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従業員の手取り額を増やしたい!事業主が検討する方法

2019/06/14

従業員の手取り額を何とか増やしたい

最も影響の大きいはずの会社員の関心はいまいちの気もするが、経営者にとっても看過できない社会保険料の負担は過去最高の18%に達し、健康保険料等を含めると給与の3割近くを会社と社員とで仲良く半分ずつ負担している。社会保険事務所の未加入事業所調査は強化され、要件に該当すれば否応なく口座振替されていく社会保険料、小規模事業者や中小企業にとっては事業の継続すらままならないほどの負担で、切実な思いを訴えてくる事業主も多い。

これでは正社員採用に躊躇し、企業はパート採用ばかりになる。総実労働時間は1,700時間との統計を鵜呑みにし、労働者の長時間労働は働き方改革で短縮されていると信じている人がいるが、実はパート労働者等の時短勤務者の労働時間も併せて計算されており、フルタイム正社員の総実労働時間だけを抽出すると10年前と同じ2,000時間以上のまま横ばいに高止まりしている。しかも事業主への問い合わせのためサービス残業は除外されており、実態に合致しているかわからない。しかし労働基準法改正による労働時間制限の強化とブラック企業の烙印、社会保険料負担を忌避した事業主は社会保険の適用外となるパート採用を増やし、どんどん偽りの働き方改革は進んでいく。正社員より、パート採用のほうがコスト的には安上がりなのは事実だ。

しかし正社員雇用や事実上のベースアップをあきらめるのはまだ早い。

社会保険料も所得税も、給与を基準とした比率で算定されており、給与とならない方法で合法的に従業員に支給する唯一で最大の抵抗がまだ残されている。福利厚生制度だ。国民皆保険、年金制度は世代間扶養につき損得で論じることは適切ではないと口酸っぱく教えられたが、高い社会保険料を払えば、高い年金を受け取れるのか。そこが疑わしいのだ。サラリーマンも、事業主にとっても死活問題。今を乗り越えずして将来など存在しない。

今こそ給与扱いされない現物給付によって従業員の可処分所得(手取り収入)を増やすことに知恵を絞らなければならない。大企業では当然のように福利厚生制度が充実しており、それはまるでお金がたくさんあるから実施していると一般人は認識しているかもしれないが、それは違う。大企業も、中小企業も、零細企業も同じように社会保険料、納税の義務があり、お金があるから実施しているのではなく、実施しているからお金がある。

人手不足倒産に抗うためには、勇気をもって従業員を雇用して行くしかない。そして中小企業事業主たちもそろそろ本気で福利厚生制度拡充に取り組まなければ、大切な従業員達を預かる会社自体を失いかねない時代に来ている。現に、社会保険料を納付出来ずに店舗等の財産を差し押さえされ、事業活動の息の根を止められた事業主が多数いる。義務とはいえ、震災やリーマンショックなどのあおりを受けて事業活動停止を余儀なくされ、容赦ない社会保険料の重い負担にとどめを刺された事業主に、支払わない事業主の自己責任だと言うのはあまりに残酷だ。

ここからは、従業員に高い給与を払う前に、福利厚生制度を充実させ、報酬とみなされない現物支給で可処分所得を増大する方法を検討する。大企業では当然に行われていることが、中小企業にできないはずがない。できる限り控除額を減らして従業員に自由になる金を残してやることも、事業主の責務だ。

最強の福利厚生制度と呼び声高い借上げ社宅制度の導入を目指して、少しずつ福利厚生制度は拡充していき、従業員の感触を確かめながら一歩ずつ進めていくことが必要だ。効果の高い福利厚生制度は、失敗と判断したとき廃止する際に相当な労力、手続き、コストを要するため、費用負担も軽く、導入も簡単なら廃止も簡単な方法から始めるとよい。従業員の私生活に重要な影響を及ぼすような福利厚生制度は事業主の一方的な廃止はできない。慎重に、よく検討しながら、複数の専門家と協議し、実施することを前提とした前向きな協議を進めてもらいたい。

飲食費の負担

まずはここから始める。こんなものは簡単だ。すべての従業員が公平に受益できるものであれば、軽飲食などはなんでも会社の経費で処理できるし、夜の飲食代も社長が使っているのと同様に、従業員にも利用させ交際費や会議費として計上すれば何ら指摘されることはない。そして、簡単なだけあって突然使わせないことも何ら問題ない。食事関連はわかりやすいため極めて効果が高い。つまり、安い費用で喜んでくれる可能性がある。コスパの高い施策と言える。

実費交通費の支給

税法上は実費交通費は給与扱いされないが、社会保険法上は給与扱いとなり標準報酬等級算定時に含めなければならない。それは通勤には生活の一部生活も含まれているという理屈だ。よくわからない理屈だが法律なので仕方がない。ちなみに一律支給するような通勤手当の場合は税法上も実費交通費部分を除き給与扱いとなる。報酬扱いされる手当ははじめのうちからできるだけ支給しないことも後のためだ。残念ながら、実費交通費の支給は社会保険法上大して効果がないかもしれない。かといって今どき通勤交通実費を渋る会社では恰好がつかない。何かいい方法はないものか。あるかもね。

携帯の支給

営業職以外でも、従業員間の連絡方法で使用したり、アプリを使って仕事をしている体裁を整えておけば会社で経費計上できるが、会社支給の携帯電話は退職時に番号ポータビリティなどで使い続けることはできない。名義が変わるからだ。ということは、今持っている分ともう一台増えるだけなので大した効果はなさそうだ。今やすべての日本国民が支払っている携帯電話代も会社で負担してくれればいいが、なんだか休日に電話してきたりプライベートに関与されそうで嫌な人もいる。しかし検討は必要だ。

(先日2年縛りの違約金上限を1,000円とするニュースがありましたので、今後転職の度に番号が変わる人たちも増えると思います)

➡社員の個人スマホを会社名義に変更する時の規定作成ポイント

福利厚生サービスに加入する

様々な特典を集めた福利厚生サービスが人気を集めている。加盟社数は年々増加し一大産業となっている。ポイント利用によって好きなサービスを利用できるところが魅力的で、お歳暮のようなギフト、旅館やテーマパークの割引券、ジムやゴルフ場やカラオケ施設、有名レストランの会員特典など様々でお得な気がする。がしかし、なくても困らないものばかりで魅力を感じないのは私だけだろうか。日々の生活や将来設計に必要な補助ではなく、浪費を補助しているだけのように感じるが・・・。ワークライフバランスをアピールするならば単に会社の休日を増やせばいいだけだと思うのは余りにもひねくれすぎなのだろうか。しかし人気なのは違いない。

ストック・オプションの実施

ストックオプションは権利であり給与として扱わないこととされており、中小企業でもストックオプション制度を実施している会社は確かに存在する。会社にとってはキャッシュを減らさずインセンティブを与えることができ、従業員のモチベーション向上には効果的といわれ金は無いが上場に意欲的で鼻息荒いテック系ベンチャー企業などは積極的に活用している。事業拡大し上場した際の従業員の還元は計り知れないが、順風を約束された事業など存在しない。経営状況や従業員間の不公平、また権利行使後にすぐ辞めてしまえばなんだか悲しくなるので長期的視野で検討が必要だ。導入には公認会計士や税理士等専門家の意見を聞き、事業に関連する各法律との適合性の調整が必要なため時間の無い経営者に扱いは難しい。ちなみに上場株式の売却益(キャピタルゲイン)は所得なのに2割しか課税されない。2割を高いと思った会社員は、自分の給与明細をもう一度見直してみよう。

借り上げ社宅制度を導入

最強の福利厚生と名高い社宅制度。社有タイプと借上げタイプがあるが、現在のトレンドは借上げタイプ。社内の作業増加や退職時に退去しなければならないなどのデメリットを補っても余りある社宅制度。社宅制度が最強で、これ以上に効果的な方法はいまだ発見されていないとはいささか私見。

会社の用意した住居に、会社名義で契約し、従業員に賃貸料相当額(賃料ではない)の50%以上を負担させることによって税法上社宅は給与として課税されなくなるが、労働保険(労働基準法)、社会保険法上にも現物支給の標準価格部分は給与とみなされるルールがあり、税法上の賃貸料相当額とは計算方法が異なる。固定資産税評価証明の取得、図面から対象畳数を確認し、難しい計算方法を算出する仕事を請け負ったことがあるが、あまり深く気にする必要はない。役員社宅を除き、一般従業員の社宅はプール計算(全部まとめて平均的に適切であればOK)が認められており、契約家賃の15%程度以上を社員から社宅使用料として徴収していれば課税関係は生じず、社会保険料の影響もなく各法上において結果的に給与扱いされない。10%でもいけるという専門家も存在するが、ちょっと不安なので15%以上にしておこう。というか、10%だけ自己負担はお得すぎて法律が許しても許せない気もする。

個人契約で入居する社員を借上社宅契約に変更してみれば、住宅手当、会社負担賃料部分を給与カットしても可処分所得は必ず増加する。会社側も必ず経費削減できる。しかし当然デメリットも存在する。会社契約に伴う責任と事務作業の増加だ。新規契約手続きや賃料支払データの更新、解約精算業務や支払調書作成など、確かに面倒な事務が発生するが一度マニュアル化してしまえばそんなに難しい作業ではない。マニュアル化できない作業が問題だ。

たとえば先にも述べた退職時の退去の場合、そのまま住み続けたくても名義が変わるため車の名義変更のように安い手数料で簡単に完結しない。実務上は法人契約の解約と、個人契約の新規契約がバトンで発生し、新規契約には初期費用がかかる。貸主の考え方によって数万円から数十万円程度まで費用に大きな差がつくが、敷金の扱いについてもいったん精算するのか、会社と元従業員間で処理した覚書を締結し持ち回り処理(敷金返還権の譲渡)するのか素人では扱えない問題がある。退職者には権利譲渡などせずきれいさっぱり精算する事が望ましいが、費用発生で社員に泣きつかれたり、原状回復義務の扱いで簡単に進まないことがあるため交渉力が必要な作業だ。

また、借家法上の保護対象者たり得るか問題もある。退職や死亡した従業員の家族、会社に退去を命じられた際に、何らかの理由で退去できないこともよくある。この際に住む権利は保護されるかという問題である。過去の判例による通説では相当の自己負担をしていない場合は保護の対象とされず、ラインは賃料の5割と言われている。しかし死亡した従業員の家族を追い出すことには法と情の間で揺れ動くこともあるため、制度は厳しく、実務上は慈悲のある度量も必要だ。

これだけ従業員の生活に影響の大きな福利厚生制度を導入すると今度は縮小や廃止する事が難しい。合理性の無い不利益変更と判定されれば変更自体が無効となってしまうため、制度設計は大風呂敷を広げることなく慎重に検討する必要があるが社員たちは喜んでくれるに違いない。

事業主は給与を支払いたくないわけではない。給与支払いに付随する社会保険料等負担が重すぎて躊躇しているだけだと信じたい。そして、その躊躇に解決方法はある。社員に給与を支払うな。福利厚生を充実させるのだ。

 

 

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