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カスタマーハラスメントから従業員を守れ!!安全配慮義務を問われる前に
2022/03/31
(最終更新日:2023/11/07)
職場で起きうるカスハラから従業員と企業を守る研修をご案内!!
令和4年4月1日から全事業主を対象に「パワハラ防止法」が施行されますが、ハラスメントとして忘れてはいけないのが悪質な顧客からのカスタマーハラスメント(通称、カスハラ)があります。パワハラ防止法は職場の優越的な地位によるハラスメントを対象としたものであり、職場外のカスハラ対策については直接規制するものではありませんが、企業の実務としては併せて取り組むべき『包括的なハラスメント対策』といえます。
『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)』ではパワハラ及びカスハラの取組を望ましいとしており法的拘束力を持たないレベルの扱いですが、カスハラ対策を行わないことのリスクについて認識に誤りがないか、事業主の方は本記事において十分ご確認ください。
こうした社会的な要請も相まって、厚生労働省からは令和4年2月に企業として取り組むべきカスタマーハラスメントへの対策マニュアルが公開されました。
厚生労働省の調査によると、ハラスメント関連の相談において『パワハラ(48.2%)』、『セクハラ(29.8%)』に次いで『カスハラ(19.5%)』が3番目に多い相談であり、様々なハラスメントでも企業として特に対策を講じるべき問題であることは間違いありません。
新型コロナ対策ではケアサービス事業者で深刻なカスタマーハラスメントが多く報じられたこともあり、令和3年度の介護報酬改定ではすべての介護サービス事業者にハラスメント対策として必要な措置を講じることを義務付け、カスタマーハラスメント防止のための方針の明確化に必要な措置を講ずることを求めています。
(カスハラによる従業員の心身への影響)
(出典:令和2年度厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査)
あらゆる事業において顧客の意見は自社の商品やサービスを改善するきっかけとなることも多く、クレームでも正当なものは当然に歓迎すべきものです。企業として顧客からの苦情や意見を真摯に受け止め、サービスの改善や品質向上に活かすことはさらなる企業の発展に欠かすことのできない日々の取組ではあるものの、その線引きが正当なものであるかどうかは対応する立場や担当者によっても異なり判断には悩ましいゆらぎがあります。
過剰な要求や言いがかり(関西弁で「いちゃもん」)をつけたり、長時間にわたって執拗に業務を妨害する、まだ記憶に新しいコロナ禍中にはマスク着用や換気に対する過剰な要求、ノーマスクでわめき散らすような輩の来店など、社会的に批判されるような「悪質なクレーマー客」が報道され、カスタマーハラスメントについては全ての類型を記載できないほど多様化しています。一方で実務の現場ではそういった明らかなモラルハラスメントではなく、「おい・お前・おねーちゃん(おにーちゃん)」のような敬意の無い呼称や「無表情、無言で体の一部をジーっと凝視する客」、具体的な問題を指摘せず「担当変わってくれませんか?わかる人よんでくれませんか?」と職務意欲を傷つける要求など、繰り返される「陰湿で絶妙なモラハラ」によって従業員たちは疲弊しています。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」ではカスハラ基準や対応を明確にすることはできないことを前置きしたうえで、以下のように定義しています。
❝顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの❞
そんな中2021年5月、東京都の弁当店において酒に酔った2名の男性客が店員に暴言を吐き、小銭を投げるなどした行為の動画を店主がSNSにアップし捜索を呼びかけ、すぐに特定された本人が謝罪に訪れるも店舗側は受け入れず、その後男性客らは逮捕される痛快な事件がマスコミで繰り返し報道され注目を集めました。本件に限っては店舗側が社会的支持を得たためカスハラ対策のお手本のように取り上げられることもありましたが、実務対応の難しさやのちの訴訟リスク(名誉棄損)を考慮すると極めて危うい感情任せで行き当たりばったりのカスハラ対応といえ通常の企業で参考にするべきではありません(高圧的になると負けるという参考にはなる)。
とはいえSNSをはじめとしたインターネット上で行為者の特定による私的制裁など正義行為の是非はともかくとして、企業にとってカスハラが従業員に与える影響は看過できるものではありません。顧客の過大な要求や暴言等は従業員にとって精神的・肉体的に負担となり、程度によっては健康を害したり、休職や退職に至るなど個人に大きな悪影響を及ぼします。それだけではなく、カスタマーハラスメント対策や従業員ケアを怠り、担当局への内部通報やマスコミによる報道によって拡散されれば社会的非難だけでなく、企業の不十分な対応を理由として安全配慮義務違反(労働契約法第5条)による行政処分や使用者責任(民法715条)を問われ民事訴訟になれば損害賠償を命じられる可能性もあります。
労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定しています。この安全配慮義務とは、単に肉体的に危険な作業を注意するだけにとどまらず、業務遂行によって精神に不調をきたすことのないよう、予見できる事態を避けるために企業としてとり取り組まなければならない幅広い義務を規定しているものと判例等では解釈しています。
クレーム対応には一般論よりマニュアルや指針が必要
マスクを着用せずに大声で従業員を怒鳴りつけたり、飲酒によって暴力をふるうなど、明確な悪質クレームについて、一般論として考えても要求に応じる必要が無いことは明らかですが、なぜ多くの企業ではクレーム対応に悩まされ、場合によっては要求に応じてしまうのでしょうか。
様々な理由が考えられますが、企業経営としては事業所内においてマニュアルや対応指針が明確でないことが最大の問題であると言えます。個人の私生活においてトラブルは自力かつ自己責任で解決すべき認識であっても、他のスタッフへの配慮など複雑な心理がからむ職場において自己責任での解決は従業員には不可能です。
中小企業事業所では「現場の裁量に任せる」としているところもありますが、それだけでは無責任な他人事、単なる責任の放棄であり、会社としてクレームをはじめとしたカスタマーハラスメント対策に取り組んでいるとは言えません。多様化する顧客対策に対してはマニュアル化が難しく、その都度対応するしかないというのはもっともな意見のように聞こえますが、組織運営のマネジメントを担う責任者ならば不合格です。
個別のスクリプト(質疑応答)は定めようがありませんが、少なくとも企業としてはクレーム、カスタマーハラスメントにおける事業所の対応指針について、役割分担を明確にすることによって二次クレームやSNSでの炎上、従業員のメンタル不調などが発生する確率を大きく下げることができます。
上記は厚生労働省のカスハラ対策マニュアルに参考として記載されている判例になりますが、ここまで対策していた企業でも訴訟に発展し、これだけ対策しなければ安全配慮義務違反が否定されないのかとまともな経営者なら思ったかもしれません。安全配慮義務違反はそれほど厳しいものですが、裏を返せば会社が義務を果たしてさえいれば、通常予見できないカスハラが発生しても安全配慮義務違反は成立しないとも言えます。企業としてはベストを尽くすことが大切です。会社は被害者かもしれませんが、対策によっては同時に加害者にもなりうることを忘れてはいけません。
☑カスハラを想定した事前準備
①基本方針の明確化、従業員への周知・啓発
②被害従業員のための相談対応体制の整備
- 相談窓口の設置
- 外部専門家との連携
相談窓口はカスタマーハラスメントのために特別に設ける必要は無く、パワハラ相談窓口等で対応できるようにするなど、社内関係部門(労務部門・法務部門)との連携を考慮して対応するとよいでしょう。
- 相談対応者への教育
- 責任を集中させない組織による対応整備が望ましい
③対応方法、手順の策定
- 長時間拘束型の対策(一定時間でお引き取りをねがう等)
- リピート型の対策(回数の記録等)
- 暴言型の対策(録音等)
- 暴力型の対応(物理的距離の確保など安全確保の優先)
- 威嚇型(複数での対応等)
- 権威型(上位者と交代)
- 店舗外拘束(警察への通報)
- ネット誹謗中傷型(発信者情報の開示請求)
- セクハラ型(録音・録画)
④対応ルールの社内教育・研修
☑カスハラが起こった際の対応
現場対応ではまずは誠意ある対応をしつつ、状況を正確に把握し、事実確認を行う能力が要求されます。クレーマーは弁の立つ人物であることが予想されるため、即時の回答や不必要な謝罪に誘導したり、「言った言わない」の駆け引きにも長けているはずです。よって、マニュアルのようにカスハラに該当するか否かの明確な判断や、適切な対応など一般の従業員ができるはずもありません。実務としては経験の浅いスタッフや若年層は一人で対応させず、判断に迷うような「一言謝罪すれば済む程度ではない」場合はすぐに上位職者等に引継ぎすることが重要です。小規模事業者の場合でやむを得ない場合ではカスハラマニュアルを公開したり、顧客への注意喚起文書の掲示など、カスハラ対策に取り組んでいる事業者であることを明示(アピール)して抑止することも効果的です。
⑤事実関係の正確な確認と対応(情報共有メモの作成)
⑥従業員への配慮措置(安全確保・心身ケア等)
⑦再発防止のための取組(事例の活用・社内研修等)
⑧その他①~⑦までの措置と併せて講ずべき措置(プライバシー保護等)
企業としてのカスハラ判断ライン
☑説明責任を十分果たしたうえで、それでも納得いただけない場合
☑商品に瑕疵がないか、サービス提供側で非がある対応をしていないか
上記のように、予め職場で判断ラインを定めておくことも現場対応時に有効といえます。
顧客主義は従業員を犠牲にするだけ!?
企業としての対応次第でクレーマーも良客となるケースは商売をしていれば経験があることも多いはずです。カスタマーハラスメントは社会的認知も向上しており報道やSNSでも話題となりやすく、また事故が起きた際の企業の対策如何によってブランドを毀損することも、称賛を集めることもできる重要なレピュテーション対策であり、経営戦略(マーケティング)とも言えます。
経営者心理としてすべての顧客を性善説的対応で商売につなげたい気持ちも理解できますが、クレーム処理は対応者の性格に依るところが大きく、そして高ストレス、高リスクな業務の一つです。
事業経営の実務としては今後ますますサービス業を中心に人手不足が深刻化することが予想されており、事業主としては顧客対応の結果に過度に期待せず、また放任せず、従業員の心身の安全を守ることを優先した従業員ファーストの精神で制度設計するべきと考えます。悪質なクレーマーも何か事情があってのことかもしれませんが、自己抑制できない大人のために従業員を犠牲にすべきではありません。いつまでも改善しない人手不足企業を脱却し、『人材の勝ち組企業』になるためには、ハラスメント対策はトップを中心とした組織全体として取り組み、従業員を無視したカスハラ対策になっていないか、従業員が安心して働ける職場であるかなど、持続可能な事業においては心理的安全性の高い職場であることが事業者に求められている時代です。
カスハラで企業が訴えられる!!
繰り返しになりますが取引先や顧客のモラルハラスメントによって従業員が心身を病んだり、離職を余儀なくされた場合、現代社会の従業員は泣き寝入りするだけでは終わりません。今後は従業員が職場のカスハラ対策が不十分であり被害を被った【安全配慮義務違反(労働契約法第5条)】を理由に企業に損害賠償を請求する事例が増加することは確実です。カスハラ対策には限界があるとはいえ、多額のお金や多くの時間をかけずともできるはずのマニュアル作成や体制の構築、社内研修など『できたはずのことをしていなかった』企業は確実に不利な立場となります。一般顧客を相手にするようなサービス業や物販などBtoC事業者だけでなく、介護現場のようなエッセンシャルワークの業界ではカスハラが長期化、深刻化するため初期対応が極めて重要です。謝罪の実務や実務対応のオペレーションに不備がないか、また従業員に対する「カスハラ対策研修」も安全配慮義務を怠っていないことの強力な証明となり有効と考えられます。
当事務所のコンプライアンス研修サービス
当事務所では官公庁をはじめ、中小企業から大企業や学校法人など、様々な団体からのご要望を受け、『職場でおきうるモラルハラスメントから従業員と会社を守るため』の研修を行っております。パワハラ、セクハラ、マタハラなど社内で起きる問題だけでなく、現代は取引先や顧客からのモラルハザードにも企業として対策を講じなければならない時代です。事故が起きたときに慌てないように、事前に予防のため研修の受講をご案内しています。
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