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優秀な人材をモンスター社員にしたのは誰か

2019/12/02

人材不足・採用難といえど、経営者の本音としては優秀な人材を採用したいのは当然のことで、際限のない欲望です。あいつは優秀、あいつは無能と、他人を評価することが大好きな私たちですが、有能と無能はいつ何をもって判断するのでしょうか。また優秀な人材とはどんな人材でしょうか。中小企業の経営者が優秀な人材を採用できた事例は多々ありますが、あまり新しい事例は掲載できませんので少し前にあった失敗事例を紹介します。

始まり、組織拡大のあせり

その会社は創業20年を迎える従業員100名のシステム開発を担う中小企業でした。業績も順調で、事業の拡大にあわせて社内の組織体制の強化、人材採用が急務になります。社長はもともと大学院卒からわずかな金融機関勤務後創業した早熟タイプで、「優秀なビジネスには優秀な人材が集まる」が口癖でした。ところが来る応募者たちはどれもピンとこない人材ばかり。ある日営業に来た人材エージェントからの紹介で、有名大学出身、大手企業で管理職を務めていた40代の従業員(「A氏」と呼びます)を採用することにしました。その会社はもともと技術優先の現場主義、営業活動やマーケティングなどほとんど行っておらず、いわばキャリアなどほとんど無視した人材採用を行っていました。

社長、浮足立つ

優秀なビジネスに見合うハイクラスな人材が採用できたということで社長は大変喜んでいましたが、いざ入社の初日、A氏はなんとTシャツで出勤してきました。この会社はもともと全員スーツ着用が慣習となっており、社長もスーツ出勤でした。A氏は、就業規則で社内の服装についての規定がないのなら、Tシャツの出勤でも問題ないと言います。確かにその通りですので、社長は社内の服装についてはスーツ着用を改めて「清潔な服装」を心掛けるようにと言うことにしました。堂々とした物言いが昔の自分と重なる社長はすぐに気に入り、社長室で歓談したり、食事に連れて行ったり、何かと特別に目をかけて将来の経営幹部として育てようとしました。

優秀な社員、調子に乗る

次にA氏は早速、従業員の賃金について聞き取り調査を行い、待遇に不公平があると朝礼で発言しました。社長は古くからの賃金形態であまり関与していませんでしたが、確かに不公平があったため、賃金テーブルを見直すことにします。やる気にあふれるA氏は業務改善に張り切って取り組み社長は賞賛、会議での発言は重みを増していきます。

次にA氏は、売上活動に投資するためのコスト削減を提案し、技術スタッフの給与カットを提案します。技術スタッフは真面目で黙々と働く社員が多く、A氏の提案に反論できませんでした。

社長はA氏の提案を受け入れ、技術スタッフをなだめながらも賃金カットに踏み出したところ当然の結果ですが、技術スタッフたちは1人、2人と辞めていきます。それでも残ったスタッフは深夜まで残り、何とか日々の業務をこなす毎日が続きました。そこでA氏は、技術部門の残業代について指摘し始めます。技術スタッフは結局サービス残業の毎日になり、会社で寝泊まりすることが多くなりました。

優秀な社員、覚醒する

A氏はさすが大手企業の管理職だっただけあって、社内の規則の不備も周到に調査しています。何か注意しようものなら、規則の矛盾点を持ち出して論破する一方で、私的な飲食費まで経理部へ提出し、「社長の了解は得ている」と一蹴、今度は自分の待遇改善を求めます。大幅なコスト削減に成功しているのだからもっと評価されて当たり前だと社長に強く詰め寄ります。

社長は「大企業の管理職を経験した優秀な人材」を失うことを恐れ、昇格とともに昇給を実施します。技術スタッフからすればこれほど恐ろしいことはありませんが、日常的な部下への暴言、会社の批判、多額の私的流用を繰り返してもまだA氏の要求は収まりません。さらなる昇給と昇格の要求は、入社してまだ1年に満たない時期のことです。さすがの社長もA氏にはすぐには無理だと伝えましたが、A氏はそれから欠勤や外回り営業で外出することが増えました。なぜか大量の領収書だけは申請があったようですが。

社員、ボロが出る

そんなある日、競合他社のB社から社長に電話があります。面識はあるものの、珍しい電話で何事かと思えば、「A氏が当社で働きたいと言っている。貴社の顧客リストらしきものが送られてきた」と話すのです。ところが当のA氏は営業活動の一環である旨を主張し、非を認めることはありません。

さすがに社長も自分では手におえず、外部専門家へ相談することにしました。

B社の言うことは確かに間違いありませんでしたので、外部専門家とA氏本人を交えて聴聞の機会を設けました。

すると、A氏にはギャンブルで多額の借金があり、返済に追われ、家族からも離縁寸前であることがわかりました。さらに前職でも経営陣と対立し、なかば解雇のような形で会社を退職していたとのことです。A氏は確かに弁が立ち、正論を言うこともありましたが、金銭感覚の事実を聞いて社長は愕然とします。顧客リストの漏洩は重大な懲戒事由にあたることから、退職勧奨しA氏は去ることになります。B社からも、受け取ったリストは処分し、利用することは無いと報告を頂けたことはわずかな救いでした。

モンスター社員にしたのは誰だ

優秀だと妄信した人材を放任した結果、育成に相当な時間を要する技術スタッフが流出し、また本人も離職した結果をコストに換算すると数千万円の損失になります。

優秀な人材がここまでモンスター化してしまった原因は何でしょうか。本人の資質なのか、それとも私生活の問題なのか、会社の問題なのか。従業員達は皆A氏のことを悪く言い、社長もまた退職後にA氏がとんでもない奴だったと口にします。確かに本人には大きな問題があります。しかし会社経営上は、従業員の躾は全て代表取締役の責任です。一般従業員や直属の部下ならまだしも、社長が「自分の裁量で採用した従業員」を責めるのは大間違いです。ましてや特別な待遇と他の従業員に思われるようなことは慎まなければなりません。

この企業は優秀だと思っていた従業員が懲戒される行為に至るまでに、こんなミスを犯していました。

☑優秀な人材と過大な評価を入社前からしたこと

☑経営者との距離を誤り権限を勘違いさせたこと

☑過去の肩書に惑わされて人物を適正に評価しなかったこと

人材は組織によって大きく変わり、たとえ経験者であっても組織のルール、秩序を維持するための教育は必要です。経営者であれば立派なキャリアで熱心な従業員は特別扱いしたい気持ちもわかりますが、成果を評価する前から余計な権限を与えてはいけません。

採用に真剣でなければモンスターはまた生まれる

日頃から採用計画に無頓着で、自社の求める人物像を考えることも無く、人を見る目があると勘違いして「過去の肩書」を優先して採用した失敗は中小企業だけでなく大企業でもあります。採用活動を事業の柱と捉え、熱心に力を入れている中小企業ではあまりこういうモンスター社員は発生しません。モンスター社員を生む要因は、会社が人材のどこを見ているかで変わるのです。誰でも理解できる経歴か、その人物を見ようと努力を重ねているのか。安易な方法を選ぶとろくな結果になりません。成功した人材が普遍的に成功するという思い込みは大きな間違いで、自社と個人の歯車が合わなければ一生ギアが駆動することはありません。

しかしこういった失敗を反省に活かし、今度からは過去の肩書にこだわらず、より難しい人物重視の採用に考え方を改め、制度整備と教育に注力することが採用活動の失敗を減らす最善の取り組みです。ついでに言うならば、立派な経歴と成功体験を流ちょうに話せる人物と、過去の失敗を明るく話せるような人物を比較するときに、少しは迷うくらいの器量は欲しいところです。あまりにも優秀すぎる人物は「優秀だが無能」の可能性も高いため、中小企業の採用では過去の経歴や主張に惑わされず、普段の行動や取り組みで評価することが大切です。もっと言えば、他所から優秀な人材が舞い込むのを期待するより、今いる普通の従業員を大切にすることが長期的に見れば事業の成長につながると理解できればもう失敗することはありません。

 

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