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助成金が不支給となる会社都合離職者は解雇や退職勧奨だけじゃない
2019/11/19
厚生労働省が管轄する雇用関連の助成金には必ず「支給要件」があります。そして、必ず「過去6カ月以内に事業主都合の離職者がいないこと」という文言があります。
通常イメージする会社都合退職と言えば、「経営悪化による人員整理」や「倒産・破産」、「退職勧奨(いわゆる肩たたき)」をイメージしますが、助成金の不支給とする事業主都合の離職者は実はそれだけではありません。
《助成金の受給要件》
①対象労働者の雇い入れ日の前後6カ月間に事業主の都合による解雇(退職勧奨を含む)をしていないこと
②対象労働者の雇い入れ日の前後6カ月間に倒産や解雇など特定受給資格者となる離職理由の被保険者数が対象労働者の雇い入れ日における被保険者数の6%を超えていないこと(特定受給資格者となる被保険者が3人以下の場合を除く)
助成金は、労働者の生活の安定と労働環境の改善に取り組む事業主に対して支給されるものであり、助成金の意にそぐわない会社へは支給しないのが原則になっています。①はすぐにわかりますが、わかりにくい②に該当するかどうかは、
✔残業時間が長い会社
✔嫌がらせなどハラスメントがある会社
✔セクハラを放置していた
✔大量離職(1/3の被保険者の離職や大量離職者届義務の該当)
✔妊娠中・育児中の労働強要や労働拒否(配慮義務違反)
✔労働契約と待遇の不一致
✔雇止め(3年以上の有期雇用の更新拒否など)
✔給与減額(85%未満に低下)
✔高齢者の定年退職(高齢者雇用確保措置義務違反)
✔給与・残業代の未払い(3カ月の遅配など)
✔賃金台帳等の不整備(不正)
✔労働基準監督署の指摘無視(健康障害の防止措置義務違反など)
✔法令違反
以上に思い当たる節のある場合には会社は解雇したつもりはなくとも、『特定受給資格者』として扱われ該当人数次第で解雇同様助成金の受給要件を満たせていないかもしれません。なお、会社の金品を横領したり暴力事件(ハラスメント含む)などによって重責な『懲戒解雇』が労基署に認められた場合の解雇は助成金の不支給要件には該当しません。
残業時間は当てはまる会社が多いはずですが、残業時間が特に長い場合には特定受給資格者と扱われるため、日ごろから残業時間の削減に取り組むことも必要です。
《残業時間を理由として会社都合退職と扱われる要件》
☑連続する3カ月以上で月45時間以上の残業をした
☑連続する2カ月から6カ月を平均して、一か月で80時間を超える残業をした
☑1か月において100時間以上の残業をした
残業時間は労働基準法36条の時間外労働の上限とも関連しており、これらは会社の法律違反であるため会社都合退職として扱われます。なお、引越しなどで通勤困難となった場合などにおける『特定理由離職者』については助成金の要件に影響しません。
違法労働隠しに対する証明
事業主側が助成金の不支給制限となりたくないために、タイムカードを正しく打刻しないケースや、会社都合退職を一方的に自己都合退職としてハローワークへ退職手続きを行うことも多いようです。本人と事業主の間の離職理由に相違がある場合には本人が「異議あり」を申告したうえで客観的な証明(証拠)を提出し、管轄のハローワークが事業主への確認などで判定すれば会社都合退職として扱われることがあります。
《退職理由の変更に有効な証明例》
・メールの送信履歴(送信時間や携帯メールの履歴)
・ICカードの乗車履歴
・携帯カメラ等で撮影したパソコン画面等
・PCの起動ログ
これらは労働基準監督署の調査でも実際にサービス残業の有無を確認する際にも使われるものですので、証拠に信憑性の高いものほど会社都合として扱われる可能性が高くなります。裁判例では通勤時に利用しているICカード履歴が有力な証拠となり未払い残業代の支払を命じられたケースもあるため、実態として会社都合となるような離職者が多量に発生している会社は助成金の受給が難しくなります。
資格喪失届の誤り
雇用保険の被保険者が会社を離職する際にはハローワークへ『雇用保険被保険資格喪失届』を提出します。労働保険事務組合に加入している場合には資格喪失の原因が会社都合であれば確認の電話を入れてくれますが、自社で手続きを行っている場合には喪失原因を間違って提出してしまうことも多いようです。
喪失原因の記入欄は数字記載となっており、
1.離職意外の原因(死亡等)
2.3以外の原因(自己都合退職等)
3.事業主の都合による離職
から選択することになりますが、不慣れな事務担当者や表記のわかりにくさから、誤って3を選んで提出してしまった場合です。本当に間違えたのであれば一旦ハローワークへ連絡したうえで再提出を行えば変更処理できますが、間違いに気づかないまま放置して助成金を申請すると不受理扱いされます。
本人のためを思って/退職者に頼まれて
自己都合以外の退職理由の場合で要件に該当すれば、失業給付(基本手当)が直ぐにもらえることはよく知られています。従業員の失業給付の待期期間短縮のために「良かれと思って」会社都合退職扱いのお願いを聞き入れてしまう事業主もいますが、助成金の受給を検討するならば事実と異なる届出は断るのが賢明です。助成金の不支給要件となるほか、本人も失業給付の不正受給を問われることになりかねません。不必要な便宜は会社と本人のためになりません。
おわりに
助成金は中小企業の経営にとって大変助けになるもので、一定の取組に対して要件を満たせば現金を、しかも結構な額を支給してくれるものにつき事業主にとっては何としてでも受給したい気持ちはありますが、助成金欲しさに要件を不正に満たして申請すれば、『不正受給』として返還させられるほか、何年も受給できないような重いペナルティを受けることになります。日頃から適切な労働環境を整備し、正しく帳簿に記載する以外に助成金の受給はできません。しかし、クビや肩たたきといった露骨な会社都合退職以外にも助成金受給の要件上で抵触してしまうような退職者がいることを知らない場合もあります。助成金の不支給だけでなく、元従業員から訴えられる事業主も働き方改革関連法によって増加するかもしれません。過去の労務管理の問題はさかのぼって訂正することはできないため、助成金の受給を検討する場合には労働者にやさしい労働環境は常に心掛けておきましょう。
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