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中小企業が取り組むべき災害対策とBCP(事業継続計画)

2019/09/01

防災計画が不十分で損害賠償請求!?

9月1日は防災の日です。日本各地で自然災害が相次いだ平成から令和に代わっても地震活動や豪雨など気象災害は多発しています。近い将来確実に起こるといわれている南海トラフ大地震や首都直下型地震が起きた時、自分や大切な人たちを災害から守る準備について私たち事業主も改めて考える日です。

24年前に発生した阪神淡路大震災で神戸市内の被害が拡大した要因の一つに、当時の防災マニュアルが震度5レベルを基準とした地域防災計画であったことが挙げられています。私たち関西圏の人間は、阪神淡路大震災までは「関西は大きな地震や災害は起きへん、起きても軽い」という楽観的な安全神話、常識、風潮があり、道路、公共交通機関などのインフラの被害が軽い震度5ほどの基準で十分であると官民ともに誤った認識によって、結果的に多くの死者・死傷者を発生させてしまいました。また、気象災害だけでなく新型インフルエンザなど生命を脅かす伝染病による事業活動への影響も無視できません。

いまや防災に関する労務管理は最悪の事態を想定してマニュアルを作成することが基本ですが、防災には必ずコストが比例します。安全対策にかけられるコストには限界があり、多大なコストで目の前の経営をひっ迫させてしまうようでは何のための事業活動か本末転倒となり、多くの現場で労災事故が絶えないことも同じ意識にあります。

特に中小企業にとって大規模災害対策はハードルが高く、重要性は十分理解できているものの、取り組みが不十分、もしくは後回しになっている現状があり、いつ起きるともわからない大災害に対して同じ過ちを繰り返してしまう可能性は十分にあります。

まずは完全無欠の災害対策は不可能であることを理解したうえで、許容可能なコストの限界とリスク管理上の必要最低限のものを考慮し、「満点でなくてもできる限りの準備は行う」ことから始めることが現実的です。BCP(事業継続計画)は災害時の早期復旧を目的とした計画、防災計画は人命や事業資産を守るための用語として使われますが、それらはどちらも災害対策に重要なことです。自社の対策に不十分が無いか、改めて考えていきましょう。

災害対策の目的

1.自社従業員の生命の安全

事業活動に欠かすことのできない人的資源は『再取得不可能な資産』です。機械も道具も使える人材がいなければ事業活動を行うことはできないため、生命の安全を第一優先としてマニュアル作成を行わなければなりません。その他事業におけるお金で買えるものと買えないものの優劣をつけ、必要なものが閉じ込められて取り出すことができない状態とならないよう、大切なものを「失わない」方法を考えなければなりません。

2.従業員のモチベーション維持

防災意識が低く、従業員の安全配慮を怠る企業では、従業員は会社に精一杯貢献しようとは思いません。また、様々な災害のニュースを目にする中で、「会社は安全だろうか」という疑問は必ず抱いています。万が一の災害を想定し、できる限り対策を講じている企業と、そうでない企業ではふとした時(少し揺れた時など)、恐怖がストレスとなり事業に打ち込むことができず、メンタル不調にもつながりかねません。グーグルの組織研究で話題となった「心理的安全性の高い職場」に近づけるためには、事業主自身が高い防災意識を持つことが必要です。

3.事業の維持

事業の早期復旧が遅れると、取引先は離れ、再構築までに相当な時間を要し、また資金が底を尽きる可能性も十分にあります。現に東日本大震災での災害倒産は発生二年目以降も長く続き、多くが「一度は耐えたものの、維持できる体力が残らなかった」事業も大変な件数に上ります。大切な顧客リストや工場の鋳型など、事業に必要でお金で買えないものが紛失すると即事業が滞ることになります。2018年9月に起きた北海道胆振東部地震では日本で初めての電力会社管内全域停電『(ブラックアウト)』も発生しており、現代の経営資源である「情報」についてはパソコンやクラウド上の保存のほか、重要なものは紙での保存をおこない、「ファシリティ」である機器類は安全な場所に移動するなどでリスクを回避しておくことが備えとなります。

4.サプライチェーンを止めない

自社が運よく無傷で立ち直ったとしても、元受け、下請け事業者の需要と供給が絶たれれば、事業を維持することはできません。日ごろから関連業者と「災害時協力協定」などを結び、緊急時の設備や人的資源の貸し借りなど、サプライチェーン全体の安全管理も考慮しておく必要があります。社会という基盤があって成り立つ事業である限り、自社の危機管理だけでは防災の考えでは不十分です。

災害時マニュアルの作成

災害大国といわれる日本において、災害が一切起きないエリアは存在しません。予期せぬ大地震の際、誰が指揮をするのか、被害状況や取引先への連絡はだれが行うのか、非常用備蓄品はどこに保管するのかなど、災害マニュアルの記載事項は多岐にわたります。また、災害マニュアルには共通のテンプレートなど存在せず、自社の地域、建物の堅牢度、周辺設備や事業性質に合わせて、一つ一つ細かいマニュアルを作成する必要があります。

《マニュアル作成のポイント例》

✅想定される最悪の被害の分析(リスクアセスメント)

✅災害発生時の組織体制

✅情報の収集方法と提供

✅非常用備蓄品の管理方法

✅緊急連絡網(従業員の安否確認方法)

✅応急救護、初期消火、避難等

✅防災訓練・教育のほか受講義務

《災害時行動指針の作成例》

震度6以上の大規模地震のほか、警戒宣言発令、緊急地震速報受信時及びそれらに準ずる大規模災害発生または発生の恐れがある場合(以下「災害という」)、○○株式会社の従業員とその家族並びに関係社員の安全確保、経営資源の損害軽減、二次災害防止、業務の早期復旧のために行動指針を定める。
1.災害発生時にはまず自らの身体、生命の安全を優先すること
1.公共交通機関の停止によって通勤困難な場合は出勤義務を免じる
1.携帯電話等通信インフラの障害によって連絡がつかない場合は自ら判断し安全な選択を取ること。安全が確保できたうえで会社へ一報を入れること。
1.帰宅困難となった場合は事務所または状況に応じて以下の避難場所へ退避すること
・〇〇小学校
・○○ビル(市指定避難場所)
・〇〇公園(市指定避難場所)
・〇〇マンション(会社所有マンション)
1.出社を命じられた場合、自己または家族等の状況により、防災マニュアル上の優先すべき理由がある場合には出社命令に従わないこと。
本指針のほか安全管理に関する担当責任者(現場不在時繰り下げ)
代表取締役社長:○○ 連絡先:000-0000-0000
経営管理本部部長:○○ 連絡先:000-0000-0000
○○店店長:○○
○○店スタッフ職:○○
責任者不在時には自己の判断において安全を確保すること。

指針は2部印刷し、自宅で保管するほか、携帯等に保存して確認できるようにしておきます。

《防災教育》

災害に対して根拠のない安心を持っているなど、『災害に対するリスク認知にずれがある』場合は自らの生命を脅かすほか、他人の生命を脅かすことになりかねません。災害を「わが事」と捉え、間違った認識やずれが無いよう、日ごろから継続的に教育することが大切です。会社が十分な防災管理を行わず、誤った認識で従業員の生命を危険にさらした場合は、事業主の安全配慮義務違反を問われて損害賠償を負うことにもなりかねません。

《事業主が考慮するポイント》

☑従業員の生命を守るための安全体制

☑安全配慮義務違反を問われることの無い十分な防災対策

東日本大震災に伴う津波によって、企業や行政に対して多くの訴訟事案が発生しました。

そして、企業や自治体の不十分な対応が安全配慮義務違反を問われた判決もあります。また、予見不可能な災害とはいえ従業員を死亡させてしまった場合、裁判にならなくても従業員やその家族、多くの関係者を不幸にしたスティグマ(烙印)を背負っていかなければなりません。混乱する極限の災害時において適切な判断と避難指示を出すことは困難で事業主に過大な義務を負わせることは酷ですが、日ごろから自社の立地や周辺施設など、調査と準備を怠らないことが必要です。

事業主には、従業員が安全・健康に働くことができるように配慮する義務があるとされており、これを「安全配慮義務」といい地震のような予測不可能な災害においても安全配慮義務は免れないと裁判所は判断しています。「ハザードマップを見たことが無い、見たけれど対策を講じていない」、「災害マニュアルや災害時行動指針の作成・周知を行っていない」、「具体的な避難訓練を行っていない」など、通常大きなコストを掛けずとも取り組みできるはずの対策を行っていない場合には法的な責任を負う危険性も極めて高いといえます。法令等で要求されている最低限の管理を確実に実施していることが企業の責任を免れる(瑕疵が無い)最低限の法令順守、リスク回避となります。

帰宅困難者の教訓

東日本大震災によって首都圏では515万人を超える帰宅困難者が発生、様々な問題が生じました。将来南海トラフ巨大地震が発生すると、大阪市内だけで90万人、大阪府で最大150万人が帰宅困難者になると大阪市が公表しています。同時に出社困難者も相当数となることが予想され、これまでの過去の教訓を生かした「むやみな移動の自粛」「安易な帰宅(出勤)命令」など対応の見直しが必要です。

権限の委譲

中小企業であれば、組織の代表者や役員を危機管理の責任者として定めているところがほとんどだと思います。しかし、代表者や役員が必ず現場にいるとは限りません。判断の決定権者が不在となることで行動を起こせず、多くの命が犠牲になったと思われる例(山元自動車学校津波被災事件・大川小学校津波被災事件等)があります。災害時の権限は上位に集中させることなく、あらゆる不在を想定して地域毎の工場長や店長、一般社員や工員にまで権限を自動的に委譲させる仕組みを作っておかなければなりません。場合によっては現場の判断で閉店したり事業を停止し避難する必要もありますが、安全を優先して「業務放棄」させることも企業の安全配慮義務であると裁判所はコメントしています。

災害時の出勤義務など職務専念義務については判断が非常に難しいことですが、裁判所の指摘では『極限状態で出勤することは大きなストレスがかかり、不安な中で職務を全うしたものは大きな賞賛をもって報いられるべきであるが、そうした職務に対する過度の忠誠を契約上義務付けることはできないというべきである。』としています。(東日本大震災における解雇無効確認等請求事件 東京地方裁判所2015.11.16判決文引用)

二次災害や自社の科学的災害予測性、従業員の住所や事業性など、防災を講じる際に考慮することは多岐にわたり、またその方法も様々です。いついかなる災害が発生するかわからないことに労力やコストをかけることは一見無駄なように思えますが、過去の被災事例をみると、対策を十分に講じているかどうかで明暗は分かれます。防災意識のますますの高まりからも実現可能な対策を検討し、十分に講じておくことが事業活動に求められています。

ハラスメント防止対策などと同様に、防災管理は100社あれば100の方法があり、『マニュアルを作成することが目的』とならないよう、あくまでも従業員と事業を守ることを目的として実態に即して機能させることが必要です。近年はBCP策定を取引条件としている国内企業も増え、十分な災害対策を講じている企業であれば取引先や金融機関の信用も獲得しやすく、長期的に見れば『儲かる』取り組みといえます。防災の日に今一度、事業主の責任としてもう一歩進んだ取り組みを検討したいところです。

 

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