う必要があります。
3.逆ギレ型カスハラの典型パターン
以下は近年特に増えている行動例で、2026年も増加することが予想されます。
①「説明しても聞かずに感情爆発する」タイプ
・説明の途中で遮る・自分の主張を続ける
・丁寧な説明を試みても逆上する・感情的な反応がエスカレートする
・「責任者を出せ」「なめてんのか」「ふざけんな」を連発
②「軽微な不満を膨らませて攻撃対象にする」タイプ
・小さな行き違いを人格否定まで拡大
・担当者交代を過度に要求・上司を呼びつける
・本来不要な補償・値引きを迫る、撮影してSNS投稿をにおわせる
③「正当要求を盾に過度要求へエスカレートする」タイプ
・最初は事実確認だったが途中から“特別扱い”を求める
・要求が無制限に広がる
④「態度は攻撃的だが、要求は妥当」という複雑型
特に医療・行政窓口で多い。
感情的な背景や不安が主因で攻撃的になっている場合もある。
4.【初動対応】逆ギレさせない“安全な第一声”の型
逆ギレ型クレームは 初動の言い方 が最重要です。
以下の型が効果的です。
ステップ1:事実の受け止めを“短く・限定的”に示す
「状況について教えていただきありがとうございます。」
※過度な謝罪で期待値を上げないよう注意(法務リスクを考慮し、原因確定前の文書提示やこちらに責任があるような謝罪は避ける)
●ステップ2:感情ではなく“手順と範囲”で説明する
「事実関係を確認し、必要な対応をとれるよう進めます。」
●ステップ3:長時間拘束を防ぐため“今ここで判断できない”ことを明示
「確認のうえ担当部署からご回答をお伝えします。」
※その場で即答しようとすると逆ギレに巻き込まれます
5.逆ギレを“増幅させない”ための言い方とNG行動
●避けるべき言動(逆ギレを加速させる)
・感情的反論
・説明の押し返し
・相手の語気に合わせる
・相手の主張を途中で否定
・「落ち着いてください」「クレーマーですか」は逆効果
●安全な言い換え例
×「そんな言い方をされても困ります」
→「確認と対応を進めるため、事実関係を整理させてください。」
×「それは無理です」
→「現行の規程では難しいため、代替案が提示できないか検討いたします。」
×「怒っても対応は同じです」
→「対応できる範囲は会社で決まっておりますので、手順に沿って進めさせていただければと存じます。」
6.【線引き】不当態度が続く場合に取るべき「3段階の措置」
逆ギレ型でも、不当な態度が継続・拡大する場合は企業は従業員を守る義務があります(労働施策総合推進法の配慮義務に沿う考え方)。
●段階1:行動制限の予告(口頭)
「大声や威圧的な言動が続く場合、対応を一時中断させていただきます。」
●段階2:対応チャネルの変更
・担当者の変更ではなく
・“書面・メールのみ”への切替 が効果的
●段階3:取引継続の可否の検討
※あくまで法令・契約・社内規程に基づき、慎重に判断
※不当要求への譲歩はリスク拡大につながるため注意
7.記録・エスカレーションの基準
逆ギレ型クレームは「内容・態度」をセットで記録することが必須です。
最低限残すべき記録
・日時
・場所/チャネル
・要求内容
・不当な態度の有無
・担当者の対応内容
・エスカレーション履歴
外部第三者(弁護士・社労士・外部窓口)が事案調査に関与すると、客観的な事実記録→社内検証→報告書共有 の流れが整い、属人的対応のリスクが大幅に低減します。記録は、後日の紛争防止のためにも客観的事実に基づくことが重要です。
8.まとめ|要求には誠実に、態度には線引きを
逆ギレ型クレームは 正当要求と不当態度の“二重構造” であるため、通常のクレーム処理とは切り離した整理が必要です。
✅要求内容(事実・契約・法令)
✅態度(威圧・侮辱・長時間拘束)
を分けて扱うことで、対応が安定します。
カスハラ事案への対応を安定させるには、一定の事前準備が有効です。マニュアル整備、研修、外部窓口の併用により、現場負担の軽減とリスク管理の強化が期待できます。
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