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これってハラスメント?アウトかセーフか最新の判定ラインを知りたい!

2022/08/10

改正労働施策総合推進法の施行や連日のハラスメント関連報道に相まって、企業のハラスメントの関心が高まっています。

近年はセクハラ事件を争った重要判例として海遊館事件(最高裁平成27年2月26日)、イビデン事件(最高裁平成30年2月15日)のような最高裁判決のほか、マタハラ訴訟で初めて最高裁まで争った事例(H保険生協事件平成26年10月23日)、その他地方審においても多くのハラスメント関連判決が蓄積され、少し前まではセーフと言われていたものであっても今はアウトと解釈される例も増えており、職場でのコンプライアンス担当者は頭を悩ませています。ハラスメントはグレーであり、白黒判定は背景や時系列を良く考慮しなければならず一概には答えられないとはわかっているものの、皆がそのセーフとアウトのラインについて知りたがっています。実は既に裁判所の認定するハラスメントは皆さまが思っている以上に広く、知識のアップデートができていないまま軽率な発言や行動を行うと自身の処分だけでなく、会社も大きな損害を被るリスクが高まっています。主なハラスメントの類型に関して重要判例を参考に、アウトとなる最新の判定ラインについて学んでいきましょう。

 

1.これってパワハラ??

刑法上の暴行や脅迫、強要はどのようなものであってもパワハラを免れることはできませんが、日常的な発言についてはどうでしょうか。皆様以下のような発言、一度は言ったり言われたりしたことがあるかもしれませんが、どれも裁判ではパワハラと認定されています。

「存在が目障りだ、いるだけでみんなが迷惑している」、「給料泥棒」、「50以上の人がやることじゃない」、「小学生と同じ」、「お願いだから消えてくれ」、「馬鹿かお前は」、「対人恐怖症やろ」、「(役職)失格」、「いてもいなくても同じ」、「辛気臭い奴はいらない」、「使い物にならないやつはいらない」、、、

現在のパワハラと認定される3つの要件について、もう一度確認しましょう。

①優越的な関係に基づき

②業務上必要且つ相当な範囲を超えて

③労働者の就業環境を害すること

とされています(労働政策審議会建議2018年12月14日)。

 

パワハラはセクハラと違って業務上必要な指導や教育として「相当性」の線引きが難しく、また当事者間の私生活の関係も評価されますが、近年の判例では、ハラスメント事件は本人が何も言わなかったり、喜んでいたように見えるような主観ではなく、一般的な労働者の客観的基準によって認定される傾向にあります。

なお、セクハラについては被害者が若年層であったり、職位の差によっては本人の主観によって認定された事例もたくさんあります。

最近はコロナ感染症対策によってリモートワーク、在宅勤務が広まったこともあり、電話やLINEなど外部を遮断した通信手段は「密室」と判定されるおそれがあり、一方では、密室・密談回避のために導入したグループチャットなどオープンな場で叱責すると「晒し」ととられ、ハラスメントを主張されるおそれもあります。

パワハラ発言を判定する際には、その発言がなされた文脈や言い方、その背景も考慮が必要となります。背景とは、

①扱う業務の重要性や緊急性

②当事者間の人間関係(プライベートの交流)

③上司と部下の職位差(社長と平社員など)

④労災認定基準との関連

⑤個人の業務適応性(障害や遂行能力の限界)

などが考えられます。緊急性の背景を考えれば、命を扱う病院や災害時の「早くしろボケ!!!」は許されるかもしれませんが、重要でも緊急でもない業務でこの発言はアウトになります。個人の業務遂行能力の限界についても考慮する必要があります。

「怒る」はアウトで「叱る」はセーフなどと数年前はセミナーでも講師が堂々と話していましたが、今は両方アウトとも言えます。発言後に謝罪などフォローがあったかどうかによっても信頼関係が評価されパワハラが否定されることもあり得ますので、もしも行き過ぎたと思った場合には速やかにフォローすることも必要と考えられます。

 

身だしなみの指導がパワハラになる?

郵便局で髪を伸ばし(いわゆる「ひっつめ髪」)、1センチ程度のあごひげを伸ばした窓口業務担当者に対して、散髪、ひげをそるよう指導するも従わず、「身だしなみ基準」を策定し、窓口業務から夜勤業務などに配置転換したことを不服として起こした裁判では、「顧客に不快感を与えるようなものに限定すべきであり、整えられた調髪やひげは身だしなみ基準に抵触せず、業務を妨げるものではない(要約)」と判示し配置転換や人事評価を違法として慰謝料を認定しました(神戸地判平成22年3月26日)。

この判例では、本人の思想や私生活のスタイルにも触れており、衛生上や対象顧客など、業務に影響が少ない服装について会社が強要することは許されず、思想やファッションも侵害すると違法性を問われることを示しています。ということは、ひげをそろえること、髪は束ねること、ピアスは外すような業務命令は適法と考えられます。ネイルはどうでしょうか。。。

 

他部署の役員はパワハラ行為者にならない?

優越的な関係の有無は、形式的な上司や部下・同僚などの「職務命令系統」がなくてもパワハラに該当することがあります。

例えば、会社の資金調達など重要な業務を任せることを期待され役員となる予定で入社した者が、他部署の一般従業員に対して高圧的な態度で接し、同僚たちがいる前での侮辱的な罵倒やメール送信、業務外の私用の指示などがパワハラであるとして争った事案では、会社は職務権限が無く被害者は抗することができたことを主張しましたが、裁判所は「社内で重要な立場にあると認識されており、指揮命令できる優越的な立場にあったものと認められる」とし、パワハラ行為による不法行為を認定し、慰謝料(200万円)の支払を命じました(東京地判平成25年1月30日)。この裁判例のように、上司・部下の関係になくても社内で重要な立場であると認識されているものからの言動はハラスメントに該当する可能性があります。

 

フリーランス(業務委託)の相手はハラスメントにならない?

自社の従業員ではなく、フリーランスのような業務委託契約の相手方に対しては「嫌ならやめればいいだけ」でハラスメントにならないという論調がありますが、これは大きな間違いです。自社サイトの運営や記事の執筆をフリーランスの女性ライターに依頼していた会社代表者が女性ライターに報酬支払を拒否したり、胸部を見せるよう求めたり、キスを迫るなどしたセクハラ行為について裁判所は『安全配慮義務違反による不法行為』を認定し慰謝料支払いを命じたケースがあります(東京地判令和4年5月25日)。

 

2.これってセクハラ?

セクハラは業務関連性がほとんどないため、全てアウトとして一般的にも厳しく認識しているように思えますが、かつてはセーフと思われていたラインであっても裁判でセクハラが認定されており、以下のような行為はアウトとされる可能性があります。相手が嫌がっていなくてもセクハラと認定され始めており、部下に手を出すときにはあとで訴えられれば勝ち目はないことを覚悟しておく必要があります。

セクハラ認定が強化されうる要素

☑ジーっと見る➡客観的に不快でありセクハラ

☑酒席の盛り上がり➡事業所の外でもセクハラ

☑イケメンや若者なら許される(おじさんは不可)➡加害者のキャラクターは一切考慮されずセクハラ

☑強要ではなくお願いしたならセーフ?➡プロセスは裁判で評価されずセクハラ

☑一度きりならチャレンジしていい?➡故意の身体接触や重度なセクハラは一発アウト

☑抗議されなかった(何も言わなかった)➡後で抗議されるとアウト

 

(秋田県立農業短期大学事件平成10年12月10日)

大学教授が研究補助員に対して学会出席での出張の際、宿泊先ホテルの被害者の部屋に入り、ベッドに押し倒しわいせつ行為を受けたとして訴訟となった事例では、①なすがままにされ、声を上げたり、激しい抵抗をしていないこと、②行為後も退出を求めなかった③翌日以降も食事を共にしている④観光にも同行していることなどを挙げ、「同意があったもの」と主張し名誉棄損で反訴した例で、一審でセクハラは否定され名誉棄損を認容したが、第二審では人事権があったことなどでセクハラとして認定された。その他にもスポーツ選手が監督に性関係を強要された事例(熊本地裁平成9年6月25日)など、関係が継続したことや良好な関係であることを加害者が抗弁に使うケースがありますが、裁判となれば上司部下、師弟関係や主従関係など上下関係が「支配従属関係にある」とされセクハラが認定されます。

性的な被害を受けた人々の行動研究としては、逃げたり声を上げることが一般的な抵抗であるとは限らないこと、職場の上下関係や友好的関係を保つために抑圧がはたらき、身体的抵抗という手段を採らない要因として働くことが示されています(「心理的監禁状態」とも言われています)。

企業のセクハラ対応実務ではセクハラ判定を甘く見る会社もありますが、裁判所が判断するように、セクハラ被害者は人間関係から明確な拒否や抗議の意思を示すことが難しいものであり、拒否の態度が無かったことをもってセクハラではないと安易に判定すべきではありません。セクハラで苦しむ被害者の方も、意思表示ができないことは決してセクハラを許していることではないと主張できます。望まない関係ならば弁護士に相談するなど、勇気を出して現状から脱出してください。

なお、妻子ある教授が指導するゼミの学生に対して「あなたのことを一人の女性として愛しています」等と告白したことが(純然たる恋愛感情であっても)就学・就労環境を乱すセクハラ行為と認定され慰謝料を命じた厳しく切ない判例(東京地判平成17年4月26日)もあります。

つい20年前まではセクハラという概念は存在せず、職場のコミュニケーションやスキンシップと扱われ社会的にも許容されていた変遷を思えば、「髪切った?」も業務と関連しないことは明らかなため今後はセクハラと認定されるかもしれません。

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(グローバル社会でのセクハラ裁判)

日本は国際的にみてもセクハラなど人権認識が遅れており、米国でセクハラ事件を起こせば「慰謝料は2桁違う」と聞いたことがあるかもしれません。そして日本の民事訴訟でも今後は和解額がどんどん高騰していくと話す専門家もいます。

1996年には米国三菱自動車の多数の女性が職場において日常的に身体接触(尻などを触る)、「ビッチ」などと女性差別を受けた約300人の女性従業員によって集団訴訟となった事案では、民事訴訟で同社は98年に史上最大規模の3400万ドル(約49億円)の巨額な慰謝料を支払うことによって和解したことが当時大きなニュースになりました。

米国では、出来事は苛酷か蔓延していなければならないルール(Severe-or-pervasive Rule)とされ、また弁護士費用が高いこともあり、日本のような比較的小さな出来事で賠償を命じられることはすくないものの、認められれば日本の相場より1桁ないし2桁大きいと言われています。少数者・弱者への人権配慮が遅れているとはいえ、日本も国際標準へ進むことは間違いありません。グローバル企業だけでなく私たち中小企業が米国三菱自動車の訴訟により学ぶべき教訓としては、

①セクハラは個別的ではなく、集団の問題であること。

②企業の責任は今後さらに厳しく問われていくこと

③激動する社会では今の考え方では遅れており、先延ばしは不利になる

ことを理解しておかなければなりません。

 

3.これってマタハラ?

近年特に重要なマタハラにおける最高裁判例が示されたことをご存じでしょうか。

少し前までは、「妊娠や出産を理由とした不利益な扱いは無効となる」との認識があったかと思いますが、広島中央保険生協事件(最高裁平成26年10月23日)では、「妊娠や出産を契機とした不利益な扱いは無効(賠償金175万円)となる」ことが判示されました。「理由」と「契機」は単なる表現の違いのようにも見えますが、実際には全く異なり、契機となるとほぼ全てがアウトとなります。この最高裁判例から厚生労働省も解釈を通達しており、私たちが学ぶべきポイントは、

①不利益な扱いが妊娠・出産の時期と近い場合(おおよそ1年)は全てアウト

②きっかけでない主張は使用者が立証しなければならず、ほぼ不可能

③やむを得ない場合は高度な業務の必要性または自由な意思による同意が必要だが、極めて厳格

となります。頻繁に指針が改定され通達が開示され、マタハラ関連は最も改定の多い法令と言われますが、「理由」から「契機」に解釈が改められた件について、2022年の今年に当事務所が実施した研修では一般従業員の認知度は半分以下でした。本記事をお読みになった方は加害者とならないように、育児や介護の一年以内に行われた不利益扱いは法律違反である件は必ず覚えておきましょう。

 

4.SOGIハラ?(LGBT)

LGBTとは、同性愛者(ゲイやレズビアン)や両性愛者(バイセクシャル)、性別越境者(トランスジェンダー)を指すものであることは広く認知されてきました。(※拒否反応を示す方もいますので一般的な表現であることをご容赦下さい。)

電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2020」によると、LGBTの割合は8.9%(前年8.9%)とされ、左利きやAB型と同じくらいいることがわかります。WHOでも精神病に分類していたLGBTを分類から除外するなど人権運動は多少加熱ぎみの問題が指摘されているとはいえ、国際的にも理解は良い方向に進んでいるように思えます。生物学だけでは理解できなかったLGBTも、近年は生物行動学など新しい(?)研究分野による繁殖優位の観点からもLGBTの必要性について特に不思議はない理解が進み始めています。メディアでもタブー視せず、カミングアウトし活躍している方が多くいます。

厚生労働省のガイドラインでは職場の防止措置義務に、LGBTに関連した「SOGI(性的指向)」ハラスメントや「アウティング(性的指向の暴露)」もパワハラとみなされ禁止対象となることが明確化されています。

一方判例では、経済産業省に入省したトランスジェンダー(生物学的性別は男性、心理的性別は女性)の職員が一回限りとはいえ「性転換手術を受けないなら男に戻れ」と言われたり、一部の女子トイレの使用禁止など人事上の不利益取扱いを受け抑うつ状態となり休職を余儀なくされたことを理由に国家賠償を求めた提訴で、一審で経産省が敗訴、しかし二審では判決が覆り原告が敗訴するなど大きなニュースになりました(東京高裁令和3年5月27日,最高裁に上申中)。

本判決にもコメントがありましたが、「全職員にとって適切な職場環境をつくる責任」を性マイノリティーの権利を排除する理由として認めています。なお、先の性自認を正面から否定する発言は一回限りであっても賠償(慰謝料10万円)を認めました。

本件は公務員の事案であり民間企業にそのまま適用するかは検討の余地がありますが、非常に考えさせられる事案でした。もちろん、私たちの会社でも賛否両論あります。大手企業や大学では性マイノリティーに配慮し「多機能トイレ」を増設するなど一部評価されている取り組みもあります。正解はわかりませんが、職場内で議論してみるのも考えるきっかけになります。

 

当事者が言われて嫌だと言われている言葉(職場では使わない方がいい言葉)

「ホモ」、「オカマ」、「オネエ」、「レズ」、「両刀」、「ニューハーフ」などは知れたメンバーだけの私生活や家庭内では別として、職場内での発言は慎んだ方が良いでしょう。

生物学では「異性愛者以外」は子孫を残せず生存目的が理解できなかったものの、動物行動学や遺伝子戦略に関する学問の分野では集団の繁栄に寄与しており存在する優位的な理由が説明できるようになっています。おばあちゃんの存在が孫の生存確率を上げるのと似ています。(参考文献:「なぜクラスに一人いるのか 同性愛の謎(文春新書)竹内久美子」)

 

ハラスメント行為者にならないためには、言われた相手の気持ちを想像すること、つまりは言われた相手の立場に立って言動することが必要と言われますが、相手の立場が理解できないからこそハラスメントが発生します。とはいえ個人と個人がコミュニケーションを取りながら働く職場という環境においては法の規制があり、友達や家族関係以上にハラスメントに配慮し、意識しなければそれはリスクとなって企業や本人に還ってきます。一人ひとりが知識をアップデートし、遅れている人には指摘できるような「職場全体としての判定基準」ができることが会社の成長のカギを握っています。

ハラスメント関連法はまだ生まれたばかりであり、今後社会の趨勢やグローバルの流れ、判例の蓄積によって、今は許されている行為も将来にわたって不可逆的にアウトになっていきます。組織の生産性を高めて成長するためのキーワードは多様性ですが、まずは最近の判例動向などハラスメント知識をアップデートすることも多様性への取組となります。そして、少数者の権利に理解が無いことは個人にとっても大きなリスクと言えます。コンプライアンス研修など啓発活動に積極的に取り組むことが重要となることは理解いただけたかと思います。

 

ハラスメント外部相談窓口と研修のご案内

職業柄多くのハラスメント研修を拝見してきましたが、ほとんどの研修では明らかな暴力事件やレイプまがいの事例を取り扱い、こういうことはやめましょうといった内容のものばかりです。たしかに基本的な研修の必要性も理解できますが、「そうじゃない感」がハンパではありません。当社では真剣にハラスメント撲滅に取り組む企業のために、もっと身近に起きている軽率な行動で高額な金銭解決となった事案や、裁判所でも判断に困るような「難しい問題」を取り扱い、受講者が自らの頭で考え自覚を促すための、ハラスメント研修の講師派遣外部相談窓口などでサポートを行っております。企業などの団体ではなく個人的に研修を受けたい方は不定期開催のセミナー情報をご確認下さい。

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