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非正規公務員と官製ワーキングプアに思うこと

2019/12/05

2020年4月から地方公務員法及び地方自治法の一部改正(以下「改正法」と言います。)が施行されます。

民間企業に勤めている方や経営者の方は「公務員の話かよ、関係ねー」とページを閉じず、私たちの生活にも影響を与える重要な問題が含まれていますので是非ご一読をお願いします。

地方公共サービスと非正規公務員

皆さまが日頃利用している、又は利用したことのある学校、ハローワーク、図書館や市役所、消費者生活相談員、保育園などの公共サービスは国や地方公共団体から提供されていますが、そこで働く人たちの実に3分の1は「非常勤公務員」として働いており、地方公共サービスは私たち一般事業者と同じくらい「非正規社員」によって支えられています。地方交付税が削減されたうえ、人口が減少し財政がひっ迫している地方自治体では高齢化によって福祉サービスなどで業務と職員のバランスが取れず、非常勤公務員が半分以上を占めている公共サービスもあると言います。

総務省が調査した「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査」によると、平成28年4月1日時点で特別職非常勤職員は21万人、一般非常勤職員は16万人、臨時的任用職員(非常勤公務員)は26万人となっており、臨時・非常勤職員の総数は10年間で23万人増加しており、地方公務員法上の制度の趣旨にそぐわない任用を行っている地方公共団体が問題視されたことなどから、平成29年5月に改正法が成立し、令和2年4月1日から施行されることになりました。

民間事業者で2020年4月1日より一斉に施行される「パートタイム・有期雇用労働法(いわゆる同一労働同一賃金法)」に併せて、公務員にも厳格で適正な勤務条件を確保するためあらたに「会計年度任用職員」を制度化し、フルタイムと短時間勤務、職務や報酬を明確化し各自治体で決定していくこととされています。

管制ワーキングプアと公共サービス

私たちの感覚では、公務員は収入が安定しているうえ、勤続年数に併せて当然のように高い給料をもらい、解雇されることもないと思っていますが、非常勤公務員の待遇はまた別です。正規職員であれば昇給やボーナス、福利厚生制度などは手厚く、中小企業からするとうらやましいほどの待遇を受けている方もいますが、非正規公務員には正規職員と同様の時間、仕事を行ってもボーナスや育休は同じように扱われていません。任期があるため雇止めがありますが、民間事業者に適用されるような無期転換ルールはありません。正社員並みに働いても年収で150万円程度にしかならない、そんな「管制ワーキングプア」と呼ばれた非常勤公務員の問題が取り上げられた報道を目にされた方も多いと思います。

北九州市で児童虐待などを扱う職場の非常勤職員だった女性が、給料分働いていないから残業代は無し、数時間にわたって問い詰められたことなどによって精神を病み退職後、自ら命を絶った事件は典型的なパワハラ事件ですが、市は「公務災害(公務員の労災)」を非常勤職員という理由で認めず、市の条例では認定請求の定めすらありませんでした。その後総務省によって規則の見直しが通知され同市の規則は改正されたものの、未だ遺族は争いを続けています。

児童虐待のニュースでは児童相談所の対応が問題にされますが、こういった背景には「自治体の非正規化」にも問題があるはずです。私たちの暮らしを支える公共サービスの質や災害対策、地域社会に必要な公共サービスの機能維持にも待遇改善は重要です。

道具を取り換えるのとは訳が違うのである

一般職の国家公務員に労働基準法の適用は除外されますが、地方公務員は一部を除外される以外は基本的には労働基準法が適用されます(国家公務員法附則16条/地方公務員法58条)。そこで一つ、非常勤公務員が更新拒絶を争った事例を見ていただきたいと思います。労働契約法第22条で地方公務員は適用しない旨明記されており、判例でも、公務員の地位は任用によって初めて発生し、労働契約に関する規制は適用されないとの理由によって最終的には高裁判決によって取り消し(棄却)されたものの、地裁判決でいったんは非常勤職員の更新拒絶を信義則違反、地位継続を確認された『情報・システム研究機構(国情研)事件(東地判平18.3.24)』の判決要旨の一部を、自社の非正規職員を思いながらお読みください。

 思うに、非常勤職員といっても、任用更新の途を選ぶに当たっては、その職場に対する愛着というものがあるはずであり、それは更新を重ねる毎に増していくことも稀ではないところである。任命権者としては、そのような愛着を職場の資源として取り入れ、もってその活性化に資するよう心がけることが、とりわけ日本の職場において重要であって、それは民間の企業社会であろうと公法上の任用関係であろうと変わらないものと思われる。また、任用を打ち切られた非常勤職員にとっては、明日からの生活があるのであって、道具を取り替えるのとは訳が違うのである。これを本件について見るに、国情研においては、原告Aら非常勤職員に対して冷淡に過ぎたのではないかと感じられるところである。永年勤めた職員に対し任用を打ち切るのであれば、適正な手続きを踏み、相応の礼を尽くすべきものと思料する次第である。

私たちの生きる現代社会は急速なテクノロジーの進歩の一方で、少子高齢化、首都一極化(地方過疎化)、採用難、人材不足など、まさに産業革命の真っただ中で様々な難問を抱えながら変化に適応していかなければなりません。

それでも、公務員であれ、民間労働者であれ、勤労者として能力や資質に程度の差はあれど、私たち人間は物のように移動したり、道具のように取り替えたりするものではありません。働く人たちにその職場で働きたいと思ってもらえることは、経営者にとってこれ以上無い栄誉です。棄却されたものの判決文にもあるように、従業員の愛着を職場の資源として取り上げ、その活性化に資するような心がけを忘れることの無いよう肝に銘じ、私たちは知恵を絞るばかりです。

 

わたしたちのしごと

 

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