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小規模医療機関の労務管理【歯科医院・診療所・クリニック】
2019/09/06
労働基準監督署による臨検監督はついに医療機関へ!
福岡県久留米市の聖マリア病院では2018年、労働基準監督署の是正指導によって医師の院内滞在時間の大幅な短縮を図ることを発表し、外来診療の縮小、平日から夜間への重点をシフトしたことなど、消防署の緊急搬送の半数を受ける同病院が市民医療に与えるインパクトはニュースや報道で大きく取り上げられました。同じく東京都三鷹市の杏林大学医学部付属病院では、医師が時間外労働の取り決め(36協定の上限)を超える残業によって是正勧告と改善指導を受けたこと、その他の大病院でも労働基準監督署の是正指導が相当数行われています。
NHKの報道を契機として文科省が令和元年6月28日付けで公表した調査結果によると、対象とされた108の大学病院、計3万1,801人の医師うち少なくとも50の大学病院で2,191名(約7%)の『無給医』が存在するなど衝撃の現場が明らかとなり、命を預かる医師と過重労働は極めて重要な課題があります。
報道されてはいませんが、実は大病院だけでなく、クリニックや歯科医院、小規模な診療所にまで労働基準監督署の調査(臨検監督)が行われており、以前まで『聖域として労基署が及ばない』と考えられてきた医療機関は既に聖域ではなく、少なくとも労働法違反の取り締まりは一般事業者と同等の扱いになっているといえます。
反面、経営者でもある医師の中には『診療時間=労働時間』と認識しているケースも多く未払い残業の疑いがあるほか、「法定」労働時間と「所定」労働時間を区別せず、所定労働時間を超えた労働時間が法定労働時間を下回っていた場合でも25%の割増賃金を支払わなければならないと思っていることもあります。医院で働くスタッフたちに損をさせたり、不利益な扱いとなっていなければ直ちに問題となることはありませんが、重大な間違いに気づかず運営していればいずれ大きな問題ともなりえます。
よくある重大な間違い
☑36協定を締結せず残業を行っている
☑採用する際に労働条件通知書を渡していない
☑残業代が少なく計算されている
☑就業規則の届出を行わず変形労働時間制を行っている
特にこれらの違反は医療機関であっても厳しく取り締まられており、医師法違反と同じように、労働法違反には厳しいペナルティがあります。
とはいえ、小規模医療機関はスタッフの労働時間管理に関して、専門部門の設置などによる対応が取りにくく、多くの現場で平然と労働基準法違反が常態化しているのは一般事業を営む中小企業と同様です。ましてや多くの患者を抱える『患者ファースト』の地域医療機関の院長となれば、通常の事業主が行う労務管理や従業員の育成にまで時間を捻出することは困難で、結果的に職場の秩序が維持できず、ハラスメントやモラル低下によって貴重なスタッフ(看護師、麻酔医、医療事務員など)を失うばかりか、行政指導や紛争リスクを抱えています。職場の雰囲気を重視し「規則で強く縛りたくない」気持ちはわかりますが、過度に個人を信頼するあまりに処分が甘くなることは結果的に医院や患者に悪影響を与えます。
医療機関で高まる労務管理の重要性
10人未満の小規模医療機関の99%は顧問税理士と契約している一方で、社労士と顧問契約しているところは3割(2割以下という方もいます)に満たないといわれています。そして、就業規則の作成や助成金、給与計算や労働契約書の作成を税理士に相談しているところも少なくありません。なお、税理士は税に関するスペシャリストであり、労働に関して相談されれば本来は畑違いのため応じることはできないのですが、顧問先の要望とあればやむなくネット情報を頼りに対応せざるを得ないのが実情のようです。経営面の一般的なアドバイス、たとえば「パートタイムにも雇用契約書は必要か」や、「子供の病気を理由とする急な有給休暇は許可すべきか」などは税理士でも十分回答可能なように思えますが、個々の様々な事情を考慮した就業規則の見直しや労働トラブルは「餅は餅屋」ならぬ専門外への要望であり、医院の特殊な労働環境やトラブルの予防、健康的な労使関係構築など複雑な労働問題に十分なアドバイスができないことは税理士業界も当然に認めるところです。働き方改革関連法の施行や政府の労働に関する重点施策、昨今の労働基準監督署による聖域なき臨検監督の強化や労働トラブルの増加は、医院も労務管理の重要性に高い意識をもって取り組まなければならない時期に来ています。
医療機関に雇われて働くスタッフたちは「労働者」であり、本人だけでなく家族からの「労働基準監督署への申告」や「定期監督」によって調査対象となった場合、労働の専門ではない医師・歯科医師では対応に困り、また顧問税理士は当然関与しないため是正指導に反論できず言いなりとなることも多いようです。違反事実があれば法に則って是正しなければなりませんが、例えば事務スタッフの時間外に及ぶおしゃべりやだらだら残業にまで未払い賃金として指導されてはたまりません。
特に重点調査されている長時間労働や未払い残業代については医療機関といえども労働基準法に則り、また一般事業主と同じように残業削減や労働時間短縮のための規則類作成など人事マネジメントを実施しておくことが求められます。
医療機関の人手不足
小規模医療機関の人手不足は深刻で、雇い入れた看護師の3人に1人は6か月以内に退職し、歯科衛生士の求人は20倍を超えていると言われています。当方で相談を承った歯科医院では歯科衛生士と助手が他医院の引き抜きによって大量離職し、院長自らが現場の全ての業務を行わざるを得ない状況に陥っている医院がありました。独立開業している医師に話を伺うと、従業員に関する悩みが最も大きいと話す方が多いと印象します。あらゆる業種で人材不足が深刻になっており、応募すればすぐに人が集まった時代は様変わりし、既に中小規模の事業者で採用管理、定着管理を怠るとすぐに人材不足となる可能性があります。ひと昔前と異なり、事業主は従業員に選ばれなければ事業を維持できない時代が到来しています。
医療機関の規則整備
代替できない重要な業務を行う従業員が長時間労働化している場合には、変形労働時間制や特例対象事業所の特権を活用するほか、36協定の締結によって法適合性を高めることを検討しなければなりませんが、労働者に有益となる制度にはなりませんので、他所求人と比較して優位性が低くなることも理解しておかなければなりません。
歯科医院やクリニックなど保健衛生業を営む10名未満(事業所単位)の小規模医療機関であれば、労働基準法上の「特例措置対象事業所」として通常一週40時間の労働時間の上限が44時間まで緩和されます。なお、週44時間が認められる事業所は1カ月単位の変形労働時間制のみ併用できます。(1週間単位、1年単位の変形労働時間制は40時間が上限となります)。
客を選ぶことのできる一般事業主と異なり、診療に従事する医師は医師法19条(歯科医師法19条)によって「診療治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と義務付けられ(いわゆる応召義務)、高齢化による患者数増加や医師の絶対数・後継者不足に苦しむ小規模な医療機関に厳格な労働時間管理は難しい課題といえますが、適切な労働環境に向けた取組は日々一歩ずつでも進めていくことが病院経営に必要な時代です。同一労働同一賃金の概念やハラスメント防止措置の義務化は、医療機関であっても企業同様に取り組まなければならない事業主の義務であり、監督署の指導や労働者とトラブルになり口コミサイトやSNSへ悪評が立てば、地域密着の医療機関に与えるダメージは甚大なものとなります。
新規開業の増加によって看護師や歯科衛生士など、有資格者の人手不足はますます厳しくなるといわれています。そして、人手不足の解消は適切な労働環境を整備することでしか改善する方法はなさそうです。
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