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もしも従業員が新型コロナウイルスに感染したら《企業の感染症対策》

2020/02/02

(2020/02/20更新)

この度中国(武漢市)において集団発生した新型コロナウイルス感染症は、他地域への進行によるWHOの緊急事態宣言に伴い、日本国内においても指定感染症の決定がなされました。

罹患・発症された方々の一日も早いご回復と、無念にもお亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

さて、この度の世界的な新型コロナウイルス蔓延の問題に際しては、日々事業活動を営まれておられます経営陣の皆様やBCP担当者、有事チームの方にも極めて高い関心のことと思います。もしも社内の従業員がコロナウイルスに感染した場合、企業として対応すべきこと、また企業として未然に準備しておくべき労務管理(安全配慮義務)についてご質問を頂く機会がありましたので緊急に記事をしたためた次第です。

まずは、新型コロナウイルスについて「事業所所在地圏内で感染者が出た」や、「グローバル企業の従業員が中国から退去した」などはメディアにお任せするとして、迫る感染症にいち企業としてどのような対応をとることが望ましいかについてわかりやすく解説していきます。

‼新型コロナウイルスとは

私たちは日常生活において、様々なウイルスと共存し、時には感染しながら生活しています。しかし、ごくまれに重症化するウイルスの変異が起こることがあり、今回の新型コロナウイルスもその一つ。2003年に中国を中心として数千人が罹患し800名近くの命を奪ったSARSウイルス(SARS-CoV)、2014年のMARSウイルス(MERS-CoV)に続く指定感染症として5番目のウイルスです。

新型コロナウイルスは毎年流行する季節性インフルエンザと同等の感染力であることを踏まえると、これからの2月~3月でより一層の感染拡大が懸念されます。SARSの時のように日本国内の感染拡大を食い止めることができる可能性もありますが、中国本土(武漢)のように感染が爆発的に増加し、ビジネスが数週間にわたって凍結する最悪のシナリオも想定しておかなければなりません。労務管理の観点からすると、業務起因性の高い感染で従業員が死亡することだけは絶対に避けなければなりません。

 

1.疑いのある従業員に対する在宅対応

新型コロナウイルスの潜伏期間は現在のところ不明ですが、他のコロナウイルスの状況などから最大14日程度と厚生労働省は発表しています。よって、事業所では咳エチケットやうがい手洗いだけでなくアルコール消毒など考えうる感染症対策を行う必要がありますが、在宅勤務やテレワークが可能な従業員は積極的に在宅勤務に切り替え、人から人への感染リスクを想定した対策を可能な限り行うことが必要です。なお、今回の新型コロナウイルスの拡大に備えて、各社からクラウド型WEB会議システムや遠隔操作ツールなどのITソリューションを無償で解放している企業が多くあります。

とはいえ、接客サービス業や複数の職務を兼業することが一般的な中小企業でいきなりテレワークを導入することは現実的に難しいため、事業所への出勤はやむを得ません。

軽い咳程度で自主的に有給休暇を取得することは通常の有給同様に止めることはできませんが、体調の優れない従業員に対して「コロナちゃうか」などとハラスメントまがいの冗談を飛ばしたり、過剰に恐れて労働の提供を拒否すると補償や賠償の問題が生じるため、事業主や管理者は軽い気持ちで発言することの無いよう慎重な対応が求められます。また、インフルエンザの流行と同様に、「感染が怖いので出勤できない」という従業員に出勤命令を出せば「ブラック企業」と烙印され拡散される可能性も十分にあります。

事業主としては本人の自主性に任せる一方で、会社として感染症にどう対応するか協議し、方針を周知し、不十分な対応で批判を浴びることの無いよう今すぐ準備が必要です。

【従業員のマスク着用は強制できますか?】
季節性インフルエンザの流行時期や風邪の疑いのある従業員が事業所へ出社してきた場合に、咳エチケット(口を押える、マスクを着用するなど)の無い人に対しては多くが嫌悪感を示します。事業主は疑いのある従業員に対してマスクの着用を義務付けることはできるでしょうか。答えは、可能です。
但し、就業規則による整備を行うことは当然として、皮膚疾患など合理的理由のある場合には強制することはできず、またマスク着用を拒否したことのみをもって懲戒処分することはかなり難しいと考えます。息苦しいとかメイクや髪型が崩れるという理由は合理的とはいえませんが、マナーをルールにする際には働く従業員の理解を得るための努力が必要です。

 

2.人との接触を少なくする緊急制度

接客業であればマスクの着用など感染症に対する予防は企業で真っ先に取り組むべき措置といえますが、接客業に該当しないような内勤的職種であって事業所への出勤が必要な従業員の場合でも、通勤時の混雑を避ける制度などで特別な対応を検討しておくべきです。

大企業では難しいかもしれませんが、中小企業であれば「緊急措置」として一定期間のみの時差出勤やフレックスタイム制を導入するなど、個々が満員電車などの混雑を避けることのできる方法も検討が必要です。本来ならば変形労働時間制は就業規則上の記載や労使協定など厳格な要件を守らなければなりませんが、一定期間の暫定処置としてであればそれほど協議が紛糾し滞ることもありません。なにより命に関わる感染症の場合には、従業員の生命を優先した労働時間の変更制度設計もまた安全配慮義務を果たすための一つの方法として許されるはずです。事業主として最も許されないのは「何もしない」ことであり、何もなければそれでいいのです。

当社は固定労働時間制度ですが今回の新型コロナウイルス対策としてオフピーク通勤やフレックスタイム、変形労働時間制度など、通勤混雑を避けるために「規則は無視して」当面の期間内で個別の許可を実施しています。非常時は法令順守よりも人命優先です。

【参考資料(当社の従業員への通達)】

従業員各位

新型コロナウイルスのニュース、日々目にされていることと思います。
既に国内でも感染例が報告されており、今後のパンデミック(全域感染)の不安は今のところ払しょくできません。インフルエンザ同様に、各自対策を指示いたしますので確認をお願いします。

①感染拡大の抑止
人込み、混雑を避け、うがい・手洗い・アルコール消毒は気が付いた度に実施してください。また、通勤時間に満員電車のラッシュがある際には申し出てください。時差出勤、フレックスタイムの個別許可を了承します。

②調子が悪いなと思ったら
ご家族やご友人など、濃厚な接触のある方が発症した際には速やかに会社に報告をお願いします。本人に自覚症状が無い場合、会社は出社を制限することはできませんが、出社の際にはマスクを用意してありますので着用をお願いします。

③もしも感染したら
新型コロナウイルスは指定感染症につき、罹患の際には都道府県知事(保健所)より感染者に対する措置が勧告されます。その際に会社は有給休暇を許可するほか、不足の方には特別有給休暇の付与、長期休業が必要な際には傷病手当金など収入を大きく減らさないようあらゆる手を尽くします。

④余計なお世話ですが
休日などプライベートではできる限り外出や人込みを避け、やむを得ない場合にはマスクの着用など十分と考えられる対策を行ってください。

会社にて感染が拡大し多数の欠勤者が出た場合にはほとんどの中小企業が倒産の危機に直結します。各自組織の一員として自覚し、自身と家族の生命・健康を第一に考え、感染拡大を防止するような生活に配慮をお願いします。

不明・不安なことがあれば山田まで。

 

3.リスク管理とBCPの発動

人員体制が半減するなどで事業活動に大きく影響を与える非常事態となった場合には、異常事態での業務活動へと切り替えるBCP(事業継続計画)を発動することも必要となります。中小企業ではBCP計画を行っているところはまだまだわずかですが、この機会に事業が大きく停滞・中断した場合を想定したサプライチェーンへの影響・連携やキャッシュフローの確認のほか、代表取締役など経営陣が罹患した場合の権限の委譲体制などを再確認し、周知しておく必要があります。

BCP(Business Continuity Plan)は事業継続計画として、企業が豪雨や地震のほか、テロや今回の感染症拡大など大規模災害の被害にあった場合において、事業資産や人的資源の損害を最低限に抑えつつ、事業の早期復旧を可能とするために平常時に行う準備や緊急時の対応を定める計画のことを言います。BCPを策定しておくことは自社だけでなく、取引先にも開示することで災害時にも供給可能なことをアピールすることで安心感を与えることができ、行政各所の他民間の金融機関や損害保険会社においてもBCP計画の認定(中小企業庁他)をもって金利優遇や補助金採択時に加点するなど様々な施策をもってBCP取り組みを後押ししています。

 

4.休業手当の支払義務

新型コロナウイルスは指定感染症とされたため労働者が感染していることが確認された場合には感染症法に基づき都道府県知事が就業制限や入院の勧告を行いそれに従うことになります。労働安全衛生法第68条による「病者の就業制限の措置の対象」とはなりませんが、保健所等からコロナウイルス感染者に休業が指示された場合には6割以上の休業手当(労働基準法第26条)の支払義務はありません。一方、季節性インフルエンザは法律の根拠が無く会社が休業を命じる場合には休業手当の支払義務があります。実務上は本人の申し出に基づき有給休暇として処理していることが多いと想像しますが、新型コロナウイルスは回復まで長期化することが予想されるため、健康保険法による「傷病手当金」のほか、業務起因性が高ければ労災保険の補償対象となる可能性も考慮し本人の収入の心配をケアしていく必要があります。事業主は本人の体の心配だけでなく、収入や仕事の不安をできるだけ解消し、回復に集中できる体制を構築しておくこともまた責務といえます。

なお、指定感染症の入院中の治療は100%公費で賄われるため、自己負担はありません。

厚生労働省は2/14日付けで「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた雇用調整助成金の特例」を実施することを発表しています。対象となる事業主は、日本・中国間の人の往来の急減により影響を受ける事業主であって、労働者に対して一時的な休業、教育訓練、出向時によって雇用の維持を図る場合に賃金等の一部(中小企業2/3,大企業1/2)を助成するものです。詳しくは厚生労働省サイト又は当事務所までお問合せ下さい。

 

雇用調整助成金を検討する中小企業事業主向けPDFダウンロード(6/7更新)

 

5.人権上の問題と対策

社内でデマを流したり、罹患者や疑いのあった従業員を差別したり、誹謗中傷など、非常時にパニックを起こし、混乱したなかで過剰な行動を起こさないよう正確な情報共有が必要となります。平常時に差別的な言動や行動は就業規則に則り懲戒処分の対象とすべきですが、非常時は特に会社で正確な情報共有を怠っていた場合には懲戒処分を重すぎるとして逆に訴えられる可能性もあります。

 

6.企業における報告義務

いわゆる安全配慮義務は感染した結果に対する責任ではなく、リスクを適切に評価し、回避努力を尽くすための十分な安全衛生対策を採っていたか否かによって判断されます。社内で人命保護と事業継続のためのルールを確認し、家族など「濃厚な接触者」に感染者が発生・疑いがある場合には速やかに報告を行うよう周知徹底することが求められます。新型コロナウイルスは自覚症状が無くてもウイルスの感染例が報告されており極めて難しい対応となりますが、何ら対策が無いまま社員間で感染し万が一死者が発生した場合には事業主の安全配慮義務違反を問われることになるためぬかりなく報告体制を構築しておくことが求められます。

新型コロナウイルスの患者を見つけた医師は保健所に報告する義務があるため事業主側で行政に報告する必要はありませんが、SNSで発信したりするのは当然ながら慎まなければなりません。

従業員が感染し事業主が当事者となった場合には危機管理の考え方として、ホームページなどで「個人のプライバシーに配慮し」、「事実のみを」、「迅速に」情報公開することが基本ですが中小企業では極めて勇気のいる決断です。しかし、顧客主義の観点からも無責任な対応や隠蔽を批判されると立ち直ることは極めて難しくなるため、世間の注目が高いフェーズにある時点では公表することが『最もリスクの低い方法』といえます。

 

7.新鮮で正確な情報収集

得体のしれないリスクに対して人は敏感に反応しますが、企業としてはデマに惑わされることなく正確な情報収集と適切な行動が必要で、誤った情報による行動で被害を拡大させると企業は当然に損害賠償請求を負うことになります。信頼ある情報源からの取得や複数情報との整合、またこういった事態の際には不安をあおるフェイクニュースやウイルスメールなど、悪意あるメッセージが判断を麻痺させます。日頃から疑う訓練を行い、自己の誤った判断で事業活動や従業員に余計な被害を拡大させないような「情報判断能力」が試されます。

新型コロナウイルスに関する事業者・職場のQ&A【厚生労働省リンク】

 

おわりに

事業活動には様々な外的要因によって大きく影響を受けることはやむを得ませんが、大規模災害と同様に、準備と対策を行っておくことで初動が遅れることなく、事業所の壊滅的な被害を軽減し、早期に事業の復旧を図ることができます。私たちは得体のしれないものに恐れや不安を覚えることで本能的に危険を回避していますが、事業主の本能任せ、何とかなるという楽観的な考えは災害対策においては極めて危険です。大切な事業資産や従業員の命を危険にさらすことにならないよう、悲観的に準備し、万が一の被害を想定した危機管理の準備は怠らないように肝に銘じたいところです。

 

新型コロナウイルス拡大に対する当社の対応について

 

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