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適正評価義務(公正査定義務)と同一労働同一賃金に適合する賃金制度

2019/11/27

先日取引先企業の人事担当者と同一労働同一賃金について打ち合わせをしていたところ、待遇格差の是正はわかったが、それでは不合理ではない人事評価とは何か?と聞かれました。迫る同一労働同一賃金の法施行(別名:パートタイム・有期雇用労働法2020.4.1施行)によって一般認知度の高まりや問題点の発覚で企業は準備に追われていますが、単に待遇を統一すればいいというものではないことはさすがに人事担当の皆さまはよくわかっています。ここで必ず出てくる【適正評価義務】について気が付き始めた企業も多いようです。そうです、是正した待遇格差を維持するためには適正な人事評価制度が必要です。

適正評価義務は、労働者の評価を適正にすることそのままですが、近年の能力評価主義と働き方改革関連法の施行によってますます重要度が高まっています。

職務や責任、異動の範囲などが同じであれば同じ待遇(均等待遇)と、職務が違えばバランスの取れた違う待遇(均衡待遇)を併せたものが同一労働同一賃金といえますが、将来にわたって制度を維持するための適正な評価基準については企業それぞれで考えて設計しなければなりません。

さて、人材関連ビジネスを扱う企業の調査結果では従業員不満の大半が「人事評価制度」をあげ、そのうち「評価基準の不明確さ」が最も多い結果になっています。なかには「満足している」という回答がたったの2%だった調査結果もありますが、そもそも中小企業では人事評価制度を公開しておらず、また明確な基準が存在しない会社がほとんどです。なかには、「昇給あり」と入社前に聞いていたにもかかわらず、実際には人事評価制度など存在せず何年も昇給していない会社も珍しくなく、不満は当然とも言えます。運よく昇給する会社に勤めたとしても評価基準が不明確な場合には自分が仕事に対してどこを評価されたのかもわからないならば納得するのは難しいといえます。

同じ仕事、若しくは自分より劣ると考えている同僚が高く評価され、自身が評価されない場合には不公平感が残り、不公平は仕事に対するモチベーションを低下させる最大の問題であることは各社のアンケートの結果が表す通りです。「会社が妥当だと思う評価結果は、社員と必ずしも一致しない」のです。その不一致は、モチベーションの低下や離職だけでなく、労使トラブルの原因となっていることは人事を重要視する会社では常識です。

人が人を評価する人事評価制度においては完全なものは存在しませんが、働く労働者たちの納得感を高め、不公平感を減らすことがますます重要になっています。

人事考課を争われた判例の法的性格

人事考課とは、人事管理の効果的・効率的な実施のために、個々の従業員の能力、業績、意欲や姿勢を分析し評価する企業の活動であり、人事考課によって個人(被評価者)の、昇進(降職)、昇格(降格)、昇給(降給)などの他、賞与や一時金の算定などが行われます。人事考課制度は1960年代以降から導入された職能給の広がりとともに広く普及するようになりましたが、昨今の働き方改革関連法の施行など能力・成果主義の傾向とともに注目され、また同一労働同一賃金の機運の高まりによって組織運営で最も重要な位置を占めるようになっています。

そんな人事考課を争われた判例では労働契約を基準とした「不法行為」と「債務不履行」の2つの立場で構成されています。「不法行為」の面では人事考課の性質上・実態上から使用者の幅広い裁量にゆだねられているものの、その査定方法が合理性を欠くなどで裁量権を逸脱した場合には違法となり不法行為が構成できること。もう一方の「債務不履行」の面からは、人事考課が使用者の裁量権の行使ではなく、労働契約上使用者として当然に負担すべき労働者に対する職業能力の公正査定義務、適正評価義務の履行として扱う場合とがあります。

従来の判例では経営という複雑な性質の判断基準から、比較的幅広い範囲の裁量を使用者に認め、労働基準法他強行法規の違反や著しい権利濫用の事実が認められない限り使用者側の査定行為を容認してきましたが、生活に充てられる賃金の部分に減額を伴うような降格の事例に関しては、評価制度の整備状況や整備された基準との該当性を元に、査定による他労働者との比較や査定方法、査定プロセスの有効性を重視しながら「使用者の裁量を制限する判例」が増加傾向にあります。

人事評価に関係する判例

  • マナック事件(広島高判H13.5.23)

経営陣を批判する言動などで注意を受けた管理職者を人事考課において役職降格・賞与の減額としたことが人事考課における裁量権の逸脱として違法とされた事件

  • 住友生命保険事件(大阪地判H13.6.27)

既婚者であることを理由として一律に低査定を行うことは、そもそも会社に与えられた個々の労働者の業績、執務、能力に基づき人事考課を行うという人事権の範囲を逸脱するものであり、合理的な理由に基づかず、社会通念上容認しえないものであるから、人事権の濫用として、かかる人事考課、査定を受けた個々の労働者に対して不法行為となるとした判例

  • 日本レストランシステム事件(大阪地判平21.10.8)

嫌がらせ、見せしめの目的による人事考課を人事権の濫用として違法と判断された事件

  • 芝信用金庫事件(東京高判H12.12.22)

男性職員が人事考課および昇格試験において優遇され女性職員が待遇を据え置かれる行為は労働基準法に違反して無効とし、地位を付与されたものと同一の効果を求める権利を有し、差額についても損害賠償請求を認めた事例

誰を昇進させるか、昇格させるかは個々の企業における経営判断であり、使用者の総合的判断の性格を有していることから、裁判所は一律に昇進や昇格を命じることはできず、司法救済としては原則として不法行為に基づく損害賠償請求に限られることが多いようです。一方で、昇格が規則の規定や慣行によって当然に引上げられる扱いがされていた場合に裁量権を逸脱して引上げさせない取扱いをした場合には労働者による「昇格請求権」によって地位の確認が認められるのが通説となりつつあります。

納得のいく人事考課(人事評価制度)

今後広く成果主義賃金が定着することをふまえれば、労働者に対して納得感の高い評価制度の設計は企業で必須になります。現在は公正査定・適正評価義務はあまり意識されておらず、ほとんどの中小企業では社長が独断で決定し、個々の労働者が他人の評価をうかがい知ることはありません。しかし採用難・人材不足の改善が期待できない今、あらゆる事業者において適切な評価制度を導入することは人材の維持、求人活動時の優位ポジションの確保の面から欠かすことはできません。

個々の全ての労働者が完全に納得のいく査定は不可能ですが、主観や恣意的な査定、不公平を感じる要素を最大限排除するよう努力が求められます。納得感を高める評価制度設計の努力を行うことが同一労働同一賃金対策、公正評価義務を果たす一歩であり、採用難・人材不足を解消する効果的な経営戦略といえます。

評価基準や評価プロセス、評価結果が社長室内だけで行われているとすれば納得のいく評価制度にはなりません。システムや機器を導入することで情報開示を広く行い、本人の評価のみでなく比較可能な他人との評価情報を公開することで個々の労働者が確認することができ、適切な評価システムの機能面で大きく役立ちます。「公正な評価制度の実現」を目的とするならば個人の職能査定結果などパーソナルな情報についても個人情報保護法との問題も発生の余地は無く、目標管理制度など科学されている人事マネジメント手法の導入としても大きく経営に役立ちます。

1.客観性を高めること

評価制度が経営者の独りよがりでは従業員の納得感を高めることはできません。制度設計から評価者と被評価者の関係、納得できる評価者を選定するなど、客観性の高い制度設計を説明し、理解を深めておく必要があります。最近ではWEB上で実施できる360度評価システムなど民間事業者からも多くのアプリケーションが販売されているため、自社に合ったものを選定・購入するのも有効な方法です。

1.公平性を高めること

評価基準が不明確であったり、職務に関係しないもの、また一方の性別や信条に抵触するような基準であってはなりません。全ての従業員に機会を与え、評価基準が職務に関係するものとして納得しやすい項目を考え言語化することが大切です。

1.透明性を高めること

人事考課・人事評価制度は公開されていることが重要です。経営陣のブラックボックス内での一方的な決定は評価制度自体の存在が疑われ不満を招きます。評価制度の内容、実施目的、評価プロセス、評価結果は批判を恐れずに公開し、問題点を改善し続けることが必要です。

1.評価結果のフィードバック

結果に対するフィードバックを行わなければせっかくの人事考課も効果が半減します。自身の何が至らなかったか、会社はどのような点を評価し、評価しなかったか、それら評点基準となる項目について個人と面談するなどによって納得感を高め、将来の成長を促します。社長だけでなく、人事部長などの評価担当者がしっかりと説明できるよう研修を行うことも大切です。

 

人事制度を設計する際にはこれら公正評価の基準に合致したものであるか繰り返し考えてみましょう。

おわりに

同一労働同一賃金への取組は単に待遇是正だけでなく、将来にわたって法違反を問われることの無いような組織運営制度構築も併せて検討しなければならず、また派遣労働者やアルバイト・パートなどの非正社員にまで全ての労働者を組織全体で考えながら制度設計に取り組む必要があり、中小企業経営者からは「余力が無く実現不可能」といった声や、「もう不可能なので諦めている」などといった声も聞きます。確かに既に実施・運用してしまっている制度を変更するには相当な労力と痛みが伴うこともよくわかります。それでもすべての労働者が将来期待することは、『自身を正しく評価してくれる職場で精一杯働きたい』という願いであり、経営者があきらめてしまうようでは大切な従業員達を他社に奪われることになります。社員のことを真剣に考え、苦労した企業が得をする。そんな将来を期待しながらぜひ取り組んでください。

 

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