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中小企業はなぜ従業員第一主義を宣言できないのか

2019/12/18

10日に放送された『ガイアの夜明け(テレビ東京系)』で外食チェーン大戸屋の長時間労働の実態が特集され、社長の対応や労務管理に批判が集まり炎上したことから、会社は謝罪に近いコメントを発表するまでに至る事態となっています。

最近は特に労働関連の話題がニュースで報道される機会が多く、また各地で労働局等が主催するセミナーは常に満員、労働者だけでなく経営者や管理職者まで、働くことに関連するすべての人が関心を持っていることがうかがえます。

確かに、最近は「ブラックバイト」、「モンスター社員やモンスター上司」、「飲み会スルー」など、興味をひくようなわかりやすい標語によって企業と従業員が対立する構造の話題が多くなっています。

○法律の厳格化が軋轢を表面化しているのではないか

時間外労働の上限規制やハラスメント防止措置が義務付けられた働き方改革関連法の施行・改正によって「法律違反=ブラック企業」とラベリングしやすくなったことが従業員と会社の軋轢を助長しているのではないかとも考えられます。ほんの10年前まではワークライフバランスや勤務間インターバル、健康経営などという考え方を持った職業人は極めて稀で、学者や先進的な経営者だけが扱う言葉でした。昭和22年に制定された労働基準法も昭和63年の改定まで実に40年以上、一日8時間、一週48時間と規制していたため、時代の流れとともに労働意識が変遷してきたことは改正後に社会に出た世代と「当たり前」の基準が違うのかもしれません。

本来あらゆる集団にはその目的があり、ビジネスにおける企業という組織体では第三者へ付加価値を提供することによって得た利益を再投資することで「組織を維持し続けること」という普遍的な同じ目標に向けて集まっているはずです。

同じ目的で集まった集団でこれだけ対立するのは、やはりどこかに不公平感や不納得があり、私たち経営者の思想に問題があると考える時期に来ているのかもしれません。これだけ非難されるブラック企業の対極にある、ホワイト企業が唱える「従業員第一主義(従業員ファースト)」を考えてみましょう。

従業員第一主義(従業員ファースト)とは

従業員とは、業務に従事する人員の全てを指し、正社員もパートもアルバイトも派遣社員も経営者を除いたすべてを含めます(辞めた人は元従業員ですので含めません)。そして主義とは行動上の方針であり、目的や手段とは一線を画すものです。従業員第一とは、従業員のことを優先して考えることであり、顧客を疎かにすることではありません。顧客サービスを提供するのは従業員であり、顧客第一主義のためには従業員第一主義でなければ実現しません。量から質を求められる時代に変化しつつある中で、やはり従業員の質は「精神的に満たされていること」であり、失礼な表現になりますが上質な従業員からは上質なサービスが提供される相関関係はエビデンス不要の自然な考え方でしょう。当方の考え方では従業員第一主義と顧客第一主義は一体であり、「株主第一主義」やその他を含めても決して一方を選択するトレードオフの関係にあるものではないと理解していますが、中小企業では「当社は従業員第一主義」を公言する会社はまだ少数派です。なぜ従業員第一主義はなぜこんなにも公言をはばかられるのでしょうか。

従業員第一主義のメリット

求人への応募が増える

求職者のほとんどが求めるのはまず、顧客ではなく自分のことが先です。自分を酷使されてまで他者のために尽くし続けたい人は極めて稀で、それならば会社には勤務せずに他をあたります。「お客様の幸せは私の幸せです。」というのは経営者だけで、「幸せな私たちはお客様を幸せにできる会社です。」という方が応募先として選ばれやすい標語でしょう。応募が増えることに異論はないですね。

社員の定着率が改善する?

従業員たちは何をモチベーションにして会社に勤務し、何に失望して離職していくのでしょうか。定着率と従業員満足度は一致しますが、従業員第一主義が従業員満足度につながらないことは往々にしてあります。従業員は愛する家族と同じと言いながら超時間労働とパワハラ、平気で解雇する会社はよくありますし、従業員を愛しているのに従業員からは愛されていない切ない片想い企業もあります。逆なら最高ですが、そうならないためにも経営者独りよがりの従業員第一主義とならないように肝に銘じたいところです。

社内トラブルが減少する

セクハラ、マタハラに続き、パワハラ防止措置が2020年6月(中小企業は2022年)から法制化され、義務を怠った企業は安全配慮義務違反を問われやすくなります。社内トラブルは上司部下、同僚など、職域を超えて袖が触れ合う距離にいれば発生するものですが、従業員と会社が両想いの会社であればある程度許される場合があり、仲違いの場合には些細なことが大きなトラブルとなります。コンプライアンスに抵触するような問題を許すことはできませんが、実務の現場では同じ内容でも相手によることがあります。企業経営で失敗はつきものですが、日ごろから従業員を大切にし、敬意を払っている人間が犯したミスと、そうでない人間のミスでは大きく結果は変わります。トラブルの未然防止は当然ですが、発覚した時の対応がスムーズに、円満に解決できるように、従業員との信頼関係を構築するために従業員第一主義は利用できそうです。つまり、従業員第一主義はリスク対策である。ともいえます。

IPO審査要件

ここ10年間で上場審査時要件の労務管理事項が一気に増加しました。サービス残業が疑われる制度の事業所は上場することはできなくなっており、これからIPOを目指す企業としては労働問題も徹底的に漂白しておかなければなりません。労働関連法律の多くはまず先に制定されたわけではなく、過去の失敗の教訓を生かして法整備されたものばかりです。これを叡智と呼ぶのだと思いますが、失敗を繰り返さないために制定された労働関連法律を無視する会社は公共性があるとは言えないため、少なくとも資本主義経済の中心である株式市場では門前払いし、また出て行ってもらうのが証券取引所の露骨な方針なのです。「従業員第一主義=労働関連法律を遵守する企業」と想起しやすいため、従業員第一主義は法律を守る会社なんだなぁとイメージされますが、IPOはイメージではなく本当に守っていないと弾かれます。

従業員第一主義のデメリット

顧客離れの心配

顧客からすれば、顧客のことを第一に考えてくれる企業であることが良いのは当然です。従業員第一主義と書かれた商品と、顧客第一主義と書かれた商品を並べてどちらが販売数を伸ばすか社会実験したいところですが、私たちのビジネスは商品が手元に届かなければ何の価値もありません。私見ですが、私個人であれば、従業員を大切にする会社のサービスが「同価格」ならば従業員第一主義のサービスを迷いなく選びますが、皆様はどちらを選ぶでしょうか。リッツカールトンやスターバックスやサウスウエスト航空、国内であれば日本レーザーや日本ガイシのように従業員第一主義を掲げる偉大なるパイセン企業は何のために主義を掲げているのでしょうか。それは、「サービス」や「快適さ」、「楽しい」という指数化できないもの、かつては無価値と扱われたことに価値をつけ利益を最大化するため、と言ってしまえば元も子もありませんが、本来経営はそういうものであります。会社という小さな組織内であれば従業員第一主義は当然の考え方ですが、こと市場に認知された際にその商品が売れるかどうか、合成の誤謬が無いかどうか、ビジネスで心配なのは『儲かるかどうか』その一点に尽きるのです。結局は損得勘定かよ、と言われればその通りですが、希望のある損得勘定だと反論したいですね。詭弁ですが。

株主の批判

バブル崩壊後から会社は短期的な株主の利益に振り回されてきた時代が長く続きました。しかし近年は、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード(伊藤レポート)が多く読まれ、またSDGsもそこそこ普及したことで企業価値は中長期的に「持続的成長可能な」ビジネスや思想が好まれており、「従業員を無視した経営」は持続不可能と判断される傾向にあります。それは、従業員や社員を冷遇する報道で株価が下がることからも一定の地位を得ていると解してよいかもしれません。従業員第一主義の推進を株主総会で発表した会社もありますが、大きな批判(代表訴訟)などへ発展するまでも無く自然な流れとして寛大に受け止められます。寛大ということは、株主からするとリターン(見返り)があると判断されているのでしょう。株式会社は株主の意向に左右されるため当然ですが、従業員第一主義の潮流は多くの投資家たちがたくさん損してくれた泪が源流なのかもしれません。

コスト肥大の心配

従業員第一主義にはコストがかかると言う経営者もいます。確かに、利益の再分配比率に従業員を組み込むことは利益を減らすことや、経営者の私腹を細らせることや、設備投資を躊躇してしまう要因にもなるかもしれません。従業員第一主義を考えるときは、そうでなかった時のコストと比較すると比較的受け入れやすくなります。ビジネスに「もしも」はありませんが、従業員をモノや部品のように扱った時と、人として敬意をもって接した時の違いはどうでしょうか。従業員のモチベーションが業績に与える影響は業種業態でそれぞれ違いますが、例えば一名採用するために支払う経費と比較しても上回るほどのコストかどうか。そんなことも経営は想定しなければなりません。

おわりに

未来の経営を成功に導く方法はだれにもわかりませんが、過去の経営の失敗は勇気ある先人たちのおかげで多くの情報を取得することができます。少なくとも、従業員を大切にしなかった場合には経営は失敗すると結論付けてもよいように思える今日この頃。短期的なキャッシュの問題など、日々の苦労や迷いが絶えることのない中小企業経営ですが、中長期的に見れば「従業員第一主義」へ少しでも近づけていくことが社会的に求められる組織のあるべき姿と感じます。当事務所は引き続き創業以来の自社従業員第一主義と併せて、顧客企業の従業員を大切にするためのサポートを続けてまいります。

 

わたしたちのしごと

 

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