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元従業員の再雇用とジョブ・リターン制度の注意点

2019/11/29

中小企業の経営で最大のダメージと言えば従業員の離職が挙げられます。当社でも大切にしている(つもり)の従業員から離職の意思表示があった際にはショックを受けますし、離職理由(真実かどうかわかりませんが)を聞けばやむを得ないとあきらめるしかありません。

昨今の人材不足・採用難で中小企業では一名の採用すらままならず、求人広告を行っていてもアルバイトすら応募が来ないところは珍しくなくなりました。採用難と離職の板挟みになると当然、残された従業員達が作業を分担しながら業務を続けていかなければなりませんが、採用できない状態のまま無理をすれば必ず「連鎖的に」離職が続くことになります。

企業では働き方改革関連法の要望もあり各社で採用活動と定着のための施策を実施していると思いますが、辞めてしまって終わりではもったいないと、最近ではジョブ・リターン制度とかっこいい名前を付けて離職者の再雇用を見直し、制度化している会社が急増しています。再雇用における基本と注意点を確認しておきましょう。

ジョブ・リターン制度とは

退職した従業員に対して、本人の希望があれば再雇用する制度でアメリカではブーメラン制度とも呼ばれる古典的な手法を制度化したものです。離職理由や離職期間、再雇用の際の条件をあらかじめ定めて道を示しておくことで、もう一度働きたいと思った従業員を「戻りやすくする制度」とも言えます。

例えば、トヨタ自動車では一定の勤続年数と離職理由を満たせば退職期間の制限なく復職できる「プロキャリア・カムバック」とした制度を2005年から導入していたり、サントリーでは2007年より勤続3年以上の全社員を対象として離職時に申請・登録することを条件として10年以内なら復職できる制度を導入したりと、古くから制度化している企業は多くあります。コニカミノルタやニトリ、大日本印刷など大企業も近年になって続々とジョブ・リターン制度導入を公表しており、優秀な人材確保の手法として高い効果が認められた制度といえます。森永乳業では3年以上勤務者が離職した場合には退職理由に条件を設けず、事実上無条件で復職を認める制度を実施したことで人事制度マニア筋からは賞賛を浴びました。中小企業で制度化しているところはわずかですが、人材確保の手法として注目が高まっています。

ジョブ・リターン制度の企業のメリット

パートナーの転勤に同伴する場合や子の看護、親の介護など、「本人は働く意思はあるが続けられない」というやむを得ない理由で離職を選ぶことがあります。企業としては離職する前に何とか手をうち離職をとどまらせることができればよいのですが、会社で支援できることにも限界があります。本人と会社が両想いにもかかわらず離職することは大変残念なことですが、総務省の統計調査のひとつ、「就業構造基本調査」では毎年10万人前後が介護・看護を理由として離職しています。介護休業給付金はたったの93日分しかありません。

しかし、一度辞めてもまた復職できる制度があれば、採用コストの削減だけでなく労使双方にとってメリットがあります。再雇用された従業員ミスマッチが少ないうえ、会社へのリスペクトやモチベーションが高く、本当の即戦力として活躍してくれるのも魅力的です。一度離職しても再び働きたいと思う会社はよい会社であるという社外へのアピールや、女性活躍推進に真剣に取り組む企業であることをアピールできる点も企業にとって大きなポイントになります。

ジョブ・リターン制度のデメリット

再雇用が制度化されているということは、離職の一定のハードルを下げることになります。制度の内容によっては、「気軽に離職してもまた戻ればいい」と思う従業員を生むことにもつながります。また、一度辞めた社員は「また辞めるのではないか」といった疑念を生むこともあります。心理的な問題としては、一度辞めたにもかかわらず戻ってきたとたんに先輩風を吹かせるような不遜な態度では現場で歓迎されることも無いでしょう。

辞めた上司が部下として復職した場合には人によってはやりづらいということもあり得ますし、上司の出戻りはあまり歓迎する人はいません。余計な配慮で指揮命令系統が滞るような副作用が無いよう注意もしなければなりません。

一時的な感情で辞め方の悪い従業員の出戻りは認めない、社員が歓迎する社員だけに限定したいのは人の心ですが、線引き方法の如何によっては不公平な制度として利用されない「窓際制度」ともなりかねません。

組織は個人の集団で、人間関係によって成り立っています。特定の個人との人間関係に問題があって退職した人が、その相手が離職したことを知ったことで復職を希望することもあります。辞めないなら辞める、辞めるなら復職するという人間関係の玉突きが雇用の枠外に広がることも十分理解が必要です。妊娠、出産、育児、介護や配偶者の転勤など、職務に関連しない私的事情で離職した場合には認めるところがほとんどですが、退職の自由が保障されている以上『離職理由は偽られても調べられない』ことにも注意が必要です。

既存社員との待遇のバランス

社会人であれば現状から抜け出して違う世界で活躍したい、今の仕事を辞めたいと思うことは何度もあります。そんな会社を辞めずに頑張って続けていた従業員からすれば、理由はどうあれ個人的な事情で辞めた出戻り社員が厚遇されたり、上司として復職すれば不満や不公平を感じることになります。離職時の給与を保障するなど制度の見た目は立派でも、他人に配慮の無いバランスを欠いた制度では『出戻り社員によって既存社員が辞める』ことにもつながるため適正なバランスが必要です。

東京都では2019年5月より『育児・介護からのジョブリターン制度整備奨励金』として、制度整備と周知を行った中小事業主に対して1社あたり20万円の奨励金(助成金)が支給される制度が開始されています。残念ながら、執筆時点の現在他府県で同等の制度を実施している自治体はありませんが、厚生労働省の両立支援等助成金のひとつ、『再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)』が用意されています。詳しくは下記リンクからご確認ください。

多様な働き方に寛容な会社

今後は起業・独立によって経営にチャレンジしたり、海外留学や他社で経験を積むことで能力を磨くことを希望するなど、自己のキャリアアップを目的として離職する従業員も増えていきます。そんな中、出戻り社員の受入体制を整備しておけば失敗した時の受け皿として意欲的な人材が増えたり、また経験を積んだ能力の高い人材を雇用する機会を得ることができます。中には戻ってきてほしくない従業員もいるはずですが、門戸を広くしておくことは優秀な人材を受け入れる体制や人材不足の問題の解消に効果的です。失敗に不寛容な社会は成長を抑制するため、会社だけは寛容であることも経営の器量に必要な時代かもしれません。

ジョブ・リターン制度と労働法律関係

ジョブ・リターン制度を制限する法律はありません。しかし、制度を利用する従業員は元従業員とはいえ、「新たに雇用する求職者」と同様の法律が適用されることも考えられます。よって、再雇用制度の広告は労働者の募集に該当する行為ともいえ、男女雇用機会均等法5条及び7条における性差別、雇用対策法10条における年齢差別のほか、労働基準法15条における労働条件の明示義務、パートタイム労働者を再雇用する場合には短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律6条における明示義務など、求人活動に適用される関連法律にも注意しなければなりません。また、退職後に勤務した同業他社からジョブ・リターン制度を悪用したスパイ行為を疑われれば競業避止義務違反などで訴えられることもあり得る話です。

ジョブ・リターン制度規定ひな形

《ジョブ・リターン制度規定》

(目的)

この規程は、当社を退職後再度入社を希望する元従業員に対して特別な制度を設けることで事業活動における人材確保と個人の効率的な能力向上の機会を与えることを目的とし、定年後の再雇用制度とは別で定めるものとする

(対象者)

本制度は令和●年●月●日以降に当社を結婚・配偶者の転勤・妊娠・出産・育児及び介護を理由として退職する従業員で、退職後●年以内に再雇用(ジョブ・リターン)を希望するもののうち正社員、契約社員、アルバイト、パートタイム労働者等退職時の労働契約の区分を問わず、全ての従業員を対象とする。

(制度利用希望の意思表示)

本制度の利用を希望する場合は、その退職の際又は退職後に、退職理由及び就業が可能となったときに当該退職に係る事業の事業主又は関連事業主に再び雇用されることを希望する旨の申し出(以下「再雇用希望の申出」という。)を登録し、本制度の利用と復職の意思を書面をもって人事部に申請しなければならない。

(採用試験の有無)

会社は制度利用を希望する申請者のなかから、次の順序で採用審査を行い、採否を決定する。

1.書類審査

2.面接審査

(再雇用の待遇)

当該制度対象者を再雇用する場合には、退職前の配置、経験、勤続年数等を評価して賃金の格付け、処遇を決定する。

(採用の保障)

本制度は再雇用を保障するものではなく、退職後の個人の状況、能力、本人が希望する職務及び雇用条件の如何によって再雇用しないことがある。

(入社手続き)

再入社を許可されたものは審査の結果通知後2週間以内に指定された書類を提出し、再入社の手続きを行わなければならない。

(勤続年数の通算)

再入社後の勤続年数は以前の勤続年数と通算しない。

本付則は令和●年●月●日より実施する。

おわりに

ちなみに、私個人としては中小企業のジョブ・リターン制度は出産や育児、介護やパートナーの同伴など、家族都合の離職に限定すべきと考えています。大企業であれば社内に様々な部門があり出戻り社員には十分な待遇や不満解消のための部門異動の提案など、一定の問題回避策をとることができますが、中小企業では毎日顔を合わせるメンバーや職務を変更するわけにはいかず、寛大なジョブ・リターン制度を導入するには少し窮屈さが残ります。とはいえ、深刻な採用難・人材不足が慢性化しだした中小企業にとって人材の確保は急務であり、現場が望むならば制度化しておくことも必要なことです。戻ってきたいと言ってくれる貴重な従業員がいるのなら、制度化を社内で議論するだけでも有益です。

 

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