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新型コロナのワクチン接種は業務命令で強制できる!?拒否すると解雇!?
2021/08/18
新型コロナウイルスのワクチン接種は日本国内でもようやく本格化しはじめ、すでに大阪市では高齢者や医療従事者だけでなく、30代・40代の比較的若い一般の方でも2度のワクチン接種を完了したという話を聞くようになりました。諸外国ではワクチン接種の義務化を決定したり、飲食店やショッピングモールの他、空港等の商業施設へは接種証明(ワクチンパスポート)の提示を求めるなど、義務化の動きも進んでいます。
全国民へのワクチン接種はコロナの対抗策として唯一であり最たるものではありますが、梅田の阪急百貨店では100人近い従業員でクラスターが発生するなど、まだまだ予断を許さない状況が続いています。
感染力・病状ともに強力となった新たな変異株の報道もあり、事業者ではさらなる感染対策の維持が求められることになりますが、事業者としては、従業員や顧客の安全確保のため、ワクチンの接種を受けるよう業務命令を出すということも十分ありえることで、当事務所にも新型コロナワクチン接種をめぐるご相談が増えてきています。特に接客サービス事業者等では「全従業員ワクチン接種済み」を先行してアピールできれば集客の回復にかなり期待できるため戦略的にも重要となりますが、ワクチン接種を業務命令で強制する際に検討するべき関連法律など、基本を踏まえて考えてみます。
ワクチン接種を業務命令で強制できる!?
新型コロナウイルスのワクチン接種は予防接種法に基づいて実施され、同法第9条では予防接種を受けるか否かについて国民の義務とはされておらず、努力義務として最終的な判断は個人にゆだねられています(厚生労働省新型コロナワクチンQ&A)。新型コロナのワクチン接種においては高熱や体の倦怠感、その他の副作用がSNSでも多数報告され完全に安全とはいえず懸念が残っており、また体質や宗教上の理由によって接種できないという従業員も存在することから、ワクチン接種は会社の業務命令によって強制することはできない(無効)と考えられます。
大手ハウスメーカーでは逆にワクチン接種を受けさせないようなカリスマ社長の圧力動画が流出して週刊誌をにぎわせましたが、受けさせない命令も同様に無効と考えられます。これは、仮に就業規則によって規程したとしても、無効になると考えられます。
とはいえ、会社経営としては従業員が元気に仕事をしてもらわなければなりませんし、安全配慮義務(労働契約法第5条)、使用者責任(民法715条他)はコロナ禍の火事場でも逃れることのできない事業主の義務です。
会社としてできることは、ワクチン接種を呼び掛けるなど推奨することは可能と考えられますが、あまりにも執拗な推奨は個の侵害としてパワーハラスメント(既にワクハラという言葉もあります)になる可能性もあるため、推奨のつもりが強要と判断されないよう注意が必要です。
(ワクハラ※ワクチンハラスメントとして考えられる例)
- 予防接種をしつこく勧奨する
- ワクチン接種者を掲示板に張り出す
- ワクチン未接種者への誹謗中傷
会社の経営陣としては従業員のことを考えての行動であったとしても、やはり予防接種法や受けた側が感じるハラスメント問題がありますので、他人の行動を強制することは慎んだ方が良いかもしれません。とはいえ、医療従事者や高齢者施設の職員に対しては政府や世論によってワクチン接種が強く求められていることから、一般事業所の労働者と比較してある程度の強制は裁判となった場合に認められる余地が大きいというのは専門家の意見にもあり、当事務所もそう考えています。
当然、ワクチンを受けない従業員に対して労務の提供を拒否する出勤停止扱いを行ったり、注意勧告であっても懲戒処分を行うなど不利益な扱いは許されません。
ワクチンがだめなら、検温やPCR検査は強制できないか
検温やPCR検査は個人の身体的負担やプライバシーの侵害を伴うものではなく、職場の安全配慮義務の観点からも手洗いやマスク着用などと同様に検温・検査を義務付けることは可能と考えるのが自然です。但し、実際に実効性のある強制力を伴ったものにするためには検査費用や検査時間の給与を会社負担とすることや、根拠となる就業規則上への記載が必要と考えられます。たとえ会社負担、就業規則等で明文化した場合であっても、なにか理由があって検査を拒否する従業員に停職や解雇等の重い処分を命じることは無効になる可能性が高いため実務運用時は慎重な検討が必要です。
ワクチン拒否を理由に解雇することは違法!?
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効(労働契約法第16条)。
経営上新型コロナウイルスは脅威であり、従業員の感染は風評被害をはじめ、担当業務やシフトの変更など業務離脱によって事業にダメージを与えることは否定できません。雇用主として従業員にワクチン接種を求めることも十分な理由があります。しかし、業務命令によってワクチン接種を強制することができない以上、解雇は違法であり無効となる可能性が高いことは経営者として理解しておかなければなりません。医療従事者や施設職員が接種を拒否した場合でも、解雇という重大な処分を下す前に、配置換えや休業、その他あらゆる方法を考慮し、解雇回避の努力を尽くしたうえでなおやむを得ない場合に限られると考えることが訴訟リスクを踏まえた経営判断になるでしょう。反ワクチン思想の経営者によるワクチン接種者に対する処分は当然無効と言えます。
それでは解雇ではなく退職勧奨する場合はどうでしょうか。退職勧奨は会社側の一方的な雇用契約解除ではなく、個人の意思を前提とした扱いのため直ちに違法とはなりませんが、密室で何度も退職の意思確認を行うなど度を超えた勧奨は強要となり違法となる可能性は十分にあります。もしも会社側から「ワクチン接種or退職」を求められていると感じた場合には、接種できない理由をしっかり説明し、退職届を提出するなど退職の意思表示を求められても応じないようにしましょう。また、会社側の人事担当者としてワクチン拒否者を処分するよう上層部から指示された際には、強制的に自己都合退職を迫ると訴訟リスクがあることや、企業の評価サイトに書き込みされ人事に悪影響を及ぼすことなど理解があるか経営陣に確認し、汚れ仕事が終わったあと自身もクビにされるまでを想定して記録しておきましょう。行為者に責任を擦り付けることはよくある話です。
ワクチン接種の勧奨による健康被害の経営責任
会社がワクチン接種を勧奨したことによってその従業員にワクチン接種の副反応、後遺症のほか死亡に至った場合、事業主は何らかの責任を負うことになるのでしょうか。この場合でも先の通り、コロナワクチンが本人の自由な意思によって接種された以上、事業主がワクチン接種の勧奨によって責任を負う必要がないことは明白です。(この意味でも、強制しないことが重要と考えられます)
平成21年に流行した新型インフルエンザの際には医療従事者等に対して予防接種が業務命令に近い扱いとされたことから、労災として扱う可能性が行政通達(基労補発1216第1号)されたため、今回のワクチン接種においても必要性の高い業種に限っては業務起因性が認められ労基署において労災と判定される可能性があるかもしれませんが、労災認定イコール使用者責任と直ちに認められるわけではありません。
ワクチン接種による副反応によって体調不良となることが多く報告されていますが、その際は出勤を強制せず、症状に応じて有給取得や就業規則上の休暇等で休ませるのが望ましいでしょう。職場での集団接種の場合はグループ分けして翌日は午後からの出勤を許可したり、ワクチン接種休暇として特別休暇を付与するなど様々に工夫することも事業主のトラブル対策として評価できます。副反応で休んだ場合はノーワークノーペイに基づき無給と扱うことも問題ありません。
ワクチン接種の有無が採用に影響する!?
今後ワクチン接種が広がるにつれて想定される問題の一つとして、雇い入れ時の面接でワクチン接種の有無を確認される可能性があります。ワクチンは特定の宗教において接種が禁じられることもあるでしょうし、集団への適合能力の判定として踏み絵代わりに使われることもあるかもしれません。ワクチン接種が個人の自由な意思にゆだねられている以上は職業安定法的には違法と考えられますが、かつて経験したことの無い想定外の猛威を振るう新型コロナ禍では今後の動向や業種によっては適法と解釈されることも十分にあり得ます。またコロナ終息後も次々と発生すると言われているウイルス共存社会における企業防衛手段として、入職希望者にワクチン接種の有無を質問することが職業安定法上の就職差別(職業安定法第5条の4及び平成11年告示第141号)に抵触するかどうかについても難しい判断となります。
厚生労働省からも予防接種を強制しないよう要請しているものの法的な拘束力は無く、またワクチン接種拒否によって解雇されたとしても解雇理由証明書に「職場全体における感染症対策に非協力的だった為」などと書かれれば労働者が有利に争うことは難しく、違法であっても行政処分や訴訟リスクが低ければ従業員のワクチン接種を強引に進めていく事業主も増えることでしょう(政府はこれを狙っているとも思いますが)。
刻一刻変化する情勢を慎重に見極め都度最適解を求められる経営において、新型コロナ対策は難題であり事業主ごとに個別の事情があるとは思いますが、誤った判断で顧客や従業員の信頼を失うことの無いよう顧問弁護士・顧問社労士へご相談されることをお勧めいたします。
©RESUS Inc.All Rights Reserved. 本書は当事務所の独自の見解が含まれており特定の事業所に対する法務アドバイスまたは法的見解に代用できるものではなく、現時点で考慮すべき情報の提供を目的としたものです。よって、情報を利用される際は専門家へのご相談のうえ、自己の責任をもってアドバイスに従ってください。
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