NEWS
中小企業の在宅勤務(テレワーク)規定と同意書の作成例(ひな型)
2021/03/05
(最終更新日:2023/5/31)
日本では導入が進まないと言われていたテレワークも新型コロナによるショック療法で一気に導入が進みましたが、長期化するにつれて「常時カメラで監視されていて精神的にきつい」、「不必要な報告が多すぎる」、「プライベートを覗かれているような気分」、「四六時中仕事の緊張がある」、「事務所勤務に戻してほしい」など、様々な不満も耳にするようになりました。事業主側からも、様々な相談があります。
「事務所への出勤命令に従わない。」
「実労働時間の管理が難しすぎる。」
「コミュニケーションがうまく取れない。」
「思っていたより時間外労働が多い。」
事業である以上、労働者が喜ぶだけでなく、生産性が高まらなければ実施する意味が失われますが、完全テレワークはうまくいっていない会社のほうが多いような気もします。
非対面に取り組まないビジネスは淘汰される?
新型コロナによる強制的なテレワークの実施は壮大な社会実験となりましたが、やはり「コミュニケーション不足」からくる問題のデメリット面だけでなく、通信・通勤コストの削減をはじめメリットも多いことが確認されました。コロナ感染がすっかり落ち着いたいまでも「テレワークの有無」を職探しの条件にしている人も多くいます。実際に、当社のように全くテレワークを実施していない会社もありますが、さて、皆さまの会社は人手不足・人材採用の施策としてテレワークを検討しているでしょうか。同業他社と比較して待遇は劣っていないか調査しているでしょうか。高い生産性、激甚災害リスクの分散、感染リスクの回避など、「儲かるしくみ」にするためにはビジネスの非対面化を進めることがキーワードといえます。
様々な問題はあるにしても、常にテレワークを実施できる体制を整えておくことが現在の企業のリスク管理の一つとして重要視されています。今はテレワーク制度を導入する予定がなくとも、実際に在宅勤務規定がどのような点を考慮して作成されているか学び、いつかは必ず従業員をテレワークさせるつもりで知識を蓄えておきましょう。今後は非対面ビジネス化に取り組む会社とそうでない会社の生産性(当然、従業員の賃金も)は乖離していき、テレワークする気の無い事業者が淘汰の憂き目にあう不安はぬぐえません。
なお、ひとことでテレワークと言っても、テレワークの経費を全て社員に負担させるブラックテレワークから、大型モニターやイケてる椅子(人間工学がどうこうとかの高いやつ)、その他タブレットなどデジタル系のガジェットをたっぷり買い与えるホワイトテレワークまで幅広い実施方法があります。
テレワークのメリットとデメリット?
デメリット | メリット |
①労働と生活の混在(労働時間管理)
②評価が困難 ③セキュリティレベルの低下 ④自己負担の増加 ⑤コミュニケーション不足の懸念 |
①通勤時間短縮等出勤負荷の軽減
②介護離職の引き留め手段 ③オフィスの省スペース化 ④事務所光熱費の削減 ⑤感染症に対する安全配慮 |
明確な成果物が無いと評価はむずかしい?
テレワーク制度導入の難関の一つとして、物理的な遠隔地で随時報告や動向を確認しずらい在宅勤務の性質上、人事評価のための情報が十分収集できないという問題があります。
(※そもそも、賃金制度が無かったり、評価に不満が多い中小企業では収集した情報量と適正評価度合が一致するとは限りませんが。)
明確な成果物や工程ごとの具体的な行動が明確にされているならば、労働者としてのテレワークではなく、業務委託契約として請負契約や委任契約が可能になり、そのうち不出来な従業員はうまく転換されてその後に契約解除される方法も検討する事業主が出てくるでしょう。(解雇目的の職務転換につき無効は明らかですが、悪知恵を実行する人はいっぱいいます)
成果物や工程に縛られず、指揮命令下において「時間」を提供する労働者にテレワークは越えがたい実務上の難題があるようにも思いますが、だからといって、できないわけではありません。
在宅勤務時の負担は非課税処理可能!?
国税庁は令和3年1月に在宅勤務時の通信費や電気料金について課税基準をまとめました。ざっくりいうと、一律で支給する手当は在宅手当であっても給与として課税されますが、通信費は実費の「2分の1」、電気料金はさらに仕事利用の床面積を案分して計算した金額を非課税として扱われることになります。領収書や電気料金の明細を提出するなどの方法が求められていますが、実務上は本人の報告が過大でなければ信用してOK、、、になりますかね。いずれにせよ、テレワーク中の通勤手当を停止する場合や在宅勤務手当(一時金)を支給する場合は制度上で計算式や手当の根拠を規定しておくのは基本です。ここは、誰も教えてくれませんので、税理士さんと相談しながら自己責任で安全ラインを設定してください。
在宅業務中の事故は労災対象となる!?
テレワークも労働ですので、通常の労働者と同様に労災保険法が適用されます。そして、業務上災害と認定されるためには業務遂行性と業務起因性の双方を満たさなければならず、自宅で仕事を行う公私線引きの難しさから例えば洗濯や息抜きの散歩や家族とコミュニケーションによる怪我は対象とならないはずですが、事業所勤務なら適用されるような、「のどが渇いて飲み物を取りに行く際に転倒」や、「トイレに行く途中で転倒」した場合も労災として適用されない可能性があります。この部分を十分説明せずに在宅勤務を命じて事故が起きた場合は会社の責任を問われる可能性もありますので、「労災適用とならない場合は健康保険による一部自己負担での治療」となる旨、事前に説明した方がよさそうです。
ちなみに、労災認定された例では、「自宅でのパソコン作業中トイレから戻り椅子に座り損ねて転倒した場合」でも実際に労災認定されていますので、自宅作業は労災対象とならないと事業主側の解釈で一蹴せず、労災隠しで騒がれないよう正直に労災請求を行うようにしましょう。既に在宅勤務で多くの人が怪我していますので、検索すればだいたいの基準はわかりそうです。判断するのは事業主ではなく労基署長です。
労働時間の管理(みなし労働・裁量労働)
なんといっても、在宅勤務を許可することの事業主の不安は、労働時間管理(社員に払うカネ)によるものです。サボっている時間も賃金支払いしなければならないのは癪ですし、逆に知らない間に長時間労働が累積していて未払残業代請求など、事業場勤務であれば入退室を押さえておけば考慮する必要のなかった余計な心配が増えます。
多くの専門家は性善説によって運用すべしとか、イケてるベンチャー企業(新興零細企業)は、部下との信頼関係がしっかりできているので問題ない等と、本音と建て前をしっかり使い分けて私たち事業主を不安にさせます。
なお、この労働時間の問題は指揮命令下に置く管理のレベルに応じて解釈する必要があります。
在宅勤務によって出勤義務が免除されていても、作業を常時監視していたり、常時対応できるように指示している場合(黙示も含みます)は「事業場外労働のみなし労働時間(労基法38条の2)」や「専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)」が認められにくくなります。厳格な管理と会社の負担は比例しますので、会社ごとにレベルを設定して規則を作成する必要があります。
「制度設計は厳しく、説明もしっかり行い、実態はユルい」が理想的ですので、初めてのテレワーク導入は注意が必要ですね。
当然、自己管理ができる従業員であることがテレワーク制度利用者の前提とはいえ放任せず、私生活を過度に侵害しないことや健康面(長時間労働の精神疾患含む)の配慮を行い、「テレワーク制度が失敗」とならないように、本人だけでなく上司や管理者を教育する必要があります。
テレワークを実施しているけれど、そもそも規程が無いという会社も実はけっこう多くあります。一時的なもので、従業員とのトラブルが無ければ問題ないと考えているかもしれませんが、規程は運用のルールですので、今後の長期化を想定し、要点だけはしっかり押さえて整備しておきましょう。両立支援助成金の各コースを申請する際にも在宅社員を助成金適用対象労働者とする場合には、在宅勤務規定の提出が必要になります。
テレワーク勤務規定(ひな型)
テレワーク勤務規程 (総則) |
テレワーク勤務同意書
テレワーク勤務時の同意書 私は、 株式会社○○ (以下「会社」という。) のテレワーク勤務規定に同意し、以下の事項を遵守することを誓約いたします。 1.テレワーク勤務を行うにあたっては、会社の指揮命令に従い職務に専念し、適正に業務を遂行します。 2.テレワーク勤務における勤怠は、会社から指示された方法により、始業・終業・休憩時間等を正しく申告し、テレワーク勤務を行った日ごとに会社の担当者の承認を得ます。 3.テレワーク勤務が所定労働時間を超えるとき、深夜に及ぶとき、または所定休日にテレワーク勤務をしようとするときは、事前に指定された方法により会社の担当者に申し出、相談の上、許可を得て行います。 4.会社より貸与される機器や持ち帰りが許可された書類等(以下「貸与物等」という。)の取扱いについて以下を遵守いたします。 (1)電車等で移動する場合は、貸与物等を常に手元に置き、網棚等に置かないこと。 (2)飲酒の機会がある場合は、貸与物等を持ち歩きしないこと。 (3)貸与物等を鞄等から取り出すのは自宅と会社事業所のみとすること。 (4)貸与物等が紛失・破損・盗難される等しないよう最大限の注意を払うこと。 (5)テレワーク勤務期間終了または会社から指示があった場合には、速やかに貸与物等の返却を行うこと。 5.貸与物等は個人利用の機器等と明確に区別し、会社からの承諾があった場合を除いては、貸与物等に個人利用のUSB等に接続したり、ソフトウェアのインストールは行わず、また業務以外の個人利用もいたしません。 6.テレワーク勤務中に席を離れる場合は、パソコン画面を閉じる等を徹底すると共に、家族を含む第三者に対し、情報の一切が開示・漏えいしないよう最大の注意を払います。 7.業務遂行状況が芳しくない場合、テレワーク勤務に関する規定等への違反が生じた場合、または業務上の支障が生じた場合などは、本テレワーク勤務を中止または終了する場合があることを承諾いたします。 令和 年 月 日 社員番号: 氏名: |
おわりに
テレワークは新型コロナによって一気に加速し、いまやひと昔前までは珍しかったテレワークはいまや中小企業でも「常識」になりつつあるとはいえ、まだまだ法整備や実務課題が山積している黎明期と言えます。これからの企業は幅広い人材を登用するため、在宅や事務所など勤務地、柔軟な労働時間の選択肢を与えるだけでなく、短時間勤務正社員としての「労働者」と、労働時間以外に仕事を請け負う「業務委託」を混在させるハイブリッドな委託型労働契約も現れています。私たち事業主は、「将来の会社にとって取り組む有益な方法」を迷いながらも取捨選択しなければなりません。今は全く考えていないと言いながら、実は将来は(可能なら)テレワークもアリだと思っている人は多いはずです。規則は準備が大切です。今後も繰り返される感染症との付き合い方として、テレワークの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
テレワーク規定3点セット(勤務規定・同意書・申請書)は相談付きで22,000円!!
今すぐお問い合わせする
ひな形をご希望の方は「テレワーク規定セット希望」とご記入、その他のご相談・お見積り依頼は下記フォームへ用件をご記入のうえ、『送信』ボタンを押して完了してください(初回相談料無料)。
《関連記事》
通勤手当の見直し相談が増えています(規程作成の実務ポイント)
就業規則のわかりやすさってなんだろう(です・ます調は非常識?)
イデコプラスの導入を検討する中小企業が増加中!(社内規程の整備)
新規創業起業家応援キャンペーンを実施中《就業規則・相談顧問》
近代中小企業「Kinchu」誌にテレワークの記事を掲載いただきました。
緊急事態宣言と中小企業の労務管理《新型コロナウイルス関連対策》
私用スマートフォンを社内で許可する際の労務管理(BYOD対策)