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社用車で事故を起こした従業員に弁償させるのは可能?

2019/09/30

(最終更新日:2022/08/18)

社用車の修理費用は社員に請求して問題ありませんか?

配送ドライバーや引越し会社、営業社員や外交販売員など、会社名義の社有車を使って仕事をしている従業員は多くいます。さて、社有車を事故によって破損させた場合には、会社は従業員に修理費用を請求することができるでしょうか。

通常は従業員も他人の財産に損害を負わせた場合には不法行為責任(民法709条)がありますが、会社は従業員の活動によって収益を得ています。そのため、民法では従業員の活動から生じるリスクも負担すべきという考え方(いわゆる、「報償責任の法理」)があります。このような考え方から、車など会社の「モノ」を業務中に従業員が破損した場合には、報償責任の考え方と会社と社員間で公平な負担を図るべきというのが一般的な解釈となります。裁判所でも多くがこの考え方を採用しており、会社が請求する額(実際の損害額)の10%しか認められなかった例もあります。通常は25%が限界ともいわれています。

他人を使用して事業を行う事業者は民法上でも連帯責任が規定されており、個人が起こした事故だからといってすべての責任を個人が負う旨一筆書かせたり、事故が起きた際に会社は関与しない姿勢でいると、被害にあった相手方だけでなく事故を起こした当事者からも訴えられる可能性があります。社用車を利用する会社と従業員が知っておくべき修理費用の負担に関する法律上の制限や会社のルールについて、わかりやすくご案内します。

(民法715条)【使用者等の責任】
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3.前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

第三者を人身事故で巻き込んでしまった場合や他人の器物を破損した場合などは、個人が直接損害賠償を請求されたり、第三者から会社に請求されるケースが想定されます。当然、飲酒運転やあおり運転による事故など、本人の故意や重過失が認められる場合には会社が賠償請求を受けたとしても、その全額を従業員に請求(求償権の行使)することも可能です。

労働者側からすれば、営業活動中の事故などは会社が負うべきとの考え方は当然かもしれませんが、だからと言って無制限に会社がその損害の全てを負う義務は無く、一定の割合であれば負担させることも相当と認められることがあります。但し、給与に対してあまりに高額な賠償を個人に負わせる場合には慎重な検討が必要です。

「使用者がその事業の執行につきなされた被用者(労働者)の加害行為により損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、労働者に対し、損害の賠償を請求することができると解するべき(最一小判S51.7.8茨城石炭商事事件)」

就業規則の規程例

「会社の備品を破損した場合には10万円」や「事故等によって車両を破損した場合は損害額の○%を負担する」などと規定することは損賠賠償予定の禁止(労働基準法16条)に抵触するため記載することはできず、記載したとしても法違反のため無効となります。実務上は、『事故等によって会社の車両を破損させた場合は損害額の一部を請求することがある。』程度の記載にとどめておくことのほか、付則「車両管理規程」などを作成し、実際に請求することができなくても「抑止」と「教育」によって事故自体を減らすような制度設計が重要となります。損害賠償予定の禁止は知らず(?)に運用している会社も(大手でも)いまだに多く見かけます。自社の規程が賠償額を規程するような内容の場合は法律違反となるため、一度確認しておきましょう。従業員に車両を使わせるような業務の場合は車両利用に関する規程の作成は必須といえます。

営業時間外だったら?

会社名義の車を従業員がプライベートな用事で利用することもあります。このような業務外で事故を起こした場合の修理費用負担はどうなるのでしょうか。

この場合の事故は会社には関係ないと思いがちですが、全く無断で私的に会社名義の車両を使った場合を除き、基本的には使用者責任より広く事業者の責任が認められる「運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)」を問われます。また、禁止していても鍵の管理がずさんでいつでも社用車を乗れる状態であったり、通勤利用などで黙認していたと評価される場合には会社の責任を問われることもあります。よって、営業時間外の車両利用は規則上も実態上も禁止である旨を明文化しておくことが会社のリスク管理に必要となります。業務外利用を禁止・明文化していたにも関わらず、プライベートで社用車を無断利用し事故を起こした場合であれば会社に法律上の責任はなく、個人に修理費用の全額を負担させることができます。細かくなりますが、無許可であっても業務を行っていたことが明らかであれば、許可を得ていないことを主張しても会社の使用者責任または運行供用者責任は免れませんので、全額の負担は難しくなります。

(自動車損害賠償保障法第3条)【運行供用者責任】
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
※事業主は車両の持ち主として過失が無かったこと等を証明できない限りは責任を負うことになります(同3条但書)

社用車で事故するとクビ??

大切な社用車を不注意の事故で故障させ、業務に大きな支障をきたした従業員をクビにしたい気持ちはわかります。運転していた従業員としても、事故を起こしたばかりで混乱しているときは、「会社をクビになるのではないか」とまず不安になるのが普通です。しかしほとんどの場合では、事故を理由に会社をクビにすることはできません。先に述べた通り、会社は従業員の業務中の活動にも責任を負っています。よってすべての責任を従業員だけに負わせる解雇は認められません。万が一、頭に血がのぼって一方的に解雇を言い渡してしまった場合には修理費用を超える損害賠償を請求されるかもしれません。実際、「不当解雇 弁護士」で検索すると相談料・着手金無料の完全成功報酬の弁護士広告が大量に流れてきます。

但し、飲酒運転やあおり運転による死亡事故など、意図的であるかないかに関わらず、相当に悪質な場合は懲戒解雇できる可能性は十分に考えられますし、運転業務で雇入れたにもかかわらず免許取り消しになるような事故を起こした場合は普通解雇を検討すべき場合もあるでしょう。本人の過失で軽度な事故を起こした場合には解雇されないとしても、けん責・戒告など何らかの処分を受けることは覚悟しておいたほうがよさそうです。

なお、減給を伴う懲戒処分を行う場合には労働基準法91条により①1回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない、②総額が1か月の賃金の10分の1を超えてはならない制限があります。減給処分は少額しか許されていないなら、降格処分によって将来的に減給する方法も考えられますが、減給の要件は労働契約法9条によって厳格に制限されており、訴訟によって「人事権の濫用」と判断されれば減給は違法であり無効となります。腹が立つのはわかりますが、不当解雇や不利益変更など労働紛争はいまや一大ビジネスですので、懲戒処分する場合には妥当性の検証を怠らないようにしましょう。

任意保険で賄う

事業で車両を利用する会社の場合は自家用車のように一台ずつ保険契約することはできず、10台以上車両を所有している法人等であれば法人単位で保険に加入しなければなりません(フリート契約)。フリート契約は事故が無ければ割引きが高く、一台が事故を起こせば保険料が跳ね上がる構造のため、事故が起こった場合には保険を使わずに自社で修理費用を負担することがあります。事故が無ければ支払うことも無かった高額な修理費用を従業員に請求したい気持ちはわかりますが、「運転が苦手」や、「何度注意してもぶつける」程度では事業主からの請求は現実的には難しい点があり、運転を禁止して内勤させることも小規模事業者では代替要員もいないことが多いため使用を続けるしかありません。事故に対する厳罰化や無事故に対する過大な評価を行うと事故隠しにもつながり社会的非難を浴びることにもなりかねないため、長期的に見ればやはり任意保険で賄うことが最適な負担回避方法となります。車両を扱う会社としては任意保険の未加入はあり得ないと思うかもしれませんが、実態としては未加入の会社も多くあります。

給与天引きはちょっと待った

従業員の不注意や過失が重大で、また教育を十分行っていたにもかかわらず繰り返し事故を起こした場合など十分に賠償が認められるケースであったとしても、給与から賠償金を天引きすることは認められていません(労働基準法24条1項「全額払いの原則」、労働基準法17条「前借金相殺の禁止」)。よって、いったん規定通りの給与全額を支払ったうえで、賠償額を請求する手続きを取らなければなりません。もちろん、事故が起きることを想定した『積立金』として一方的に給与から天引きすることも許されません(大手引越会社でも勝手に天引きしていることがニュースになったこともありますが。。)

事故を起こした本人に同意書など一筆書かせて給与から控除することも実態として行われていますが、判例では「労働者の完全な自由意思に基づいたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在することを要件(最二小判H2.11.26日新製鋼事件)」とされています。よくわかりませんが、要するに無理やり書かせた同意書ではダメということです。

➡貸付制度が無い中小企業が社員にお金を貸すときの注意点(借用書と労使協定)

従業員側の対応方法

ある程度の法律知識がある通常の経営者であれば事故リスクも自社で対処しますが、事故の損害を労働者に転嫁してくるような会社も少なくありません。「一生働いて返せ」、「退職したら損害賠償請求する」、「家族に迷惑がかかる」などと脅すこともざらにあります。そういった会社を相手に頑張っても時間の無駄ですので、少しでも脅してくるようなら無視して退職してしまうのが一番です。

退職するならば、退職届と併せて、①修理代の請求には応じない、②退職後の連絡は控えるようお願い、③不当な請求を続けるならば法的措置等にて対応する点を通知すれば8割の会社が諦めます。

出勤するのが怖いなら欠勤してしまっても良いですが、出勤時によくわからない書面に署名を求められた場合はきっぱり断り、また暴言や暴行、軟禁によって強要するようなら録音するか、警察に通報するなど証拠を残しておきましょう。既に返済を約束する書面に署名してしまった場合には弁護士にご相談下さい。

また、会社は様々な事情を抱えていますので、修理代を弁償させることが難しいとわかっていても訴訟を提起してくることはあり得ます。裁判所の通知は無視せず、裁判所にしっかり説明しましょう。どのみち、裁判となれば認定される額も僅かでしょうから、恐れることはありません。経営者からすれば腹立たしいですが、労働者は本当に保護されています。

おわりに

従業員の不注意・過失の重大さや会社による予防教育の他、保険加入など負担の回避について判断されることを考慮すれば、相当な場合でなければ実損害の全額を従業員に請求することは難しいといえます。本人にほとんど実費を負わせることはできないため、実務上は人事考課によるマイナス評価や賞与で帳尻合わせする会社が多いようです。結局のところ、自動車を使用する事業である限り会社はほとんどの場合で連帯責任を負わなければならないため、事故防止に向けた具体的な交通安全研修や飲酒検査の他、無事故者に対する表彰(報奨金)制度や人事考課での加算など、『万が一の事故に備えた具体的な会社の取組』が必要です。トラックのドライバーなど運送業界は深刻な人手不足の業種で、人材の確保に要するコストを思えば研修や教育費用、保険料は安いと考えることもできますね。本記事を読んで社内の車両関係規程が甘いなと思ったら、是非社労士にご相談ください。【事業主様の初回相談料は無料

たった今会社から修理代を請求されて困っているという従業員の方や、退職した勤務先から負担させられた修理費用を取り戻したい元従業員の方には、修理代を安くするための一般的な交渉方法や会社への通知書等の作成方法をアドバイスしております。少額だからといって泣き寝入りせず、ダメもとで抵抗だけはしてみてはいかがでしょうか。労働者の相談は1回5,500円とさせていただきます】

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