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メリットだらけの健康経営はなぜ進まないのか

2019/12/16

(最終更新日:2022/08/19)

東京証券取引所は経済産業省と共同で、平成27年から株主の投資材料の1つとして「健康経営銘柄」を毎年選出して情報を提供する取り組みを開始し高い評価をえています。企業を評価するプロである投資家にとって、従業員の健康保持や増進の取り組みが企業の将来の収益性に高い効果があると判断されていることがよくわかる情報です。ビジネス番組に取り上げられる優秀な企業はきまって、従業員を大切にしていることをアピールし、「ブラック企業でないこと」は情報社会で評価を得るための企業の最低条件にもなりつつあります。ところで、従業員等の健康管理を重要な経営資源と捉え経営的な視点による事業活動の一環として健康増進を実践する「健康経営」は自社には難しい、関係ないなどと考えてはいませんか?

従業員が健康で活き活きと仕事のできる環境作りに対して異を唱える経営者はいないと思いますが、しかし実際に進めようとしていると様々な問題点が発生したり、途中でだれも健康経営を口にしなくなりいつの間にか自然消滅しているなど、取り組みすることに経営的なメリットが上回るはずの健康経営が進まない会社があるのはなぜでしょうか。社員が健康であることは経営にとって最も重要な「土台」の部分ではありますが、会社が従業員の健康にまで関与するのは行き過ぎた越権行為でしょうか。

ほんの10年前までは、「自分の健康は自分で管理する」のが当たり前で、どんなに過酷な職場であっても当たり前のように健康も自己責任と言われ続けてきました。そんな世代からすると甘やかしすぎと批判されるかもしれませんが、さて、健康経営を長続きさせるポイントについて確認する前に、健康経営に取り組まないリスクは知っておかなければなりません。言われなくてもわかっていることばかりかもしれませんが、もう一度お読みください。

取り組まないことによる損失

1.ローパフォーマンス従業員の増加

「プレゼンティーイズム・コスト」などとも呼ばれますが、体調がすぐれないまま出勤して生産性が低下した状態を言います。慢性的な疲労、寝不足、腰痛や頭痛、花粉症や風邪など、誰でも一度は経験したことがありますよね。企業側からすれば、ローパフォーマンスの従業員よりは当然にハイパフォーマンスであってほしいのは当然で、「健康管理は社会人として最低限のマナー」と言うのもごもっともです。ひと昔前であればオーバーワークによる慢性的な疲労が明らかなのに体調不良で欠勤などしようものなら「自己管理が低い無能社員」とも扱われましたが、現在は健康管理も会社の重要な経営事項であると受け止め、体調不良の従業員を発生させない取り組みを全社で行う企業が増えています。もちろん、体調不良はハラスメントが原因である場合も多く、2022年から法定義務化されたパワハラ対策への取り組みが不十分であれば、企業はコスト負担だけでなく訴訟のリスクも抱えていることになります。病気や体調不良で出勤できないような長期療養している状態はアブセンティーイズムといいます。

(データ引用:東京都福祉保健局「会社の元気は従業員の健康から!」)

人的エラー(経営リスク)の増大

会社が従業員を酷使するようであれば愛社精神は失われるどころか、恨みさえ買うことになりかねません。ハラスメントによって精神に異常をきたすほどのストレスを抱えたり、正常な判断ができなくなるほどの状態で仕事に就かせると、ミスの増加や職務放棄などで業務が停滞したり、もしくは大きな損害となるほどの「人的エラー」が発生します。毎日暗い顔で出勤している従業員ばかりの職場であれば、全体としてのモチベーションが下がり指揮命令がうまく機能しなくなります。もしも労働安全衛生法やパワハラ関連法律に抵触するほどのコンプライアンス上の問題があれば、安全配慮義務違反として行政処分されたり使用者責任を問われて民事訴訟となることもあります。長時間労働やハラスメント等のある職場で従業員が重大なミスを犯して企業に損害を与えたとしても、個人に対する損害賠償請求はほぼ不可能です。つまりは従業員のミスの責任は会社が負うしかありません。

離職率の上昇・採用力の低下

社内の雰囲気や職場環境は、インターネットの普及とSNS、口コミサイトなどによって隠すことのできない時代になりました。従業員の健康に配慮を欠くような「不健康経営」の職場では離職者が増加するうえ、口コミサイトへの正直な書き込みやSNSなどによって会社のブランドが低下します(「レピュテーション・リスク」とも言います)。中小企業ではあまりレピュテーションを意識していない会社が多いのも事実ですが、意識せずとも健康経営に取り組んでいる企業とそうでない企業とでは従業員の定着度合い、採用の容易さに大きな差があると感じます。複数の会社から内定を取れるような若い社員やキャリア人材はしっかりと企業情報を調べます。「企業名+評判」はよく検索されているキーワードとして表示されるため、一度自社の評判も「エゴサーチ」してみてはいかがでしょうか。もしも悪い評判が書かれていても、これからの取り組み次第で十分取り戻すことはできます。

 

健康経営がうまくいかない理由

社長が無関心

健康経営やハラスメントの防止にはトップの決断が必要です。健康経営を口にはするものの、社長が愛煙家で健康に一切関心を持たないような「口だけ」となっていれば健康経営は全く意味がなくまず失敗する原因です。健康経営の取り組みは従業員が個々で始めることも必要ですが、会社として取り組む事項であればその重要度は社長の行動で示さなければなりません。経済産業省や各自治体による健康経営優良法人認定の取得を目指すのも良いですし、具体的な取組の概要が決まったら、自主的にホームページなどで「健康経営宣言」するのも効果があります。

担当者が業務多忙

社長に健康経営担当を任命されるのはきまって人事部ですが、人事部は従業員たちや経営陣が思っている以上に忙しい部署です。近年は働き方改革と人材不足の対応に追われて激務化して人気も停滞しており、転職する優秀な人も増えています。給与計算や保険関係の届出、入退社手続きなどはどれも急ぎ処理しなければならず、またミスが許されません。多忙な人事部に丸投げして健康経営を任せているところも多くあるそうですが、他部署の健康のために人事部が健康を害しているようでは本末転倒です。会社全体が健康的であること、つまり余力の範囲で可能な取組を実施しなければ不健康者が増えているかもしれません。

⇒人事部の負担が激増中!キツすぎて担当者が離職する?

具体性が無い

「今日から健康経営に取り組むぞ、時代は健康経営や!」と深夜の会議で言われても従業員には響きません。従業員の健康管理で気になることがあれば、個人に対して産業医等に相談することを勧めるのか、全体の構造的問題があるのであればその問題に対して効果的な方法を考え、具体的な行動を促すような配慮が必要です。なお、産業医がいない会社であっても全国47か所の産業保健総合支援センターでは無料で労働者の相談に応じてくれます。

例)

食生活が乱れがちな若年社員が多い職場であれば「健康食品の支給」

✅残業が慢性化している職場での「ロー残業月間」

✅運動不足のデスクワーク職場であれば「有給でのスポーツレクリエーション」

✅職場の人間関係にトラブルがある職場であれば「チームビルディングイベント」

✅新入社員や管理職者向けの「ハラスメント研修

 

実現不可能な目標設定

健康経営のためにいきなり残業禁止としたり、喫煙スペースを撤去したり、スポーツジムや部活動、社内外レクリエーションの強制参加などは社員の不満を生みます。アプリで体重を共有して減量した分をポイント還元なんて言う福利厚生制度も聞いたことがありますが、経営陣が意気込みすぎて従業員の意見を無視すると逆効果になっているかもしれません。50人以上の事業場であれば衛生委員会やなどを利用するほか、労使による協議を経て段階的に実行していくことが長続きさせる秘訣です。組織も人も、急に健康にはなりません。健康は継続なり。

なお、健康のためにひと駅ウォーキングやランニング出社を推奨している会社もあり、当方としては面白い取り組みだとは思いますが、事故が起きた場合の労災(通勤災害)の適用や会社の指示・指導があった場合は損害賠償請求を争われるリスクがあるため全くおススメしません。自主的な運動は会社が禁止することも交通費を不支給にするのも難しいので黙認するのは構いませんが、運動には怪我がつきものです。高負荷の運動や危険を伴う活動を会社で推奨することはもっとおススメできません。

言い訳が多い

離職率の高い企業に対して健康経営やハラスメント対策の話をすると、半分以上が「そんな費用は無い」と言います。不思議ですね。健康経営は考え方であり、健康経営という名前のサービスではありません。手段によっては費用のかかるものもありますが、ほとんどは費用を掛けなくても取り組むことのできるものばかりです。繁忙期で毎日忙しいと言っても、繁忙期でないときはあるはずです。そんな暇な日に定時まで仕事をびっしり詰め込まずに、例えば閑散期には出勤時間を遅らせたり、終業1時間前に帰宅させることなどは一切費用は掛かりません。

中小企業だけができる気まぐれ健康経営

従業員20名ほどが在籍する当社の顧問先ではダラダラと残業している従業員や外出戻りの従業員のほとんどが午後9時頃まで、毎日2時間以上の残業が行われていました。時間外労働の上限規制の話題に併せて健康経営の話をしたところ、長年の習慣を覆すのは難しいのではないかということでしたが、社長へ試験的に実施するように依頼しました。昼過ぎに「今日は早く帰ろか、定時一時間前の帰宅を目指せ」と一声かけるだけでいつも居残りしていた半分の社員が1時間前に帰宅、残りの半分も定時までには帰宅したそうで社長は驚いていました。いままで支払っていた残業代は無駄だったのではないかと一瞬怒りの表情を見せましたが、今までのマネジメントの問題は最終的に社長に責任があり、社員が責められる性質のものではない。そんなことよりも早く帰らせた分の残業代が浮いてラッキーではないかと話すとすぐに納得されました。今ではインフルエンザの時期に満員電車は危険すぎるという理由で出勤時間を30分遅らせたり、昼休憩を30分延長したり、昨年比で削減した残業代は賞与として従業員へ勝手に還元するなど、自由奔放で気まぐれな健康経営を実施しています。大企業であれば他部署との均衡やマネジメントの権限の問題でこんな気まぐれなことはできませんが、中小企業は何でもアリ。こんなことから始めても良いのです。

 

おわりに

従業員を酷使してでも外聞を気にした昭和の時代は終わり、令和は従業員の健康など、社内の評価を意識する時代になりました。パワハラ防止法の完全施行、また300人超従業員規模の事業者には公益通報者保護法に対応するための体制の整備が義務(300人以下は努力義務)となるなど、2022年は組織の自浄化に向けた主な法律が施行される節目の年といえます。人材不足や優秀な人材獲得競争はますます激化していくことは明らかで、従業員を大切にすることが企業の浮沈に大きな影響をおよぼします。健康経営は中小企業ではまだまだ遅れているといわれますが、費用をかけなくてもできることは無限にあります。そして、費用をかけることだけが評価につながらないことも、中小企業の知恵の絞りどころです。

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