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通勤手当の見直し相談が増えています(規程作成の実務ポイント)

2022/06/16

長引く新型コロナ感染症の対策のため、可能な企業では感染リスクを回避する「暫定的」な手段として在宅やテレワークなど出勤しない勤務が広く活用されてきましたが、意外にも生産性が低下しなかったり、従業員の定着率が高まったり、顧客サービスが向上するなど、企業としてのブランディング向上としても成果が見られた会社が多いのか、その制度は永続的なものに変わりつつあり、いよいよ最もマイナーな社内規則のひとつ、「通勤手当」にまで見直しを検討する相談が増えてきました。住宅手当や家族手当のようなメジャーどころは常に見直しにさらされていますが、マイナーな手当まで着手され始めているのはそろそろコロナ対策としての社内制度改革が大詰めを迎えているのかもしれません。

出張や取引先までの移動に要する実費を負担する「旅費交通費」とは異なり、従業員の通勤に要する費用を会社で負担する「通勤手当」は、労働基準法等によって企業が労働者に支払いを義務付けられているものではなく、企業がそれぞれの裁量によって柔軟に支給することができる福利厚生の一環であることはよく知られていますが、受け取る従業員にとっては生活に要する費用の一部を会社が負担してくれるありがたい制度であり、簡単に廃止したり、(不利益に)変更したりすることは許されません。しかし、詳細な支給要件や対象者に対するルールが不整備であったり、あいまいであるなど小さな不満やトラブルとなることも多い社内制度の一つであります。

ざっくり適当に支給していた通勤手当もこの際、しっかりとルール整備しておこうという会社のため、通勤手当支給規程のルール設計について実務上の重要なポイントを整理してみました。

 

通勤手当支給規程に記載する事項について

通勤手当の支給を規定する際には、以下の事項について記載しておきましょう。

  • 支給対象者の範囲と除外対象者
  • 支給対象となる通勤手段と申請方法
  • 支給額の計算方法と支給単位
  • マイカー利用者の取扱い
  • 申請方法と申請義務
  • 紛失時や不正利用の措置
  • 退職、転勤時の精算

 

記載時の具体的なポイント

それでは実際に、規則に盛り込む際の具体的なポイントについて確認していきましょう。

  • 支給対象者の範囲と除外対象者

支給対象者の範囲だけでなく、支給しない対象者の範囲も明確にしておくことで、トラブルを防止します。

☑勤務地までの距離の制限

☑対象となる(ならない)労働者の区分

☑欠勤、休職中の扱い

距離に制限を設ける場合には、直線なのか、最短経路(最も合理的)なのかなどできるだけ具体的を心がけ、解釈によって異なるような書き方は避けるようにします。最近は地図アプリも極めて正確性が高いため、「Yahoo!地図(またはグーグルマップ)による最短経路」と記載している会社もあります。また、支給対象者の区分について、単にアルバイトは支給しないと規定していた会社も多くあるかと思いますが、既に施行されている同一労働同一賃金ルールに抵触する恐れがありますので、対象外とする場合には所定労働時間や所定労働日数の制限、業務範囲など、単に「アルバイトは支給しない」区分とならないように注意しましょう。

 

  • 支給対象となる通勤手段と申請方法

支給対象は鉄道だけなのか、バスやマイカー、バイクを含むのか明記が必要です。

☑対象となる通勤方法の範囲

☑会社の承認を要する記載(本人申告だけではだめ)

自宅からバスに乗り、鉄道に乗り換えてまたバスに乗るような交通手段の併用は通勤手当が高額になります。併用を認めるのか認めないのかも、事業所の所在地によっては検討事項になります。当然、歩行に影響のある身体障がい者や高齢者、怪我によっては併用を認める例外規定を明文しておくと従業員フレンドリーな印象がもてますが、都度承認とするのかは企業によります。

また、不正な申請抑止や通勤災害時の確認にも必要になりますので、本人による申請を会社が許可するプロセスを規定しておかなければなりません。

 

  • 支給額の計算方法と支給単位

支給額や支給単位についてはそれぞれ通勤方法の区分によって定めます。

☑支給単位(出勤日数・一か月定期・三ヶ月定期など)

☑マイカー利用者の支給額計算方法

☑支給額の上限

☑自転車通勤を許可する場合には保管場所の負担区分

あとにも記載しますが、長期の定期代支給の場合は退職や異動があった場合にトラブルとなります。あらかじめ支給済みであっても精算が発生した場合は返還することを規定しておくことをおススメします。ガソリンを使うマイカー・バイクの手当支給方法については一日単位で一律とする方法もありますが、より正確性を高める場合には以下の計算方法を用いる規定もあります(当然、事務コストが増えます)。

【燃料費の支給計算例】

《通勤距離(往復)×日数(日)×ガソリン単価(円/ℓ)÷燃費基準値》

※ガソリン単価は総務省統計局調査(都道府県単位)を基準とし、燃料基準値は国土交通省による燃料基準値(ガソリン車)とし、毎年一定時期に見直しを行うのが一般的です。

所得税法上での通勤手当の非課税限度額は実費相当額の精算が多い中小企業ではあまり考慮する必要はないかもしれませんが、通勤手当は社会保険料や労働保険では報酬に含める(つまり、社会保険料がかかる)ことになるため、制度設計担当者はいちおう理解しておく必要があります。もちろん、通勤に通常必要と認められる以上の手当を支給する場合には注意が必要です。

通勤手当の非課税限度額の引上げについて(国税庁リンク)

標準報酬月額・標準賞与額について(全国健保協会リンク)

 

  • マイカー利用者の取扱い

マイカー等で自ら運転を行う通勤方法を許可する場合には、免許証の確認や自賠責・任意保険の加入証明書の確認を行う必要があるほか、通勤時の事故によって被害者等から会社が訴訟されないよう、安全講習などを実施することがリスク対策として必要となります。飲酒事故やあおり運転など、近年社会問題化しやすいリスクに対しても会社が風評被害を受ける可能性もあるため、少し考えすぎかもしれませんが可能であれば規則上の利用制限(禁止事項)として盛り込んでおくのも良いかもしれません。

(禁止事項の規定例)マイカー通勤を許可されたものは常に道路交通法等関係法令を遵守し、且つ万全な体調で安全運転を心がけることとし、速度超過、飲酒運転等のほか、他人に危害を加える危険運転、社会的非難を受けうるあおり運転を行ってはならない。

 

  • 申請方法と申請義務

さて、上記の大まかなルール設計を実務に反映させるためには、申請書類と申請義務について規則する必要があります。

☑申請時の書面(通勤手当支給申請書)

☑申請時に添付する確認書類

入社時や引っ越し、運賃改定など、変更があった場合には会社に再申請しなければならないルールも記載しておく必要があります。引っ越しして定期代が安くなったのにいつまでも黙って通勤手当を受け取っている場合に返還させたり、悪質な場合は処分するための根拠規定だけでなく、そういった不正を抑止するためにも申請義務の記載は実務を考えると必要といえます。

 

  • 紛失時や不正利用の措置

通勤定期券はいくら注意しても紛失します。紛失や破損時の再発行についてもどちらが負担するか記載しておくことが望ましいでしょう。

☑紛失時の負担区分

☑不正な申請や怠ったことの処分

酔って紛失したり、管理が不十分で盗難に遭った場合などでも再発行費用を当然のように平気で会社に求めてくる従業員がいます。自然災害やもらい事故のような罹災時で本人に帰責事由が無い場合には会社で負担することもあるかもしれませんが、紛失は自己負担であると明記しておきましょう。また、虚偽や報告を遅らせることによって不正に利得を得ることは処分の対象となることも(当然なのですが)明記しておくことをおススメします。交通費の不正受給は判例も多くありますが、明らかな不正であっても規則が弱いと会社は勝てません

 

  • 退職、転勤時の精算

通勤手当の退職時の精算は地味ですが意外にトラブルが多く発生しています。例えば、退職届提出後に残有給休暇をまとめて取得すると、最長で3カ月近く(当年20日+繰越20日+所定休日、消化中の付与日到来で+20日)になることもありえます。

☑有給休暇(時間単位)の扱い

☑清算方法

退職時の有給消化期間中について不支給とするのか、実出勤日を最後に精算を行うのかなど、退職者に禍根を残さないよう退職時の精算方法は明確にしておくことがトラブル予防となります。行方不明や退職代行業者の利用などで本人の承諾を得ないまま、当然のように通勤手当を不支給としてしまうと、未払賃金の訴訟や監督署による処分の対象となるリスクがあります。

 

おわりに

通勤手当は任意規定のため中小企業ではほとんど詳細を定めることはありませんが、こうして書き出してみるとトラブルとなりそうな箇所が沢山あることがわかります。コロナによって働き方が大きく変化している真っ只中の今、どの業界でも人手不足、熾烈な人材獲得争いが激化していることに理解があれば、やはり従業員と不要なトラブルを回避し、納得感の高い労働環境を整備するため詳細な規則の作成は重要なように思えます。

一方でマイナーな【通勤手当支給規程】はネットで探しても頼りない簡素なものばかりで、実務として参考となりそうなひな型はあまり発見できないため当事務所にも問合せが多いのだろうと予想できます。新たに通勤規則を導入する場合のほか、明文は無いが支給している場合の起案、既存規則の見直しを含め、社内規則に関するご相談は当事務所までお問い合わせください。

《報酬のめやす》

原案が無い場合の新規設計は10万円、原案となる運用ルールがある場合の起案は5万円、添削とアドバイスは1ページあたり1万円がおおよそのめやすとなります。

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