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職場のハラスメント対策担当者を命じられたら(窓口・調査担当)

2022/08/30

本年4月のパワハラ法(改正労働施策総合推進法)、6月の改正公益通報者保護法と、2022年は矢継ぎ早に組織のコンプライアンス体制法律が施行され、また近年の人権問題意識や悪質なハラスメントの連日報道もあり、あらゆる組織で急速にハラスメント対策の機運が高まっています。

厚生労働省の調査によると、1000名以上の企業は既に社内の相談窓口設置はほぼ100%を達成していることが明らかになっており(100名未満は約40%)、また近年のパワハラ事件や判例の蓄積によって、対策チームのレベルを高めなければ真にハラスメントは撲滅できず、またハラスメントが発生してしまった時の企業の人的コスト負担は相当なものである理解も広まっており、素人対応ではどうやら危ないぞ?と気づいた企業等から社内相談窓口担当者や調査担当者に向けた研修や対応手順(マニュアル)の作成に協力してほしいという依頼が増えています。

今回は相談窓口や調査担当者として理解しておくべき基本的なポイントについてご案内いたします。

 

①社内対策担当者も処分の対象になる?

ハラスメント事案が窓口担当者に申告された場合、窓口担当者は関係者と速やかに調査を実施しなければなりません。

調査を怠ったり、不適切な調査によって被害が拡大し、使用者責任(民法715条)による事業主責任を問われ「慰謝料が増額」されれば、対策担当者個人は服務規程違反として懲戒処分の対象となるばかりか、被害者から直接不法行為責任(民法709条)を問われる可能性もあります。

 

②調査担当者の不適切な対応が不法行為責任を構成する?

ハラスメント事案が紛争となり、企業がその使用者責任や安全配慮義務違反を問われた場合、違法性の判定には企業の対応そのもの、つまり、社内の対策部門が適切に機能していなかったことが損害賠償を命じられる根拠の一つとなることがほとんどです。

窓口が事件を放置していたり、調査が不十分なまま処分を行ったり、疑いの時点で犯罪者扱いしてしまったり、情報収集の目的であっても大声で怒鳴るなどすれば、企業の不法行為責任を免れることはできません。つまり、対策部門の初動如何によって、企業の法的責任が大きく変わることを知っておかなければなりません。

また、近年は企業としての姿勢が評判となり売上や株価に影響を与えます。法的問題だけでなく、その事案に対する対応がモラル面から見ても問題が無いかよく検証しなければなりません。

2019年6月、2人目の育休を取得した男性社員が復職直後に転勤を命じられ、時期の延長や有給取得を交渉しても却下され退職を余儀なくされたことを妻がツイートし炎上しました。この企業はすぐに弁護士を入れた調査委員会を立ち上げ、「対応に問題なかった」と公式見解を公表したことでさらに炎上し、「シャインのネガイはカナエナイ」などキャッチコピーを揶揄したり、就活学生から「辞退する」と書き込みされるなどネット上で激しい批判を浴びました。確かに、法的には問題が無かったのかもしれませんが、ハラスメント問題は『法的な正しさ』だけで対応するものではなく、モラルや労働者に対するリスペクトを忘れていなかったかどうかも考慮が必要な教訓といえる事案です。

③調査の順序がそもそも違う?

中小零細企業であれば、基本的にハラスメント相談窓口は人事関連業務のポストが兼任することになっており、本人の認識が低いまま事件が勃発、いきなりスタートすることもよくあります。また、ベテラン職員が窓口担当者となり、「経験を過信して対応を怠る」ことも現場では多発しています。ハラスメント対応は感覚や経験ではなく、マニュアルとその手順に添っているかが重視されます。親分肌で面倒見のよいベテランスタッフとはいえども、プロセスに不備があれば事件を拡大させることになりかねません。

 

④調査報告書の作成実務?

社内のハラスメント事案を調査担当者としてキャッチした場合には、その調査として関係者へのヒアリングと証拠収集、その結果に基づく事故調査報告書の作成実務はセットになります。

中小企業で事故調査報告書を作成した経験は無いのが一般的ですが、事故調査報告書はその後の懲戒処分の有効性や懲戒処分しなかったことの妥当性を問われる重要な書類になります。よって、確認した事実(食い違いのない事実)、行為の経緯、当事者の関係性、ハラスメントを誘発するその他の原因(仕事のミス、当事者の私生活の関係性、業務の緊急性等)、食い違いのある事実の信用性評価、ハラスメント認定の理由、本事案の結論など、すべて念入りに、漏れの無いよう調査し、事実に基づく中立的な立場で報告書を作成しなければなりません。

被害者が処分を納得できず精神疾患を発症したりして裁判など外部からの解決手続きを選択した場合や、行為者が懲戒処分の妥当性、人事権の濫用を理由に争う場合には調査報告書は極めて重要な証拠資料となります。

高度な実務資料として、メモ書きを残したり、聴取内容確認書に当事者に署名させるなど、調査報告書の信用度を高めるための様々な工夫が必要です。さて、経験値を主張するベテラン社員や、新米の人事担当者は一夜漬けで適切な調査報告書を作成できるでしょうか。

(証拠となりえる情報)

・LINEのやりとり画面

・録音データ(秘密録音に注意)

・日記や日報(家族のものでも可)

・日時などの具体的なメモ

(調査報告書の例)

⑤懲戒処分の実施?

基本的にハラスメント窓口担当者は一時受付で事実調査や懲戒処分の決定に関しては別の担当者につなぐなど、客観性・中立性の担保を考慮すれば分業したり外部弁護士へ委託するほうが良いかもしれませんが、人材の少ない中小企業では窓口担当者・調査担当者・人事権者が同一であることは珍しくありません。場合によっては社長がすべてを担当しています。よって、調査が恣意的になったり、いずれかに肩入れしていることが疑われるときりがありませんが、懲戒処分には①その態様や②行為者の処分履歴、③被害者の精神的・肉体的負担の程度、④調査の協力や被害者への謝罪など行為者の反省の度合い、⑤同等の過去事例における懲戒処分の実施履歴などを考慮して懲戒処分を実施します。人事権の無い窓口担当者や調査担当者であれば、客観性を十分に主張できますが、中立性・客観性が担保されていないような組織がハラスメントに対して強い姿勢で臨むのであれば、事件が起こる以前に日ごろからパワハラ防止を周知したり、研修を実施したりなど適切な防止措置を講じるなどすれば裁判でも評価されるため、懲戒権の濫用を争われないようなコツコツとした体制構築が求められます。

(金銭解決ってどうなの?)行為者が事実を認めており、また軽率な行動を強く反省して被害者への謝罪を強く希望することがあります。それら謝罪については咎めることはできませんが、金銭を支払いたい旨申告があった場合はどうでしょうか。ハラスメント調査実務にかかわる担当者は、その金銭がどういった名目になるのか、課税関係や支払ったことのリスクはどんなものがあるのか、頭を悩ませることがあるようです。「慰謝料」であればハラスメント事実を認めたこととなり躊躇することもありますが、ハラスメントとして認定されないようなものであれば「解決金」として支払うことも早期解決手段として行われています(所得税法9条1項により非課税)。懲戒処分を減じる条件で和解(金の支払)を促すこともあります。

 

⑥再発防止策の実施

ハラスメント窓口担当者は実務の負担を考えても、進んでやりたがるような仕事ではありません。しかし、ハラスメント対策は窓口担当者のレベルによって大きく効果が変わります。ハラスメントのような人事問題は後になるほど重傷になり、先に見つけることが重要であることは説明不要の事実です。

ハラスメント対策は事実認定で初めて前半終了、後半は処分の実施や被害者のフォロー、その他再発防止策の実施として研修や規則類の不備見直しなど、ハラスメント対策担当者は長期にわたって苦労しますが、同一行為者による同様の事故が再度起きるようなことがあれば、企業の使用者責任はもはや逃れることはできず、たとえ示談であっても被害者の多少無理な交渉に応じざるを得ない状況になるため緊張感はキープし続けなければなりません。

例)

  • 「行為者を解雇しなければ、法的手続きをとる」
  • 「行為者と会社の連名で謝罪文を提出しなければ法的手続きをとる」
  • 「慰謝料として、●百万円を支払わなければ、法的手続きをとる」
  • 「今後再発した場合には慰謝料の支払いが免れない旨一筆書かなければ、法的手続きを」…

といった具合になります。特にセクハラ事案は加害者も被害者も秘密にしてほしいと希望するのが一般的で、大手企業や有名大学、官公庁ではマスコミや監督官庁にセクハラを暴露することを匂わせて自分の要求をのませることも交渉となります。逆に、行為者が発覚を恐れて被害者や関係者に圧力をかけた事実が発覚したり、処分妥当性を争って行為者から訴訟を提起されるリスクもあり、組織の歯車である社員の立場では善悪に悩まされる苦しい業務でもあります。

 

(参考になる裁判例)製薬会社室長セクハラ発言解雇事件(東京地判平成12年8月29日)

30名の部下を統率する室長が多くの部下に対して①「デートしよう」と誘う②「いますぐ抱きたい、好き」とメールするなど複数の発言がセクハラにあたるとして普通解雇され解雇取り消しを求めた事例では、冗談ともいえるものが含まれるとはいえ、①被害を受けた者の多さ、②行為者の地位、③セクハラ防止にむけた会社の従前の取組み、④真摯な反省の態度を示さないことなどを考慮すると、解雇は合理性が認められるとしました。

深刻な被害は生じておらず、単なる「エロおやじ」として無視されていた可能性が高い事案ですが、日頃からセクハラ防止に真摯に取り組み、その処分権が争われないように「事前準備」している会社には処分妥当性を争う余地はあまりないと考えましょう。

 

おわりに

ハラスメント事件は世間の注目が高く、連日のようにどこかの組織が起こしたハラスメント事件が報道をにぎわせており、また実務担当としては「結構大変な仕事を引き受けてしまったのではないか」と気づき始めた時期でもあります。ハラスメント事案は同一のものがなく、また判例をくまなく読んでも自動車事故のような「慰謝料の相場」はいまのところ存在していないと弁護士も言います。組織の対策担当者のスキルとしては、傾聴力やマネジメント能力を高めるのが必要と言いますが、実務手順や法的リスクを踏まえた実践的なハラスメント事故対応についての記事はほとんど見当たりません。しかし裏を返せば、ハラスメント対策はすべての組織で活用可能な「ポータビリティ」可能なスキルと言えます。ハラスメントが疑われる自殺などの労災認定も過去最高を更新しており、事故調査やハラスメント判定については企業の経営にますます影響を与える技術的資産となっていくことが予想されます。

当社では、社内相談窓口担当者のヒアリング手法のほか、ハラスメント防止研修、調査担当者向けの実務手順研修、マニュアル・調査報告書作成時のアドバイスなど、職場のハラスメント防止取り組みのサポートを行っております。職場の外部相談窓口としてもご利用いただいております。

今すぐお問い合わせする(☎:06-6306-4864)

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