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人手不足でも即戦力の中途採用社員は採用するな!?失敗しがちな落とし穴

2021/11/25

中小企業経営者から人材採用の相談を受けると、かなりの確率で「即戦力となる中途採用」を希望します。特に新型コロナで大きく社会が変化する今この時には、今までに社内では必要としなかった新たなスキルや経験を持った人物が業種・業態転換時のキーマンとなったり、人材の入社による刺激によって苦しい現状を打破するきっかけになることも期待できますし、コロナ以前から多くの会社が人手不足で悩んでいますのですぐにでも手が欲しいと思うのも理解できます。ただ、即戦力を欲しがる考え方には大きな落とし穴や思い込みが存在していることを理解していない経営者も多くいると感じます。

まず、即戦力となる人材とは、業務に必要なスキルや経験を既に身に着けており、早期に仕事を任せられる人材のことを指しているのだと思います。即戦力を求めることに何の問題があるのでしょうか。即戦力が欲しいと思っている経営者はまさか自社で思い当たるところはないでしょうか。中途採用に必要な考え方について理解し、即戦力採用を成功させましょう。

自社の業務は誰にでもできる内容ですか?

全国に展開するファーストフードチェーン店やコンビニなど、ある程度業務マニュアルが重複する業界、またはほぼ一致するような業種であれば、過去に汎用性の高い経験があれば当然に即戦力となりえますが、はたして「ポータビリティ―(持ち運び可能なスキル)」をそのまま使えるような業務だけでしょうか。

通常の新入社員は採用面接から教育訓練期間を経て上司の下で実地研修、顧客対応など業務のスキルを身に着けていくわけですが、期待している即戦力となる中途採用者はプロセスを短縮して仕事を任せるということでしょうから、業務に独自性があるほどハードルは高くなり、人材は限られているということを理解しなければなりません。聞けば当たり前ですが、即戦力を求めすぎる経営者は理解と行動が一致していないことがあります。

不動産賃貸仲介営業職のように、市場が大きく勤務経験者が多い業種であれば即戦力となりえますが、それでも企業ごとに取り扱う商品知識(地域の物件情報)を得るまでに必要な期間が必要なため、「入社した次の日から仕事を任せられている」ような人材は幻想だと思わなければなりません。ここでも、そんなことはわかっていると即戦力を欲しがる経営者は一様に言いますが、それでは、教育訓練の制度はどのようなものがあるかと問うと、「実地訓練(OJT)」だけの会社がほとんどです。これでは教育する気が無いのに即戦力だけを求めている「ない物ねだり」です。いうまでもなく、即戦力といっても何の教育もいらないはずが無く、取引先や社内独自のルール、他のスタッフとの関係性や業務活動のための設備などリソースに大きな違いがあり、能力に関係なく組織に順応するまでには時間がかかります。社長の欲しい要件を満たすイコール即戦力と思い込んでいると、結局使えない社員だったなどと改善の見込みが無い他責を繰り返すことになります。組織に体が順応する最低限の時間は設けておかなければ、高山病のような重篤な事態を見逃すことになります。

 

即戦力は高いという当たり前の話

汎用性の高いキャリアを経験している人物であるほど、他社からの引き合いも多いことは想像がつくと思います。特に最近人気のデザインや企画のほか、財務や労務関係の専門分野を高度に身に着けた「職人」は、よほどの会社の将来性や経営陣に魅力が無ければ安い報酬では入社してくれることはありません。理想的なハイキャリアの人材を万一安く採用できたとしてもすぐに離職します。

会社の資金が潤沢ではなく高い報酬を提示することができないのならば、多少安くてもよいので教育制度を整備してじっくり育てていくのが地道ですが堅実な正攻法です。皆様は消費者ではなく経営者であり、人材に限っては「安くて良いもの」を追求するべきではありません。「安いが未熟」か、「高いが成熟している」の二つしかない事実を理解すれば、新入社員の不出来に悩むこともありません。

新型コロナによって優秀な社員が転職市場に流入している今がチャンス!!』など、求人広告会社が顧客獲得のセールストークに使っているのを見かけますが、たとえそうだとしても優秀な人材を安い賃金で雇用できるはずがありません。

なお、リクルートワークス研究所による中途採用実態調査(2020年度正社員実績)によると、2020年度はコロナ禍により中途採用は減少し、特に経験者の採用減少が目立ち、コロナ禍の影響が大きいと考えられる飲食店・宿泊業の減少幅が最も大きかったとしています。

(出典:リクルートワークス研究所中途採用実態調査2020年度実績

魅力的な異性と付き合いたいだけの高望みの非モテになっていないか注意しましょう。

 

即戦力になる人材の見分け方は存在するか

前項の続きとなりますが、最悪なのが「高いのに未熟」な人物を採用してしまうことです。高額な無能者の採用を避ける方法は存在するのでしょうか。自社の業務についてはそれぞれ違えど、欲しい人材の特徴はある程度どこも決まっています。

  • 職場の秩序維持に協力し、和を乱さない人
  • 率先して仕事に取組み、自ら考えて行動できる人
  • コミュニケーション能力が高く、円滑な人間関係を築ける人
  • 成長意識が高く、学びに積極的な人
  • 上司の指揮命令に従い、協調できる人

上記はどの会社であっても欲しい人物像といえます。さてこの美しい人物像はどうやって見抜けばいいのでしょうか。能力や人物テスト(SPI)などだけでなく、近年は採用候補者のバックグラウンドチェック(リファレントチェック)も注目が高まっており、SNSの裏アカ調査のようなネット情報の収集だけでなく、前職や家族、友人からの聞き取り調査など様々な与信調査業者が履歴書では知ることのできない人物の裏側を見抜くと称してサービスを提供していますが、それらの外部業者はもちろん、採用後の人物が本当に理想とする人物像であったかどうかについて責任はとれません。大企業ではAIで分析した応募者の行動傾向予測を高額で販売していることが発覚して大きなニュースになりましたが、裏を返せばそれほど人物を見抜くことは難しく、失敗が多いということです。

失敗したくないから外部に調査を委託することも大企業であれば採用戦略(または責任逃れ)の一つになれど、中小企業でそんな外部業者に委託する費用を捻出するならば、しっかりと教育制度を整備し、教育者を育て、新入社員を一人前にするためのしくみを整備した方が長期的には見返りがあります。予算が潤沢な大企業では教育訓練の仕組みをしっかり整備してのことであり、中小企業には予算にも限界があります。

そろそろ即戦力の中途採用が危険な考えであることに気づき始めたのではないでしょうか。

中小企業は優秀な人材と期待した新入社員が無能だったときの代償は図り切れず、無能かどうかは見分けがつかないと考えるのが重要です。つまり、中小企業ほど未熟な人材を教育の仕組みによって育てることを優先して考えるべきです。使う機会の少ない高額な電化製品を買っても許されるのは、お金持ち家庭だけの話です。

欲しい人材の要件を定義していますか?

採用候補者となりえる人物の要件はどのようなものか、しっかり言語化できているでしょうか。どんな人材が欲しいか私たちのような外部の人間に聞かれた際に答えられないようであれば、即戦力を採用できる土台はまだ整っていないようです。以下の3点はしっかり答えることができ、また求人票にも要件を基準としたもので作成するようにしましょう。

 ☑キャリア経験として

自社の職務に一定のキャリアが必要な場合でも、できるだけ定量的な表現方法を工夫してください。例えば、「法人開拓経験●年以上」や「組織運営責任者経験●年以上」など、どのようなキャリアを経験してきたかは即戦力度合に大きな影響があると考えます。これらキャリア経験が厳しくなると該当者が少なくなりますが、応募者とのバランスを考えながら「ねだるレベル」を設定しましょう。学歴主義も結構ですが、技術系の人物採用であれば機械設備の運転技術レベルなど、具体的なところまで落とし込むと輪郭がくっきりして採用イメージが沸きます。

 ☑職務能力要件

特定の業種には経験や資格が必要なことがあります。有資格者や経験者の採用は職務遂行能力として重要ですが、難易度の高い資格や高い経験値にこだわると選考の母数となる応募者が減少します。その資格やスキルは本当に必要かよく考えたうえで必須とするのか、望ましい程度とするのか慎重な検討が必要です。

「入社後に勉強して取得してもらえればいい」と考えることができるなら、書籍や学費の負担や資格取得のための休暇制度など、効果的な福利厚生制度導入を検討します。

 ☑職務遂行に求める人物像

最近の人材関係業界では「ペルソナ設計」などと言いますが、欲しい人物像(性格の傾向)を検討します。明るくて、元気で、頭が良くて、優しくて、カッコいい人 のような漠然とした子供のおねだりのようなものではなく、現実的に二極化させて考える必要があります。

例えば、「おしゃべりが好きな人よりは黙々と仕事できる人【コミュニケーション欲求傾向】」、「接客(営業)よりは製造(事務方)が得意な人【実務派傾向】」、「深く追求するというよりは広く知りたい人【マネージャー・ゼネラリスト傾向】」、「みんなで協力するよりは邪魔されずに細部にこだわりたい人【スペシャリスト傾向】」など、どちらの傾向が強い方がポストに向いているか人物像を設計します。中小企業ではペルソナと全く違う人でもひらめき(気分?)で採用することがよくありますが、どんな人物像が望ましいか考えていないことが問題なので、求める人物像と違ったり、採用基準から外れても採用に至るほど何か特別な魅力がある人物なら事業にも貢献してくれるはずです。

 

採用方法に思い込みや自信の無さがある

近年はインディードはじめ、ジョブリーチなど大型の広告宣伝を実施している人材関係会社の存在もあり、「ハローワークでは若者が採用できない」といった思い込みや、駅から離れている、不人気職種、競合他社の存在などで採用のための広告を行ってもだれも来ないと、自信が無く卑屈になりすぎている会社も一部にはあります。どのような事業でも魅力があるから存在していますが、自社の魅力がわからない場合には思い込みをすてて、同業他社の調査などマーケティング行動を起こすべきです。ハローワークでも職種によっては若者も十分採用できますし、過去にダメだった方法が今もダメな方法とは限りません。媒体ではなく原稿の問題であることも多く、少しの工夫で一気に応募者が増えることもあります。優秀な人材は駅前にしかいないと考えるのは単なる思い込みです。おしゃれな制服に刷新したり、交通費の上限を増額したり、週休三日制を導入したりなど、大した経費の掛からない方法で優秀な人材を採用した例はいくらでもあります。正社員もパートも能力に違いは無く、生活スタイルが違うだけです。

金のかからない方法なら、何でも試し続けることが必要です。

 

面接官は訓練されていますか?

応募者に高いレベルを求める割には、面接官が全く訓練されていないことも中小企業では一般的です。社長が直接面接することが多い中小企業は社長から直接会社の説明を聞ける貴重な機会と考えることもできますが、その多くは「態度が悪い(タメ口)」、「質問が的を得ていない(中にはNGの質問もある)」、「レスポンスが悪い(なぜか選考に時間がかかる)」など、本人たちが気づいていない(?)問題が山積しています。タメ口、不潔、だらしない態度の面接官は本当に多いです。

人材採用は新規営業と同じくらい真剣でなければなりません。

取引先にタメ口ですか?なぜそんなに選考に時間がかかるのですか?清潔な服装で面接していますか?応募者に配慮・感謝はありますか?その質問は仕事に何の関係があるのですか?職業安定法など採用に関連する法律を勉強していますか?選考プロセスはマニュアル化されていますか?内定通知書や労働条件通知書は用意していますか?

優秀な人物を求めるのに、自社は勉強も訓練もせず、当たり前の準備もされていないようでは優秀な人材が働きたいと思ってくれるはずもありません。面接官は会社の顔です。

入社の準備は整っていますか?

新入社員の初日はどんなスケジュールですか?と聞くと、たいてい既存スタッフの仕事を見せて覚えてもらうことになっているでしょう。

みなさんが入社した立場になってみればわかりますが、いきなり知らない人の仕事を見せられるのは苦痛でしかありません。まずは仕事にとりかかる前に、トイレなど社内施設の案内、福利厚生制度や規則の説明、一緒に働くスタッフの自己紹介、事業の目的や業務内容の再説明、勤務時間や休憩時間の利用説明など、半日以上はレクリエーション関係に費やすことができます。レクリエーション時間ももったいないと考える人はいないと信じたいですが、入社日は会社を印象付ける儀式であり、モチベーションに強く影響します。雇用契約書やマイナンバー、雇用保険番号、年金番号、身分証明書の取得、入社誓約書の回収など面倒で事務的な作業についても儀式の一環として行えば、「ちゃんとしてる会社」と印象させることができ、また明日も出勤してくれる可能性が高まります。翌日から来なくなったと怒り狂っている会社はだいたいレクリエーションを行っていません。どちらに問題があるんでしょうね。

 

人材紹介業者に頼めば解決する?

人材紹介会社の報酬形態を考えてみましょう。業者の多くはマッチングによる成果報酬型を取っています。つまり、事業としてマッチングが目的のため、人物が社内で活躍することには無関心とならざるをえない報酬形態です。もちろん大手人材紹介会社はそんなことが見えないように、入社させた人物のフォローやそれっぽい適正やキャリアを漏れなく(詐称なく)記載させることで「後でクレームとならないように」対策を行っています。優秀な人材はどの会社でも欲しがる経営者心理を利用して広告宣伝をガンガン行っていますが、本質的に人材紹介会社は定着性や人物が使えるかどうかは無関心です。もちろん会社側に問題があることがほとんどなので、定着しなければ「会社の労務管理が悪い」とか、全然使えない時にはいつもの「教育訓練をしっかり行っていないから」と言われて言い返せなくなるだけです。問題は人材紹介会社ではなく自社の問題であると早く気がつけば、高額で無駄な勉強代を支払う必要もありません。なお、人材紹介会社の報酬は想定年収(交通費など諸経費を全て含めた労務費)の3割程度となり、月額面20万の社員でも50万以上の支払が必要になります。50万あれば福利厚生制度や教育訓練制度を整備した方がよさそうです。

 

おわりに

教育訓練制度を含めた福利厚生制度など従業員の定着施策が整っていない会社は応募者も少なく、離職率が高いことは経営者なら理解しているはずですが、即戦力となる中途採用に期待しすぎて定着施策が疎かになっていることに気づいていない経営者がほとんどです。教育訓練で未熟な新入社員を育成していく活動は地味で苦労も多くすぐに成果につながらないため、すぐに効果が出そうな怪しいサプリメントに頼りたくなりますが、経営は短距離走ではなくマラソンであり、地道で地味な活動が最大の効果を生みます。ステロイドで大きくした体では健康に長生きできません。

当社では400社を超える企業の人事相談を扱ってきましたが、根本的な思想に問題があり採用が難しいと印象するのは9割近くです。人手に困ることのない人材潤沢な会社の1割に入るのは経営者のマインド一つで簡単なことなのに、過度な期待や思い込みで多くの人たちと出会う機会を失い、会社の成長を阻害していることがあります。あなたの会社は大丈夫ですか。

 

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