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週休三日制度は中小企業でも導入できる!?(選択的労働時間制度)
2022/04/14
日立製作所やパナソニックなど大手電機メーカーが週休三日制を導入するということで大きなニュースになっています。
各社報道やSNSでも様々なコメントが飛び交うインパクトのあるニュースとなりました。中小企業でもコロナ禍で働き方が変わった事業所も多く、様々な労働時間制度について検討している会社が多いことも影響しているはずです。
ということで今回は週休三日制度など柔軟な労働時間制度について、中小企業で導入する際のメリットとデメリットや実現のための手続きについて案内していきます。個人的には、自社の社員が喜んでいるなら外部の意見など無視してもいいとも思いますが、押さえるべき法的要点や導入実務についても少し触れていきます。
こういう労働関連のニュースが大きく取り上げられるタイミングは事業者だけでなく、労働者にも働き方について考える良い機会であり、社内でも話題に上ることがあると思いますので、参考のため是非最後までお読みください。特に、「週休三日」と聞いただけで羨ましい!と思ってしまった従業員の方に読んでいただきたい労務管理の実務的な記事です。
その前に、労働基準法の変遷
週休三日制度を語るにはまず労働基準法の変遷を語らなければなりません。工場労働者を対象としていて現代の労働になじまなくなっているなど、批判的に語られることもある労働基準法ですが、労働基準法が施行されたのは1947年、週法定労働時間は「48時間」と定められてスタートしました。一日8時間勤務であれば、週1日休日が当然だったわけです。そして制定から40年近く経過した昭和62年、あらゆるモノであふれ日本中が明るい未来を信じた高度経済成長期ですが、当時の改正によって48時間から「週40時間」へバブル崩壊とともに段階的に短縮されて現在に至ります。それから30年が経とうとする令和の時代、働き方改革関連法が施行され、満員電車は相変わらずですが仕事だけが人生の生きがいと胸を張る若人もすくなくなったこれからはやはり労働時間短縮の潮流は避けられないようにも思えます。
選択的週休三日制等の導入背景と目的
ワークライフバランスの認知が高まり、また少子高齢化によって、企業としては育児や介護など私生活との両立に取り組まなければ必要な人材を維持することが困難となってきました。そしてコロナ禍による感染対策として、オフィス内で長時間の密集がリスクと考える企業も増えたことから、事業場外の自宅やシェアオフィスで労働することが一気に加速しました。大企業は安定しているという図式も崩壊するなか、正社員だけにこだわらない新たな働き方も注目され、ライフスタイルの多様化は社会的に許容されつつあります。
ダブルワークでも双方で労災が適用されるよう法改正されるなど、政府としても労働の多様化・流動化を後押ししており、企業規模を問わず多様な働き方を認めることは企業の利害とも一致しています。
週休三日制はどのような制度か
一言で週休三日制といってもその内容は様々、給与と対比すると大きく3つのパターンに分類されます。一般的な一日所定8時間、週40時間の所定労働時間を基準に比較してみます。事前に決められた時間を「所定労働時間」、実際に働いた時間を「実労働時間」と呼びます。
①休日は増やすが週所定労働時間は減らさず、給与はそのまま
※今回の日立製作所やユニクロなどでも導入されているパターン
例:週5日一日8時間勤務➡週4日一日10時間勤務の週休三日制(※所定労働時間は40時間と同じのため給与はそのまま)
この制度は所定労働時間が同じならどのように分割しても同じ成果を期待しますが、現実はそんなはずはありません。翌日の作業を前倒しできるなら、有給休暇消化率がこんなに低いはずがありません。機械的な単純作業なら1日の労働時間を2時間延長すれば2時間分の仕事になりますが、クリエイティブな判断が必要な要素があれば2時間は2時間の仕事にならず、またいつも通り8時間で終わって2時間を無駄に過ごしていることもあり得ます。ところでこの方式は佐川急便など運送業(ドライバー業務)などで古くから利用されている単なる変形労働時間制度(労基法32条)なので良くも悪くもない法定のフェアな制度ですが、週休三日制度という期待値の高いワードからの落差で批判的なコメントが増えたのだと考えられます。
②週所定労働時間を減らして、給与も減らす
例:週5日一日8時間勤務➡週4日一日8時間勤務の週休三日制(※所定労働時間は32時間へ減少、給与も20%減額)
所定労働時間の減少比率に合わせて給与が減少するだけですので、損も得もないようですが、この制度の導入することすらなぜか困難な会社も多いです。給料が下がってもいいので所定労働時間を短縮してほしかったけれど、制度が無いので辞めた人は多いはずです。さほど争いもなく社会保険の適用も可能ですので、選択的労働時間制度として取り入れている会社も増えています。
③週所定労働時間を減らして、給与は減らさない
夢のような制度であり、事実上の昇給です。
例:週5日一日8時間勤務➡週4日一日8時間勤務の週休三日制(※所定労働時間は32時間、給与は100%を維持)
週休三日制度の報道見出しを見たほとんどの労働者の方はこのパターンを期待したかもしれませんが、実態としては①か②の導入となります。「週休3日で給与はそのまま」という表題は不足(「でも、一日の労働は長くなるよ」が抜けている)があれども、偽りはありません。本来企業としては生産性を高めて、この制度導入に取り組むべきですが、現実的には難しいようです。昇給が難しいならせめて代替案として所定労働時間を短縮しても良いはずですが、そんな話も聞いたことがありません。昇給の無い企業は従業員の技能向上にどう報いているのでしょうか。
働き方の選択肢の増加(選択的週休三日制)によるメリット
1.企業ブランドの向上
新しい働き方の提案は今や社内だけの問題ではなく、社外においても話題になることがあり、特に人材獲得の分野では大きなメリットを発揮します。様々な働き方を選択できる職場であるということはつまり、出産や育児などライフイベントの他、パートナーとの関係性や仕事に対する心理的な変化があったとき、自身の変化に合わせて働き方を選びなおしすることができれば長く勤務してくれる機会が増加します。また、求職者にとっても選択肢の多い職場は魅力的であり、有能な人材獲得の期待値が高まります。高騰し続ける人材獲得コストを考えれば週休三日制等の導入コストは些細なものかもしれません。長く経営していると感謝が鈍ってきますが、従業員が長く続けてくれているだけでも会社はたくさん得をしています。大切な社員は失うときに初めて気が付くものです。
1.マイノリティーへの配慮
育児や介護には比較的寛容になりつつありますが、個人の特性についてはまだまだ理解が進んでいません。体調も誰しもが常に健康とは限らず、いつも体調不良の人もいればいつも元気な人がいます。とびぬけたスキルを持っているけれども、一日6時間以上勤務できないという特性のある人もいます。これら組織として元気な人がカバーすればよいかもしれませんが、それはそれで不公平とも言えます。育休取得も歓迎すべきですが、業務は誰が引継ぎするのでしょうか。当たり前で仕方ないことなのでなんとも思わない方もいれば、申し訳ないと思う方もいます。そういった方にもフィットできるような働き方を企業側が提案できれば、それは制度であり負い目も少なくなるかもしれません。誰しもが一日8時間、一週40時間働かなければならない「must」の組織を脱却し、様々な制度を導入して「want」にすることで、従業員たちは余計な配慮や負い目を気にせず力を発揮できるかもしれません。
1.リカレントの推進
ひとつの会社に縛られる拘束時間が少なくなることで、学舎での学びなおしや資格取得など自己研鑽の時間を捻出できることも期待できます。一方で、個人が自己研鑽して会社業務以外で能力を高めると離職のリスクが高まるとの心配も当然です。リカレント等で得た知識を会社に還元してくれるなら言うことなしですが、学びに意欲のある人材はやはり冒険者的性格でもあり、良いことばかりではなさそうですが、自社の元従業員が立派になってくれれば誉と言える器の会社であればこれもメリットに入れても良いはずです。
週休三日制のデメリット
1.業務の調整が1.5倍?
週休2日制が週休3日制になるなら単純に、業務の引継ぎや担当者の休日調整に1.5倍の労力がかかると考えるかもしれません(嘘だと思うかもしれませんが、実際に言われたことがあります)。しかし、現在は引継ぎや社内情報のためのデジタルツールも飛躍的に充実しておりますので、業務の引継ぎ調整が増えるので週休三日制度を導入しないというのは理由としては弱い気がします。
1.コミュニケーション機会の減少
組織は集団で協力することで、1+1が3にも4にもなります。それら個人の総和を組織としていかに拡大していくかは、円滑なコミュニケーションが重要になることは言うまでもありません。しかし多様な働き方を認めると、いつも同じ場所、同じ釜で飯を食った仲間意識が低下するのではないかという意見も無視できません。
これらはコロナ禍において、テレワーク勤務者など物理的遠隔者に対して「オンライン飲み会」など流行りが廃れてしまったトラウマがあるかもしれません。現在は様々な会社が実務を通じて社会実験をしているところですが、コミュニケーションというのは取ろうとしても取れませんし、努力や命令で表面的に機能させても、「総和の向上」という目的には寄与しないものです。
しかし、会社として多様な働き方を認めるような寛大な職場においては従業員の心理的安心感も高まりやすく、組織として若々しいチャレンジ姿勢が失われていないと評価することができます。コミュニケーションで最も重要なのは「心理的安全性」であり、心理的安全性の高い職場ならばうまくやっていけるに違いありません。
1.取引先へのサービス低下
取引先とどうしても対面打合せが必要な業種もあります。そういう会社は取引先に対して、会社の取組が顧客サービスにもつながることを説明して納得していただくしかありません。飲食店では配膳ロボットがありますし、小売業ではキャッシュレス機器など、近代の様々なテクノロジーを利用・検証しながら「人材の維持」にコミットしていくべきと言えます。顧客サービスより、従業員サービスを重視しなければ中小企業は今後事業活動が大変厳しくなります。従業員を置き去りにした顧客主義は継続性がありません。取引先と従業員はどちらかを優先すればどちらかが疎かになるトレードオフの関係ではなく両立できるはずであり、経営者の腕の見せ所です。
1.制度の導入・維持コストの増加
新しい制度が労働基準法の枠内にあるのか、特例の枠内にあるのかによって事務コストは大きく変わります。特に一日の労働時間を10時間にして休日を増やすような場合には、「一か月単位の変形労働時間制」の適用や「時間外労働の協定(36協定)」の手続きを行わなければなりません。従業員は喜ぶけれども制度の導入やその後に維持できなければ失敗に終わるケースもあります。企業は様々な制度にチャレンジし、失敗を糧にしながら成長しますので、それら新たな働き方を導入し、失敗したことを持って「無駄」とすることはまさに無駄な意見ですが、せっかくなら維持したいところです。中小企業はやはり前向きに検討しつつも無理のない範囲で導入・運用の実現可能性を模索します。
中小企業の週休三日制度導入手順
休日や休暇に関する定めは就業規則の「絶対的記載事項」に該当するため、週休三日制を導入する場合には「就業規則の変更が必要」というのは誰に聞いても同じ回答ですが、経営者はそんな当たり前のことを聞いているのではありません。就業規則の変更などできるだけ面倒は回避し、簡便に導入する方法について一部を簡単にご案内します。以下は企業の個別事情を一切考慮しておりませんので、実施は自己責任でお願いします。
①解釈の余地がある場合(例外規定がある場合)
中小企業の多くでは週休制度について定めがあっても、別途定めることができる規則にしていることがあります。基本的に休日の増加は不利益となることは無いため、全社に適用される就業規則を慌てて変更する必要があるかどうか、まずは休日規則が柔軟になっているか確認しましょう。就業規則が無い10名未満の小規模事業者はここに該当します。
例外規定がしっかり設けられている場合には、直ちに就業規則を変更せず、選択的労働時間制度について試験的に実施するむね労使協定等で定め、順調な運用が見込めた時点で規則を変更する方法です。協議➡決定➡実施➡修正➡規則変更の手順になります。
但し、一日8時間を超える制度を実施する場合は事前に残業関係の届け出(36協定)の他、割増賃金の対象外とする場合には変形労働時間制の手続きが必ず必要になります。
②不就労を懲戒扱いしない方法
一部の従業員にだけ適用する場合などで、規則や労働契約を変更するとなると面倒な手続きが発生するのでやめておこうとなるかもしれません。その場合には、雇用契約上の所定労働時間内で欠勤等不就労となっても懲戒対象としない方法があります。通常は遅刻欠勤には何らかの内規が設けられますが、会社として「制度変更したくない」場合には、欠勤控除するかどうかは別として、事前に不就労届のあった遅刻・早退・欠勤は懲戒処分せず、不利益な扱いもしない旨取り決めする方法もあります。この方が実務的には自由度が高く簡単です(つまり、導入しやすい)。
※固定的賃金の変更を伴わないため厚生年金・健康保険の随時改定(月額変更届)として認められないことがあります。
おわりに
週休三日制の追加休日部分が本人の裁量に任せられていることについて、「事前に休日の定めがないものは変形労働時間制と認められない」という法律を知っていそうな杓子定規な意見も見かけますが、大企業ならば制度導入について法の趣旨との整合に国に事前に確認を行っているはずです。どうも週休三日制度というとラーメンの味のように誰でも論じやすく否定的な意見に影響されそうになりますが、経営者であれば従業員の定着、採用難の脱却、自社ブランドの向上など良いことの多い「選択的な働き方」について、従業員の福利向上を目的に制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。労働者は自分の職場の働き方の選択肢が増えることを期待しているはずです。そして、期待に応えられない会社はじわじわと見限られているかもしれません。
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