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採用難の解消にはまず定着管理(リテンション・マネジメント)から
2020/01/22
中小企業の経営者や管理職者は皆、口をそろえて人材不足と言いますが、どうすれば採用できるか以前の問題として、「定着管理(リテンション・マネジメント)」の視点が抜け落ちている方が多いように感じます。
穴の開いたバケツにたとえられますが、離職の高い企業がいくら新入社員や中途採用を雇用したところで、流出を止めなければいつまでたっても人手不足は改善されません。ほんの10年前までは応募をかければ穴の開いたバケツでもいくらでも応募者のあった時代がありましたが、長引く少子高齢化による生産年齢人口の減少によって「補充すればいくらでも働き手はある」と考える人はほどんどいませんが、それでも今までやってこれたので何とかなるという淡い期待はなかなか払拭できません。今いる従業員たちは限界まで疲労している、もしくは、今いる従業員は既に退職を決意しているかもしれない、、にもかかわらず。
定着率を改善すべきと言えば待遇の改善から賃金を上げることを想起し、すぐに無理だろうとあきらめてしまいがちですが、定着率の改善は賃金を上げることだけでは無く、賃金待遇の改善は数ある手段の一つにすぎません。現に、「高収入」をアピールする求人票が年中広告されています。高収入でなければ生活できない人も多くいますが、高収入よりも仕事のやりがいや、自分の能力を活かすために専門分野の仕事を選ぶ方も沢山います。つまり、賃金以外で自社の待遇を改善べき点は無いかいう観点で定着管理を実践していく必要があります。賃金を上げればいい人材が集まるというのは幻想であることは、人事を多く経験していれば理解できます。
1.評価方法の見直し
企業に勤める以上は自分が「誰に」評価されるのか、人事権はだれが握っているのかは関心を持たざるを得ません。中小企業では社長が全ての評価を決定しているところがほとんどですが、全てを社長が決定している企業では公平に評価されていると印象付けることは難しいでしょう。どのような評価を行ったとしても、「社長に可愛がられている」、「評価制度が不明確」の声は必ず発生します。人事評価制度に好き嫌いを持ち込むことは集団である以上やむを得ず批判しませんが、個々の労働者からすればやはり他人より高く評価されたいと思うのは自然なことです。評価制度に完璧なものは存在しませんが、公平な制度か何度も繰り返し問い、改善し、企業独自で作っていく必要があります。我々社労士の中でも評価制度が定着管理で最も重要であると指南されている方も多くいます。社長や上司からは公平な評価制度と思っていても、従業員から見ると好き嫌いの評価制度と感じていることは往々にしてあります。人事評価制度は「評価者の訓練」と「評価制度の公開」が必要です。
1.心理的安全性の高い職場!?
グーグル社が「心理的安全性の高い職場はパフォーマンスが高い」とする研究結果を2015年に発表し、多くの企業に注目され、影響を与えています。
心理的安全性とは、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。心理的安全性の高い企業ではメンバーが互いに協力しあい、お互いが認め合い、必要とされていると実感することでしょう。それは定着率にも直結することであり、逆に考えれば、心理的不安のある職場はパフォーマンスが低く、ストレスを感じ、離職につながることが想像できます。
それらは私たち経営者が期待する仕事の質「QOW(quality of work)」の向上や、従業員のメンタルケア、自然な「報・連・相」や業務の引継ぎ、トラブルの事前察知にも大きく影響することです。中小企業では社長一人の決定でどんどん事業を進めていくことも必要ですが、一方で、あまりにも速度が速いと恐怖を感じる従業員も増えます。事業の規模を追いすぎると現場がついていけずに失敗した例は多くの先駆者が実践してくれています。一度立ち止まり、従業員が危険を感じているかどうかを自然な対話で発見していくことも必要です。かしこまった狭い個室の面談やアンケートでは「本当のこと」はわかりません。従業員と目線を併せ、リラックスできる場を与え、自然な世間話の中からくみ取ることが必要です。経営は重責ですが、頑張りすぎても従業員はついてこれません。
(参照:Google re:Work「効果的なチームとは何か」を知る)
1.キャリアパスと働き方の選択
従業員は目先のことだけで働いているわけではありません。優秀な人材は将来目指す自分自身をしっかりと考えています。スキルが向上した場合の昇進・昇給など職位の区分やキャリアパスとして将来実現可能なポスト、取得できる技能、経験できる職務など、具体的なキャリアアップを可能な限り提示する必要があります。ジョブディスクリプション(職務記述書)を作成するなど、具体的な職務の区分を明記したものを準備したり、昇格するための基準を簡単でもよいので用意する必要があります。接待交際費などの経費利用に一定の自由な権限を与えるなどするのも効果的です。また、働き方の選択肢を広げることも考慮しなければなりません。出産や育児、介護の他、自分のやりたいことが見つかった場合にダブルワークや時短勤務を認めない社風など、フルタイム以外の働き方しか用意されていない職場ではフルタイムで働けなくなった場合には退職の一択しかありません。時短勤務を認めたり、一定期間の休職を認めるなど、事前に選択肢を用意しておけば、従業員の選択肢が広がり、貴重な人材の離職をとどまらせることができる場合があります。高額な採用費と教育費を投下した従業員が離職することを思えば、選択肢を広げることもやむを得ないのではないでしょうか。
1.教育訓練・能力開発への取組
新入社員から管理職者まで、本人の習熟度に応じた研修など教育訓練を実施している中小企業は極めて稀です。社内の上司が訓練している「つもり」になっている企業も多くありますが、教育するための教育を受けていない上司が部下を教育することは逆効果になることがあります。業務で身に着けるべき技術はOJTでも十分かもしれませんが、ビジネスマナーなどは誤った指導を行っていることも多くあります。管理職者に対するハラスメント研修など、自社で対応できる講師がいない場合には外部専門家を招いて研修することは印象もよく効果的です。外部講師を招くと高額になるイメージがありますが、最近は比較的安価で対応してくれる先生も多くいるため、一度近くの専門家を探して問い合わせしてみると快く応じてくれる方も沢山います。
1.適切でも法律違反を疑われる
ほとんどの労働者は労働関連法に詳しくありません。有給休暇の取得や時間外労働、同一労働同同一賃金にしても、詳しく他人に説明できる人は社内にいるでしょうか。社会保険料や所得税等で自分の給料がどれくらい控除されているか説明できる人もほとんどいません。知らないのは従業員個人が悪いと考えることもできますが、自社の従業員の教育は企業の責任とも言えます。「新入社員と手取り額が変わらない(新入社員は特別徴収されていない)」、「聞いていた賞与が少なくなっている(社会保険料が控除されている)」、「電車の遅延なのに遅刻扱いされた(電車の遅刻は会社に関係ない)」などは、住民税の特別徴収や社会保険料を理解していないことも多く、またノーワークノーペイが理解できていないことによる「逆恨み」のケースも多くあります。業務上の線引きが極めて難しいハラスメントの問題も、人を管理する立場になったことの無い経験の浅い層に必要以上に騒がれて対処しきれなくなった会社もあります。
従業員が「納得して働く」ためには、従業員が不思議に思ったことに対して説明できる十分な知識を備えておかなければなりません。また、中小企業であれば大なり小なり叩けば法律違反のホコリが出ますが、発覚した時には速やかに是正していく姿勢が必要です。長時間労働が慢性化している職場で、明日から残業ゼロは無理ですが、期限と目標数値を定めて是正に取りくめば、多くの社員たちは納得します。
1.会社と従業員の間に信頼関係が成立している
従業員定着率の高い職場にするためには、会社と従業員の信頼関係が成り立っていることは必須ともいえます。それは福利厚生制度や評価制度やハラスメントの排除など、様々な要因の組み合わせによって個々が感じるものではありますが、企業側の取組としては情報が正しく公開されていることが重要です。経営者は経営者なりの苦しみがありますが、そこに胡坐をかいて従業員を冷遇しているだけでなく、社長は毎日高級クラブで飲み歩いているのに従業員の給与は何年も薄給が同じまま、営業成績など経営の責任を従業員に押し付けるなど、働く人たちがどう感じるかの配慮に欠ける行動をとるような企業体質は隅々まで伝染し、寛大さの無い組織ではかなか信頼関係は構築できません。社長は別格であることを体現することは勝手ですが、自分が働く側になったときにどのように感じるか。という視点が大きくずれているような経営者の場合には特に従業員定着率が低く、人材不足に陥っています。経営者目線の押し付けなども人によっては迷惑な話で、経営者の全ての行為は信頼関係の基礎があって初めて正当化されるものです。
おわりに
「どうすれば採用できるか」を考えるときは、まず「どうすれば従業員は定着するか」から考えなければなりません。個々の従業員が集まり、チームとして最高のパフォーマンスを発揮できる職場は生産性が高く、また新しいアイデアが生まれやすいとグーグルの人事研究は指摘しています。求人に応募が集まらないと思ったら、自社の労働環境を一度客観的に見渡してみませんか。
採用・人材定着のご相談なら当事務所まで
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