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改正公益通報者保護法が施行‼内部通報窓口を外部委託しませんか?
2022/07/04
(最終更新日:2024/09/03)
2022年6月1日から改正公益通報者保護法が施行されました。
ダイハツや日産、三菱など自動車メーカーによる相次ぐデータの不正処理から、大東建託やレオパレスなど大手住宅メーカーの不正問題、最近では中古車販売大手のビッグモーターによる保険金の水増し請求など、大企業が不正を行った理由について外部委員会等による調査では、『通報窓口が適切に機能していなかった』点がほとんど必ずと言っていいほど挙げられています。為替や仕入れ原価の高騰、競争がグローバル化したことによる競争の激化など、様々な要因が複雑に絡み合い不正に手を染めるわけですが、問題が発覚すれば企業ブランドは地に堕ち、信頼回復は容易なことではありません。
改正法ではパートタイマーを含めた従業員の数が300人を超える事業者に対して内部通報に適切に対応するための必要な体制の整備などを義務付けるものになり、300人以下の中小事業者には内部公益通報に対する措置について努力義務とされています。努力義務とされた中小企業には強制力も罰則もありませんが、実は中小企業実務にも大きな影響のある法律です。
改正公益通報者保護法の趣旨を理解すれば中小事業者にも大いに関係のあることは理解いただけるはずですが、具体的にどのような実務対応が求められているのか、大企業から公共団体まで多くの外部コンプライアンス窓口を務める当社が同制度について簡単にわかりやすく解説します。すでに制度は理解済で通報窓口の外部委託先をご検討の団体様は月額5,500円でご利用いただける当社窓口サービスをこちらのページからご確認ください。
公益通報者保護法とは?
企業をはじめとする事業者による一定の違法行為などを、労働者が組織内の通報窓口や外部のしかるべき期間に通報し、組織の違法行為を明るみに出すことによってその是正を促し、消費者や社会に利益をもたらし、また不正の目的でなく通報を行った労働者を保護するとともに、国民の生命、身体、財産を保護するための法律とされています。(政府広報オンラインより抜粋)
2006年に施行された法律ですが、適切に対応しない事案や公益通報者の保護が十分に図られていない事案が生じたことから、2020年6月に改正法が成立、2022年6月から改正法が施行されました。情報が一瞬で拡散する現代において不祥事が外部に流出することは大きなリスクであり、また健康経営の意識の高まりからも、従業員が安心して働ける職場に向けて公益通報者保護法に準じた組織体制の構築は欠かせません。
法律によって義務付けられた事業主の措置
1.従事者を指定する義務(改正法11条)
・公益通報対応業務を行う担当者を「従事者」として指定する義務
(本文)事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達されるものを、従事者として定めなければならない。
「従事者の負担」について
本改正における「従事者の義務」として、従事者に指定されたものは刑事罰を伴う守秘義務が課されることになり大きなインパクトがありました(改正法12条)。本法では「定めなければならない」とされていますが、実務上は公益通報の受付をする担当者は必然的に従事者となりますし、公益通報を受けうる上司や調査を担当する方々も皆従事者に該当しえます。
従事者は通報者のプライバシーを保護しつつ、通報内容の事実確認のための調査を行い、是正措置の検討やプロセスの実行等、難易度の高い業務を担い、また通報者と被通報者との板挟み、立場によっては経営層から見えないプレッシャーを与えられるなど、極めて大きな心理的負担となることが予想できます。
通報者の通報内容が第三者に漏えいした場合には通報者は「従事者」を真っ先に疑うことが想像できますし、従事者に義務違反があった場合は刑事告訴されたり、また疑わしかった場合でも社内においては懲戒処分を求められることも十分にあり得ます。公益通報対応業務が責任感を持って実効的に行われるため、責任の所在が明確な「従事者」が必要なことは理解できますが、あまりにも負担が重すぎるという意見もあります。公益通報者保護体制を整備する事業者としては「従事者」の範囲をどう限定し、負担をいかに軽減できるかが有効な公益通報体制構築の大きなテーマのひとつと言えます。
従事者の負担軽減のためには、担当者への研修やトレーニングの実施、経営陣から影響を受けない権限の付与、監査部門のような部門としての独立性を担保するなどが考えられますが、社内に十分な人的リソースが無い場合は一次通報窓口を外部委託するなども検討するべきと言えます。
1.内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(改正法11条)
・内部公益通報受付窓口の設置等
・受け付けた内部公益通報の調査・是正措置の実施に関する措置
・内部公益通報受付窓口の独立性の確保に関する措置
・利害関係者(利益相反)の排除に関する措置
1.不利益な取り扱いの防止に関する措置(改正法11条)
・公益通報者に不利益な扱いを行うことを防ぐための措置と適切な救済・回復の措置
・公益通報者を探す行為の防止措置
・公益通報者に不利益な取り扱いを行った労働者及び役員等に対して、懲戒処分など適切な措置
1.内部公益通報対応体制を機能させるための措置(改正法11条)
・労働者及び役員並びに退職者に対する教育・周知・記録の保管・内部規定の策定・運用等に関する措置
・内部公益通報を行った者に対して対応した措置の通知
・内部公益通報規程の策定、情報の記録・保管および定期的な評価、点検の実施による体制の改善
1.行政機関への通報の要件緩和(改正法3条)
行政機関や報道機関等へ通報したことを理由として企業が行う不利益な扱い(解雇、降格、減給、退職金不支給等)は無効となります。
✔ポイント☝
ここが特に重要なポイントとなりますが、社内の不正が社内を飛ばして行政機関やマスコミに渡った場合、社内としてはいきなり大火事の状態から火消しに追われることになります。通報窓口の敷居が高かったり、通報に対するフローが不明であったり、信頼性が低かったりする場合には通報者は不正の是正の手段として「内部告発」を選ぶ可能性があります。内部告発を避け組織内でのソフトな解決糸口を探るためには、内部公益通報によって法令違反行為が是正される期待感を高めることは当然として、社内通報窓口の敷居を低く、公正で、透明性の高い部門であると従業員たちに十分な信頼いただくような利用しやすい環境の整備が不可欠です。もちろん、社内体制が不十分な場合はSNSへの投稿も当然考えられるわけで、小規模の商店や中小企業も例外ではなく、社内の不正や労務トラブルをSNSで公開されてしまうと企業ブランドは一生消えない烙印をおされ、商品やサービスの売り上げだけでなく、採用にも当然大きな悪影響を引きずる『負債』を抱えることとなります。
たとえば、匿名の通報を受け付ける。特定できないメールアドレスの利用を推奨する。経営陣と独立している理由を説明する。刑事罰付きの守秘義務を負う従事者が対応することをイントラ等で開示する。複数の窓口を用意して通報先の選択肢を増やす。外部窓口を経由してプライバシーを保護するなどがあります。いきなり社外に通報されると困るので、なんとか社内窓口で早期にキャッチしたいのが事業者の本音ですが、もちろん、敷居を下げるほど通報内容も疑わしいものが増え、私怨による虚偽通報もあり得るため、通報や相談内容の調査は「ありき」ではなく、客観性が必要です。
公益通報者保護法第3条では状況に応じて通報先が規定されており、規程された通報先を無視して飛び越し通報した場合は公益情報に該当せず、法で保護されません。つまり、適切に通報窓口を設置し運用していたにもかかわらずマスコミ等にリークした場合は違法行為として損害賠償請求の対象となる可能性が高くなります。いきなり外部に通報される「内部告発」を抑止するためには会社で明確に通報窓口を規定し、定期的に公益通報者保護法の趣旨について説明会を開くなどしておくことが必要となります。中小企業でも内部通報窓口を設置すべき理由はここにあり、争いの余地を減らすためにも独立した外部窓口の設置が効果的といえます。法の趣旨は組織内での「自浄作用の向上」であり、悪を罰することやマスコミをにぎわすことが目的ではありません。
(同法第3条に規定する通報先) ☑会社が定めた内部通報窓口 ☑監督権限を有する行政機関 ☑前項の通報先に通報しないことに相当の理由があり、かつ被害の拡大防止に必要と認められる通報先 (マスコミ・消費者団体・事業者団体・労働組合等) |
☑保護される通報者の範囲(改正法2条)
改正前は退職者、役員は保護される通報者の範囲に含まれていませんでしたが、改正後は退職後1年以内の者に限り、退職者(派遣社員含む)と役員が保護される通報者に含まれることになりました。併せて、同法7条によって損害賠償責任の免除が追加され、公益通報によって受けた損害を公益通報者に対して賠償請求することができないことが定められました。
☑保護される通報の範囲
改正前は刑事罰の対象となる犯罪行為が保護される通報の範囲とされていましたが、改正後は食品衛生法、金融商品取引法、JAS法ほか、公益通報者保護法で定める約500本の法律に対象を広げ、犯罪行為に加えて過料の対象となる行為(行政罰)が追加されました。
◎指針において推奨される考え方
- いわゆる顧問弁護士を内部公益通報窓口とする場合には通報を躊躇し、早期把握を妨げるおそれがあることに留意を促しています。そして、外部委託する場合には、中立性・公正性に疑義のある(つまり、利益相反)法律事務所や専門会社の起用は避けるのが適当とされています。
- 外部窓口を設ける場合には公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどやむを得ない場合を除き、公益通報者の明示的な同意がない限りは事業者に対しても開示してはならないこととしたり、固有名詞を仮称にすることを講ずることも考えられる。
- 公益通報者を特定させる事項を伝達する相手にはあらかじめ秘密保持を誓約させたり、情報の漏えいは懲戒処分等の対象となる旨の注意喚起を行う。
- ハラスメント事案等の被害者と公益通報者が同一の事案においては公益通報者を特定させる事項の共有には心情にも配慮しつつ、書面によって同意をえることが望ましい。
(ハラスメント窓口担当者は「従事者」となるか)
公益通報受付窓口が先に法定されているハラスメント相談窓口を兼務するケースも想定されます。さて、ハラスメント相談窓口担当者が公益通報者保護法にける公益通報対応業務を行う者として定められる「従事者」に該当するのかについては、ハラスメント行為は強制わいせつ罪(刑法176条)、暴行罪(刑法208条)、のほか、時間外労働の強要など割増賃金の未払い(労働基準法119条)などが含まれている可能性があることから「公益通報」に該当するため、ハラスメント相談窓口の担当者が公益通報窓口を兼務する場合には「従事者」に指定することが必要と考えられます。
おわりに
中小企業事業者にとって今回の法改正はリークを助長して面倒な仕事を増やすだけとネガティブにとらえる方も多くいますが、社内の自浄化の取組は従業員の働きやすい環境づくりに直結し、また取引先や顧客からの信用獲得(つまり、売上アップ)に絶好のチャンスと言えます。企業規模の大小にかかわらず、社内の不祥事やハラスメント問題が拡散すれば事業活動が停止するほどの大きな事故となることは多くの報道で目にしていますが、それらは事前に対策していれば防げたものも多くあります。良きも悪しきも隠せないネット社会をいかに利用するかどうかは事業の将来に大きな影響があります。自社には関係ないと考えず、法改正の機会に他社に先だって内部体制の構築やコンプライアンス研修を実施し、積極的に対外的にアピールしてみてはいかがでしょうか。
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