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社用車で事故を起こした従業員に弁償させるのは可能?

2019/09/30

事故の修理費用は社員に請求しても問題ない?

配送ドライバーや引越し会社、営業社員や外交販売員など、会社名義の社有車を使って仕事をしている従業員は多くいます。さて、社有車を事故によって破損させた場合には、会社は従業員に修理費用を請求することができるでしょうか。

通常は従業員も他人の財産に損害を負わせた場合には不法行為責任(民法709条)がありますが、会社は従業員の活動によって収益を得ています。そのため、従業員の活動から生じるリスクも負担すべきという考え方(「報償責任」)があります。このような考え方から、車など会社の「モノ」を業務中に従業員が破損した場合には、報償責任の考え方と会社と社員間で公平な負担を図るべきというのが一般的な解釈となります。裁判所でも多くがこの考え方を採用しており、会社が請求する額(実際の損害額)の10%しか認められなかった例もあります。通常は25%が限界ともいわれています。

また、他人を使用して事業を行う事業者は民法上でも連帯責任が規定されており、個人が起こした事故だからといってすべての責任を個人が負う旨一筆書かせたり、事故が起きた際に会社は関与しない姿勢でいると、被害にあった相手方だけでなく事故を起こした当事者からも訴えられる可能性があります。

(民法715条)【使用者等の責任】
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3.前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

第三者を人身事故で巻き込んでしまった場合や他人の器物を破損した場合などは、個人が直接損害賠償を請求されたり、第三者から会社に請求されるケースが想定されます。当然、飲酒運転やあおり運転による事故など、本人の故意や重過失が認められる場合には会社が賠償請求を受けたとしても、その全額を従業員に請求(求償権の行使)することも可能です。

労働者側からすれば、営業活動中の事故などは会社が負うべきとの考え方は当然かもしれませんが、だからと言って無制限に会社がその損害の全てを負う義務は無く、一定の割合であれば負担させることも相当と認められることがあります。但し、給与に対してあまりに高額な賠償を個人に負わせる場合には慎重な検討が必要です。

「使用者がその事業の執行につきなされた被用者(労働者)の加害行為により損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、労働者に対し、損害の賠償を請求することができると解するべき(最一小判S51.7.8茨城石炭商事事件)」

就業規則の規程例

「会社の備品を破損した場合には10万円」や「事故等によって車両を破損した場合は損害額の○%を負担する」などと規定することは損賠賠償予定の禁止(労働基準法16条)に抵触するため記載することはできません。実務上は、『事故等によって会社の車両を破損させた場合は損害額の一部を請求することがある。』程度の記載にとどめておくことのほか、付則「車両管理規程」などを作成し、実際に請求することができなくても「抑止」と「教育」によって事故自体を減らすような制度設計が重要となります。損害賠償予定の禁止は知らずに運用している会社もいまだに多く見かけます。自社の規程が賠償額を規程するような内容の場合は法律違反となるため、一度確認しておきましょう。

営業時間外だったら?

会社名義の車で従業員が遊びに行くこともあります。このような業務時間外の事故の場合はどうなるのでしょうか。

この場合の事故は会社には関係ないと思いがちですが、無断で社用車を利用した場合などを除き、基本的には運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)が発生します。また、禁止しているにもかかわらず黙認していたと評価される場合には会社の責任を問われることがあります。よって、営業時間外の車両利用は規則上も実態上も禁止しておくことが会社のリスク管理に必要となります。

任意保険で賄う

事業で車両を利用する会社の場合は自家用車のように一台ずつ保険契約することはできず、10台以上車両を所有している法人等であれば法人単位で保険に加入しなければなりません(フリート契約)。フリート契約は事故が無ければ割引きが高く、一台が事故を起こせば保険料が跳ね上がる構造のため、事故が起こった場合には保険を使わずに自社で修理費用を負担することがあります。事故が無ければ支払うことも無かった高額な修理費用を従業員に請求したい気持ちはわかりますが、「運転が苦手」や、「何度注意してもぶつける」程度では事業主からの請求は現実的には難しい点があり、運転を禁止して内勤させることも小規模事業者では代替要員もいないことが多いため使用を続けるしかありません。事故に対する厳罰化や無事故に対する過大な評価を行うと事故隠しにもつながり社会的非難を浴びることにもなりかねないため、長期的に見ればやはり任意保険で賄うことが最適な負担回避方法となります。車両を扱う会社としては任意保険の未加入はあり得ないと思うかもしれませんが、実態としては未加入の会社も多くあります。

給与天引きはちょっと待った

従業員の不注意や過失が重大で、また教育を十分行っていたにもかかわらず繰り返し事故を起こした場合など十分に賠償が認められるケースであったとしても、給与から賠償金を天引きすることは認められていません(労働基準法24条1項「全額払いの原則」、労働基準法17条「前借金相殺の禁止」)。よって、いったん規定通りの給与全額を支払ったうえで、賠償額を請求する手続きを取らなければなりません。

おわりに

従業員の不注意・過失の重大さや会社による予防教育の他、保険加入など負担の回避について判断されることを考慮すれば、相当な場合でなければ実損害の全額を従業員に請求することは難しいといえます。本人にほとんど負担を負わせることはできないため、実務上は人事評価によるマイナスポイントや賞与で帳尻合わせする会社がほとんどです。結局のところ、自動車を使用する事業である限り会社はほとんどの場合で連帯責任を負わなければならないため、事故防止に向けた具体的な交通安全研修や飲酒検査の他、無事故者に対する表彰(報奨金)制度や人事考課での加算など、『万が一の事故に備えた具体的な会社の取組』が必要です。トラックのドライバーなど運送業界は深刻な人手不足の業種で、人材の確保に要するコストを思えば、研修や教育費用、保険料は安いと考えることもできます。

 

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