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従業員から訴えられた企業の対応方法!怖すぎる未払い残業代請求

2019/08/27

(最終更新日:2022.3.9)

退職した従業員から手紙が…開封してみると!?

100年ぶりの大改正と言われた労働基準法関係法律(働き方改革関連法)も2022年度に大半が施行され、過労死やパワハラ報道によって企業ブランドを毀損したブラック企業の報道はもはや珍しいニュースではなくなりました。労働問題の注目度の高まりに伴い労働基準監督署等行政官庁の指導も強化されており、従業員や元従業員から訴えられるケースが増加しています。

ひと昔前までは労働トラブルといえば労働基準監督署へ駆け込み処分してもらうか、訴訟によって勝訴を勝ち取る二極のイメージでしたが、いまは間を取った様々なルートによる紛争解決方法があり、勤務先に対して権利を請求することは珍しいことではありません。愛情を注いだはずの従業員から訴えられたとなると裏切られたような気分になりひどく落ち込んだり、逆に頭に血が上ることも理解できますが、怒っても解決することはありません。従業員の言い分や態度の硬化レベル、自社が負う可能性のあるリスクとのバランスを考慮しながら、冷静に対策を検討する必要があります。

《通知された内容の整理》

深刻レベル1-1.従業員からの書面による請求

普通郵便によるものや配達記録付郵便、内容証明など、本人の意思の強さによって郵便の種類も変わります。代理人を立てずに請求を行ってきた場合は本人との直接の話し合いも可能なため、早急に解決できる可能性はまだ残されているといえます。代理人として弁護士名が記載されている場合や内容証明郵便の場合はトラブルの度合いが大きく一定の覚悟をもって通知しているものと思われますので、無視せずに調査を行い、社労士や弁護士等の専門家に助言を仰ぐ必要があります。

運よく当事者間の話し合いで解決した場合には『債権債務不存在確認書』の合意を行うことを忘れてはいけません。トラブルが起こってしまったことは残念ですが、将来に禍根を残さないよう文書で確認しておくことも大切です。

深刻レベル1-2.労基署からの確認通知

従業員や元従業員が労働基準監督署など事業を監督する行政局に相談した場合、事業所に通知が届くことがあります。退職者が申告した場合には「退職者の●●さんから●●について申告があったので確認のために●●(労働契約書や出勤簿)を持って来所ください」といった内容が書かれていることと思います。「出頭(要請)通知書」などと仰々しいタイトルの通知書になりますので震えあがりますが、この場合でも慌てる必要はありません。監督署は一方の言い分を鵜呑みにすることは無く、内容の確認を行うための業務の一環ですので、やましいことがあっても無くても指定された書類を持って説明に行くだけです。なお、本人の言い分がデタラメな内容なのか、確かに誤りがあったのか、事業主側でも詳細を伺うことのできる機会にもなりますので、無視せずに対応するようにしましょう。できれば顧問社労士や顧問弁護士と同行することをおすすめします。顧問がいなくて不安でも無視してはいけません。監督署は企業と違って申告案件を放置することはありません(無視するとどうなるかは監督署にお問い合わせください)。

深刻レベル2.あっせん申立書による通知

「あっせん」は会社と従業員の間のトラブルを『裁判によらずに解決するシステム(ADR)』で、労働局によるものが最多ですが、労働委員会や社会保険労務士会でも実施されています。あっせん手続きは非公開であり、当事者のプライバシーは保護され、原則一日で終了するうえ、弁護士や大学教授、社会保険労務士など専門家が公平な第三者として同席し(表向きは)和やかな雰囲気で話し合いが進むケースも多いことから利用者は年々増加しています。強制力はありませんので企業側の出席義務はありませんが、無視するとさらに深刻なステージへ進み話し合いの機会を逃すことにもなりかねないため、申立があればできるだけ出席することをお勧めします。企業が圧倒的に不利な状況であった場合でも、あっせんによる解決の場合にはダメージの少ない条件で和解できることがあります。

厚生労働省が公表した全国380か所に設置された労働相談窓口の相談件数(全体1,117,983件)の調査によると、個別労働紛争相談件数266,535件のうち『いじめ・嫌がらせに関する相談が82,797件(7年連続トップ)』、『自己都合退職(※)に関する相談が41,258件』、『解雇に関する相談が32,614件』とされ、労働局長による助言・指導件数は9,835件、紛争調整委員会によるあっせんは5,201件と報告されています。
※自己都合退職については「辞めたいのに辞めさせてくれない」など退職引き留め(在職強要)の相談です。
【出典元:平成30年度個別労働紛争解決制度の実施状況(令和元年6月26日)】

深刻レベル3.裁判所からの訴状(労働審判申立書)

この段階になれば既に深刻な状態に至っているため、早急に弁護士への委任が必要です。特に労働審判は申立日から40日以内で労働審判期日が開かれ、出席しなければ負けを認めたことに等しく後日の言い分は通用しません。労働審判では反論書面と証拠提出が結論を左右し、既に管轄が裁判所へ移った以上、答弁書の作成によって結論が大きく変わるため、労働紛争に詳しい弁護士への委任が必要です。労働審判で解決せず訴訟となれば敗訴した時に遅延損害金や付加金が加算されて元本を大きく上回る支払金額に上る可能性もありますが、逆にいえば、訴訟へ至る前段階の労働審判であれば企業のダメージを最小限に抑えることも可能といえ、早期解決に向けた妥協チャンスはまだあると言えます。長期訴訟に(心身共に)耐えうる強い法務部門がある大企業があるならまだしも、社長一人が重い責任を担う中小企業では外部専門家の協力なしに耐えれるはずもありません。残念ですが、無傷はありえませんので傷を最小限にとどめるための方法を模索するべきです。

労働審判では最大3回の審理で方向性を決定し、最終的には約7割が『調停(話し合い)』で解決、調停が成立しなかった残りも審判によって約4割が『異議なし』で実に全案件の8割が労働審判で解決しています。労働審判は徹底的な勝ち負けを目的としたものではなく、労使トラブルを早期に解決することを目的としています。さらに傷を深める通常訴訟へ移る前段階ですので、感情的にならずに労働審判で早期解決を目指すことが企業にできる最良の対策となります。

《よくあるトラブル例》

☑解雇によるトラブル

会社が従業員を解雇する際には極めて高いハードル(要件)をクリアしなければならず、個人的に気に入らなかったり、機嫌が悪かったため「明日から来なくていい」などと発言してしまうと企業は重いしっぺ返しを受けることになります。不当に解雇された従業員は解雇無効を主張して『従業員としての地位の回復』、『未払い賃金』の両方を求めて民事裁判を起こします。裁判によって企業側が敗訴した場合、従業員は会社に戻ることになり、また期間中の賃金は一括して支払いする必要があります。しかしながら、会社が解雇する場合には会社の言い分もあるはずです。ブラック企業の反面、不正行為や問題をたびたび起こすなど、モンスター社員であったこともあり得ます。会社としては適切な指導を行った履歴や証明となる証拠(例えば指導書や顛末書など)が多ければ多いほど言い分が通りやすくなります。日ごろから問題社員に対しては文書での指導によって紛争に備えておく必要があります。

☑ハラスメントによるトラブル

セクハラ、マタハラに続きパワハラなどハラスメント関連の防止措置義務が法定(令和4年4月施行)されたことから、ハラスメント対策を講じないままハラスメントを発生させた場合には行為者だけでなく、会社自身も職場安全配慮義務違反を問われて損害賠償請求される可能性があります。ハラスメント系の事件は会社のイメージを著しく低下させるほか、今いる従業員のモチベーションも低下します。関係者に聞き取り調査を行うなど速やかに実施し、事実であれば早急に和解することが必要となります。ハラスメントの訴えは法施行以前は難易度が高く泣き寝入りが多かったのも事実ですが、今後は根拠法律ができたことで不法行為が明確となり行政処分や訴訟等が増加することは間違いありません。ハラスメント問題は感情的になりやすく中小企業では自力での解決が難しいため、専門の相談窓口を外部に委託するなどトラブルを起こさないよう予防策を講じる企業も増えています。

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☑未払い賃金に関するトラブル

固定残業代や変形労働時間制等シンプルではない変則的な賃金制度は厳格な要件があり、未払い賃金を潜在させている可能性があります。不況を理由に支払いができなかったとしても賃金債権は優先度が高く、また労働基準監督署も動きやすい案件のため、『未払い賃金債権のある従業員はあらゆる手を打つことができる』恐ろしい事案です。請求を起こされた場合には早急に調査を行い、できる限り裁判に委ねることの無いよう手を打つ必要があります。しかし最近は未払い賃金を故意に発生させて企業を訴える悪意のある輩も存在することから、調査したうえで事実無根であれば毅然とした対応で徹底排除する必要があります。CMでみるような大手弁護士事務所では未払い賃金の相談料をゼロにしていることをご存じでしょうか。それだけ未払い賃金の請求は確実で利益率の高いビジネスとなったことがわかるはずです。

なお、未払い賃金のほか遅延利息・遅延損害金(6~14%)も合わせて請求されるのが通常ですが、判決に依らずに和解した場合には利息の支払いまで求めないことがほとんどですので、早急な解決が傷を広げない第一となります。

☑労災事故に関するトラブル

企業は労働契約に基づき、安全な職場環境を提供しなければならない義務を負っているため、従業員を怪我させるような労災事故や最近ではパワハラ、セクハラによる精神被害によってうつ病などを発症させてしまった場合には企業に損害賠償責任が生じます。万が一にも従業員を死亡させたり民事訴訟を提起されると労災隠蔽や職場環境の問題について噂が広がり、将来の従業員採用にも悪影響を及ぼします。また、労働基準監督署の指導書や是正命令を受けた場合には紛争時に証拠として採用されるため、日ごろから労働安全衛生に関する管理体制については十分すぎるほどの措置を講じておく必要があります。

《労働訴訟を起こさせない労務管理》

もしも労働トラブルとなってしまった場合には対応のために精神を消耗し相当の時間を使わなければならないうえ、解決のために弁護士の手数料や和解金などで高いコストを負担しなければなりません。

訴訟を回避するためには労務管理が重要で、特に『安全衛生管理』『労働時間管理』が大切です。換言すれば、ハラスメント防止対策や安全管理を怠り、労働時間管理が十分でない企業は訴訟を起こされる可能性が高い状態です。訴えられてから慌ててもダメージを回避することはできないため、日ごろから訴訟を意識した労務管理、『訴えられるスキを与えない安全な労務管理』を行うことが長期的に見れば最もコストの安い方法で、不要なトラブルで時間を取られることのない予防法務といえます。

 

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