NEWS

【2026年対応版】部下からナメられない“小規模事業者”の実務対応ガイド|替えがきかない現場で起こる反発・無視・怠慢・職務放棄を安全に立て直す方法

2025/12/10

「部下からナメられっぱなしの小規模事業者が部下の反発・無視・職務放棄から立ち直る方法」(監修:RESUS社会保険労務士事務所/社会保険労務士 山田雅人)


1.はじめに|なぜ“小規模組織ほどナメられやすい”のか

税理士事務所・社労士事務所などの士業事務所、クリニック・薬局、飲食店、物流・小売など、少人数で運営される事業者ほど「特定のスタッフに業務が集中し、替えがきかない」構造が生まれやすくなります。この構造を部下が理解して助長してしまうと、次のような問題行動が常態化することがあります。

●反発・悪態をつく
●指示を無視する/返事をしない
●ミスを改善しない、わざと手を抜く
●顧客に不適切な態度を取る
●遅刻・欠勤を当たり前のように繰り返す
●報連相をしない・軽視する

最悪のケースでは、備品の持ち出し・横領・キックバックなどの不正に発展します。

一方で、現場責任者からは次のような声が聞かれます。

「いま辞められると困るので強く言えない」
「新しい人を採用できるか不安」
「業務が属人化していて何をしているかわからない・引継ぎできない」
「縁故採用なので強く言いづらい」
「注意すると報復されるのではないか」

“ナメられている職場”の多くは上司個人の性格もありますが、小規模組織事業者特有の“構造的問題”によって生じていることも多くあります。

本ガイドでは、この構造を踏まえた上で、ナメた部下をどうするべきか、小規模事業者が安全で実務的に改善できる方法を専門家視点でまとめています。


2.小規模事業者で実際に起こる“ナメられる言動”の典型例

以下は2024~2025年にかけて、小規模事業者から最も多く寄せられた具体例です。

(1)反発・悪態・暴言

・「今やろうと思っていました」
・「それは必要な業務ですか?」「忙しいのであとにしてもらえませんか」
・「あとでやります(やらない)」
・舌打ち・無視・ため息

(2)業務の放置・怠慢

・やるべき作業を後回しにする
・期限を守らない、言いわけばかりでやらない、忘れていた
・わざとスピードを落とす、わざといい加減な仕事をする

(3)顧客対応の質低下

・態度が悪い、誠実に回答しない
・不必要な言い返し、口論
・ミスの説明をしない、客側に責任転嫁する

(4)勤務態度の崩壊

・遅刻・欠勤の常態化、「遅刻しても謝罪しない」
・報連相せず黙り込む、自分だけで仕事をする
・勤務態度を注意しても改善しない

(5)不正行為(最悪ケース)

・釣銭や備品の持ち出し・私的利用
・個人でキックバックを受け取る
・経費の私的利用、金銭の紛失
・顧客情報の流用、他社で転売(メルカリ等で個人売買)

こういった態度が“自然に改善すること”はありません。放置すると不正が横行し、他の社員が辞め、口コミに悪評が立ち、組織は崩壊していきます。


3.なぜ放置されやすいのか(5つの構造要因)

(1)「辞められると困る」構造

・少数精鋭規模、人材不足
・採用できない
・業務が属人化している、仕事を長年任せすぎている

→ 部下が強気になりやすい。

(2)誰が何をしているか上司が把握できていない

・仕事内容がブラックボックス化している
・担当者しか分からない業務が多い、チームで作業していない

→ 監督性が弱まり、指示が通らなくなる。

(3)注意すると“報復リスク”を恐れてしまう

・本人が仕事を止めると現場全体が止まる
・他スタッフを味方につけている、全員で辞めると示唆
・職場で悪口や反発が広がる、指導者側にも強く言えない事情がある

(4)指揮命令系統が曖昧

・社長/院長/所長が現場を兼務
・責任範囲が不明確、リーダーの不在、マニュアル未作成
・指示が場当たりで一貫性に欠ける、トップが注意しない

(5)縁故採用・身内採用の難しさ

・辞めさせづらい、縁故者への配慮
・強く注意できない、トップが注意しない(二代目など)

これらは小規模事業者ほど顕著に現れる問題です。


4.放置すると必ず悪化する理由

●悪影響は“優秀人材の流出”から始まる

改善しない部下は残り、誠実に働くスタッフほど「やってられない」と辞めていきます。優秀な人材ほど人間関係に敏感なため、心理的安全性の低い職場は長くは選ばれません。

●業務の質が低下し、顧客離れが起きる

クレーム数は上司の自覚よりも先に増加します。Googleマップや転職サイトへの口コミ投稿などされると、売上に悪影響を及ぼします。

●組織が“無法地帯化”する

・注意しても意味がない
・誰も言わなくなる
・やったもん勝ちになる

→ ここまで来ると事業維持は困難で、法人であれば倒産リスクが高まります。士業事務所なら所長ひとり時代に戻ればよいという考え方もありますが、事業は不可逆で昔の気楽なひとり事務所時代には戻れません。小規模組織では1人が悪いだけで全体が崩れるため、早期対応が必須です。


5.“ナメられない組織”へ立て直す実務ステップ(5段階)


STEP1:業務の棚卸し(ブラックボックスの透明化)

まず最初に、本人に「自分の業務を書き出させる」ことが重要です。こうした業務の書き出し作業は、一般的な企業でも通常行われており、何ら不自然な業務命令ではありません。

・毎日のルーティン業務・利用ツール(Excel・Word)・保管場所
・自分しかやっていない仕事、自分だけしかできない仕事
・通常の作業手順、自分で考えた作業手順
・業務関係者・連絡方法・連絡時の注意点

可視化すると、

●依存している業務
●業務の偏り

が明らかになっていきます。小規模事業者はまず属人化を見直さない限り、なかなか変わることはできません。


STEP2:業務マニュアル化(本人に作成させる)

業務の棚卸情報をもとに本人に業務マニュアルを作成させます。業務マニュアル作成も多くの組織で通常行われている業務であり、マニュアル作成を業務として命じることは一般的な組織運用です。マニュアル化ができあがると、

・情報が上司に移転・共有化する
・業務内容の透明度が上がる、不正のリスクが下がる
・属人化が薄まり本人もプレッシャーが軽くなる
・サボれなくなる一方で、勤怠が明確になり休暇を取得しやすくなる

「替えがきかない個人の強さ」が消えると、態度が柔和に変わっていくことも多くあります。


STEP3:複数人での分担(属人化の分散)

・重要作業のラベル化、Wチェックポイントと役割の整備
・業務共有化、トラブル・ミス発生時のリカバリー方法を共有
・引き継ぎ資料の作成、マニュアルの精度向上
・チーム型運用の導入、休暇取得、業務標準化

独占業務がなくなると、“ナメられる構造”そのものが消えていきます。零細企業になるほど「有給休暇は取得できない」ことが多く、チーム化することで本人の業務負担も軽減し休暇が取得しやすくなるメリットもあります。

業務分担(チーム制導入)による個人のメリット

○休暇が取得しやすい(有給消化率の向上)

○悪いことをしなくなる(魔が差さない)

○チームプレイで人格が磨かれる

○評価制度が導入しやすくなる

○賃金制度の公平性・納得性が高まる

↑ つまり、ここまでくると副次的な効果として「組織運営が改善される→サービス品質が向上し経営が安定化する→利益分配により定着率が高まる」好循環になります。


STEP4:段階的な注意・指導・記録

小規模事業者ほど、ここが曖昧になっています。

順番としては、

1)口頭注意(事実・期待)
2)繰り返す場合は文書指導
3)改善フローの提示
4)評価制度との連動
5)配置転換の検討
6)就業規則上の正式手順へ

※感情で注意するのではなく、記録と手続きが重要です。チーム制となっていればすでに懲戒処分実務に至る必要もなく、軽い注意程度で改善が期待できます。


STEP5:改善しない場合の最終対応(退職・処分の検討)

どのような組織でも、どうしても行動が変わらない「問題社員」が生まれてしまうことがあります。もちろん処分ありきでの指導は危険ですが、次の条件が整っていれば適切な判断が可能です。

・合理的理由
・指導の記録
・改善機会の付与
・説明責任
・業務支障の明確化

STEP5の段階になると判断が大きなリスクを伴うため慎重な検討が必要です。必要に応じて顧問弁護士・顧問社労士の支援を得ることが推奨されます。


6.“ナメられない上司”に共通する3つの原則

① 指示が明確

「しっかり」「早めに」「ちゃんと」「普通に」などの曖昧語を使わない。「何を、いつまでに、どこまでの完成度で、誰に、どの方法で」と指示が具体的。

② 線引きが見える

・作業の期限
・完成度のめやす・基準
・仕事の理由・役割の説明

が明確だと部下の納得度が高まり、反発(ナメた態度)が出にくくなる。

③ 淡々と手続きで進める

感情的な注意ではなく

事実 → 影響 → 期待 → 支援 → 記録

の流れで進める。業務進行手順にブレが無い。


7.業種別アラート(よく起こりやすい問題)

●士業事務所(税理士/社労士/司法書士)

・専門性が高く属人化しやすい
・若手社員への期待値が高くついていけない(無断欠勤・離職が多い)
・顧客情報の漏えいリスク・納期超過リスクが繁忙期に同時発生

●クリニック・薬局

・資格格差による指揮命令の難しさ・院長のマネジメントへの無関心
・接遇悪化が顧客離れにつながる(治る期待で来院)
・医療安全上のリスクが高い、「この業界は仕方がない」のあきらめ

●飲食店

・MEOの依存性・SNS炎上リスク
・態度問題が顧客体験に直結
・若年スタッフの反発が放置されがち

※MEO(Map Engine Optimization)とは、Googleマップに表示される店舗評価を最適化するマーケティング施策のこと。MEOとは?Googleマップ対策の必要性と正しい実践法

●物流・小売

・時間制約の中でトラブルが起きやすい
・遅刻・欠勤が全体に波及しやすい
・慢性的な人手不足業界で「社員の立場が強い」が常識


8.最終的に必要なのは「強い個人」ではなく「強い仕組み」

ナメられない上司とは、声が大きい上司でも、威圧的な上司でも、カリスマ性を備えた経営者でもありません。

“仕組み”と“透明化”で組織の主導権を取り戻す上司のことです。

以下の3つが整えば、誰でも“ナメられない”状態を作れます。

1)業務の可視化
2)属人化の解消
3)手続きに基づく指導と線引き

小規模事業者こそ、「強い個人」ではなく「強い仕組み」が必要です。


関連サービス

【全国対応・66,000円~】パワハラ・カスハラ防止研修|管理職・一般職向けコンプライアンス研修

▶ 問題社員対応マニュアル|就業規則・懲戒処分・SNS炎上対策まで解説

外部ハラスメント相談窓口(月額5,500円〜)

業務棚卸し・マニュアル作成代行サービス

▶従業員を辞めさせたい!問題社員・パワハラ上司を解雇する条件と法律リスク


FAQ

Q.厳しくしたら辞めてしまいませんか?
→ 手続きに沿った注意は“厳しさ”ではなく“業務管理”です。厳しいかどうかは主観ではなく、組織運営の客観性で判断が必要です。

Q.縁故採用でも対応できますか?
→ 記録・手続き・業務透明化で対応可能です。縁故採用・二代目を甘やかすと他社員の不満が高まり、組織の成長が止まります。

Q.退職勧奨との線引きは?
→ 改善機会を与えた上で、合理的理由が必要です。


ご相談・お問い合わせ

替えのきかない現場こそ、“ナメられない仕組み化”が組織を守ります。

当事務所は組織全般の改善に向けて、研修実施・マニュアル作成・外部相談窓口担当など様々な施策で中小企業を支援します。3~12ヶ月のプロジェクト参加・短期契約顧問も承っております。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

【お問い合わせフォームへ】


法令注記/免責事項

本ガイドは現行法令・指針を考慮していますが、特定事案の適法性判断を行うものではありません。
具体的なケースは顧問社労士・弁護士等への確認を推奨します。


関連ページ(こちらも読まれています)

▶【2026年版】“辞められると困る部下”が反発・無視・指示拒否をするときの実務ガイド

▶【2026年版】注意の伝え方・部下指導の基本|相手を傷つけず改善を促す技術

▶リーダーシップ教育と心理的マネジメント理論|人事労務と心理学で読み解く“上司が育つ仕組み”

▶【2026年版】報連相しない部下への指導法|黙る・共有しない社員の実務対応ガイド