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不動産仲介業の就業規則と最適な労働時間管理制度

2019/09/03

不動産会社の労働時間管理に最適な方法とは?

店舗を構える不動産業者の場合は人員の問題などなかなか完全週休二日制に踏み切れるところは少なく、「水曜日定休のほか隔週週休二日制」の事業所も多いのではないでしょうか。小さい店舗、少ないメンバーでベストなパフォーマンスを発揮できる最適な労務管理制度について、労働基準法では一定の要件を満たせば通常の方法ではなくとも認められる制度が実はあります。不動産会社のように季節によって繁閑の差がある事業の場合は「変形労働時間制」の導入を検討します。

変形労働時間制とは、労働時間を一日単位とせず、事前に定めた週・月・年で平均する制度です。通常は一日8時間、一週40時間を超えた場合は時間外労働となり割増賃金の支払い義務が発生しますが、変形労働時間制を定めた場合には指定した時間内であれば一日8時間を超過しても要件を満たしている限り割増賃金を支払う義務はありません。

不動産会社で導入できる変形労働時間制は、1カ月単位または1年単位の変形労働時間制となります。

《変形労働時間制等の要件》

1週間単位の変形労働時間制 1カ月単位の変形労働時間制 1年単位の変形労働時間制 フレックスタイム
就業規則への明記
労使協定の締結
監督署への届出
勤務時間表の作成
業種制限 労働者数30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店のみ 制限なし 制限なし 制限なし
休日日数と連続労働の制限 週1日または4週4日の休日 週1日または4週4日の休日 連続6日(特定期間最長12日) 週1日または4週4日の休日
一日(一週)労働時間の上限 10時間 10時間(52時間)

※回数制限あり

一週平均労働時間 40時間 40時間(44時間) 40時間 40時間(44時間)

※週44時間が認められる特定対象事業所は1カ月単位の変形労働時間制のみ併用できます。(1週間単位、1年単位の変形労働時間制は40時間が上限となります)。

(一か月単位変形労働時間制就業規則記載例)
第〇条 所定労働時間は毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、1か月を平均して1週間40時間以内とする。
2.各日の始業時刻、終業時刻および休憩時間は次の通りとする。
始業時刻9時00分 終業時刻18時00分 休憩時間正午から午後1時まで 
3.休日は1か月に7日付与する。
4.各日に定める勤務形態は起算日の一週間前までに勤務表を個人別に通知する。

(隔週二日制の場合)
第〇条 所定労働時間は令和○年○月1日を起算日とする二週間単位の変形労働時間制とし、二週間を平均して1週間40時間以内とする。
2.一日の所定労働時間は7時間15分とする。
2.各日の始業時刻、終業時刻および休憩時間は次の通りとする。
始業時刻○時○分 終業時刻○時○分 休憩時間正午から午後1時まで 
3.休日は次の通りとする
 1.毎週水曜日
 2.令和○年○月1日を起算日とする2週間ごとの第二火曜日
 3.年末年始(12月○日から1月○日まで)
 4.夏季休日(○月○日から○月○日まで)
 5.その他会社が指定する日
4.各日に定める勤務形態は起算日の一週間前までに勤務表を個人別に通知する。
5.業務の都合により会社が必要と認める場合あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。

◎よくある間違い

✅変形労働時間制は毎日の労働時間をあらかじめ定めておかなければなりません。6時間と定めた日が忙しくなって7時間労働となり、翌日1時間早く帰社した場合でも残業していないことにはできません。

✅一度決定した労働時間についてはやむを得ないと認められる場合(災害等)を除き後で予定を変更することはできません。

インセンティブを支給するとき

出来高による報酬(インセンティブ)を支給する場合も注意しなければなりません。時間外労働の割増賃金を計算する際の基本賃金から除外してよい報酬は限定されており、出来高給は割増賃金に含めて計算する必要があります。

【時間外労働の計算方法】

時間外労働賃金=(基本給※+インセンティブ)÷算定期間における総労働時間数×1.25

※基本給=固定給÷一年間における月平均所定労働時間数

売り上げに伴い労働時間が増加する場合は、歩合率を高くすると割増賃金も増加するため、バランスの取れた歩合給与制度の設計が必要です。

みなし労働時間管理

みなし労働時間制とは、実際の労働時間の長短に関わらず一定時間働いたこととみなす制度で、主に3つのタイプに分類されます。

①事業場外労働のみなし労働時間制

②専門業務型裁量労働制

③企画業務型裁量労働制

外回り営業職や旅行会社の添乗員などに適用されるのは①で、要件として、『労働時間の全部または一部を事業場外で労働した場合で、使用者の具体的な指示管理が及ばず、労働時間の算定が困難なとき。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。(労働基準法38条2項)』とされます。しかし携帯電話やスマートフォンが普及した今、使用者の具体的な指示管理が及ばず、算定が困難となることは想定が難しいため、みなし労働時間管理の適用を『会社に都合の良い解釈』で導入することは未払い残業代を潜在させることになり大変危険です。

管理監督者(法41条)やみなし労働時間制の紛争時に会社側の主張が通ることはほとんどありません。なぜなら、要件が厳しいことと、会社に都合よく解釈した運用になっていることです。つまり、いかに完全と思われるような制度設計を行っても、実態として長時間労働させるとリスクが高まります。

【労働基準局長通知昭和63年1月1日基発1号】
事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって、次の場合のように、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はないものであること。
ア 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
イ 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
ウ 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合

【参考判例:レイズ事件(東京地裁平成22年10月27日判決)】
◆営業本部長の管理監督者性と事業場外労働みなし制の適用が否定された事例
◆〈概要〉不動産の営業・販売を行うY社で労基法41条2号の管理監督者として扱われ、事業場外みなし労働時間を適用された営業本部長のXは、ほかの一般従業員と同じ業務を行っていたにすぎず、給与についても他の従業員と比較してもそれほどなかった等として管理監督者性はないとして休日・時間外・深夜労働にかかる未払い賃金等と付加金の支払いを求めた裁判。
◆〈判決の要旨(一部抜粋)〉労働基準法38条の2第1項は、労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなすこととし(同項本文)、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」労働したものとみなす(同項但書)旨を規定しているところ、本件みなし制度は、事業場外における労働について、使用者による直接的な指揮監督が及ばず、労働時間の把握が困難であり、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、便宜的な労働時間の算定方法を創設(許容)したものであると解される。そして、使用者は、本来、労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのであるから、本件みなし制度が適用されるためには、例えば、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに、労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず、具体的事情において、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである。また、労働基準法は、事業場外労働の性質にかんがみて、本件みなし制度によって、使用者が労働時間を把握・算定する義務を一部免除したにすぎないのであるから、本件みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が、現実の労働時間と大きく乖離しないことを予定(想定)しているものと解される。したがって、例えば、ある業務の遂行に通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合であるにもかかわらず(本来、労働基準法38条の2第1項但書が適用されるべき場合であるにもかかわらず)、労働基準法38条の2第1項本文の「通常労働時間」働いたものとみなされるなどと主張して、時間外労働を問題としないなどということは、本末転倒であるというべきである。」「Xは、原則として、Yに出社してから営業活動を行うのが通常であって、出退勤においてタイムカードを打刻しており、営業活動についても訪問先や帰社予定時刻等をYに報告し、営業活動中もその状況を携帯電話等によって報告していたという事情にかんがみると、Xの業務について、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるとは認められない。また、Xは、営業活動を終えてY会社に帰社した後においても、残務整理やチラシ作成等の業務を行うなどしており、タイムカードによって把握される始業時間・終業時間による限り、所定労働時間(8時間)を超えて勤務することが恒常的であったと認められるところ、このような事実関係において、本件みなし制度を適用し、所定労働時間以上の労働実態を当然に賃金算定の対象としないことは、本件みなし制度の趣旨にも反するというべきである。」「Xの業務については、本件みなし制度は適用されないというべきである。」

営業職は仕事の成果に応じて報酬を受け取るものとして、残業代を支払う必要が無いと考える事業者だけでなく、売り上げが悪いからといって残業代を受け取ることに遠慮してしまう労働者もいます。しかし売上を追求する営業職だからといって、残業代の支払いが免除されるほど労働基準法は甘い設計とされていません。残業したものとみなして一律で固定残業代を支給している会社も多くありますが、みなし労働時間同様に要件が厳しく、実態として長時間労働を行っていた場合に正確な労働時間管理と残業代を支払っていなければ事業主が勝てる見込みはありません。また、営業手当を固定残業代として支給している場合はその部分の残業代を支払っているとは認められないほか、歩合給や外部委託扱いとして労働者扱いしていない場合でも、実質的に指揮命令にあり、労働時間の裁量が実態として働く側になければ労働者として判定され、最低賃金以上の給与や割増賃金の支払い義務があるため注意が必要です。

残業代の節約を目的として様々な複雑な制度を導入しても、導入するイニシャルコストやランニングコストを要するほか、法の趣旨と異なった労働者の不利となる運用を行った場合には訴訟リスクのほか、従業員のモチベーション低下、離職など、優秀な人材の定着のための人事戦略で大きくつまづくことになります。給与制度や労働時間管理の人事制度はシンプルなものが最も安全でリスクが低く、また従業員たちが納得して働きやすい社内制度です。複雑な制度を悪用して『敗訴リスク』を負うことの無いよう、労働時間管理は専門家を交えて慎重に検討することが大切です。

 

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