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IPO(新規上場)を目指すベンチャー企業の労務監査

2019/08/23

上場・IPOを見据えた労務管理のポイント

最近は好景気の影響もあり、羽振りの良い社長をお見掛けすることが増えました。一時沈んでいた一部の中小企業も息を吹き返し、数千万円規模の設備投資や数億円の土地買収など、東京だけでなく京都、大阪でも不動産取引やインバウンド事業、サービス分野においても活況が表面化してきました。そんな景気がいい時には必ず出てくる上場話。国内企業のわずか0.1%にも満たないと言われている上場企業の仲間入りを果たすことは経営者にとって一つのマイルストーン(節目)であり事業の一定の成功証明でもあります。経営者であれば誰もが夢見る自社の上場ですが、上場するために必要な労務管理とはどのようなものでしょうか。上場を目指す経営陣だけでなく、中小企業・小規模事業者でも必要な基礎的な労務管理を確認しておきましょう。

上場審査でつまづく人事労務の重要性

東証一部、二部のほかマザーズにおける上場規定では、『コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、(企業の規模や成熟度等に応じて)整備され、適切に機能していること』と明記されています。

10年前まではIPO審査での質問事項のうち労務管理といえば社会保険の加入状況調査程度でしたが、昨今のIPO審査では働き方改革関連法の施行に伴い、労務管理事項についても多く質問され、また深く掘り下げて厳しく確認されています。主幹事証券会社や証券取引所による審査で労務管理上の問題が発覚すると、決算上の業績がいくら好調でも承認を得ることができず、数年間の中断や断念することになります。また、M&Aでも簿外債務の一つである未払残業の調査は極めて重要な要素とされており、労務監査(労務デューデリジェンス)は法務監査、財務監査と併せて重要な『企業診断』の項目となりました。

上場審査時に確認される主な事項

✅社会保険の適切な加入状況について

アルバイトやパートタイムを含めた時短従業員に対しても、一定条件を満たせば社会保険に加入する義務があります。ちょっとしたミスや対象者を加入させていない場合は法令違反となり、当然、審査を通過することはできません。

✅規則類の整備と運用状況

IT関連など急速に成長したベンチャー企業では社内の規則整備が追い付かず、また就業規則と運用が乖離しているケースが多々あります。規則の整備状況や法令に違反しているなど、内部管理体制が整備されていないと判定される場合には審査を通過することはできません。特に就業規則は従業員と会社のルールを定めた管理体制の柱となるものですので、テンプレートをコピーしたものではなく、自社の実態と合致したものを整備する必要があります。慌てて強引に規則類を変更、整備したとしても労働者代表の選出方法、労働者への意見聴取、行政官庁への届出など労働基準法に定める手続きもチェックされ、適法性に疑問があった場合には問題となるため手順もしっかりと抑えておかなければなりません。企業規模に応じて『規則』、『細則・付則』、『マニュアル』の整備レベルを合わせておく必要があります。

✅労働時間管理の具体的な方法について

それなりの規模にもかかわらずタイムカードを基準としたエクセルで労働時間管理を行っている会社もありますが、さすがに勤怠管理ソフトは導入する必要があります。また、上場審査にはタイムカードのような『記録調査』だけでなく、PCの起動状況やメール送信履歴、現地へ赴く『実態調査(実地調査)』も行われます。残業申請に上限を設けていたり、合理性のない切り捨て処理は簿外債務にあたるため当然認めらません。いずれにしても適切な労務管理の第一は労働時間管理を起点として開始することから、労働時間管理が最も重要といっても過言ではありません。

✅36協定の順守状況について

36協定の更新を行っておらず有効となっていない場合のほか、働き方改革関連法の施行による労働時間の上限規制によって36協定の法適合性や実態との整合を調査されるようになります。特に長時間労働が事実上慢性化しているような事業所ではあらゆる労務管理上のトラブルが潜在しており、審査を通過することはできません。

✅未払い残業代に関して

労働時間を適切に把握、管理できていない会社や、固定残業代やみなし労働手当、年俸制や裁量労働制のほか、変形労働制など法律や判例の要件を満たさないまま独自のルールで運用している企業も多くあります。サービス残業は問題外ですが、訴訟を抱えている場合は判決が確定するまで、要件を満たさない場合には不足分の割増賃金を支払わなければ問題が解消されたとはいえず、時効となる2年間は確実にお預けとなります。今後未払い賃金の消滅時効は3年に延長される見通しから、未払い残業代を抱えている会社は時効消滅までの3年間は上場できず、膨れ上がった未払い残業代を支払って清算したとしても財務状況が悪化し上場どころではなくなります。なお、実務上は未払い残業代の元本を支払えば遅延利息(6~14.6%)は今のところ問題視されませんが、債権債務に関する合意書が無い場合など未払い賃金の清算が適切に完了しているか不明の場合は弁護士の意見書を求められたり、財務上で考慮されるなどで足を引っ張られることになるため、やはり日ごろから未払い残業代の無い適切な労務管理が必要です。

✅管理監督者の該当者に関する事項

労働安全衛生法の改正によって2019年4月より管理監督者の労働時間把握が義務化されています。『名ばかり管理職』について10年前には審査時の質問事項で上がった話は聞いたことがありませんが、昨今の審査時には『法律上の管理監督者』と『会社の管理職』の整合を必ずチェックされます。法律上の管理監督者性が否定される管理職者に残業代を未払い扱いにしているケースなど、本来支払うべき債務が未払い状態となると審査を通過することはできません。経験上、課長職レベルで管理監督者扱いしているところはほぼアウト、せいぜい本部長や執行役員クラスに限定した考え方が限度です。管理監督者扱いは全従業員の10%程度が限界と指導する専門家さんもいます。

✅安全衛生管理の実施に関する事項

労働安全衛生法において常時50人以上を使用する事業場には衛生管理者や産業医の選任義務、月1回の衛生委員会の開催義務やメンタルヘルス対策など企業としての取り組むべき健康管理体制があり、IPOを目指す企業は規則と実態だけでなく、機能面も意識しなければなりません。衛生委員会が形骸化し開催が記録されていなかったり、利益相反となる弁護士事務所へハラスメント等の相談窓口を委託している場合には改善を講じるべき事項となります。特に過重労働やハラスメントによって従業員がうつ病を発症してしまったりすると業務災害として安全配慮義務違反を問われるため、今後IPOを検討する企業は本格的に対策を講じるべきものとして位置づけていくべきです。

✅その他紛争リスクに関する事項

ハラスメントや同一労働同一賃金関係の法整備が進み、取り組みが遅れている会社では民事上の損害賠償請求リスクを抱えている可能性があります。また、有給休暇取得義務化に伴う『有給休暇管理簿』の未整備についても行政指導となり、直近の審査では未払い賃金が紛争リスク調査の中心ですが、今後のIPO審査では幅広い行政指導リスクや労使紛争リスクの調査が実施され、疑いのある場合には審査時の評価に大きく影響し承認取り消しもありえます。あまり気にしていない経営者もいますが、退職した元従業員や元経営幹部から証券会社の審査部へパワハラ等を密告する「申請直前の投書爆弾」を食らえば大変なことになります。日頃から恨みを買わないような円満退職のマネジメントも必要です。

おわりに

最近の上場要件でのコーポレート・ガバナンスやコンプライアンス調査では、労務管理についても厳格にチェックされるようになりました。資本政策や事業計画は当然として、労務管理をおろそかにすると上場することはできないため、上場を目指すのであれば実務上はプロジェクトチーム(IPO準備室)を編成し組織体制の整備や管理部門のほか、社労士や弁護士等を活用した労務管理が必要となります。また、労働管理が適切といえる状態になるためには準備期間が必要です。上場を目指すならば2~3年前から十分な準備を行い、就業規則や賃金規定等の制度整備、労働時間管理等の労働関係法令の遵守が『100%正しく運用している状態が2年以上継続』している必要があります。

上場を目指す会社だけでなく、中小・小規模事業者においても遵守を徹底しなければいつトラブルに発展するかわからない時代です。労務トラブルを根絶することはできませんが、リスクを最低限に減らす努力はあらゆる企業で行うことが求められます。

プロジェクトチーム(IPO準備室に任命された方へ)

日本に400万社以上あると言われている企業の中でも、IPOを成功させる企業はたった一握り、それは選ばれた会社でありどんなに優れた経営者であっても、どんなに優れた事業であっても簡単に叶うものではありません。IPOプロジェクトチームのコアメンバーは外部から特別に引き抜きされた方や能力を見込まれてメンバーに入る方など、皆それぞれ大変なプレッシャーとストレスを抱えながら経営者を支える立場となり、またIPOを達成した後もIRやCSR活動は続くため休む暇はありません。IPOを口にすることは簡単ですが、実際には大変な困難や投げだしたい衝動に駆られることになり実際に投げ出してしまった人も沢山いますが、自社の上場を当事者として支えた経験は普通の人がいくら願っても叶わない貴重な経験(苦労)であることは間違いありません。極めて貴重な体験をさせてもらえる栄誉や喜びを感じる暇はないかもしれませんが、ほんの一握りの会社で重要な仕事をしていると自覚しつつ、自らが法違反(長時間労働)の轍を踏まないためにも人を頼るよう心がけてください。

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